第1299話 【帰還・その4】日常に帰ろう ~日常回とかいう存在のせいで頑張って考えたエモいタイトルが邪魔される悔しさ~

 ミンスティラリア魔王城に戻って来たチーム莉子。

 六駆くんが言った。


「さて。そろそろ僕たち、ここで暮らす意味もなくなりましたからね。いいタイミングですし、実家に帰りましょうか」


 お忘れの方のためのチーム莉子ミンスティラリア魔王城下宿生活の理由。


 これはピースが動き始めたタイミングで真っ先に逆神家を狙ってくるという、ある意味では有能、別の意味では最速で滅びるルートを選んだ事に起因する。

 まず逆神家が避難して来て、その後はチーム莉子にも危害が及ぶ恐れを考え、また逆神家に助力する目的によってメンバー全員でやって来た、六駆くんの植民地、もとい六駆くんに借りのある異世界、それがミンスティラリア。


 以降は六駆くんのおっ建てた監獄にラッキー・サービス氏とライアン・ゲイブラム氏を収監する事になったので、引き続き逆神家、主に六駆&みつ子のヤバい孫と祖母のコンビが監視に当たり、チーム莉子のメンバーは何となく残っていただけ。

 お正月には帰省していたし、「そろそろみんなは帰っても良いんじゃないかな」という話が出ようかとしていたところにバルリテロリが攻めて来たのである。


「ふぇ? ? 六駆くんはどうするの?」

「えっ? 僕はサービスさん見とかないといけないから。……お金が出て来るし!!」


「……ふん」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 もう監視してもらえるだけでニィィィし始めた、コミュニケーションに飢えた獣。


「じゃあわたしもこっちにいるよ!!」

「いや、莉子はお母さんいるでしょ? いい加減に戻ってあげないと。莉子、覚えてる?」


「ふぇ?」

「莉子が探索員になった理由。お母さんに楽させてあげたいんだよね? 現状、楽はできてるかもしれないけど、娘と離れて暮らすのって寂しいじゃん?」



「えっ!?」

「えっ!?」


 危うく「探索員になったのは! 六駆くんと出会ったからだよぉ! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」といつものヤツをキメそうになったが理性が僅差で勝った莉子氏。



「そっかぁ……」

「みんなも、元々は僕たち家族の理由に付き合わせちゃった訳ですし。本当にすみませんでした」


 チーム莉子の乙女たちが微笑んだ。


「まったくもうですわよ。六駆さんと莉子さんに付き合っていると、退屈しないで良いですわ」

「みみみっ! 芽衣も楽しかったです!! みっ!!」


 後が続かない。


 ここはみんなで感想を言い合って「うふふ」と笑っていざ日常へ帰還と、綺麗に纏まるところではなかったか。

 どら猫が鳴く。


「うにゃー。あたし、どうせアパートに帰ってもやる事は一緒だもんにゃー。それだったら、大学卒業するまでミンスティラリアに住みたいぞなー」


 この子は大学を卒業する事があるのだろうか。

 もうずっと衣食住が提供され続けるミンスティラリアに住み着くつもりではなかろうか。


 なにせどら猫である。


「はい! 平山ノア!! ここに来る前は探索員の寮住まいです!! というか、チーム莉子に入れた喜びで高校も御滝高校に転入しましたし!! ボクもこっちに住まわせてもらっていた方が修業が捗ります! ふんすです!!」

「えっ!? ノアの修業か……。僕が教えたい事は1つも覚えてくれないのに、僕が教えてない事を1つずつどころか3つずつくらい覚えるから怖いんだよなぁ……。けど、うん。まあ。やる気があるのに帰れって言うのは……んー。僕も弟子取る事の意味は理解してるし。んー。まあ……」



「ふぁっ!?」


 穏やかでいられないのが莉子ちゃんである。



 自分も弟子。

 それも一番弟子。


「ぐーっははははは!! 皆さま! グアル草のスープが出来ましてございまする!!」


 一番弟子じゃなかった。

 けれど、姉弟子。


 なんかうっかり自分が最初に「わたし、帰るね!」みたいな空気を出してしまったせいで仲間外れにされる危険性が危ない事に気付いた、チーム莉子のリーダーで優等生な女の子。


「あ。それもそうですわね。でしたら、わたくしも引き続き住んでもよろしいですの? どうせクララさんのアパートに週5で通いますし。だったら同じ場所に住んでいる方がお世話も楽で良いですわ」

「にゃん……だと……」


「にゃーです。瑠香にゃんシミュレーションを開始します。ステータス『ご主人マスターがここにいる方が瑠香にゃんは楽な確率、計算するまでもない』を獲得しました。おっぱいに格納します」

「でしたら、決まりですわね。わたくしは、その、け、けけ、結婚! 結婚して、こ、ここ、子育てが始まったら!! お暇しますわよ!! キャベツに入ってるんですわよね!? 赤ちゃん!! 今度、イオンでキャベツ買い占めますわ!!」


 小鳩さんには30過ぎてもミンスティラリアに住んでいる可能性が生まれた。

 彼女は探索員の修業にかまけて小中高、全ての性教育を忘れたのだろうか。


「みみっ。芽衣は遠藤のおじ様とおば様のおうちに帰るです。ただ、毎日修業には来るです! 六駆師匠、いいです? みみっ」

「もちろん! じゃあ、遠藤さんちには門を生やしっぱなしにしておくね!!」


 遠藤さん宅は近所から「何があったらこんなリフォームするんだろう。門だけ大きい……」と心配されるだろうが、芽衣ちゃんが可愛いのでそれも些細な事。


「おーっほほほほ!! 芽衣様!! 我ら神聖バルリテロリ皇国の臣はいかがしましょうか!!」


 そう言えばこの人たちがいた。

 バルリテロリ捕虜チーム。


 皇帝に弓引く行為をキメた彼らはバルリテロリに帰れない。

 このタイミングなら割と普通に帰れるだろうが、逆神十四男とシャモジ母さんは愛国心が強すぎて震えるレベルなので、当人たちが自身を許せない。


「みみっ……。みーみーみー。みー?」

「気が済むまで住んでもらったら? ここにさ。ファニちゃーん! いい?」


「良いのじゃ!!」

「おーっほほほほ!! 皆さん!! 芽衣殿下と仁香摂政、そしてファニコラ大魔王様に跪くのです!! 殺しますよ!!」



「え。あの、私もう帰るところなので。巻き込まないでもらえます? じゃあ、逆神くん。宿六の入った掃除機置いておきますから。ただ、リャンがお世話になるので、私も頻繁に顔を出します。お疲れさまでした」


 仁香すわぁんがついに白ビキニから、パイセンのジャージに衣装チェンジ。

 なんでチーム莉子の纏めに加わらんといかんのじゃと言わんばかりの定時帰宅。



 なんだかごちゃごちゃしてしまったので、こちらで整えよう。


 現世に帰る人。

 莉子ちゃんと芽衣ちゃん。


 引き続きミンスティラリアに下宿する人。

 クララパイセン、小鳩さん、ノアちゃん、そして六駆くん。

 瑠香にゃんはそもそもミンスティラリアのシミリートラボが実家。


「じゃ! 莉子!! 元気でね!!」

「ふぇ!? ………………………………ふぁ!?」


 このあと、六駆くんが抱きしめられて「あ゛あ゛あ゛あ゛!! 鯖折りだぁぁぁ!!」と悲鳴を上げて、莉子ちゃん専用の門が構築された。

 そして莉子ちゃんはミンスティラリア魔王城の部屋で暮らしながら、お母さんの住むアパートと門をくぐればいつでも帰れる環境をゲット。


 これがこれからも続く、チーム莉子の日常である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃のアメリカ探索員協会。

 もうそろそろ帰りたい、眠いしストレスで食欲もなくなった、クレメンス上級監察官がまだ司令室にいた。


「アームストロングくん。私、帰っていいだろ?」

「いえ。上級監察官。ご報告があります。日本の南雲上級監察官に依頼されていた案件の解決、その目処が立ちました」


「ええ……。もうか? じゃあ、私はまたあの胃が痛くなる通信をしなきゃならんのか? 前任でもその前でも、何なら次の者でも良い。私、退役するから。誰かと変わってもらっちゃダメか? 娘が日本のおっさんと結婚するんだ。私も日本に行く。アメリカなんかもう嫌いだ」


 スッと差し出される、キンキンに冷えたレモネード。

 アメリカ本部も朝になり、職員が出勤し始めていた。


「上級監察官、落ち着いてください。日本本部所属の逆神六駆特務探索員。こちらの凍結されている口座を発見しました。国協が処理していましたが、元は我が国のフェルナンド・ハーパー理事がやったようです」

「あのじいさんか……。私、嫌いだったんだよな。それで、その逆神六駆? それは何者だ? 南雲氏は何と? なんで特務探索員ごときの口座に固執する? もっと色々あるだろ!? 未曾有の戦争と! 未曾有の訳分からん未曾有のヤツが我が国を襲ったんだぞ!! 本当に未曾有だ!! 何だったの、あれ!!」


 クレメンス上級監察官が「ああ。レモネードだけだ。私を癒してくれるのは」と愚痴を行ってからぐびぐびと豪快に喉を鳴らした。



「南雲上級監察官いわく、現世を一瞬で破壊できる男の……。他人の命よりも大事な資産だそうです。処理を開始しても? これを渋ると次はクレメンス上級監察官がお亡くなりになるらしいです」

「ぶるっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! ごっほげほ……。すぐにやりたまえ!! なんで私!? しかも殺されるのか!?」



 六駆くんの知らぬところで、南雲さんがやってくれていた。

 つまり、その時がいよいよ来たということ。


 逆神六駆。

 ついに隠居か。

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