第1304話 【エピローグオブ猫と猫・その2】絶対に講義に出ないどら猫VS絶対に今年こそ進級させたい人 ~つまり昨年度はちゃんと留年していた事実~

 こちらは日本本部。

 南雲上級監察官室。


「南雲さん。瑠香にゃんさんと椎名さんの転移を確認。日須美大学のキャンパスに直通の門から出現を同じく確認。引き続き、ストーキングを続行するっすよ。南雲さんのご指示で。あ。これ記録に残しとくっすね」

「ふふふっ。興味深い嫌がらせはヤメるんだ、山根くん。私たち初登場の頃の感じで行こうって話したじゃない。なんで君、全部段取り無視するの? 忙しい中考えたのにさ。私」


「いや。自分は最初からこんな感じだったっすから」

「いーや、違うね!! 初期ロットの君は腰にコルセットなんか付けてなかった!! その医療用コルセットを作ったの誰だと思う!? 私だよ!!」



「さーせんっした」

「うん。君、いい加減上手に子供作りなさいよ。うち、もうそろそろ生まれるんだけど。君は一晩致したら1ヶ月休むとかいうペースだからさ。このままじゃ、逆神くんたちに先越されるよ?」



「いやー。僕はまだいいです! 冗談じゃないですよ!!」


 そして六駆くんもいた。

 すぐに問題発言をする。


「ヤメなさいよ、逆神くん! 君ぃ!! 冗談じゃないとか、君ぃ!! それ、女子の前で言ったら即セクハラだからね!! ただでさえ今は覚えなくちゃいけないハラスメントが山ほどあるのに!! 王道のハラスメントをキメたらね、君ぃ!! ……小坂くんが来るよ?」

「えっ!? ……僕、まだ半人前なので!! 責任取れないうちは致しません!!」


 この3人は集まるとすぐに嫁関連の話をする。

 それは半年経とうが変わらない。


「あ。南雲さん。動きありっす」

「そうか。さすがは瑠香にゃんくんだ。もう講義の準備段階に入ったんだね? 今日の講義は……よし! 椎名くんの大好きな簿記だ!! もう電卓をカバンから出すくらいした?」


「瑠香にゃんさんが自動販売機の陰に隠れてプルプルし始めたっす。椎名さんはスマホ取り出して……あー。これはやってるっすねー」

「休講情報の確認?」


「ソシャゲっす。デイリーミッションとか、ログインボーナスとか。順番に起動させては次へと……速い! 速いっすよ! 椎名さん、オペレーターの適正もあるっすねー!!」

「言ってる場合か!! 今年こそ! 前期ではきっちり単位を稼ぐんだよ!! 昨年度は後期で大失速したんだから!!」


「あー。南雲さんが羊羹持って学長に袖の下渡そうとしてガチギレされたのも懐かしいっすねー」

「あんなに怒られるとは思わなかったよ……。羊羹は取られたし……」


 昨年度、つまりバルリテロリ戦争明けの後期試験期間。

 あろうことかどら猫、「南雲さんが単位どうにかしてくれるって言ったもんにゃー!!」と試験に1度も出席すらせず。


 そんな舐めた態度を取った直後に南雲さんが日須美大学へ出向き「探索員として椎名クララくんは世界を救ったんです!!」と熱弁。

 「それは知りませんけど。試験を受けるふりすらしない学生にフル単位与えろと? 文部科学省に連絡しますよ?」と普通に怒られた。


 結果。

 クララパイセンの後期取得単位。


 理外の0。


 リザルト画面はこうなった。



 椎名クララ。3年生続行。

 今年23歳の3年生。六駆くんちとは違う周回者リピーターとして今年も頑張る所存。



 だが、南雲さんにも意地がある。

 どら猫の親猫たちと約束したのだ。

 「娘さんをちゃんと卒業させます」と。


 親猫たちは既に様子を見に来ることもなくなり、多分割とどうでも良くなっているかと思われるが、そこは義の人、南雲修一。

 ひとたび交わした約束は忘れないし、違えない。


「山根くん。瑠香にゃんくんに入電」

「えー。かわいそうっすよ。あんなに怯えてるんすよ?」


「逆神くん。ちょっと大学行って来て」

「えっ。僕、任務明けですよ? これから朝ごはんなので。屋払さんの奥さんに食券もらったんです。背脂ラーメン食べてからでいいですか?」


「くそぅ!! じゃあ私が行くよ!! 逆神くんはそれ、死んじゃうフラグだから食べないで!?」

「あ。南雲さん。アメリカ探索員協会との会議が13分後。フランス探索員協会との密会が42分後っすよ」



「なんでそんな不吉なタイムテーブルなの!? 瑠香にゃんくんに頑張ってって入電!!」

「うっす。了解っす」



 絶対に単位を取得させるのだ。

 日須美大学の経済学部は簿記が必修科目。

 これが4度目の履修。


 そろそろ教授がキレかねない。


 必修科目が再履修不可になったらば、パイセンのレベルが1年生に退行する。

 仮に除籍されたら頑張って入試を受けて再入学するだろう。


 椎名クララという猫は、そういう猫である。

 理屈ではないのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな日須美大学のキャンパスでは。


「あの子可愛くね?」

「なー。マジで可愛い。ボーカロイド感あるよな」

「ちょっと声かけてみるか」


 瑠香にゃんが初就学からのステータス『大学怖い』を患いつつあった。


 お忘れかもしれないのでここで付言、いやさ、宣言しておこう。

 瑠香にゃんは可愛い。

 それは良いとして、である。



 クララパイセンも黙っていればスタイル抜群で可愛いのである。

 これは大事なことなのである。



 これまでは「衆目を浴びると駄猫ですらいられなくなって動物病院に連れて来られたプルプル猫になる」という特性を活かし、小鳩さんが無理やり講義に連れて行ったりもしていたパイセン。

 しかし、瑠香にゃんという「あの子可愛くね?」なデコイを得てしまった、今、この瞬間。


「にゃはー!! なんか快適だぞなー!!」


 どら猫、キャンパス内で自由を得るに至る。


 猫は視線に敏感。

 特に見られていると察知したらば、硬直するか後ずさりするか、はたまたダッシュでいなくなるか。


 瑠香にゃんが硬直しながらプルプルして「ステータス『大学怖い』を獲得。ぽこ。おっぱいに格納したいので装備をパージしても良いですか。許可を求めます」とダメなメカ猫になっているので、それを見ているパイセンは悟る。

 「キタコレにゃー!! 瑠香にゃんが可愛いおにゃのこ過ぎて! あたしなんか路傍のちちだぞなー!!」と。


 実際はクララパイセンも「あ。たまーに見かけるダイナマイト美人だ」「レアキャラ見つけたー」と同い年の霊圧が消えたキャンパスで知らない後輩から視線を向けられているが、そこはどら猫。


「にゃっはー!! 背伸びしてもだーれも見とらんぞなー!! にゃふー!!」



 異世界>ダンジョン>現世とデキる猫度合いが減退するため、今のパイセンはほんのり分析スキルすら発現できない、ただのナイスバデーな猫。



 もはやここまでか。

 これでは、瑠香にゃんがショートヘアからセミロングになって、可愛い服を着ただけで終わってしまう。


 そう覚悟した時。

 我らが救いの女神が降臨した。


「あ! クララせんぱーい!! 来てくれたんですねー!! モグモグモグモグ。わたし、今日は六駆くんがお昼からなので! 寂しかったんモグモグですモグモグよー!! モグモグ!!」

「にゃん……だと……」


 どら猫、莉子ちゃんとエンカウント。

 もう莉子ちゃんは日須美大学のカフェでソフトクリームをゲットしていた。

 7月ともなれば、暑い。


 つまり、このハイパーアルティメット莉子ちゃんには食べ物による買収工作が効かない。


「あ! こっちが溶けちゃう! はむっ!! モグモグモグモグ……」

「にゃん……だと……」


 ソフトクリームは二丁拳銃スタイル。

 女子大生莉子ちゃんに隙などない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る