第1251話 【本当に最後のはずの日常回・その4】瑠香にゃん、飛ぶ ~瑠香にゃんリモートに連れていかれるのは嫌なので率先して仕事をするメカ猫に迫るインタビュー回~

 跡見瑠香にゃん特務探索員。


 もうミステリアスな部分の大半が詳らかにされ、装備の競泳水着もどら猫マスターによって引っぺがされる事が増え、彼女も多くの表情を見せてくれるようになった。


 しかし、忘れてはいけない。

 瑠香にゃんはアトミルカ製のサイボーグであり、ミンスティラリアの魔技とデトモルトの科学力を結集して造られた、人型にゃんにゃん決戦兵器。


 こんな稀有な存在に密着しないなんて嘘である。


 気付けばバルリテロリ戦争を完走したのに、何故かミンスティラリアへ帰らせてもらえない。

 そんなメカ猫に我々はまだ教えてもらうべき事が多くある。


 インタビュー回は終わらない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ————瑠香にゃんの朝は早い。


 ………………………………?


 先に断定口調で瑠香にゃんは宣言します。

 ここは瑠香にゃんリモートではありません。

 バルリテロリの上空です。


 ————今は何をされているのでしょうか。


 ステータス『なんか話しかけられてる』を獲得。

 瑠香にゃんは0歳児なので、防犯ブザーを起動します。


 ————今は何をされているのでしょうか。


 ステータス『単騎で飛行中に絡まれたのが運の尽き』を獲得しました。

 現在、瑠香にゃんはバルリテロリにおいて物資運搬ミッションを遂行しています。


 アプリケーション、瑠香にゃんマップを起動。

 目的地、バルリテロリ居住区。バク地区の空域である事を確認。

 これより降下します。



 ————お供します。


 ステータス『誰か大人の人、助けて』を申請します。



「おお! 同期されてた水着のお姉ちゃんが来たぞ!!」

「無表情な水着のお姉さんだ!!」

「猫耳と尻尾はどこじゃ!!」


「いえ。瑠香にゃんは猫ではありません。したがって、猫耳も尻尾も未実装です。そしてこの装備は水着ではありません。瑠香にゃんアーマーです。保存食を運んでまいりました。代表者の方のサインを頂けますか」


 ————瑠香にゃんの宅急便。競泳水着の色。つまり、黒いネコですね。


 ステータス『商標権が襲い掛かって来る』を確認。

 至急、回避行動に移行します。


「私がこの辺りを纏めている。北野ポポポポンだ」

「………………………………? 瑠香にゃんデータベースと照合。西野、東野、南野のバルリテロリ逆神分家を確認。ステータス『出て来るタイミングを失った最後の分家』を確定させました。お名前には一切の言及をしません。サインをください。瑠香にゃん、次の配達に向かいます」


 ————他の北野家の方たちはいないのでしょうか。


「いるさ! みんな! こっちにおいで!!」

「………………………………? 瑠香にゃんには理解不能ですが。瑠香にゃんデータベースを参照したところ、この世界の意思とかいうヤツが悪事を働いている確率、99%を突破。瑠香にゃん、1%に賭けるような時間の無駄はしません。ステータス『こいつ瑠香にゃん以外にも干渉できたのか』を獲得。これは大事なのでおっぱいに格納します」


 ————瑠香にゃんのために皆さんが出て来ましたよ。


 瑠香にゃんは呼んでいません。

 けれど、無視して飛び去る事も出来ない人工知能が憎いです。

 これは多分、エンジェルマスターと御主人マスターの遺伝子です。


「ぼくはこんにちワン」

「わたしはありがとウサギ」

「ワシはさよなライオン」

「ワシはポンデライオン」



 ————楽しい仲間たちですね。


 色々と言いたい事はありますが、瑠香にゃんはツッコミ猫ではないので何も言いません。



 ————バク地区に物資を運んだ瑠香にゃん。次に彼女が向かう先は。


 普通にグランドマスターの元へ帰るだけです。

 いい加減に瑠香にゃんを解放してください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ! 瑠香にゃん、ちょうど呼ぼうと思ってたんだよ! おかえり!!」

「はい。グランドマスター。瑠香にゃん、戻りました。次のオーダーを伺います」



「ひいじいちゃんの煌気オーラがさ。なーんか頼りないんだよね。申し訳ないんだけど、ちょっとおっぱい搾ってあげてくれる?」

「ステータス『申し訳ないで済ませて良いライン超えてる』を確認。誰か助けてください」



 ————忙しそうなので、今回はこの辺りでお暇しましょう。


 瑠香にゃんは心の底からインタビュー回を愛しています。

 何でも答えるので、この危機的状況を打破する知恵をください。


 ————瑠香にゃんに命令するにはマスター権限が必要なのでは。


 ステータス『こいつ役立たずか』を獲得。

 ぽこますたぁがますたぁとして広く認知され過ぎているだけで、マスター権限の最上位がグランドマスターです。


 ————六駆くんに金の話をすれば良いのでは。


 瑠香にゃんは謎の声を見直しました。

 評価を大幅に上方修正します。


「グランドマスター。スマートフォンで現在の金相場が確認できることをご存じですか」

「えっ!? そんなことできるの!?」


「はい。できます。今ならこの瑠香にゃんアプリをインストールすると、リアルタイムでミニミニ瑠香にゃんがグランドマスターに金相場をお知らせする事も可能です。どうぞ。既にグランドマスターのスマートフォンに送りつけました」

「うわぁ! スーパーテレホマンの価値がリアルタイムで更新されてるぅ!! すごいや!!」


「……ステータス『好機』を確認。グランドマスター。オーダーを確認します」

「えっ!? あ! ああああ!! たった2秒で6000円も上がった!! ちょっとごめん! 瑠香にゃん! 今ね、僕、ちょっと忙しいから! なんだっけ!? まあ大したことじゃないよ! 忘れるくらいの事だから! しばらく休んでていいよ!! うひょー!!」


 ————瑠香にゃんさん。


 ………………………………。


 ————瑠香にゃんさん?


 ………………………………。



 瑠香にゃんに搭載されている動力炉。煌気オーラがフルチャージされると、おっぱいが少しだけ膨らみます。

 これで満足ですか。


 ————よく分かりませんが、ありがとうございます。



「みみみみみみみみっ!! 瑠香にゃんさんです! お仕事お疲れ様です! みっ!!」

「ハイパーアルティメットエンジェルマスター。ステータス『それは瑠香にゃんのセリフ』を獲得しました。のしを付けてお贈りします。エンジェルマスターは何をしているのですか」


「みみっ! 電脳ラボのお手伝いです!! 四郎おじいさんがよく分かんないアイテム作ってるです! 芽衣は子供だから分かんないです! けど、お手伝いはできるです! コーラ持って来たよをしてるです! みっ!!」

「………………………………? よく分かりませんが、エンジェルマスターにだけそのような労働を強いるのは天使保護法に反する可能性が89%を超えています。瑠香にゃんウイングを展開します。どうぞ、エンジェルマスター。この瑠香にゃん、1人乗りです」


 ————次の芽衣ちゃん回への橋渡しも完璧ですね。


 瑠香にゃんがすごいのではありません。

 木原芽衣Bランク探索員がすごいのです。


 探索員のランクはBが最上位だとはっきり分かるのです。


 ————行くんですね。


 はい。

 瑠香にゃんは高機動型瑠香にゃんとして、これから最優先任務を遂行します。


 2度と呼ばないでください。


 ————最後にチーム莉子のメンバーについて一言ずつお願いしたいのですが。



 瑠香にゃん、チーム莉子じゃないです。

 それ以上はありません。


 ————ありがとうございました。



「ハイパーアルティメットロマンティックエンジェルマスター。飛びます」

「みみみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 ————跡見瑠香にゃんの挑戦はこれからも続く。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 瑠香にゃんは白昼夢を振り払いながら芽衣ちゃんを背中に乗せて飛ぶ。

 最近はテレホマンがこれを多用しているが、瑠香にゃんウイングの方が初出は早い事を我々は忘れてはならない。


 バルリテロリのコーラは缶、瓶、ペットボトル各サイズと全てを網羅している。

 現在芽衣ちゃんが持って行く予定なのは瓶コーラ。


 瑠香にゃんウイングは現在1人乗り。

 瓶コーラは6ケース。


 とても重い。


「みみみみみみみみみみみみみみみみみみみっ! 速いです!! 瑠香にゃんさん、すごいです!! みみぃ!!」

「瑠香にゃんはグレートビッグエンジェルマスターにお褒めの言葉を賜りました。ちょっとウキウキで曲芸飛行してから向かいます」


 最近は人間らしさも板について来た瑠香にゃん。

 一部の人間よりもよほど人間らしくなり、芽衣ちゃんがはしゃぐ声を聴いて張り切ったのも当然の事。


 ここで張り切らなければ人間にはなれない。

 所詮はホイミン止まりである。


 瑠香にゃんはまた1つ、人として正しい階段を上った。

 コーラが凄まじい揺れに襲われていたが、そんなものは些細な事である。


 瑠香にゃんは0歳児。

 周りの大人が注意しない。それが全部悪いのだ。

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