第1295話 【本当に決着の時・その2】この世界の戦いの歴史に終止符と言う名のピリオドが ~ピリオドの向こうの序曲と言う名のオーバーチュア~

 人殺助・漆の四方から門が生えて来た。


 一面からはバルリテロリ。

 テレホマンの『テレホガン』と爆発物が多数。

 それとコーラも多数。


 一面からはピュグリバー。

 雨宮おじさんの増殖し続ける過再生のトゲトゲ。

 エヴァンジェリン姫の破裂し続ける過再生のぷよぷよ。


 一面からはスカレグラーナ。

 全てを凍り尽くす、これまで凍り尽くせなかったものはない金色のブレス。

 太陽がいっぱいじゃなくて1つになったけど燃え盛る人工太陽。


「ハッハハハハハハハハハハハ!! はァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! ヤメようよ!! 僕、子供だよ!! いじめるのはよせよ!!」


 そう叫びながら人殺助・漆が向かうのは、唯一何も出ていない真正面の門。

 こいつをぶち破ってから人殺助・捌と合流して再起を図るのだ。


 同じ肉体に憑依している者同士、先刻は漆が捌に肉片を分けることで顕現した事を思えば、現在の、喜三太陛下に人殺助・漆の煌気オーラ全部抜くされた後でも回復は容易であるのが道理。


「はっ……ハハッ!! なんだ!! この門だけ何もないよ!! 僕を見くびったな!! ハハッ!! 捌のおじいちゃん! そこにいるんだろ!! 煌気オーラを寄越してよ!! は……ハハッ?」


 そこに人殺助・捌の姿はなかった。


 当然、いるものとして動いていた人殺助・漆は絶句する。

 そして叫んだ。


「と゛う゛し゛て゛い゛な゛い゛ん゛た゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!! 捌ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」


 割と距離を取ったところにいた人殺助・捌が答える。



「うぬ。近寄ったら我まで纏めて一網打尽にされると分からんのか」

「バカか、じじい!! ここで近寄って僕を回復させとかなきゃ!! 後はあんたが囲まれてボコされて終わりだよ!!」


 「僕の方が捌のおじいちゃんより強い」というのだけは本当だった、人殺助・漆による未成年要審議の主張でした。



 捌が「ぬかった!!」とその巨躯に似合わぬ速い動きで一歩、二歩と踏み出したが、それを想定していない者がここにいるだろうか。


「……ふん。逆神。これが終わったら俺と戦え」

「えっ!? 嫌ですけど!?」


「……ふん。……ふん」

「こっちを見るな。ええい、私の服の袖を掴むな!! 分かった、私が相手をしてやる! ミンスティラリアに戻ってからな!!」


「……チュッチュミンガイル。マイフレンドミンガイル。イェア」

「言っておくが、お前は牢獄に戻るということを忘れてくれるなよ? 勝負はしてやる。お前の極刑とか、なんかそういう処分が決まってからな」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 六駆くんにフラれたので、最強への道はスッパリ諦めた。

 素気無い最強よりも相手してくれるミンガイル。


「……チュッチュチュッチュチュッチュ。『イェア・サービス・タイム』!!」


 サービスさんが人殺助・捌の前に立ちはだかった。

 そして発現する最後の『サービス・タイム』は、バニングさんの砕けた拳の時を進める。


 立ちはだかった意味は特になかった。


 あと、時間を巻き戻すのではなく、進めた。

 サービスさんの心の中では「ふん。どうせ逆神が戦後に治療するだろう。ならば、そちらに時間を勧めた方が楽で良い」と長尺のセリフが発せられたが、口から出たのは「……ふん」だけだった。


 思ってた事の半分どころか10分の1も言えやしない。

 愛の告白。ガチでキレた時の口喧嘩。討論会。終わりの会で吊るしあげられた時。


 人生とは、かくも歯痒きものか。

 思い出せば「いぃぃぃぃぃぃ」となる。


「ふざけるなよ、サービス!! 私の拳を戻してどうする!? このデカブツを止めろと言うのか!?」

「……ふん。……バニング、出来る。ミンガイル」


「ふっ。……一刻も早く! アリナ様、貴女の元へ!! 帰りたい!! 『戦陣の拳アンタレスナックル』!!!」

「ぬぅぅぅ! 効かぬ、効かぬのだぁぁぁぁ!!」


 人殺助・捌の進軍を数歩遅くしただけのバニングさん渾身の一撃。

 それで充分だと氏は笑う。


 「また拳が砕けたな」と。


「はァァァぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァ!! バカじじい!! なにしてんだよォ!! ちんたらしてると」

「はい。もう充分お喋りしましたね?」



「ハハッ! 僕と一緒に遊ぼうよ!!」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 人殺助・漆は「あ。これ消える」と悟った瞬間に回顧した。

 変なキャラ設定してないで、もっと色々喋ればよかったと。


 おじゃるが1番喋ってたな、と。


 あいつ主人格じゃないってハッキリ自分で名言してやがったのに、と。



 六駆くんの拳が輝いた。

 それは破滅の光か。

 それとも再生の灯か。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『極光終局平手打グラン・エンデ・ビンタ』!!!」

「なんで1回グーにしたのにビンタするんだよォォォォ……ォォ……ォ……」


 人殺助・漆が消え去った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 残ったのは人殺助・捌。


「ヌシ。この戦いには必勝法がある。ヌシには分かるまい」



 急にライアーゲームみたいな事を言い出すとこの世界では負け確である。



「う、うわあああああ!!」

「フハハハハハハハハ!! 隙を見せたなぁ!! フハハ、フハハハハハハハハ!!!」


 六駆くんが余りの光景に慄き、驚き、尻もちまでついた。


 人殺助・捌の巨大な両の手の中には、あろうことか、こんな事があっても良いのか、卑劣極まりない残虐で醜悪、吐き気を催す邪悪、シンプルに最低な手段と謗るべき所業があった。


「お、おぎゃあああああああああああ!!」

「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 右手に逆神大吾。

 左手に逆神喜三太。



 なんてやつだ。

 ろっくくんのみうちをひとじちにするなんて。


 ゆるさないぞ。あくのおやだまめ。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「フハハハハ! 虚勢を張りおって! 所詮は人の子よ!!」


「いや、お前も元は人の子だろ? 何言ってんだ、こいつ」

「お前ぇぇぇ!! なんで敵を刺激するんや!! 隙を見つけて、そこを突いて脱出するのがセオリーやろが!!」


「はぁ? おめぇ、バカだなー。六駆がふぅぅぅんとか言い出したらもう手遅れだっつーの。変に気張ると痛いのが続くだけだぜ? で、あんた誰?」

「お前こそ誰や……。なんで死を前にしてそんな達観しとるんや……。あれ!?」


 めぐりあいお排泄物。


 ついに出会った、大吾とキサンタ。

 出会った瞬間にお別れが待っているだなんて、この世界は残酷だ。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『大竜砲ドラグーン』!!」


「お前ぇぇぇ! ひ孫ォォォォ!! 手抜きするなやぁぁぁぁ!! もっと凝った究極スキル使えよお前おぎゃああああああああああああああああああああああああああ」

「よく喋るガキだな。死に慣れてねぇのか。ド素人め。おぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 喜三太陛下と大吾が死んだ。

 つまり、それらを両手に持っていた人殺助・捌も。


「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!! ヌシ!! 分かった! 我とうぬ、ここは引き分けにしてやろう!! 我はこれより長き眠りにつく!! どこかの異世界に飛ばすが良い!!」

「あれ!? なんでその件知ってるんですか!? あっ!!」


 六駆くん、気付く。

 さてはこの捌が。



「いや? 我ら魂は記憶を共有しておるがゆえ、別に我が主人格ではないが?」

「聞いて損した!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」



 「————ひゅっ」と悲鳴の産声が聞こえたが、次の瞬間にはもう巨躯の欠片も遺ってはいなかった。

 最期はスキルですらない、六駆くんの八つ当たりビンタ。


 こうして、特異モンスター・逆神人殺助の討伐は完了した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うにゃー。南雲さん、南雲さん」

「椎名くんか。……君ぃ。なんて恰好してるの。近くに来ないでくれる? ルベルバックでも言ったよね? 私くらいの年齢になると若い女の子が薄着してたらチラ見もしないで距離を取りたいって。……チアのジャケットどうしたの!!」



「うにゃー。莉子ちゃんの頭に被せとるんですぞなー」

「あ。そうなんだ。じゃあ、ごめんね? それ、猛獣を落ち着かせる時のアレだもんね。何かあったんだね。椎名くん、一級戦功あげるよ」



 這いよるパイセン、莉子ちゃんを既に仕留めていた。

 乳と和解した莉子ちゃんでも、旦那におっぱいと腹を勘違いされた件は軽々となかったことにはできない。


 正月に暴飲暴食したカロリーまでスキル発現に変換してなかったことに出来るようになった莉子ちゃんでも、そこは譲れない。

 漆と捌が相手になってからずっと静かだったチーム莉子の乙女たちはガルルルルと唸る莉子氏を相手に戦っていたのだ。


「そんなことよりですにゃー。南雲さん、南雲さん」

「なんで君、そのタンクトップ? 黒いインナーの首のところヨレヨレなの? 今日貰った装備でしょうよ。……なにかな?」


「結局、人殺助さんの主人格って救わなくて良かったんですかにゃー? みんなの話を全部信じると、悪い人じゃないですにゃー?」

「ああ。確かにそうだね。ただ、椎名くん? その話はよそう」


「うにゃー」

「だって、本来は普通に寿命で死んでる人だから。幕末生まれの人だよ? 幕末の偉人、例えば……じゃあ坂本龍馬でいいや。ご存命なら今年で188歳だよ? 生き返ってもらってどうにかできるかな? 私たちに」


「にゃはー!! 六駆くんに伝えて来ますにゃー!!」

「ヤメて!! お願い、椎名くん!! 生き返らせたら年金いくら貰えますかね!? とか言い出すから!! 絶対言うよ!! 大学の単位、後期も私がどうにかするから!!」


 今、ひとつの戦いが、終わった。

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