第1243話 【最終決戦の後に始まる真の最終決戦】だって仕方がないじゃないですか。これじゃ子供作れないんだから。嫁が怖いし。~初代、復活の時~

 ちょっと喜三太陛下記念館に視線を移していたほんのわずかな間に、最終決戦跡地では莉子ちゃんが瞳を燃え上がらせながら作戦立案の指揮を執っていた。


「ひいおじいちゃんはひいひいおじいちゃんの……もぉ! ややこしいよぉ!! 殺助ころすけ!! 殺助さんの場所が分かるんですよね!?」

「ぶーっははははははは! 頭悪いなぁ! ロリ子ぉ!! ワシ、言うたやんけ!! 人殺助ひところすけにぶち殺されてバルリテロリで転生失敗したんやって! そんなんお前、ワシ、転移スキルのスペシャリストやで? ひ孫みたいに門出すとか、わざわざワンクッション置かんでも直接転移だろうと、対象をどっかに転移させる事だろうと? 余裕に決まっとるやろ! あったま悪いなぁ! このロリ子ぉ!! なぁ! テレホマン!!」


 テレホマンが跪いた。



 六駆くんに向かって。



「ひ孫様。宸襟を騒がせ奉る事どうか御許しくださいませ……。陛下の時間をいささか御戻し過ぎておられるのではないかと私は愚考している由にございます。莉子様にリコリコされた記憶が消えておられますれば納得の陛下の危機意識の低さを。どうかこのテレホマンの首でお収め頂けないでしょうか……! 何卒……!!」


 喜三太陛下、我々が記念館の方へ行っている数分の間にどうやら莉子ちゃんにリコられたご様子であらせられる。

 残機が1になっても六駆くんが時間を巻き戻すので、転生できるのかどうかすら分からない陛下はもうその2分の1ギャンブルパワーアップイベントの機会が来ない。


「あ。僕は全然平気ですよ?」

「はっ。ははっ! こちらをどうぞ! スーパーテレホマン・ビッグボディでございます!!」


「う、うわああああ!! テレホマンさん! 僕と一緒に現世で暮らしませんか!?」


 六駆くんがテレホマンをNTRしそう。


「六駆くん! テレホマンさんも! ちゃんとお話聞いて!! 作戦会議なんだよ!!」

「あ。ごめんなさい」

「この首ひとつでどうか御許しくださいませ……」


 ここまでのおさらい。


 逆神家の崇高な使命(笑)を産み出したのは、逆神家2代目。

 逆神次郎三郎仁右衛門。

 しかし次郎三郎仁右衛門はその能力を産み出す過程、あるいは直後で死亡しており、もはや解除する方法も分からなければ解除できる人間もいないかと思われる。


 六駆くんにタイムスリップさせれば良いやろと考える者は諸君の中にいないだろう。

 逆神六駆という男。


 自分を時間遡行させるなんてリスキーな事をするだろうか。

 絶対にやらない。


 戻れなくなったら嫌なのである。

 しかも目の前に転生失敗の肉眼で確認できる見本がいる。


 万が一にも時空を遡って現代に戻れなくなったら、多分六駆くんはヤケクソになって暴れるだろう。

 するとどうなるか。


「にゃはー! 多分、人類が絶滅した世界線デキちゃうにゃー!!」

「………………………………? ぽこが時々、誰に対して鳴いているのか瑠香にゃんには分からなくなることがあります。ステータス『ぽこはやっぱり猫』を獲得。いらないのでバルリテロリに植えます」


 とりあえず、六駆くんが逆神人殺助を暗躍する前にぶち殺すという、バック・トゥ・ザ・フューチャーはダメ。

 よって、現状のままだと逆神六駆の子孫にこの崇高な使命(糞)が継承される。


「逆神くん。一応確認なんだけどね? 君たちの異世界転生周回者リピーターって心が折れたら終わるんでしょう? 君の子供の心は最初から折れてたりしないの?」

「南雲さん……!」


 六駆くんが大きく頷いた。



「自分の子供が17歳になる前に心を折れって言うんですか!? もうそれ、虐待とかいうレベルじゃないですよ!? 人のやる事とは思えないなぁ!!」

「違うんだよ!? 私、そういうつもりで言ったんじゃなくてね!? なんか上手いこと能力消せないのかなって! あ゛。サーベイランス飛んでる。やぁぁぁまぁぁぁぁねぇぇぇぇ! なに撮ってるんだよぉぉぉぉ!!」


 南雲さんにしては珍しい、非人道的な言葉が出てしまいました。

 悪魔と誹りを受け続けていた六駆くんが人道的な訂正をしたのでご安心ください。



 つまり、この崇高な使命(ワロス)を次代に継承しない方法として六駆くんたちが取り得る手段は2つ。

 1つは「子供を作らない」事である。


 多様化の現代社会であるからして、結婚したからと言って必ず子供を作らないとならない道理はない。

 ふざけんな少子化進むやんけと言われることなかれ。

 ちゃんと税金を払う用意が六駆くんにはある。


 法も無法もぶち壊す最強の男だが、自分の父親という唾棄すべき存在が反面教師という言葉の意味をそれだけで分かりやすく、解説すらいらないレベルで体現しているため、税金をはじめ社会通念上の国民の義務は呼ばれてなくてもふるさと納税するくらいにリテラシーが高まっている。



「子供、作る。ぜったい。作る。子供。わたし」


 嫁さんの意見がこれなので、1つ目の方法は忘れて頂きたい。



 そうなると、必然的にやる事は決まる。

 決まってしまう。


 崇高な使命(ジーザス)は「異世界を拠点に大量虐殺しちゃうぞ」と本当にクソみたいな、これまでの敵対組織はそれぞれ「愛する女性のために世界と戦った」を筆頭に「平等を謳った穿った選民思想ながら、世界平和のため」と続き、「子供のお迎え来ねぇからむしゃくしゃして現世侵攻した」とグレードダウンし続けて来たが、「ただ人殺したい」というもうクソの中のお排泄物な理由で存在しているらしき男の蛮行を阻止するべく次郎三郎仁右衛門が産み出したもの。


 殺してしまえば多分だが、崇高な使命(クソったれ)は解除される。

 喜三太陛下が転生失敗している事も人殺助にぶち殺された事が起因していると推察される以上、元凶に何かしらアクションをキメれば殺ろうが殺られようが、リアクションがあるのは必定。


 というか、もうこれを必定にしないと逆神夫婦に子供ができない。


「子供たちでバレーボール部作るんだもん!! 部内で試合するんだもんっ!!」

「みみみみみみみっ。12人……みっ。芽衣、子供だから分かんないです!!」


 莉子ちゃんは自分の子供たちで干支をコンプリートする気満々。

 ぜってぇに許せねぇ。


 血なんか見ようものなら卒倒するし、虫を見つけたらやっぱり卒倒するような深窓の令嬢もかくや。

 穢れなき魂のピュアドレスちゃんに選ばれしメインヒロインだって。



「殺助さんを殺すよ! 六駆くん!!」

「えっ!? あ、うん。そうなんだ! 分かった!!」


 今回はぶち殺すことに躊躇なし。



 そもそも、江戸時代に生まれて明治時代に殺人事件起こしてるようなヤツが、まだどっかの異世界で生きているのである。

 人殺しなんかしたくないし、メインヒロインには絶対にさせちゃならねぇ所業。


 しかし待って欲しい。


 それは本当に人だろうか。

 百何十歳、人の形をした、オマケに異常癖を保持している逆神の名を冠しているが血の繋がりすらない存在。


 それって人なのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲さんが動いた。


「まあ、事情を知ってしまったからにはね。逆神くんたちに何度現世を救ってもらったかって考えると。お金でご機嫌取るだけっていうのは人としてどうかと思うし。なんか私、気付いたら日本本部の全権を持ってるし。……よし。日本本部は逆神人殺助氏をと認定。これより、探索員憲章に則り、現世に害なすモンスターは掃討すべしの理念に従い、氏の駆除を任務として認める事とする!」


 恐らくこの世界で最も南雲さんが輝いた瞬間である。

 自身の責任問題は必ずやって来るのに、それでも長きにわたり公私ともに救ってくれた六駆くんを公人として、何より私人として救うべく、1度きりの公私混同、越権行為をキメる。


「我らバルリテロリもできる事をお手伝いさせて頂きます」

「あ! じゃあテレホマンさん! ここにひいひいひいじいちゃん転移させて良いですよね!? ここで戦います!」



「えっ!?」

「………………………………………………………………」


 長い沈黙をキメたのは南雲さんです。



 喜三太陛下も動かれる。


「ぶーっはははははは!! ワシがお前たちに手を貸してやることになるとはな!! まあええやろ! ワシも爺さんには腹立っとるんや!! ここはいっちょ共闘と行くかぁ! なぁ! ひ孫とロリ子!!」


 莉子ちゃんがアイコンタクトで六駆くんをロックオン。

 アイコンタクトとは目で行う意思疎通だと思われがちだが、愛によるコネクトによる心によるラブ疎通であることはあまり知られていない。


「ひいじいちゃん」

「なんや! やっとワシを敬う気になったんか!!」


「今度は殺さないようにするからね! はい! 莉子! いいよ!!」

「おいぃぃぃぃ!? なんでワシを羽交い絞めにするんや!? あれ!? なんか煌気オーラがあんまり出んな!? なんでや、これ!! あ゛」


 苺色の光が一瞬だけピカピカして、すぐに止んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「では、ね。ワシがこれから、爺さんの煌気オーラは覚えとるんで。ね。引きこもっとる異世界から転移スキルで引きずり出すんで。ね。あとは若いもんで。ね。ワシ、17歳やけど年寄りやんな。ね。ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『ワシはもう戦いたくないんやファイナルファンタジー』!!」


 喜三太陛下、究極転移スキルを発現。

 これはきっとこの世界が巻きに入っている。


 何度か場面転換したら人殺助とかいう名前だけの出オチ野郎なんか描写もなく死んでいるパターンだ。


「……で? ひいじいちゃん? どこに出したの? 来ないじゃん。あ。人殺助は煌気オーラ消せるタイプなの?」

「いや。爺さんのおる異世界から1番近いダンジョンに出したで? ワシ、現世に一斉侵攻仕掛けた時もダンジョン利用したやろ? 煌気オーラ力場がちょうどええんや」


「ん? じゃあ現世に出したの?」

「そらそうやろ。バルリテロリにダンジョンなんかないんやから」



「ですって! 南雲さん!!」

「私言ってない!! 現世にそんな危険な特異モンスターを解き放って良いなんて!! 言ってないよ!?」



 サーベイランスから山根くんの声が聞こえた。


『南雲さん。アメリカ探索員協会から入電っす。あっちは今、早朝っすね』


 やったか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る