エピローグ前編

第1303話 【エピローグオブ猫と猫・その1】瑠香にゃん、女子大生にされたってよ!!

 逆神六駆の隠居宣言。

 あれから約半年が過ぎた。


 季節は夏。

 7月の上旬である。


 ミンスティラリア魔王城では一大プロジェクトが始動していた。

 当人には説明されず。


「くくっ。お集まりになられて感謝するのだよ。今日は、女子大生という生業の衣装、つまりファッションについてご意見を頂きたいと思ってだね。是非ともお知恵を拝借したいのだよ」


 シミリート技師がラボにやって来た小鳩さんと莉子ちゃん、そしてクララパイセンに質問していた。

 このヒョウの魔技師、自身の知的探求心のためならば誰にだって「教えて欲しいのだよ」と頭を下げられる、研究者としてのプライドは「知りたい事を知るための障害になるのならばダズに料理させるのだよ」と軽視する男。


「そうですわね。やっぱり品性は大事だと思いますわよ。肩や脚を出せば良いというものではありませんわ」

「はい! ノースリーブにミニスカートで解放的かつ活動的な感じを押し出していくべきだと思います! わたし!!」



「えっ!? そうですわね!!」

「ふぇ!? 間違えました!!」


 相変わらず、仲の良いチーム莉子の乙女たち。



「うにゃー。競泳水着じゃダメなのかにゃー? あたしもそろそろ部屋でビキニデビューを真剣に考えるくらいに水着って機能的だと思うぞなー。撥水加工だしにゃー。汚れても脱いで水でサッとやれば済むしにゃー」


 どら猫も相変わらず。

 今日も大学に行かず、魔王城の自室と食堂を行き来している。


 ちなみに莉子ちゃんは大学生デビューして3ヵ月なので、女子大生トークへの参加権をゲットしていた。


「………………………………?」

「跡見瑠香にゃん試作夏号機。これは今回のプロジェクトに欠かせない仕様なのだよ。そして言い忘れていて恐縮なのだが。跡見瑠香にゃんには肩、肘、太ももの各部位に煌気オーラ排出機構があるのだよ。その辺は露出させておかないと、意図せずに装備がパージされる可能性があるのだよ」


「そうなんですかぁ……。瑠香にゃんちゃん、オシャレするのも大変なんだ」

「でしたら、あれはどうですの? 肩に謎の穴が空いているヤツですわ。ダンスする女子が着ていらっしゃるヤツですわよ」


「あっ! それいいですね! あの謎の穴、何のためについてるのか不思議だったんです! そっかぁ! 瑠香にゃんちゃんの排出口のためだったんだ!!」

「ですわね。わたくしも存じ上げませんでしたわ」


 謎の穴のあるヒラヒラしたトップス。

 おへそも出てるのに何故か長袖だったりする。


 あれはコールドショルダーと呼ばれるものであり、ぷにった二の腕は隠してぇけど適度に肌は露出してぇという乙女心を叶えてくれる、ステキなお洋服。


「ふむ。これは良いものなのだよ」


 瑠香にゃん夏号機のトップスが決まる。


「もうプリーツスカートにニーハイソックス合わせてにゃー。絶対領域で太もも出しとけばいいんじゃないかにゃー? あたし大好物だぞなー」

「ふむ。参考画像を検索してくれるかね。跡見瑠香にゃん」


「………………………………? はい。シミリート技師。瑠香にゃんサーチは完了しました。投影します。ステータス『なんで瑠香にゃんは半裸なのか』を獲得し続けていますが、放置します。人工知能がフットーしそうです」

「ふむ。なるほど。実に機能的なのだよ。ファッションの意味は分からないがね。人間というものは知能の使い方が相変わらず興味深い」


「んー。あとは瑠香にゃんちゃん、耳周りとかにメカメカしいピアス付いてますけど……。ちょっとお洋服とはミスマッチかもですよ?」

「なるほど。さすがは莉子殿。では、髪を伸ばすことで隠すのだよ」


「………………………………? ステータス『急に髪が20cmくらい伸びた』を獲得しました。誰か瑠香にゃんを拾って育ててください。にゃーです」

「あ。シミリートさん、いけませんわ。太ももがメカメカしいですもの。程よいムッチリ感が必要ですわ。他がオシャレ女子になっている分、目立ちますわ」


「ふむ。では、莉子殿の太ももを参考にす」

「……!! わたくし! わたくしのものにしてくださいまし!! 何故だか分かりませんけれど!! 急にスカート捲りたくなりましたわ!!」


 シミリート技師が「皆様のご協力に感謝するのだよ」と言って、跡見瑠香にゃん夏号機の仕様が完成。

 そのまま仕上げられて、数時間後には稼働可能になっていた。


「………………………………?」

「うにゃー。部屋に戻ってビール飲むぞなー」


 なお、繰り返しになるがこのプロジェクトは当人に何の説明もされていない。

 秘匿性を高めに高めておかなければ、発足時点でとん挫する可能性がほぼ10割だからである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。

 どら猫部屋のドアが開いた。


「ぽこ。警告します。起きてください。8時過ぎです」

「無理無理カタツムリだぞなー。あたしさっきまで起きてたもんにゃー。何ならまだ就寝してないぞなー。おやすみにゃー」


「警告は完了しました。瑠香にゃん砲、チャージ開始します。瑠香にゃん、装備の状態を確認。全て良好と判断。ヒラヒラしています。ステータス『着せ替え瑠香にゃんにされたのかと思った』を獲得。アプリケーション『ちゃんと意味があった』に変換。実行します。瑠香にゃん砲。チャージ42%。発射」

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


 どら猫の鳴き声が朝の魔王城に響いた。


「おおっ! クララが珍しく朝から元気なのじゃ!!」

「ぐーっはははは!! 本来のネコ科はこの時間帯、まだまだ活発な時分でございまするからな!!」


 ファニコラ様、ダズモンガーくん。

 数百歳の彼らがたった半年で何かが変わるはずもなく、不変のお姿を確認。


 椎名クララどら猫探索員が部屋から転がりながら出て来た。


「に゛ゃ゛ー!! 瑠香にゃん、瑠香にゃん! 落ち着くぞな!! あたし着替えてないにゃー!! スポブラに短パンで部屋から出ると莉子ちゃんに撃たれるにゃー!!」

「ぽこ。瑠香にゃん、時報もしてあげた。プリンセスマスターは既に大学へ行っています。グランドマスターは本日、探索員の任務です。ステータス『あとはぽこだけだ』を付与。受領してください」


「なんで瑠香にゃんが大学の話をしてくるんだぞなー!?」

「瑠香にゃんシークエンスの確認。『女子大生』と表示。瑠香にゃんも求めていませんでしたが、そうプログラムされたら逆らえません。ステータス『あーあ。アンドロイドの辛いとこね、これ』を獲得。いりません」


「ちょっと何言ってるか分からんにゃー!!」

「ぽこ。スポブラで大学に行くか、クソ暑いのにジャージを着るか。ご主人マスターに与えられた分不相応なオシャレ服に着替えるか。選んでください。時刻確認。8時12分。既に予定よりも8分の遅延。瑠香にゃん砲のチャージを再度開始します」



「……瑠香にゃん? 今の瑠香にゃんはなんだぞな?」

「瑠香にゃんは女子大生にさせられました。これから初の就学です」



 瑠香にゃん、女子大生になったってよ。


 この時点でこの世界で何が行われるのか、だいたい全部分かる。

 とても優しいエピローグから始まる、その後の物語。

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