第1305話 【エピローグオブ猫と猫・その3】後輩になった最強のカップルがなんかリア充みたいだにゃー

 莉子ちゃんに連れられて猫たちの行進が始まった。


「プリンセスマスター。瑠香にゃんは警告します。このままでは瑠香にゃん、大学が嫌いになります」

「あたしもだにゃー!! 帰ろうにゃー!!」


「ダメですよぉ。わたしも簿記の講義取ってるんです! クララ先輩って頭いいから教えてもらいたいなって!! 六駆くんのためにも、数字に強くなっておかないとなので! 頑張るぞー! おー!!」

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……。ソフトクリームがぶっかかったぞなぁ……」


 パイセンのお召し物は小鳩さんが見繕っているので、ちゃんと本人が着替える意思さえ持っていればいつもオシャレ。

 今日は白のノースリーブサマーニットにショートパンツ。


 部屋猫してる時のタンクトップにヨレヨレの短パンとほとんど同じ部分にほとんど同じ面積の服を着ているというのに、どうしてこんなにも違うのか。

 莉子ちゃんの食べていたソフトクリームも、パイセンがぶっかけられたのはストロベリーだったおかげでセンシティブ判定もセーフ。


 莉子ちゃんはバニラよりも苺がお好き。

 当然である。


「ふぇ? クララ先輩?」

「にゃぁぁぁ……?」


「簿記2級持ってましたよね?」

「にゃぁぁぁぁぁ……」



「なんで1年生の必修科目の単位、まだ取ってないんですか?」

「……にゃはー!!」


 講義に人が多いからである。



 ぼっち大学生の基本。


 一方は孤高のぼっちとして粛々と講義を受ける。

 パリピが後ろの方で騒いでいるからなんだ。

 こちとら授業料払ってんだ。


 しかし他方では「あ。これは絶対人大杉になるにゃー」とパリピでも陰の者でも誰であろうと密集しそうな講義はパス。

 「あ。これはイケるぞなー」と一条公磨三位中納言学なぞのこうぎⅠとⅡとⅢは履修する。

 結果として、取得単位を確認すると必修は穴だらけなのに「なんでこの講義受けたの? というか、なに? こんな講義うちの大学にあったの?」な単位だけまばらにゲットしてしまう。


 教授にマンツーマンディフェンスされるのは良いのかと言えば、過疎りがちな講義を担当している教授もそれを承知しているので「やあやあ。よく来たでおじゃるな。ゆるりとするでおじゃるよ。板書はスマホ撮影おけでおじゃる」と居心地重視の空間を創りがちだったりする。

 教授なら良いが、講師だったり、外部講師だったりすると「誰も受けてくれへん」は職を失うピンチに直結する。


 にゃーにゃー鳴いてるだけのどら猫とか上客も上客。

 何匹でもウェルカムなのだ。


「……痩せたぞな」

「瑠香にゃん、人工太ももが細くなりました」


 そんな説明をしていたら、簿記の講義を終えた3人が広い講堂から出て来たところであった。


「ふぇぇ……。やっぱり難しいですね。取れるかなぁ。簿記1級」


 簿記1級が取れたら税理士だって公認会計士だって目指せるスタートライン。

 莉子ちゃんはどこへ行こうというのか。


「か、帰るぞな……。瑠香にゃん……」

「瑠香にゃんはぽこますたぁの命令に無条件で従います。ステータス『前の方で講義受けると背中が気になる』を獲得。エイムされてる気がして仕方ありません」


 莉子ちゃんのスマホが「うわぁ!!」と鳴った。

 これは南雲さんが大学入学を祝って作ってくれた六駆くんボイスの着信音。

 全128パターンある。


「ふぇ? あっ! クララ先輩!!」

「にゃんだろにゃー? もう疲れたぞなー」


「お昼からもマクロ経済学の講義ありますよね! 六駆くんが受けるって連絡くれたので! わたし、聴講します!! クララ先輩も一緒にって、六駆くんが!!」

「助けてにゃー!! 助けてくださいにゃー!!」


 最強のカップルがついにクララパイセンの敵として立ちはだかる時、来る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 日須美大学に生えている門から六駆くんが登校完了。

 「大学って登校なのか登学なのか迷うよね」とは、六駆くんを送り出した南雲さんの言葉。


 どら猫が重い腰をあげたのだ。

 この好機、逃してなるものか。

 南雲さんは本気だった。


 もう誰が望んでいるのかも分からない。

 けれど、少なくとも南雲さん本人は望んでいる。


 「椎名くんは大学出しとかないと。この先、40代になってもダメなままだ。私、60過ぎても面倒見させられる!!」と確信すればこそ、六駆くんと莉子ちゃんが在学中に何としても卒業させる。

 そのためには瑠香にゃんだって夏号機に仕上げて投入する。


 この作戦に限りアンドロイドに人権はないのだ。


「莉子! お待たせ!!」

「六駆くん! 待ってたよー!!」


 ちなみに日須美大学には常に『ゲート』が発現されており、こちらは学長の許可も得ている。

 学生たちは「また門から出てくるイリュージョニストがイチャついてる」「彼女、可愛いんだけどな。いつもなんか食ってる」ともう見難れた風景。


 探索員やスキル使いは世の中に広く知られているものではないが、その存在を秘匿しているものでもないので「あなたたちはなんですか?」と問われれば、六駆くんが「あ! 僕たち探索員です!!」と答え、莉子ちゃんが「ラブラブカップルですっ! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」と追っかける。

 日須美大学は探索員協会指定の「任務を一部単位に変換できる指定校」なので、この説明で「はえー。すっごい」と納得してくれる者が大半なのだ。


「さて! 学食に行こうか! 南雲さんが2000円くれたの!! うふふふふふ!! これで何でも食べられるよ!!」

「ほわぁぁ!! 南雲さんって最高の上司だね! えへへへへ!!」


 資産が3億と数百万になっても、2000円は尊い。


「あれ? クララ先輩? 行かないんですか?」

「行かんぞな!! 学食なんてリア充の巣窟!! あたしは部屋に帰らせてもらうにゃー!!」


「瑠香にゃん。クララ先輩を連れて来てね。僕、手を引いてあげたいけどさ左腕が折れてるから」

「えへへへへへへへへへへへへへへへ! わたしのおっぱい当たってるもんね!! もぉぉぉぉ! 男の子なんだから!! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」


 最強のカップル、その嫁、今日も元気に旦那の左腕をおっぱいでへし折る。


「にゃ、にゃんでだぞな!? 瑠香にゃん!?」

「ステータス『悪いなぽこ。命令権が違い過ぎる』を獲得。おっぱいに格納したけどこの装備のパージ方法が分かりません。捲れば良いですか。プリンセスマスターの目が怖いので無理でした。瑠香にゃんアームでぽこを捕獲。目的地。学食。瑠香にゃん、ご飯食べなくても平気なのに行きます。兵器なので逝きます」


 しつこいようだが、季節は7月。

 日須美大学の前期試験は7月の中旬から始まる。


 おわかりいただけただろうか。


 パイセンの最終決戦はこれからなのである。


 次回。


 椎名クララ、単位をゲットす。

 その代償はいかほどか。

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