異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第1297話 【帰還・その2】現世に帰ろう ~待ち受ける崩壊した本部~
第1297話 【帰還・その2】現世に帰ろう ~待ち受ける崩壊した本部~
こちらは日本本部。
オペレーター室から半壊した本部内で活動している監察官および高ランク探索員に向けて通信が行われていた。
「えー。こちら山根っす。加賀美監察官。南雲さんがそろそろ帰って来るっぽいので、復旧作業の責任者、お疲れ様でした。事故とか起きて加賀美さんが責任取らされるのは自分としても見たくないので、一旦作業を止めてもらって結構っす。戦争も終わりましたし、逆神くんちの問題も片付いたようなので。もう何も起きないだろーって無警戒になると後で自分たちが怒られますし、ほんのりと警戒だけしといて頂ければ。あとは休んでもらって大丈夫っす」
『こちら加賀美。了解しました』
「うっす。ティラミス爆発して責任取らされるのが自分たちなんてひどいっすからね。南雲さんが戻って来てから作業再開できるようにしときましょう」
責任者の帰還に備えて現場で責任の放棄が一足早く始まる。
隣にいる春香オペレーターもお仕事中。
「こちら山根春香です。和泉監察官。ご存命ですか?」
まず確認するのは「死んでませんか?」というデッドオアアライブ。
少しの間があってから聞き慣れた乙女の声がする。
『こちら土門佳純副官です! 和泉監察官、現在の致死進捗率6割程度! 全然余裕です! 重傷者の治癒を続行します! というか、屋払Aランクの治癒を続行しています! 重傷者がそんなにいないのは奇跡だと和泉さんもおっしゃってあー!! もう、血を吐くなら私の太ももにしてください!! すみません! 和泉さんが吐血したので、一旦切ります! はい、いい子ですから次は胸に出しましょうね。抱っこしますから』
春香さんが「ふぅ」と息を吐いてから隣の旦那に告げる。
「健斗さん」
「うっす」
「赤ちゃんがミルク吐いたみたいなやり取り。正直、羨ましいって思いました」
「ええ……。和泉さん、好きで吐血してる訳じゃないっすよ? 仕事しましょ?」
「してます。けど、私だってそんなに大人じゃありません」
「いや、自分たち割と大人っすよ? 20代後半がまだ自分子供なんすよ、へへっ! とか言い出したら、その人は多分40手前になっても同じこと言ってるっすよ?」
「なら、大人として責任を取ってください。あと私は20代半ばです」
「えっ」
「休暇が取れたら妊活しますから」
「……うっす」
山根くんの腰が回復するのはいつになるのだろうか。
言葉を失った旦那。
オペレーターが言葉を失うとか役立たずであるからして、ここは嫁がカバーする。
喩え、自分が間接的に喉をキュッとやっていたとしても。
夜になったらまた旦那が言葉を失くすので、その間はずっと献身的な春香さん。
夫婦の在り方、その1つの形を我々に見せてくれる山根夫妻。
「こちら山根春香です。あっくんさん。応答してください。聞こえているのは分かってるんですよ。応答してください。あっくんさん。小鳩ちゃんがこの間見せてくれた、ドライブに出かけた時にしかめっ面でピースしてた写真を本部のクラウドで共有しますよ。あっくんさ」
『ざっけんなよなぁ、春香さんよぉ!! なんであんたがその写真持ってんだぁ!? あぁ!?』
にっこりと優しく微笑んでから、春香さんは音声のみの通信に切り替える。
旦那に似て、交渉上手なオペレーターになってきた。
ちなみにあっくんと春香さんは五楼上級監察官室で一緒に仕事をしていた期間が長いので仲良しである。
あっくんが小鳩さんにソフトクリーム差し出されて、しかめっ面でそれを舐めている写真も「あらあらうふふ」と無言で自分の端末に保存するくらい春香さんは仲良しである。
代わりに「最近。旦那の元気がないんです。夜」「あぁ? あんたの旦那さんが夜に元気だった話をまず聞いた記憶がねぇんだよなぁ」と恋愛相談もしちゃう。
仲良しである。
「バルリテロリの皆さんを整列させて、形式上の拘束をお願いします。バルリテロリ本国の戦争が終結している以上、自由を与えておく裁量を現場で決める段階は終わりました」
『……ちっ。そりゃ分かったがよぉ。なんで俺ぁ監察官のお歴々に並ばされてんだぁ? 俺ぁただのしがねぇ特務探索員なんだけどなぁ』
「あ。やっぱり通信傍受してましたね? あっくんさんの『
「……ちっ。ルベルバックにデータ送る時に協力してくれたのがあんただったの忘れてたぜぇ。春香さんよぉ……。くそったれぃ……。阿久津、了解ぃ」
「あ。そうそう。小鳩ちゃんから今度、デートの時にサーベイランスでこっそりオフショット撮って欲しいって依頼がありまして」
『よぉし、分かったぁ。今から俺の指揮官はあんただ。勘弁しろぃ』
日本本部、南雲さん一行の凱旋に向けた準備は着々と進行中。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな南雲さんが率いる部隊はバルリテロリに帰還。
お米粒がキュートな皇旗。皇宮跡地では電脳ラボの職員が半旗に取り換えて掲揚している最中だった。
「陛下……!! どうして!! どうして戦争を生き延びられたのに! 御隠れになられるのですか!! このテレホマン! そのような予定は伺ってございません……!!」
喜三太陛下が無言の帰還。
国葬の準備が始まりそうだった。
「あ。すみません。僕がやりました」
「は? ……はっ。左様でしたか。では、戦略上の崩御と理解いたします」
ひ孫様が「ごめんなさい」と言ったら「あ。結構です。委細承知いたしました」と答えて、もう何も聞かない。
これがバルリテロリ戦争を最初から最後まで支えた忠臣、その四角い頭脳。
「そういえば、転生しませんね? ひいじいちゃん」
「は? ……はっ。ひ孫様の仰る事、いちいち御尤もでございますれば。恐らくメンタルが完全にバラバラになった由にございます」
「生き返らせます?」
「は? ……はっ。できれば、お願いいたします」
六駆くんが「やれやれ」と言ってから祖父を探す。
しかし、四郎じいちゃんが電脳ラボにいない。
「あれ!? じいちゃんは!? じゃあ、ばあちゃーん!!」
「なんかいねー? あらぁ、六駆! 帰っちょったかね! さすがじゃねぇ、お父さんは! 六駆が戻って来たら真っ先にワシが愚物の死体を焼きそうとか言うてね! 今、お父さんのお義父さん記念館行ってから! こねぇなもんでも壊しちょかんと理性を保ってしまう言うてね! ワイルドになっちょるんよ! トマトはそこにあるのが残り全部らしいけぇね! あたしゃ、お父さんにポカリあげに行くよ!!」
四郎じいちゃんの年の功が発動。
死んだ自分の父親をどうせ孫が生き返らせる。
それを阻止する方がこの国にとって良いのではないかという理性的な思考が芽生えることまでを先読みして、理性が仕事をする前に喜三太陛下記念館を焼き討ちする事で衝動により脳内を塗りつぶす作業へ移行済みであった。
どうせ戦禍に焼かれた皇国。
今さら、喜三太陛下記念館が焼き払われるだけで皇帝の復活を阻止しないのならば、臣民だって分かってくれる。
臣民支持率62%を誇る喜三太陛下はまだバルリテロリに必要なのである。
ちょっと支持率下がりましたね。
六駆くんはトマトを3つほど食べた。
そして「あ。ヤバい。さすがに飽きて来た」と呟いた。
その過程でうっかり親父と曾祖父をぶち殺していたが「まあ生き返るし」と高を括る。
大吾はもう生き返って「オレのもつ鍋は!?」と喚いているのに、喜三太陛下は穏やかな表情のまま、なんか顔色も白くなってきていた。
不死性ランキングでは意外と前頭五枚目くらいだった、敬愛すべき陛下。
「六駆くん! お塩もらって来たよー!!」
「うわぁ! さすがだなぁ、莉子! これであと2個はイケちゃう! 莉子も1つ食べる?」
「あ。うん。大丈夫」
「そう? ……よし。じゃあ、面倒な事から先に済ませようか! ひいじいちゃん、生き返らせまーす!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『
喜三太陛下の御身の周りに
その様子を見つめる南雲さん。
いつの間にか長いトイレから帰って来ていたライアン・ゲイブラム氏がいたので、声をかけた。
「あの。ライアンさん」
「南雲監察官。もう、上級監察官とお呼びしても?」
「あ、はい。結構です。……しばらくお見かけしませんでしたけど」
「これは申し遅れました。トイレをお借りしたところ、電脳ラボの方が飼っておられる柴犬と出会いましてな。心がワンワンするのを止められなかった次第です」
「あ。そうですか」
「それよりも、何か私でお役に立てる事がありますか?」
「ああ。はい。……私を生き返らせる時も、あんな感じにいつもおざなりなのかなって。ちょっと何というか、心が寒くなったので。お聞きしたいなと」
「ふふっ。南雲上級監察官らしくもない。貴官はご自身の価値を正当に評価されるべきだ」
「えっ!? そ、そうですか!?」
「ええ。逆神師範は貴官に対して『
「そうですか……」と短く答えた南雲さん。
「まあ、嫌々やられるにしてもあそこまで雑じゃないなら」と前向きに捉えた。
六駆くんの仕事が終わったら、現世に帰ろう。
バルリテロリは「喜三太陛下復活祭」が執り行われるはずなので、それくらいははしゃがせてあげても良い。
戦争の責任を取らされるのは皇帝陛下であって、臣民であってはならないのだから。
四郎じいちゃんとみつ子ばあちゃんが残留して
これで諸君も後顧の憂いなく現世に帰れますな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます