第1250話 【本当に最後のはずの日常回・その3】椎名クララどら猫探索員、飲酒す ~ちょっといい加減にしてください、チーム莉子の人たち~

 椎名クララどら猫探索員。

 日常回でのみ輝きを放つ乙女と呼ばれたのも今や昔。


 最近では本編時空でも日常回と同じ立ち居振る舞いを始め、ついに明鏡止水の境地に到達した感のある乙女。

 ルベルバックの司令官室でだらしなく伸びていたのも今日の出来事。

 しかし、気付けばものすごく長い時間をチア衣装で過ごしている。


「これはこれで悪くないにゃー。スパッツの通気性バツグンだもんにゃー。やっぱ服なんか着心地10割だぞなー。オシャレなんか求める子は女子だにゃー。あたし、♀だもんにゃー」



 「探索員だってオシャレしないとね!」と言って、莉子ちゃん初装備の仕様書を一緒に考えてくれていた頃のパイセンはもういないのだ。

 人は変わる。



 そんな訳で、スパッツあるから脚開こうが、スカート捲れようがどうでも良い。

 パイセンは今、ソファでだるっとしている。

 現在地はバルリテロリ皇宮。


 皇宮は六駆くんとナグモさんのテンカウント・チャオによって半分くらいが焼失したが、日本本部は半壊どころでは済まない被害なのでここはノーサイド。

 それは置いておいて、どら猫はどこにいるのかと言えば。


「ぽこちゃん、いい食べっぷりだね!! ほら! 煮豆あるよ!!」

「スタイルいいねぇー! うちの皇帝陛下が見たら襲い掛かるよ! はい、地ビール!!」


「その格好が現世の女子の間ではナウなのかい? すごいねー。わたしゃ、現世なんか行けないよ」

「あたしらが現世に行く機会なんかないし、脚出す機会なんかももっとないよ!」



「うにゃー。おば様たちも全然イケるぞなー。イケイケだぞなー。あたしと一緒に脚とか肩とかおヘソとか出すにゃー。減らないから平気だにゃー」


 バルリテロリ食堂で飼われていた。



 既にバルリテロリでは「ぽこ」という呼称が定着しつつあり、これは昔のどら猫、今は地域猫が各家庭にお邪魔して「ご飯くださいにゃー」と鳴いた時にミケだったりタマだったりにゃぽーんだったり、呼ばれ方が全然違う現象。

 猫はご飯もらえたら何と呼ばれようが別に構わない。


 なんなら「おい。犬」と呼ばれても「にゃはー!」と鳴くのがこちらの色々デカいどら猫。

 バルリテロリ食堂で残ったおせち料理と地元の酒による癒しを得ていた。


「ぽこ様」

「オタマお姉さん来たぞなー! これであたしのセリフが減るにゃー!!」


 気付くとオタマさんがやって来た。

 この世界では味方判定を受けると敬称が付くようになって久しいのは諸君も知っての通り。


「はい。ぽこ様。ひ孫様より言伝を頼まれて参りました」

「にゃー」


「ルベルバックとスカレグラーナと南極海だったらどこに行きたいか、との事です」

「うにゃー」


 パイセンがソファの肘掛けに放り出していた右脚をスッと戻した。

 どんな格好でこれまで煮豆食べながらビールを飲んでいたのだろうか。

 はしたないとかそういうアレではなく、寝そべってもの食ったり飲んだりできるものなのか。


 むせそう。



「オタマさん、オタマさん。あたし思うんですにゃー。プライベートの時にお仕事の話するのって良くないにゃーって」

「はい。ぽこ様。左様です。しかし、ぽこ様。現在、最終作戦の準備期間中でございます。ぽこ様の戦いこそプライベートであるという常在戦場な御心、私も見習いたく存じますが。現在をプライベートと評されると下々の者たちはいささか語弊があると喚く恐れがあります」


 この猫、ついに作戦行動中にもかかわらず飲酒をキメた。



 ルベルバックでもやってただろと言われることなかれ。

 あの時も確かに作戦中だったが、同時に待機、休息中でもあった。


 戦時下において兵は極限状態に身を置かざるを得ない性質上、ストレスに苛まれ続けるもの。

 その緩和策として、接敵の可能性がかなり低い状態、あるいは最前線の兵が後方へと一時退いた場合などに飲酒を許可される事はある。


 しかしである。

 バルリテロリは最前線。


 人殺助と交戦中のゴリ門クソさんと川端卿を最前線とするならば、準最前線になるが、とにもかくにも何かあればすぐに動けなければならない部署なのは間違いない。


「やー。働きすぎたにゃー。あたし、このまま泥酔する構えだぞなー。酔っ払いを戦線に投入するのは指揮官の采配だぞな? で、その酔っ払いがミスしたら指揮官の采配ミスだぞな? つまり、指揮官の責任だにゃー。あたしだったら責任は無駄に背負いたくないにゃー。ただでさえおっぱい重いのににゃー。つまり! 役立たずは駆り出されにゃい!! あたしは気付いてしまったのですにゃー!!」


 パイセン、ほんのり分析スキルで小賢しさが増す。

 しかも指揮官の立場からすると割と厄介な事を始めていた。


 シュゴゴゴゴゴと音を立てて、メカっぽい何かが接近して来る。

 これを瑠香にゃんと断定できなくなったのは、今や日本探索員協会・バルリテロリ支部長みたいになっているテレホマン・飛行ユニットのせいである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぽこますたぁを捕捉。これより攻撃態勢に移行します」


 瑠香にゃんでした。


「にゃはー! ヤメるんだにゃー! 瑠香にゃん!! にゃっふっふー! これで瑠香にゃんは止まるってあたし知っとるんだぞな!! ますたぁ権限で今日も酒がうまうまにゃー!!」


 ドサッと音がした。

 瑠香にゃんの兵装が放たれたとしたのならば、こんなにもっさりした音はしないはずである。


 むしろ、音を聞く前にこの世から消失している。


「瑠香にゃん、瑠香にゃん。よそ様の国の食堂でゴミ投げたらダメだにゃー」

「ぽこにお届け物です。依頼主『バルリテロリ皇帝』、瑠香にゃんのステータス『やってらんねぇ』を確立済み。おっぱいに格納します。ぽこはそっちをご査収ください」


 パイセンが「にゃんだろにゃー」と布っぽいものを手に取って広げると、それは装備だった。


「バルリテロリ皇帝がクソステータス『ぽこちゃんのために作ったんや』を付与して来ました。構築スキルです。そしてそのスキルの元になっている煌気オーラは瑠香にゃんのおっぱいから抽出されたものです。ステータス『クソ腹立つ』を獲得。アプリケーション『マジでもうミンスティラリア帰る』の実行シークエンスに移行しても良いですか」


 パイセンがビールを飲み干してジョッキをテーブルに置いた。

 そして真剣な瞳でそれを見つめて、まだ隣にいてくれたオタマさんに確認する。


「うにゃー。オタマお姉さん? これはなんですかにゃー?」

「はい。ぽこ様。マイクロビキニです」


「うにゃにゃー。あたしの質問が悪かったですにゃー。これをあたしは渡されて、どうしたら良いんですかにゃー?」

「はい。ぽこ様。マイクロビキニとは、一般的観点から申し上げますと衣服に分類されます」


「うにゃー。着るんですかにゃー?」

「はい。ぽこ様。私は貴女を心から尊敬いたします」


 パイセンが立ち上がった。

 続けて言った。


「さーて! 腹ごしらえも済んだし! 適度なアルコール摂取でストレスも緩和されたぞなー!! 瑠香にゃん、瑠香にゃん! お仕事に行くぞなー!」

「端的モード。ぽこ。着ろ。瑠香にゃんの貴重な煌気オーラで創られた紐みたいなヤツ。もったいないから、着てください」



「冗談じゃないにゃー!!」

「ぽこは家にいる時の9割がこんな感じだと瑠香にゃんデータベースに登録されています」


 パイセンだって服くらい着ていますとフォローをしておきます。



「知っとるはずだにゃー! 瑠香にゃん! 別にこんなもん着てるだけで何もしなくて良いならあたしは着るぞな!? でも! これ着る事によって、一気にあたしの危険指数がチーム莉子の中でもトップクラスになるの!! 知っとるはずだにゃー!! たかが脂肪の塊大好きニキがこの世界には多すぎるんだにゃー!!」

「お言葉ですが、ぽこますたぁ。ぽこのプレイしているソシャゲのキャラもだいたい大きな脂肪の塊が2つ付いていて、ぽこはそのたかがデータのためにガチャが更新される度10万円課金しています」


「…………瑠香にゃん。今のそれが論破ってヤツだにゃ。覚えといて欲しいぞな」

「ぽこのオーダーを受諾。瑠香にゃん、論破を習得しました。端的モード。ぽこ。その紐ビキニ、着ろ」


 パイセンが念のためにオタマさんに聞いた。

 彼女は賢い猫。念のためが功を奏す確率だって知っている。



「オタマお姉さん」

「はい。ぽこ様。陛下はビキニがお好きです。ですが、サンバの衣装もお好きです。恐らく、そう時間が経たないうちにサンバカーニバル装備が届くかと思います」


 パイセンが「はいはいにゃー」とだけ鳴いた。



 バルリテロリのおせち料理と地ビールよ、少しの間だけさらば。

 どら猫は旅に出る。


 旅から旅へ。

 マタタビである。

 歌丸師匠が言ってた。


 これは猫に生まれた以上避けられぬ習性。

 マタタビを克服した時、どら猫のキャンパスライフにちじょうかいが再開されるのである。


 次はきっと、大学生クララパイセンとして諸君の前に現れるはずである。

 その時こそ、真の日常猫をご覧になってください。

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