第18章

第1248話 【本当に最後のはずの日常回・その1】逆神六駆の孤独のグルメ ~戦いのインターバルとしては至極正しい日常の過ごし方~

 【ご注意ください】


 真の最後の最終決戦(難しい日本語)が始まる直前ですが、日常回がしばらく差し込まれます。

 前章の日常回からはだいたい1時間と少し経っております。

 じゃあ実質ほとんど時間が過ぎていません。


 普通にメタ世界に飛んだりします。アレがナニする展開も多くなります。


 もうベテラン探索員の皆様はこれが最後だからとお付き合いくださる事、ついに断定しておりますが、万が一こんな訳の分からん時空にいられるかという常識をまだ持っていらっしゃる場合はお手数ですが日常回時空を飛び越えて、その先から再突入して頂ければ幸いです。


 ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神六駆。

 ついにバルリテロリ皇帝、曾祖父の逆神喜三太を打ち倒した、厳密には嫁が打ち倒すのを傍で見ていた最強の男。


 ただ、なんか急に逆神人殺助とかいう字面で笑わせに来ている特異モンスターが出現し、こいつさえぶち殺せば本当の意味でハッピーエンド、そしてその先へと向かえるところまで最強の座は譲らずにやって来た。


 最強とは何か。


 その身に建御名方神たけみなかたを宿している戦いの申し子であり、心に不必要なものは極力入れないドモホルンリンクル方式のドライなハートを保持し、臨機応変に元敵だろうが大嫌いな身内だろうが目的のためならば私情を捨てて再利用する強メンタル。

 確かにどれも最強の名に相応しい素養であり、何が欠けても逆神六駆は逆神六駆たり得ないであろう。


 だが、彼が最強であり続けるのは、常に最善を尽くすから。


 隠居するのだ。

 家族と一緒に、働かなくても良い時間を1日でも長く。

 面白おかしく毎日を暮らして、じじいになったら穏やかに死ぬ。


 そのためには、今を全力で生きる。


「ひ孫様! 宸襟を騒がせ奉り恐縮でございますが!! 御食事をお持ち致しましてございます! 皇宮の食堂が奇跡的に健在でありました由にて! 食堂のおばちゃんたちが今お出しできる最高の料理をこちらに!!」


 もう誰の忠臣なのかちょっと怪しくなって来たテレホマンが六駆くんの前に跪いた。

 四角い忠義心はどこへ向かうのか。


「うわぁ! 助かります! やっぱりご飯食べとかないとね! メンタル、メンタルってずっと口うるさく言ってますけど! 体あってのメンタルですから!! コンディション整えとかないと!!」

「はっ。さすがはひ孫様。仰ること、いちいち御尤も。まずはこちら、というか全て! おせち料理の残りでございます!!」


 お忘れかもしれないので何度でも、定期的に申し上げよう。



 この世界は今、1月8日である。



 おせち料理と言えば、恐ろしいほど日持ちするものと爆速で鮮度が落ちるものの融合体。

 例えば鯛や海老などの焼き物や紅白カマボコなどは足が速いので奪い合うように食すべきであるし、伊達巻や栗きんとんに至っては元旦でも保管ミスると傷む。

 そんな三が日の間でもお腹壊す可能性すら秘めているメンバーがいる一方で、凄まじい日持ち力を秘めているメンバーもいる。


 黒豆、煮しめ。

 彼らは三が日どころかお年玉付き年賀はがきの発表日、つまり1月中頃になってもまだお重箱に鎮座している。

 何ならお母さんがお重箱を片付けてしまって、小さい皿に移籍させられているパターンまである。

 田作り、ごぼう系、なます、酢の物なども同様に、気付いたらまだそこにいる戦士たち。


 こうなる運命なのか、それとも理由があるのか。

 一説には「日持ちする事実が周知徹底され過ぎているため積極的に手を出されない」とも、「単純に子供が食わねぇから残る」とも、「今の若い親世代も食わねぇからやっぱり残る」とも言われている。


「うわぁ! これに白いご飯があれば完璧ですよ! 最高ですね! バルリテロリのご飯って! うちね、クソ親父が酒飲みながら食べちゃうんですよ。酢の物とか。うわぁ! このたたきごぼう、美味しい!!」


 六駆くんは好き嫌いがない。

 たまに胃腸を殺される事はあれど、嫌いな食べ物という概念がない。

 ホルモンなどの脂ぎったものは少し敬遠するが、でも食べちゃう。


 29年間ほどずっと戦いオンリーサバイバルをキメて来たのだ。


 莉子ちゃんがムチムチしていた頃には彼ぴっぴダイエットと称して「レタスだけで過ごそう! 大丈夫! 僕も付き合うから! あ! ドレッシングはダメだよ! お塩はセーフ!!」と、令和のご時世、坊さんだってそんな節制しないという提案をして嫁の瞳から光を消した。



「なになになに!? 美味しいって聞こえたー!! 六駆くん、何食べてるの!? わたしも一緒に食べていい!?」


 噂をすれば影が差す。

 こちらがレタスダイエットで精神崩壊しかけた、六駆くんの嫁。



「莉子! もちろん、一緒に食べよう! これとか美味しいよ!! たたきごぼう!」

「あ。大丈夫。うん。六駆くんが全部食べていいよ」


 ちなみに嫁は戦時下で捕虜に対してこっちも食糧不足だってのに手間のかかるきんぴらごぼうを食わせてやったら、戦後に「木の根っこ食わされた」と裁判起こしちゃうタイプ。


「じゃあこっちは? 田作り!! これもご飯が進むの!!」

「ふぇぇ……。なにそれ……」


「えっ? なんか美味しいヤツ!!」

「虫みたいだよ?」



 イワシの幼魚である。

 こんな舐めた事を親戚の集まりで言うと、お年玉取得率が下がる。



「美味しいってば! ほら! 食べさせてあげるよ!」

「ふぇぇ……。大丈夫………………………………ふぁぁ!? あーん!? あーんだ!? あーんしてくれるの!? 六駆くんが!? それもうキスだよ!?」


 傍に控えているテレホマンが忠言申し上げる。


「莉子様。キスではなく、イワシでございます」

「テレホマンさん! ちょっと黙ってて!!」


「は? ……ははっ!! 差し出口をお許しくださいませ!!」


 テレホマンが六駆くんの近習からちょっと遠のいた瞬間であった。


 莉子ちゃんは六駆くんのお箸からのあーんの際にねぶり箸をキメる気満々。

 こんなもん間接キッスである。


 ちなみにお箸のマナーの中でもねぶり箸は年配の方から特に評判が悪く、結納などの際にレロレロレロレロとやろうものなら「ちょっと一旦、持ち帰りましょう」と破談まで見えて来る禁忌のプレイ。


「ふぇぇぇぇぇぇ……。虫さん食べる……でも、間接キッス……!!」


 イワシです。


「あ。ごめん、全部食べちゃった!」

「……そっか。……ううん。……いいの。……これで良かったんだと思う」


 戦う男は戦う前に大盛の白ご飯。

 六駆くんはこの戦争で、特に後半は大福だったりベビースターラーメンだったりと炭水化物を摂取できていない。


 これはいけない。

 白米食わなきゃ戦争なんかやってられねぇのに、よくぞここまで戦い抜いたものである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ひ孫様。食堂より新しいメニューが届きましてございます」

「うわぁ! 何も言わなくてもご飯が出て来る! ひいじいちゃんを追い出して僕がこっちに住もうかな!!」



「えっ!? 嘘やろ!? ワシの皇国ぅ!!」


 喜三太陛下はいぼくしゃに日常回などないので、発言しても拾ってもらえない。



 新しいおかずが来た。

 六駆くんにはテレホマンがピンチの時にリリーフ登板して欲しいランキング30年連続1位のバタコさんに見えている事だろう。


「莉子、莉子! 今度はちゃんとしたヤツが来たよ! はい! 先に味見させてあげる! 味が濃いから莉子の好みだと思うんだよね!」

「ふぁぁぁぁ!! なになに、なぁぁぁぁぁにぃ……。………………………………虫じゃん!!」


「イナゴの佃煮でございます。莉子様」

「あ! 虫だ! あはははは!! 美味しいのに!!」


 六駆くんは初期ロットのベジータさんがどこかの惑星で原住民の腕食ってたくらいに雑食。

 ただしお腹を壊す事があるというだけで、飯食う前から腹壊すこと考えてるバカいるかよがモットー。


「ひ孫様。また届きました」

「えっ!? ここってもしかして、僕が探し求めていた隠居先なのかもしれない!!」


 嫁を誘っても付き合わないので孤独のモグモグタイムな六駆くん。

 オカズなんて何か味がすれば良いのである。


「莉子!」

「もぉぉぉ! また変なのでしょ!!」


 文句を言って頬っぺた膨らませても旦那とイチャイチャしたいので傍からは離れない莉子氏。

 そしてねぶり箸をしたい。


「カブの酢の物! これが美味しいんだよ! 佃煮と合うし!」

「……ぁ。大丈夫。わたし、あっちでひいおじいちゃんからハンバーガー奪って来るね。ピクルスは食べさせて来るね」


 それから六駆くんはテレホマンとバルリテロリグルメについて語り合いながら栄養補給を済ませた。

 バルリテロリの食文化は令和と同期したとはいえ、基本は未だ平成初期くらい。


 おじさんの口にはジャストフィットする年代である。


「莉子はなんで食べないんだろ? あっ。またダイエットしてるのかな……。テレホマンさん。何か莉子が好きそうなもの、出してあげてもらえませんか?」

「は? ……ははっ。御随意に。しかしひ孫様。莉子様はお痩せになっておられた方がひ孫様としてはよろしいのでは?」



「えっ!? 僕、別に莉子を外見で好きになった訳じゃないですから! お腹空かせて癇癪起こされると怖いし! それにちょっとコロコロしてるくらいの方が可愛いですよね!?」


 テレホマンは思った。

 「ひ孫様は私が何と答えてもバラバラにされるであろう質問をしてこられる頻度が陛下のそれをはるかに凌駕しておられる。アルカリ電池食べたい」と。



 やはり最強の男の隣には最強の嫁が似合う。

 テレホマンが六駆くんの傍から立ち上がり、食堂へと飛行ユニット・防塵モードで飛んで行った。


 恐らく莉子ちゃん回もなんか食ってる。

 そんな予感にも似た運命と言う名のディスティニー。

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