第1288話 【逆神六駆は我慢できなかった・その4】さようなら、ナンシーの家

 六駆くんがステルス・キル。

 相手は逆神人殺助・陸。



 6の字対決があろうことかカットされる大惨事。

 尺の関係があろうともカットするのはそこじゃない。



 ちなみに人殺助・陸はタコみたいに触手を6本伸ばして戦うというスタイルであり、なおの事「せめてチーム莉子のメンバーに戦わせるべきだったのではないか」問題が生じる結果に。

 だが、少しお考えいただきたい。


 過去にチーム莉子のメンバーが触手タイプのモンスター相手にトラブル発生、いやさTo LOVEるダークネスをキメた事があっただろうか。

 これは断言しても良い。


 ない。


 この世界が産声を上げた頃に、まだ莉子ちゃんが正統派メインヒロインだった頃に、そんな懐かしさとともに、郷愁を覚えるくらい昔の記憶と共に、思い出して頂きたい。

 ツタに絡まって大ピンチになった、あの瞬間が、あのタイミングが、あのシーンが、この世界の瞬間最大ヒロインピンチシーンだったのではなかったか。


 以降、ツタ、触手、服を溶かすタイプの敵は幾度か現れたが、被害に遭うのはいつも野郎だった。

 六駆くんだったり、大吾だったり、水戸くんだったりした。



「いかんな。逆神くんの様子が悪い。ナンシーさん。おっぱいを支える手、それはどけてくれ。……揺れるぞ」


 あなたもですね。川端さん。



 そんなクソったれな世界で、事ここに至り触手持ちの敵に「えっちぃのはダメです」となっただろうか。

 なるはずがねぇんである。


 ならば、もうサッとイロモノ枠は倒してくれた方が良かった。

 そこはもう済んだ。


 問題は、六駆くんが飛ばしまくったせいで、案の定、予定調和とも取れる煌気オーラ枯渇状態に陥ったこと。

 これが大問題。


 ここから六駆くんを復活させるんやシークエンスに入ると、ベテラン探索員の諸君にも家の中で唾を吐く者が現れるかもしれない。

 それはいけない。


 一時の憤慨でカーペットが、あるいはフローリングが、畳が汚れてしまう。


「プリンセスマスター。瑠香にゃんに瑠香にゃんバーストの許可を頂きたいです」

「ふぇ? 瑠香にゃんちゃん、煌気オーラ爆発バーストはできないんだよね?」


「ステータス『全部ぽこのネーミングセンスのせい』を獲得。おっぱいに格納します。プリンセスマスター、および諸マスターにご説明します。瑠香にゃんバーストとは、瑠香にゃんを中心に全方位を対象とし瑠香にゃんのおっぱいが持ち得る全煌気オーラで焼き尽くす兵装です。ワタシが01番だった頃には既に実装されて………………………………? 瑠香にゃん、一人称ガチャが急に当たると戸惑うので困ります。つまり、そういう訳です」


 どら猫が隣で「ベジータさんが魔人ブウ戦で使ったヤツだにゃー。トランクス、抱かせてくれ……。からのヤツだにゃー。エモエモのエモなヤツだにゃー」と捕捉する。


「ええと? なんなんですの? それは?」

「みみみみみみみっ! 芽衣、クララ先輩に借りて呼んだから知ってるです! みっ!! 小鳩さん、芽衣がこっちで教えてあげるです!! みみみみっ!!」


 男子の趣味の話になると完全に分からない子と、完全に分かっているけど男子には接触せずに分からない女子に教えてあげる子と、分かってて男子に知ってるーと言う子が存在する、そしてだいたいどの子も可愛いとされる。

 これはあまりにも有名。


「………………………………ふぁ?」


 分からなくて誰も教えてくれない子も時にはいる。

 そう言う時は話題を変えてあげるのが良い。


「ふんすっ! ふんすっ!!」


 それを見て興奮する子もいる。

 ちょっと歪んでいるので、誰かに是正してもらうのが良い。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! バーストって聞こえたわぁぁぁぁぁ!? バーストって単語はもう日本にあげるって決めたのよぉぉぉぉぉ! だからぁ! アメリカでこれ以上バーストしないでちょうだい!! お願いよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 君のように勘のいいナンシーもいる。

 どうしようもない事もこの世にはあると諦めてもらうのが良い。


「ふぇっ!? 自爆なの!? ダメだよ、瑠香にゃんちゃん! 瑠香にゃんちゃんが自爆するのはダメ!!」

「プリンセスマスター……」



「瑠香にゃんちゃんは! わたしと六駆くんの子供ができたら……えへへへへへへ。デートする時にベビーシッターお願いしないといけないから……その、えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ。ダメだよぉ!!」

「………………………………?」


 もう川端さんが「ナンシーさん。貴重品だけおっぱいに詰めよう。グランマの写真はいらない。ブラジャーをもっと増やした方が良い」と荷造りを開始している。



 どら猫が立ち上がった。

 ニャオハが立ったら「ニャオハ立つな」とポケモンマスターたちが憤り、「立つんじゃない、伏せろ!!」とカカロットに怒鳴られるのに、どら猫が立っても誰も何も言わない。


「つまりだにゃー。敵さんをこの家の中におびき寄せてからだにゃー。瑠香にゃんバーストで焼き尽くすんだにゃー。安心してにゃー。瑠香にゃんのマスター権限持ってるあたしがきっちり良い感じの自爆で食い止めるぞなー。瑠香にゃんは競泳水着からおっぱいぽろりする寸前の爆発したところであたしがゲッチューするぞなー。そこで敵さんだけドーン……ってスンポーだにゃー!! にゃはー!!」


 おわかりいただけただろうか。


 ベジータさんもかつては自爆だったのに、ドラゴンボール超になってから同じ事しても死ななかったので「自爆が技になった」という扱いを得るに至っている。

 瑠香にゃんも同様であり、自爆するとは言っているが、自爆するとは言ってない。


 自爆(技)を使うと言っているのであって自爆(死ぬ)とは言ってないのである。


 これは近年散見される、「会話の省略し過ぎ」問題にも繋がる、重要なホウレンソウの欠如か。

 しかし若者の略語とか言い始めたのはいつだったか。


 少なくとも平成にはあったし、多分昭和にもあった。

 そしてその頃に略語を使っていた若者はもうおっさんかおばさん、下手するとじじいかばばあである。


 ならば、「今の若いもんの言うちょる事は分からん」と突っぱねるのではなく、胸襟おっぱいを開いて受け止める度量を見せるのがおっさんの矜持なのではないか。



 なんだ〇〇パって。

 なんだ〇〇ハラって。


 言えよ。

 分からんのじゃ。

 なにパフォーマンスなのか、なにハラスメントと誹りを受けているのか。



「諸マスター方。瑠香にゃんバーストの準備が整いました。ステータス『問題はグランドマスターと連携ができてない事』を確認。ぽこにあげます」


 危ないところであった。

 この世界の物語の趣旨からかけ離れた場所へ転移してしまうところを、寸でのところで瑠香にゃんが助けてくれた。


 やっぱり猫は世界を救うのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 チーム莉子がナンシーの庭に飛び出した。


「あれ!? みんな!? どうしたの!?」

「六駆くん、平気!? 安心してね! これからね! 瑠香にゃんちゃんがバーンってなって! ドーンってするの!! だからわたし、シールド構築するね!! 六駆くん、やり方教えて!!」


 莉子ちゃんもしっかり若者であったと我々は思い知らされた。

 色々と省略が過ぎており、ちょっと何言ってるのか分からない。


 六駆くんは少し考えてから、穏やかに微笑んで言った。



「そうなんだ! すごいね!!」

「うんっ! そうなのっ!! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」


 諸君。

 略された謎を解くよりも先に返事をしよう。


 それで丸く収まる。若者だって鬼じゃない。怖くないよ。



 六駆くんが「なんか分かんないけど、莉子。『風神盾エアラシルド』使えたでしょ? えっ!? 『苺光閃いちごこうせん』を応用したシールドを展開するの!? じゃあ、うん! 頑張って!!」とレクチャー。

 莉子ちゃんが頑張って、苺色のドーム型シールドが歪な形で発現された。


 うねうねしている人殺助(?)を摘まんだのは芽衣ちゃん。

 それをヒュッと放り投げてから拳に力を込める。


「みみみみみみみみみみみみみみっ!! 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』です! みぃぃぃぃぃぃ!!」


 肉塊を殴り飛ばすみみみと鳴く可愛い生き物。

 ミンスティラリアで放映されたら卒倒する者と絶頂する者のどちらが多いだろうか。


 バリンとシンプルにガラスが割れる音がして、「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」と悲鳴がこだまする。


「クララさん! 色々とオッケーですわ!! わたくし、なんだかとてもお胸が痛いですけれど!! これ、オッケーってことでよろしいんですわよね!?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「はいはいにゃー!! 瑠香にゃん、瑠香にゃん。こちらあたしだぞなー。家の中にお肉の塊がドーンを確認ぞなー。バーンしてヨシ、だにゃー!!」

『こちら瑠香にゃんです。屋内に攻撃対象の侵入を確認しました。瑠香にゃんバーストのカウントダウンに入ります。10、9、あっ。攻撃対象のうねうねを確認。ステータス『ひどく気持ち悪い』を獲得。瑠香にゃん、カウントダウンを省略します。ステータス『これナグモ監察官がやってた』を放出。バースト、ドーンです』


 ナンシーの家が爆発した。


 やったか。

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