第1252話 【本当に最後のはずの日常回・その5】木原芽衣ちゃまのバルリテロリからみみみみ ~電脳ラボを表敬訪問する日本本部のアイドル~

 木原芽衣ちゃまBランク探索員。

 そこがどこであろうと、相手が誰であろうと、自分にできる事は最善を尽くす。


 とても尊い、みみみと鳴く生き物。



「みみみみみみっ。……ごめんなさいです。みみ……」


 そんな芽衣ちゃまがしょんぼりしていた。



 ここは電脳ラボ。

 ラボメンは現在、四郎じいちゃんの指揮下に再配属されたのち煌気オーラ回復アイテムを量産するべくお仕事中。


 頭脳労働と肉体労働を兼務している彼らにとってカロリーは必要不可欠。

 そんな時こそコーラ。


 芽衣ちゃんが「みみっ! コーラ持って来たです!! みっ!!」と可愛く敬礼して配ったコーラを受け取って5秒以内に飲み始めない輩がこの世界に存在するだろうか。

 存在するかもしれないが、電脳ラボにはいなかった。


 その結果、栓抜きできゅぽんとやった者から順番に景気よく噴き上がるコーラ。

 端末が甘くて黒い液体まみれになっていた。


「瑠香にゃん、自爆シークエンスに移行します。エンジェルマスター。どうかお元気で」

「み゛み゛み゛み゛み゛っ!! 芽衣が悪いです!! ヤメてです!! み゛ぃ゛!!」


 芽衣ちゃまを背中に乗せた瑠香にゃんがテンション上がって曲芸飛行した結果、ちょっとした非行少女に変身してしまい、最終的に電脳ラボの端末がいくつかお亡くなりになった。

 しかし、彼女たちを責める者はいるだろうか。


 いやさ、彼女たちを責められるほどの者が、一体幾人いるだろうか。

 瑠香にゃんも芽衣ちゃまもこの戦争では働き通し。

 芽衣ちゃんに至ってはチーム莉子に加入してからこっち、働いていなかったシーンを思い出す方が難しい。


 このみみみと鳴く可愛い生き物は16歳である。


「ぐーっははははは!! お困りのようでございまするな!!」


 勝ったな。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 現世では「芽衣ちゃまのいる世界にお前はいらん」と、なんか一瞬だけ胸アツ展開かと勘違いしそうになる感じでアメリカの大地とナンシーのおっぱいを揺らしているゴリ門クソさん。

 その姪っ子の芽衣ちゃまはしょんぼりして「……みみっ」と小さく鳴いている。


「貴官」

「ああ。貴官」


「良いな」

「ああ。良い」


「良いよね」

「うむ。良い」


「良いぞ、これは」

「とても良い」



 芽衣ちゃまの表敬訪問によって、電脳ラボにチンクエの亜種が大量発生していた。



 コーラが吹きこぼれてちょっとくらいデータがすっ飛んだからなんだというのか。

 そんなもの、どうとでもなる。


「キュンキュンシークエンスへ瑠香にゃんは移行します。目標、電脳ラボのデータ。瑠香にゃん記録媒体をパージ。こちらに一時的保存をしてください。その間に端末およびデータの復旧を行えば、ハイパーアルティメットエンジェルマスターに笑顔が戻ります」


 瑠香にゃんがどこをパージしたのかは諸君のご想像にお任せする。

 とりあえず、瑠香にゃんが大容量外付けハードディスクみたいになった。


「ぐーっははははは!! 芽衣殿!!」

「みみっ!!」


 とりあえず芽衣ちゃんは心の支えのモフモフ尻尾を小さい手でキャッチ。

 やって来たダズモンガーくんがピンチをチャンスに変えてみせる。


「コーラは多岐にわたって活躍できまする!! まず! 錆びたネジはありまするかな!?」


 で求める素材が結構ハードルの高いものだった。

 しかし、電脳ラボとて戦争を戦い抜いた後方支援組織。


「こちらにありますが!!」


 できらぁと錆びたネジくらい探し出せる。

 皇国の索敵能力を舐めるなよ。


「ささ、芽衣殿! この錆びたネジにストローを使いまするぞ! コーラを少しずつ垂らして頂けまするか!! 吾輩、ご覧のように手が芽衣殿のお顔よりも大きいゆえ! 精密な作業は苦手でございまする!!」


 嘘である。

 お裁縫マスタータイガーでもあるダズモンガーくん。

 針の穴に糸を通す速度は1秒を切る。


「みーみー……み゛っ!! 簡単に外れたです!! みみぃ!!」

「これが芽衣殿のお力でございまするぞ!!」


 ラボメンたちがスタンディングオベーションで称えた。


「どなたか! 自家用車のフロントガラスが油膜で酷いことになっておられませぬか!?」


 進撃のダズモンガーくん。

 無茶ばかり言う。


「みみみみっ! 芽衣、お役に立ちたいです!! みっ!!」


 ラボメンの内、3名が同期。

 彼らはNテェテェの愛車、スターレットの近くで噴霧器をしゅこしゅこやって農薬を散布。

 農薬は物にもよるが、車の近くで散布すると大半はフロントガラスが油膜まみれになって地獄を見る事は余りにも有名。


「こちらに!!」

「おお! では芽衣殿!! コーラをフロントガラスにかけてから雑巾で拭いてみて頂けまするか!! 吾輩、僭越ながら芽衣殿の体を支えまする!!」


 芽衣ちゃま・フライングバージョン。

 ダズモンガーくんが芽衣ちゃんの脇を抱えているので、withタイガーとも言える。



 多分、ダズモンガーくんじゃなかったらこの行為だけで新しい戦争が起きている。



「みみみみっ! 拭いたです!! みっ!!」

「では、そちらの御仁! 乗り込んで頂けまするか!!」


 ラボメンたちが一瞬だけ体を強張らせた。


「おい。Nテェテェさんの車だぞ。鍵は?」

「私が知るはずなかろう。しかし、芽衣様がしょんぼりなさるぞ。どうにかせねば」



「みんなー。油圧カッター持って来たよー」


 スターレットのドアが開いた。

 理由は分からない。



「おお! すごい!! あんなに近距離で農薬を使ったのに!!」

「本当だ! 近距離で使ったというか、もうフロントガラスに向かって噴霧したのに!!」


「「視界くっきりです!!」」


 ダズモンガーくんが芽衣ちゃんに向かって豪快に笑いかける。


「ぐーっはははは! 芽衣殿! これではバルリテロリでもアイドルになってしまいまするな!!」

「みみっ。芽衣はアイドルに興味ないです。みっ」


 今は芽衣ちゃまのテンションを上げる時。

 そのためならば、偶像にだって担ぎ上げる。


 気持ちよくなってくれるなら何でも良いのだ。



「ぐああああああああああああああああああああああああああ!! わ、吾輩の冬毛に……!! ガムがぁぁぁぁぁぁ!! ぐああああああああああああああ!!」


 電脳ラボの職員が総出でガムを噛んでダズモンガーくんに付けました。



 説明タイガーがってしまったので、こちらで引き取ろう。

 髪の毛についたガム。

 こんなもの、犯人はまず処刑する事は確定しているので、今回は先に処刑を済ませたものとする。


 切るしかないとお思いのあなた。

 ちょっと待って。諦めないで。あなたのその髪の毛。


 ガーゼをコーラにたっぷりと浸して、それで軽くこすると。


「みみみみっ! ガムが取れるです!! ダズモンガーさんのモフモフが絡みついたガムでも取れるです! みみみみみみみみみっ!!」


 ガムが剝がれやすくなるのである


「……芽衣様は現世の探索員だったか?」

「ああ。探索員だ」


「我らは?」

「電脳ラボだ」


「探索員協会というものがあるらしい」

「……委託業務という形で我らを雇ってもらえないか、テレホマン様をメッセンジャーにしてお頼み申してみないか」


「それは……とても良いな……」

「バルリテロリで仕事がなくなっても、外貨が獲得できるしな」


「みみみみみみっ! もっとお役に立ちたいです! みっ!!」



「心が癒されるしな」

「ああ。とんでもない福利厚生だぞ。それはもう、現世の方々がお強いはずだ。我々は戦う前から負けていたのだ」


 後世に語り継がれる記録がたった今、成された。

 喜三太陛下記念館寄贈。『なぜバルリテロリは滅んだか』第2章・そこに天使がおったんや。104ページ2行目より抜粋。



 それからも「コーラで血痕が洗い落とせまするぞ!」とトラさんが吠えれば、数人のラボメンが出血し、「コーラは飲めばしゃっくりが止まりまするぞ!!」と再度の咆哮で、数人のラボメンが横隔膜を痙攣させるために急に息を止めたり、合唱コンクールの練習風景を再現したりした。


 その度に芽衣ちゃんは大活躍であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ほっほっほ。賑やかで良いですの」

「はっ。皇太子殿下。ご報告よろしいでしょうか」


「なんですかの?」

「はっ。煌気オーラ回復アイテムの量産が計算したところ、当初の予定よりも48分ほど遅れる見込みです。何人の首が御入用でしょうか」


「ほっほっほ。そんなもん誤差ですじゃわい。ワシの息子は、ちょっと1時間ほどパチンコ行ってくらあ!! と言って出て行ったら夜まで戻りませんからの」

「さすがは逆神家の皆様だ……!!」


 芽衣ちゃんの活躍によって、最終決戦の作戦、その中核を担う必須アイテムの製造が少しばかり遅れた。

 働きすぎな電脳ラボにもたらされた、みみみと鳴く優しい生き物の働き方改革である。


 おじ様が50分くらい余分に時間を稼ぐので、平気なのである。

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