第1291話 【かつての強敵がピンチに駆けつける激熱なヤツ・その2】「えっ!?」 ~主人格問題とか、最強たちの連携とか~

 人殺助・漆の投げた肉片がうねうねと蠢き始めた。

 どう見ても最後の魂が現世に顕現する気である。


 ならば、未然に防がねば。


「くっ! 現状は把握している! 小坂くん!! あの肉片を撃ってくれ!!」


 南雲さんが不退転の覚悟をキメて指示を飛ばした。

 その前にチーム莉子、およびこの場にいるメンバーの位置確認。


 人殺助・漆はナンシーの家があった跡地のど真ん中に立っており、捌になるであろう肉片はその真横で宙に浮いて肉体顕現進捗率は7割程度。

 そこからかなり距離を取っているチーム莉子。


 『瑠香にゃんバースト』から身を守る目的と、煌気オーラ枯渇状態になった六駆くんの保護の双方を同時にこなせる形は多くなかった。

 クララパイセンが最左翼。

 瑠香にゃんの胸部装甲に『粘着糸ネット』をくっ付けてからのおっぱい一本釣りをキメるために、敢えて爆心地に最も近いポイントに立っていた。


 なんでクララパイセンが逆神流を使えたのかということについては、初めて彼女が六駆くんのスキルを見た、その数種類の中に『粘着糸ネット』が含まれていた点。

 あとは「どら猫だから」で説明は済むはずである。


 そうであろう。諸君。


 ナンシーの庭の左翼、そこについさっきまで存在していた家屋に最も近いポイントから右に並んで芽衣ちゃんと小鳩さんがいる。

 これは対猫たちフォーメーション。


 飛来物を殴り飛ばせる芽衣ちゃんと、高出力かつ安定性にも秀でた盾を『銀華ぎんか』で構築できる小鳩さん。

 この2名もパイセン同様、瑠香にゃんの保護を最優先しているので割と無茶なポジショニングを取らざるを得なかった。


 そこから結構離れたところに六駆くんと莉子ちゃん。

 そして「夫婦の営みを撮影ふんすですね!!」とちょっと後ろで『スマート・テレホーダイ』のスマホは一連の流れで爆発してなくなったため、スマートフォンを構えるノア隊員。


 ノアちゃんのさらに後ろには「わっふわっふ」とはしゃぐジェームズと、川端さんにすがり付いているナンシーとおっぱい男爵。


 ここまでが現場。

 そして南雲さんの指示を受けて莉子ちゃんが少し戸惑いがちに答えた。


「あの……。良いんですか? わたしは良いですけど……」


 六駆くんの煌気オーラが枯渇していたので、「強い煌気オーラを目印にダイレクト転移する」喜三太陛下は「ロリ子でええか」と莉子ちゃんの煌気オーラを基点にしていた。

 つまり、莉子ちゃんの真ん前ちょっと右に南雲さんとバニングさんとサービスさんが並んでおり、莉子ちゃんがぶっ放す際の射線には喜三太陛下が丸被りなのである。



「……致し方ない!!」

「致し方あるやろ!! 白衣ぃ!! ワシ、頑張って転移してきたのにやで!? ロリ子の滅殺光線でぶち殺されるんけ!? ヤメろや、ロリ子ぉ!! 仲直りしたやろ!!」


 莉子ちゃんの胸の前に苺色の煌気オーラが集束し始めていた。

 ロリ子って連呼あそばされるからでございますぞ。陛下。



「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!」

「おぎゃああああああああああああああああああああ!! おい、こいつぅ! 信じられん!! マジでこのシチュエーションで! 敵じゃなくワシを狙いおったで!?」


 南雲さんが俯いて「私としたことが……」と苦汁をペロペロ。

 バニングさんが「今のはやむを得んケースでしたな」と肩を叩き、サービスさんが「ふん。使え。高みに挑む者」と練乳を差し入れる。


 好機を逸したかのようにも思えるが、これがこの世界の平常運転。

 現状、実のところそんなに悪くはない。


 悪い場合は初手でバニングさん辺りが死んでいたのである。


 気を取り直して構える章ボス連合軍と南雲さん。

 「なんで私、このメンバーの指揮を執ることになったんだろう……」と考えながら、氏は「バルリテロリのコーヒー豆ってすごく美味しいんだよね」と思い出していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ハハッ!!」

「くそぅ!! 甲高いな、笑い声!! 危ないタイプだ!! 最後までこんなのだよ!! バニングさん! 牽制をお願いします! サービスさん! 折を見て時間停めて頂けますね!! はい、動きますよ!!」


 南雲さんが苦しそうに体勢を立て直すが、冷静に見てみれば未だ最強格にも対応できるバニングさんに「牽制しろ」と言って、未だアンタッチャブルなスキルを駆使するサービスさんに「良い感じのタイミングで時を停めろ」と言う。



 なんか勝てそう。

 無駄が一切ない。


 世界よ。これがナグモに成らずとも戦える、南雲修一の実力である。



「ハハッ!! おじさんたち、良い事を教えてあげるよ!! 僕の方が捌のおじいちゃんよりも強いよ!! ハハッ!!」

「なんだって!? じゃあ……子供が主人格のパターンだ!! やりにくいったらないな!! とでも、言うと思ったのかい? ええと、7番目の君。私たちね、子供を平然と殴り飛ばす集団なんだよ。いつの間にか私、それを指揮してるの。もうすぐ子供が生まれるって言うのに!! くそぅ!!」


 南雲さんは少しだけ考え違いをしていた。

 魂の集合体である逆神人殺助。

 1番強い魂が主人格だという結論は悪くないが、決めつけるには根拠が弱い。


 確かに逆神家はどの世代も一騎当千、稀代のスキル使いであるが。

 その時代で最も強いヤツは逆神家であるが。


 が。


 逆神大吾という5代目がその理屈をぶち殺してくる。

 最強でなくても初代の可能性、これは割とある。


 人殺助・漆が笑う。


「ハハッ! 僕は主人格じゃないよ!! ハハッ!!」

「くそぅ!! じゃあ、最後の8番目か……!! 一番強いのは子供だけど、最も強いのは我だ……! とか、そういうオシャンティーな言葉遊びだ!! まんまとハメられた!!」


 肉片がうねうねしながら答える。


『ヌシ。思い違いをするな。我は主人格ではない』

「ハハッ!!」



「ちょっと待ってくださいね。……あれ!? 誰も嘘をついていないっていう前提でいくとですよ!? これ、もう逆神くんが一気にガーッてやった4番目と5番目と6番目の中に主人格がいたってことじゃないのか!? あるいは、その前の人たち……? あ。ダメだ。『うそつき村と正直村のなぞなぞ』みたいになってる。これもう正解分かんないヤツだ」


 じゃあもう振り返るのはよそう。

 どうせ全部殺したらハッピーエンド。


 正解が分かってもガッカリしかしない問題なんてクソである。



「小坂くん! もう1発だ!! 今度は人殺助さん狙ってね!!」

「白衣ぃぃ!! お前ぇぇぇ!! もうワシ、お前の白衣の中に入って二人羽織するかんな!?」


 喜三太陛下が南雲さんの白衣にイン。

 敵が分裂ならこっちは合体や。


「あ゛あ゛!! ねっちょりしてる!! 小坂くん! 早く!! 私が耐えられなくなる前に!!」

「おいぃぃ!! お前ぇぇ!! お前の指示で殺されかけたワシに対して不敬極まるんやが!?」


 莉子ちゃんが哀し気に声を振り絞った。

 もうそれだけで「あ。出ないのか。『苺光閃いちごこうせん』」とみんなが理解した。


「ダメです! 六駆くんの腕が……!!」

「すみません!! 皆さん!! 僕の左腕が!! 折れました!!」


 説明しよう。

 莉子ちゃんは六駆くんの左腕から1度として離れていない。


 密着した状態で『苺光閃いちごこうせん』を発射すると、どうなるか。

 これまでだったら莉子氏の煌気オーラコントロールが未熟であるがゆえ一直線に放出されて、無駄な部分は広範囲に飛び散っていたので前方に無差別攻撃を仕掛ける形になっていた。

 が、今の莉子ちゃんはハイパーアルティメット莉子ちゃんである。


 そう。ピュアドレスちゃんが仕事をする。


 右とか左とかに漏れそうな苺色の煌気オーラを「あ。ちゃんと真っすぐにしなきゃ」と補正下着のような仕事をした結果、発射の瞬間には左右に漏れている苺色の煌気オーラが瞬時に無理やり真っすぐ矯正される。

 脇の肉を前の方に持って来て無理やりブラにねじ込んでドーン。そのシークエンスに巻き込まれたのが六駆くんの左腕。


 誰が悪いのだろうか。



 おのれ。人殺助め。ぜったいに許さないぞ。

 これが正解でよろしゅうございますな。



 バニングさんは既に駆け始めていた。

 思えば一騎駆けの多い戦いの人生だった。

 しかし、一騎駆けしてない時の方が怪我をする戦いの人生でもあった。


 言われる前に一騎駆け。

 これが安全マージンの確保としては最適解。


「ぬぅぅぅぅん!! 『魔斧ベルテ』!!」

「ハハッ!! 馬鹿正直だね! おじいちゃん!!」


 『魔斧ベルテ』を両手に発現して、片方を投げつけ残った一方を振りかぶり吶喊。

 一人時間差攻撃である。


「サービス!!」

「ふん。……友達ミンガイル。悪くない! ぬょれゅのぇ!! 『ピンポイント・サービス・タイム』!!」


 サービスさんはコミュニケーション能力に問題があるものの、ひとたび強者と認めた者には敬意を忘れず、ひとたびズッ友と認めた者とは意思疎通を頑張る。

 放った時間停止光線は人殺助・漆を通過。


 相手が反射スキルを使える場合、跳ね返されたら大惨事。

 その危険性を「まあ大丈夫やろ」と無視するなんてとんでもない。

 大事なのは安全マージンなのが章ボスたちの合言葉。


 それを怠ったがゆえに負けて来た者たちのやり様は重みが違う。


 『ピンポイント・サービス・タイム』が捉えたのは先に飛んで行った『魔斧ベルテ』だった。

 動きを止めた、本来ならば飛来してくるはずの斧。


「ハハッ!?」

「ええい! 疑問形までその裏声っぽいヤツでこなすな!! それが危ない事くらいは私でも分かる!! 喰らえぃ!! 『魔斧ベルテイクス交差断クロス』!!」


「ハハッ!! 『瓦礫聖衣ロストバリア』!!」

「ふっ。その程度、予想できん私と思うてくれるな!! キサンタ!! トドメはくれてやる!! 今だ、やれ!!」



「えっ!? えっ!? ……ワシ? えっ!? ごめんやで?」

「ふざけるなよ、貴様ァァァァァ!!」


 章ボスでは新参者の陛下。

 ここで理外の連係ミス。



 結果として、バニングさんが頑強なバリアによって吹き飛ばされて拳を砕かれた。

 これが因果律の収束なのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る