第1292話 【かつての強敵がピンチに駆けつける激熱なヤツ・その3】逆神六駆、瞬間回復計画

 前回のあらすじ。

 喜三太陛下がおやらかしあそばされた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲さんは動じない。

 決して被害を受けたのがバニングさんだったから「私はノーダメージでチャオ☆彡」とかキメている訳ではなく、「なんとなくこうなる気がしていた」という経験則による未来視で分かっていたのである。


「逆神くん! どんな感じ!?」

「全然です!!」


「そうか……」

「すみません!!」


 波止場で釣りしてるおっさんが通りかかった別のおっさんに「よお! どんな?」と聞かれて「いやー。さっぱり」と釣り竿を見たまま首を振る。

 そんなやり取りで最終決戦のクライマックス、その塩梅を確認。


 結果、「このままじゃ勝てない」を悟る、監察官一の知恵者。


 先にモニタリングして戦場にやって来る。

 それは別にアドバンテージでも何でもなく普通の事なのだが、その普通のシチュエーションで戦場の最前線にやって来たのはいつ振りか。


 「みんな消耗しているな」と分かっている事が心のアドバンテージにできる。

 南雲さんはどん底からのスタートを繰り返しすぎたせいで、最終決戦の大局を分けるこのタイミングにおいてついに心のゆとりを得るに至る。


 なんだか周りがよく見える。

 まるで陵南高校の仙道になったみたいだったと後に氏は語る。


「慌てずに、一本。一本取り返して行こう」



 言った瞬間、まるで滑ったみたいな空気だったと後に氏は語る。



 思ったことがうっかり口からぽろりし始めたら、おっさんにおける絶好調のサイン。


「逆神くんを復活させる。それを最優先に考えるんだ……。クールになれ、南雲修一。よし。まずはバニングさんを捨て駒にして、サービスさんと組んでもらおう」

「南雲殿……。私も死に慣れて来たので、少し利き手が砕けたくらいの致命傷では死に至らぬのだが……。そのクールになるのは心の中でお願いしたかった……。ふっ。犯した罪は永遠に消えん……か」


 南雲さんが反省して黙ってしまったので、こちらで氏の立案したクールな作戦を引き取ろう。


 まず、バニングさんとサービスさんのコンビネーションで人殺助・漆を翻弄する。

 人殺助・捌はまだうねうねしているので、現状であれば正統派な猛者のバニングさんと時間停めるとかいう頭おかしい能力が売りのサービスさんの連携でしばらく時間は稼げる。


 次に、その間隙を突いて六駆くんを回復させる。

 これはトマト食わせるなんてちまちました事をやっていては埒が明かないし、多分どこかで六駆くんがお腹痛いって言い出すし、最悪の場合、最強の男が腹痛に敗北する瞬間がクライマックスになるので不採用。


 もっとストレートに、にいく。


 そう。

 に転移して来た、南雲さん率いる最後の救援部隊。


 喜三太陛下の転移スキルで、現状において唯一残存している敵。

 人殺助・漆から煌気オーラを六駆くんの中に転移させられないか。

 捌が顕現したらそっちからでも構わない。


 南雲さんの冴えたやり方を喜三太陛下に耳打ちしてみた。


「えっ!? 白衣ぃぃ!? おま、お前ぇぇ!! あったまおかしいんじゃねぇのか!?」


 なんか真っ当なリアクションが返って来たので、敵が予想できない方法でもあるという解答を得る。

 ならばもう一押し。


「その首輪。逆神くんが勝てないと取れませんよ。というか、多分ですけど。爆発するんじゃないかな……。流れ的に」

「流れ的に!? 八百長相撲みたいな感じで!? 人の首ってそんな雑に取れたらダメやろ!? あ……。こいつぅ……なんて目をしとるんや……。ガチのマジでワシの首なんかどうでもええって目やで、これぇ……。じゃあ、やれるで!! 勝てばええんや!!」



 喜三太陛下より「勝てばええんや」を賜りました。

 これで勝つる。



「ぐはぁぁぁっ!! くっ!! ダズモンガー殿がいないから!! 私は吹き飛ばされた時の悲鳴すら選ばせてもらえん!! これが世界を敵に回した罪か!! ぬぅぅぅりゃああ!!」

「……チュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュ」


「サービス!! お前も罪を背負え!! お前たちピースはアトミルカの作った隙を利用しただろうが! 言っておくが! 私たちよりも質が悪いからな!? こちらは正々堂々と侵略したんだ!! ぬぐぅぅぅぅっ!! ぐああと叫びたい!! ダズモンガー殿の咆哮はなんと理にかなったものか!! 人は本当に痛い時! る!!」

「……チュッチュ。『サービス・タイム・フォーエバー・マイ・フレンド』!!」


 バニングさんが停まったり急加速したりしつつ、人殺助・漆の周りを出たり消えたりしている。

 これはサービスさんの時間停止スキルの対象範囲をバニングさん周辺に指定しているためであり、煌気オーラ力場を構築して放つ『サービス・タイム』の領域内に人殺助・漆も取り込まれているため、「ハハッ!! 意味が分からないね!! ハハッ!!」と甲高い声で笑っていても、バニングさんに注力した応戦に徹さざるを得ない。


 人殺助・漆がどちらかと言えば遠距離を得意としていると即座に看破して、それを誰にも言わなかった言えなかったサービスさんの慧眼が成した戦局。

 ライアンさんを連れて来ていればこんな事にはならなかったが、人殺助・漆に超聴力のような能力があったら台無しなので、ここは「沈黙は金雄弁は銀」という分かりそうでよく分からん諺に倣うが良し。


「イケますか? キサンタさん!!」

「えっ!? ひ孫には言わんのか!?」


「言いませんよ!! 絶対に嫌がるでしょう!!」

「えっ!? いきなりよそから大量の煌気オーラが体内に入ったら、むっちゃ気持ち悪いで!?」


「でしょうね! だから言えませんよ!!」

「えっ!? ワシ、後でむっちゃ恨まれるヤツやんけ!!」



「えっ!? キサンタさん!? これ以上まだ恨んでもらえる余地があると思っているんですか!? もう最上位の恨み買ってますから!! 安心してください!!」

「えっ!? 白衣ぃ!! お前、ワシに死ねって言うとるんか!?」


 最初からずっと言っている件。



 さらに喜三太陛下にとっての不運は続く。


「私もね。ここで見ているだけで済まそうなんて思っちゃいませんよ……!! 見ていてください! 京華さん!! そしてお腹にいる双子たち!! はぁぁぁぁ!! 『古龍化ドラグニティ全開放フルバースト』!!」


 南雲さんがナグモさんに。

 『全開放フルバースト』と言ったからには当然だが。


「やあ! セニョール!! 生きるということは哀しいね! 痛いということは哀しいね!! けれど、私は思う!! 人の痛みを知って、哀しみを知って、なんやかんやでチャオ☆彡」


 理性ガチャなんか当たるはずがない。

 ナグモさんがジキラントを持ってバニングさんと戦列に加わった。


「……なんで白衣はあのデカい刀持って来たんやろってずっと思っとったんや。……えっ。ワシ、もうどうやってもひ孫に殺されるんやないんけ!?」


 陛下。

 さすがのご慧眼にあらせられますな。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 さっさと回復させるんや作戦が発動。

 対象者の六駆くんだったが。


「うわっ!? 煌気オーラ力場が出て来た!! これ、僕になんかする気だ! 嫌だ!! なんかアレだ! クララ先輩の持ってる薄い本みたいな事をする気でしょう!! 誰だか知りませんけどね!! やらせやしませんよ!!」


 「なんかされる」という気配を、天性の才覚なのか、後天的に得た戦いの遺伝子によるものなのか分からないが、察する。

 そして最強の男。


「うわぁぁ!! 気持ち悪い!! 嫌だ!! 僕の初めては莉子にあげるって決めてるんだ!! 莉子! 助けて!! なんかされるよ、僕!! なんか大事なものを失いそう!!」


 あろうことか、莉子ちゃんを巻き込んで全てを台無しにする事を言った。


「ふぇっ!? ふぁー? ……………………ふぁ!!  ふぁー!! ふぁぁぁぁぁ!! 『閃動せんどう』!! 六駆くん、わたしのおっぱいに掴まって!!」

「えっ!? それってどこ!? あ゛あ゛あ゛あ゛!! ごめん、痛い痛い痛い!! 莉子、ごめん!! ちょ、僕、今ね、煌気オーラないから!! リコられるとホントに死ぬかも!! ああああ!! ここだ! じゃあ、莉子のおっぱいに触るね!! あー! 柔らかい!!」



「…………………………そこ、お腹だよ?」

「えっ!?」


 六駆くんがすっ飛んで行った。



 それを見つめる人殺助・漆と近接戦に挑んでいたナグモさんとバニングさん。


「ふふっ。思う通りには行かないね☆彡」

「ナグモ殿。大恩ある貴方にこのような物言い、許して頂きたい。その☆彡ですが、とても腹が立つ!! 『一陣の拳ブラストナックル』!!」


「『全開放フルバースト』したら出るようになったのさ☆彡 セニョール・バニング!! 語感がいいね! セニョール・バニング!! 『古龍神王砲ドラグキングドゥム』!!」

「そこでどうして煌気オーラ砲を!? ならばその持っている大太刀は!? 使わないのであれば置いて頂けるか!? 邪魔で仕方がない!!」


 やる事は変わらない。

 既に人事は尽くした。


 あとは天命を待つ。などと眠たいことはしない。


 神に逆らう一族。

 逆神家は信じたところで何も変わっちゃくれないのだ。


 天命は気まぐれロマンティック。

 逆神の気の向く時が全てにピリオドを打つ時。


「おいぃぃ!! ひ孫ぉぉぉ!! こいつぅ、マジか! 動くなや!! せっかく煌気オーラ力場展開しとるのにぃぃぃ!! お前、どこまで吹っ飛ぶんや!! ロリ子ォ!! せめてホールドしろ!! ぶっ飛ばすな、ひ孫をォ!! ああ、ほれ見ろ!! 敵に気付かれるぅ!!」


 しっちゃかめっちゃかに見えるが、彼らはこれまでそうやって、何度も何度も勝利を掴んで来たのである。

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