第1298話 【帰還・その3】ミンスティラリアに帰ろう ~実家のような安心感だけど、ここは実家じゃない事実~

 日本本部に生えている門が輝き始めた。

 当然、中から出て来たのは彼ら。


「やれやれ。今回は本当に大変だったね。皆、ご苦労様。さて、とりあえず私の監察官室に行ってから復旧作業を……。思ったより逝ってるなぁ。しかもこれ、ティラミス爆弾って報告は受けてたけど。ええ……。ベッタベタ……。これは復旧作業の前に除去作業からだよ。逆神くん。申し訳ないけど頼りにさせてもらうよ」

「あ。南雲さん」


 南雲修一上級監察官が率いてバルリテロリ本土決戦から逆神家の因縁を断ち切る最終決戦まで、一気に1日で済ませて来た探索員たち。

 それでもやる事は山積み。

 そんな上官に六駆くんが応えた。



「僕たち、ミンスティラリアに帰って良いですか?」

「えっ!? ……えっ!? 帰るの!?」


 失礼。答えたが、応えるとは言ってなかった。



 六駆くんが続ける。

 もう既にダルそうな仕草でダルそうな表情。

 これは10代特有のヤツなのか、おっさんがお昼ご飯食べて血糖値上がってからの怠さに負けた今にも眠りそうなヤツなのか。


 六駆くんはハイブリッド。

 外側は18歳。中身は47歳。


 多分、どっちも該当する。


「あの。ダズモンガーくんとかバニングさんとか。後はサービスさんが1番アレですね。普通に本部にいるのまずい人たちがたくさんいますよ」

「くそぅ!! 正論だった……!! 君ぃ!! もう戦ってない時までキレッキレじゃないか!! おかしいな。1年ちょっと前は5万円より上の金額の価値が理解できないレベルだったのに。成長とか感覚取り戻したとか、そういうレベルじゃないよね」


「あ。心配しないでください。親父を置いて行きますから」

「なんでだよ、君ぃ!? どういう心配!? それはアレかい!? 心配するまでもなく事が起きるから、心配するだけ無駄だってアレかい!? 連れて帰りなさいよ!! 君のお父さんでしょうよ!!」


「すみません。親父はミンスティラリア出禁って家族で決めてるので。じゃあ、また明日にでも顔出しますね。失礼しまーす」

「ちょっと!! 逆神くん! そうだ、小坂くんがリーダーでしょうよ!! 勝手に決めちゃダメだよ!!」


 莉子ちゃんが「ふぇ?」と呼ばれた事に気付いて振り返った。

 その表情はとても明るく、朗らかだった。

 彼女は言う。



「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」

「あ。うん。じゃあ、また明日ね。お疲れ様。しっかり休むんだよ」


 「えへへ」の長さは危険指数。

 小坂莉子が機能していない逆神カップルは置いておくだけで被害が増えそう。


 南雲さんは知っている。



 すぐにサーベイランスが拡声器モードに換装されて、上級監察官の帰還を喜ぶ声が響いた。


『はーい。皆さん、南雲さんが戻ったんで作業再開していいっすよー。大胆に大雑把にガツガツやりましょう。全責任は上級監察官が取ってくれるっすからねー。よっ。さすが、理想の上司』

「やぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇ!! やーめーろーよー!! まだ私、着任式とかしてもらってないのにさぁぁ!! なんだよ!! 略式で辞令受けて、もうそのままなあなあにされるヤツだ、これ!! 久坂さんとかに帰還命令出すからちょっと待っあ゛!! 逆神くぅん!! ちょっと待って! 『ゲート』の発現してから帰って!? 逆神くぅん!?」


 最後にもう1度「逆神くぅぅぅぅぅん」と南雲さんが叫んだ。

 けれど、もうそこには誰もいないし、何なら門まで消えていた。

 絶対にこれ以上の仕事はしないという確固たる意思表示。


 大長編ドラえもんだったらオープニングテーマが流れ始めそうな感じで、南雲さんの叫びは空までこだました。

 現世の空は見慣れた夕焼けだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミンスティラリアでは。

 門の前に仲間たちが集まっていた。


 英雄の凱旋を今か今かと待ち構える。


「に、仁香? 怖いのじゃ……」

「あ。すみません。ファニちゃん様。怒ってないですよ? 私、この程度じゃ怒りませんから。この境地に到達している私を怒らせたら大したものですよ」


「……ダズモンガーはまだ帰って来ないのじゃ? 早く悲鳴ぐああを聞きたいのじゃ」


 仁香さん、未だに白ビキニでお仕事中。

 と言うか、後方司令官の任をさっさと芽衣ちゃん飛び越えて莉子ちゃんに返したいので仕事をリャンちゃんとザールくんに任せて、わざわざ謁見の間で仁王立ち。


 結局、水着だからと言って「きゃー! 恥ずかしい!!」みたいな羞恥心は一度として見せなかった仁香すわぁん。

 プロフェッショナルである。


「うちの宿六の方が1000倍恥ずかしいですよ」

「仁香は誰に向かって言っておるのじゃ……」


 そろそろ門が輝き始めるかという時分。

 アリナさんがバッツくんを伴ってやって来た。

 手にはお鍋。


「間に合ったか。感謝する、バッツ。すまぬな、ワガママを申して」

「何を仰いますか。私、もう照り焼き作る仕事しかありませんでしたので。アリナ様のお役に立てるのであれば本懐です」


「口に出すのはいささか気恥ずかしいが……。バニングも腹を空かせているはずであろう。手料理で迎えてやるくらいしか妾には報いる方法が思い浮かばなかった」

「きっと喜んでくださいますよ」


 VS人殺助・参の参戦タイミングで離席していたアリナさん。

 厨房でバニングさんのために料理をしていた。

 作ったのはカレーライス。


 元々はアリナさん、カレーよりもシチュー派だった。

 アトミルカは多国籍のテロ組織だったが構成員の割合はヨーロッパ圏が最も多く、シチューを好む傾向が強かった事に加えて、彼女はハナミズキの屋敷で長年ぼっち暮らし。


 ご飯炊く習慣が仮にあったとしても、五合炊きの炊飯器とかだと女性だけでは食べきる頃には黄色く硬くなっている。


 だが、現世の乙女たちと交流するようになってから「男の人はカレー食べさせてあげると女の子を好きになるんですっ! 絶対です!! 六駆くんはそうです! ハンバーグ乗せてあげたらもうメロメロです!!」と誰だか分からないが、誰かの入れ知恵によって、アリナさんはカレーを作る頻度が週5になっていた。

 バニングさんも昭和の親父よろしく感想は1種類。

 「これは美味ですな」しか言わないので、今ではご飯にカレーだけではなくシチューもぶっかけるという、日本では論争に発展しそうな食事風景が日常。


 待ちわびた門が輝く時、来る。


「……ふん。……帰ったぞ。……チュッチュチュッチュチュッチュ」

「この男は……! 妾の純愛の邪魔ばかりする!! この場で消してくれようか! サービス!!」


 最初に出て来たのがラッキー・サービス氏だったので、危うく熱々カレーをぶっかけそうになったミンガイルさんちの奥様。

 続いて出て来たのが旦那。


「ええい。早く進まんか、サービス。なんだ? また練乳がなくなったのか? 仕方のないヤツだ。ほら、くれてやる。ダズモンガー殿から預かっている。さっさとチュッチュして進め。後がつかえているのだ」

「バニング……!!」


「はっ!? アリナ様!? よもや、わざわざ出迎えて頂けるとは!! このバニング・ミンガイル、どうにか戻って来ること叶いました!!」

「そうか! 息災で何よりであった……! 時にバニング!!」


「はっ」


 アリナさんが言った。


「なにゆえその蜜しか吸わぬ昆虫みたいな男と友誼を結んでおる?」

「えっ!?」


 実はミンガイル夫妻とはどっちも割と仲良しなラッキーさん、はじめての間男体験が叶う。


「ぐーっははははは!! ファニコラ様ぁ!! 吾輩、戻りましてございまする!!」

「ダズモンガー!!」


「みっ。危険が危ないので六駆師匠たちはちょっとストップです。みみみみみっ」


 芽衣ちゃんが冬毛尻尾から手を離して、後ろの者たちにみみみアラートを発令した。

 ファニちゃんの指先が光る。


「おかえりなのじゃ! ダズモンガー!! 『石牙ドルファング』!!」

「ぐあああああああああああああああああああああああああああ!!」



 ミンスティラリアに喧噪ぐああと言う名の平穏が戻った瞬間であった。



 ひとしきり再会が終わったのを見届けて、仁香さんが歩み出る。


「あ゛。まずい。莉子ー!!」

「なーに? 六駆くん! 呼んだ!? 呼んだよね!? なになに!?」


「莉子ちゃん。おかえりなさい」

「ふぇ!? 仁香しゃん!? ……ふぁ、ふぁー。わたし、太ってないです!!」


「脇腹を摘まむから、ちょっとこっちに来てくれるかな? あと、後方司令官を最初に拝命したの莉子ちゃんだよね? これも返すから。ちょっと来て?」

「……ふぇぇぇ。……『閃動せんどう』!!」


「遅い!! 『閃動せんどう二重ダブル』!!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇ!? なんで!?」


 知らなかったのか、莉子ちゃん。仁香さんからは逃げられない。


「うにゃー。瑠香にゃん、瑠香にゃん」

「はい。なんでしょうか。ぽこ」


「瑠香にゃんのメンテナンスにあたし、ちょー興味あるぞな。おっぱいが動力炉って事は、おっぱいに管を挿すんだにゃー? 早速、シミリートさんのとこに行くぞなー!! レッツにゃー!!」

「………………………………? ステータス『メンテナンス中は意識ないけど、その可能性は無視できない』を獲得しました。瑠香にゃん、もうメンテナンスされたくない」


「騒がしいですけれど、やっと終わったという感じがしますわね。まあよろしいですわ。ノアさん。スマホばっかりいじっていないで早く来てくださいまし。門が消えかけていますわ」

「ふんすふんす!! 戦いが終わって隙だらけな女子は良いものですね! 興奮します!!」


 おかえりなさい。

 チーム莉子。


 追伸となりますが、ライアンさんはバルリテロリに残留したので戻って来ていません。

 あっちには柴犬がいた。

 それが全てです。

 裁判は「サービス殿が私の分まで受けられる」と言っていました。


 これで万事ピース。

 賑やかな平和が戻って来た。

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