第1241話 【最終決戦、その後で・その2】ついに判明した、崇高なる使命のすべて ~初代と2代目の名前もあるよ~

 逆神喜三太の語る。

 逆神家が代々受け継いで来た、崇高な使命(笑)の秘密。


「おい! 記録係は誰がやるんや!!」

「えっ!? ひいじいちゃんの与太話を記録するの!?」


「南雲総司令官殿。こちら、我らが扱っております『テレホーダイ』なる通信および記録用のメカでございますれば。どうぞ。ご利用くださいませ。機能に不安がございます場合、あるいは爆発物などの嫌疑がございましたらば、小官、このテレホマンが1つランダムに食してご覧にいれますが。いかがされますか?」


 南雲さんは思った。

 「あ。すごいな、この人。結構前から負けた時の事を考えてたんだ」と。

 これまで敵対して来た組織の誰よりも早い敗戦処理、しかも完璧な采配にうっとりして「そりゃ苦戦するよね。負ける前提で善戦しようと考えてるんだから。自滅覚悟の勝ち点3狙いじゃなくて、あって引き分けに命かけてるんだもん」と、バルリテロリが凄まじく食い下がって来た理由も把握した。


 そのため穏やかな口調でその申し出を断る総司令官殿。


「いえ。それには及びません。なんだかテレホーダイって響きが私の青春を思い起こさせてくれますし。……母に怒られたなぁ。そちら、お借りします。我々のサーベイランスだけでは公正さにも欠けますし」

「……ありがたきご配慮。痛み入ります」


「ところで、テレホマンさん」

「はっ」



「メカ、お食べになられるんですか!?」

「は? ははっ。割と好んで食べます。単四アルカリ電池が最も美味です」


 バルリテロリの人は人なのだろうかと南雲さんの中にうっかり選民思想が生まれそうになったが、どうにか理性と良識でそれを振り払った。



 喜三太陛下の真上にサーベイランス。

 隣には『テレホーダイ・アイキャンドゥーノットエニシング』が設置され、それぞれ稼働開始する。


 陛下を取り囲むのは六駆くん、莉子ちゃん、南雲さん。

 場合によっては適切な計算と情報の精査が必要になるため、瑠香にゃん。

 場合によっては、場合によらなくても恐らく必要になる合いの手のため、クララパイセン。


 バルリテロリ側の合いの手要員はテレホマン。

 見学者にオタマ、六宇ちゃんとオールスターの布陣。


 パッと見たら17歳の少年が寄ってたかってカツアゲされているみたいな絵面ができあがった。


「陛下。どうぞ」

「テレホマン? 今、テレホマンってどっちサイドなんや?」


「陛下。私の心は常に陛下と共にございますれば」

「テレホマン……!! それぇ! 心が寄り添っとるから体は離れるでって前置きやんけ!! 知っとるんやぞ!! ワシもよく行きずりのチャンネーにピロートークで囁いとるから!!」


 六駆くんが無言で煌気オーラを右手に集約し始めて、莉子ちゃんもピュアドレスの胸部に虚無、失礼、無属性の煌気オーラがチャージされ始めた。


「あ。話します」


 喜三太陛下の昔語り、そして逆神家の秘密とは。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ワシの親父。つまりひ孫の高祖父やな。名前を逆神次郎三郎仁右衛門じろうさぶろうにえもんという。次郎三郎仁右衛門はスキルを現世で初めて発現した男として」

「あ。ごめん。ひいじいちゃん」


「なんや!? まだ話のさわりにも入ってへんのに!!」

「やっぱり。じゃあね、ひいひいじいちゃんの話はいいや!」



「お前ぇぇ!? 自分の高祖父の話やぞ!?」

「えっ!? さすがにその人、死んでるでしょ!? 興味ないよ!!」


 顔も知らねぇヤツの法事は大嫌い。逆神六駆である。

 陛下、巻きでお願いいたします。



 喜三太陛下が「絶対にひ孫の子育てミスっとるで。ワシの孫だいご」とズバピタで予想を当てながら「ほんならな。高祖父がスキル使いとして初めて認められたって事だけ覚えとけよ!!」と仰せになってから続ける。


「次郎三郎仁右衛門の先代。こいつが悪いヤツなんや。生まれは幕末でな。スキルの素養に目覚めて、なんか知らんけど明治頃にテロとか起こしまくっとったらしい」

「ひいじいちゃんタイプじゃん」


 明治維新後は社会情勢が安定したとされがちだが、士農工商の身分制度が撤廃されたり特権階級の者がゴリっと減ったりで割とテロリズムが横行していたという記録も残っている。

 大正時代に入るとデモクラシーでまたなんやかんやあるので、治安という面では平成から令和にかけて恵まれていると現時点では言えるだろう。


 50年後は分からない。


「逆神家の初代。こいつは始祖のスキル使い。ある時、転移スキルを習得してやな。異世界を拠点にする。そっから大事やで? 気分で異世界から出て来て、いきなりスキル使って暴れるんやから」

「ひいじいちゃんタイプじゃん」


「それでやな。初代のやった次郎三郎仁右衛門が、こらいかんと思ってな? まず初代をどこかの人がおらん異世界にすっ飛ばしてそこから出られんように封印した。異世界に蓋するイメージや。殺せんかったらしい。ほんでな、残った煌気オーラの大半を使って逆神家に一族の縛りを創ったんや。構築スキルの超凄いヤツと思ってくれたらええで。目的はもちろん、初代が潜んどる異世界を見つけ出して始末するためや。それが逆神家の崇高な使命として、異世界転生して転生先を平定するものと決められたんやな。違うとこに転生して、あ、違いましたさよならーじゃ失礼やろって事で」

「うわぁ! すごい迷惑!! 自分の代で出来ない事を次代に投げるとか!! うわぁ!!」



「おいぃぃ! ひ孫がうるさいんやが!! 止めろよ! 白衣のおっさんとか! ロリ子とか!!」

「えっ!? あ。すみません。今日はホントに逆神くんと意見が合うなぁと」

「こくこくこくこく……。ぷはー。ぁ。ごめんなさい。バルリテロリのコーラって味が濃いなって思ってました」


 人んちの先祖の話とか、興味のレベルで言えばこんなもんである。



 ここで喜三太陛下が大事なことを大きな声で仰せになられた。


「ワシら逆神家の崇高な使命は! 受け継がれるんや!!」

「えっ!? ちょっと待って、ひいじいちゃん。まだ生きてんの? 初代とか言う人。ひいひいじいちゃんは死んでるのに?」


「ぶーっははははは! やっと驚きおったわ! そうやで! まだどこかの異世界で生きとる!! というか、ワシ! バルリテロリに転生する前の異世界が初代の住んどる異世界やった! それで普通に殺された!! あれ!? ってもしかしてこれか!!」


 色々と情報が錯そうしているため、こちらで纏める。


 喜三太陛下がバルリテロリに転生して来る前の異世界では、逆神家初代が「この世界から出られぬ!!」とやりたい放題していた。

 陛下はぶち殺されて転生したため、「異世界を平定する」という縛りから転げ落ちた結果、ちゃんと現世に戻れなくなった。


 あと、崇高な使命(笑)が六駆くんの代でも発動しているため、初代は生きている。


「莉子」

「ほえ?」



「僕たち、子供作れないね」

「……ぷぇ?」


 2リットルボトルのコーラがゴトッと莉子ちゃんの手からバルリテロリの大地に転げ落ちた。



「な、ななななな、なんでぇ!?」

「だって。僕たちの子供にもこの訳の分かんない縛りが受け継がれるの確定してるもん。かわいそうじゃない? あと、僕は自分の子供をトラックで轢くの、嫌だな!!」


 莉子ちゃんのピュアドレスがどす黒く光り始めた。


「にゃはー。延長戦の気配だぞなー」

「瑠香にゃんシールドを展開します」


 莉子ちゃんが言う。


「そのひいひいひいおじいちゃん! どこにいるのか分かってるんですよね!? ひいいおじいちゃんは!!」

「もちろんやで! あとなんか怖いな! ロリ子!!」


 莉子ちゃんに戦う理由ができてしまった。


 子供。


 作りたい。


 たくさん。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲さんが話の腰を折る事を謝罪してから喜三太陛下に質問する。


「あの。初代という呼称はいささか良くないかと。私どもの都合で申し訳ないのですが、これも記録にしなければならないので。今のままだと逆神家初代と記載される事になるんですよ。逆神くんたちにはお世話になっているので、できれば逆神の名を出したくないなと。お名前はないのですか?」


 南雲さんは逆神家被害者の会名誉会長。

 だが、逆神家に助けられた会の会長でもある。


 もうこの報告書を製作する段階で一体何回の逆神というワードを連呼しなければならないのか。

 しのびないし、面倒くさい。


「ぶーっはははははは!! 良かろう!! 教えてやろう!! 逆神家の初代! 厳密には血ぃ繋がっとらんけどな! ワシらとは!!」

「うわぁ! 赤の他人のせいで崇高な使命とかさせられてたんだ! 僕たち!!」


 逆神家初代。

 その名は。



「逆神! 人殺助ひところすけや!!」


 逆神人殺助ひところすけ

 ふざけていません。



 六駆くんが煌気オーラ手刀を発現させた。

 続けてにっこりと微笑んでから言う。


「ひいじいちゃん? 切腹しよっか? この空気でふざけるのは良くないってことくらい、僕にも分かるよ」

「いや、ホントなんや!! 逆神人殺助!! これがワシら逆神家の敵の名やで!? ちゃんと1が入っとるやんか! って!! なぁ!?」



「そんな名前の人がいるわけないでしょ!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 ふざけていません。

 逆神人殺助ひところすけです。



 六駆くんに煌気オーラビンタされた喜三太陛下が「おぎゃあああああ」とちょっと吹き飛んで、それを回収して来たオタマと六宇ちゃん。

 頬っぺたをさする陛下に対して、六駆くんが言う。


「ひいじいちゃん。その殺助。ぶち殺そうか」

「なんやこいつぅ!! ワシの話聞いた上で、最もスマートな方法選んでくるやんけ!! それは皆さんでお好きにやってくれてええんやで!? バルリテロリぽろぽろやもん!!」


「莉子がキレるよ?」

「……さっきまでのはキレてなかったんけ?」


「むしろご機嫌だったね」

「……それはほんまの事なんか?」


 ついに判明した、逆神家の秘密。


 最終的な判断は、当代逆神家の長老である四郎じいちゃんと逆神家および独立国家・呉の閣下であるみつ子ばあちゃんに委ねたいと思う。

 喜三太陛下記念館のラボメンたち。


 お繋ぎします。

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