第1239話 【戦争の終わり】ナニが始まりそうな気配を添えて
数分ぶりなのだが、なんだか久しぶりに南雲さんに戻った筆頭監察官殿。
上級監察官就任がカウントダウンの3くらいまで来た男。
苦労人で、逆神家被害者の会名誉会長。
肩書だけならこの世界でもトップな氏が現場へ駆けつけた。
「やったのかい? 逆神くん」
「南雲さん……。僕、やれませんでした……」
「そうか。でも、よく頑張ったね」
「南雲さん……。僕、まだこれからヤる気あるんです! もう一度お願いします!!」
「逆神くん!! 綺麗に纏めようとしてるの、私! ヤメよう!? その時代錯誤な運動部の特訓みたいなノリ!! ヤらなくて良いんだよ!?」
「違うんです、南雲さん! もうそういうのじゃなくて! 僕がむしゃくしゃしたって理由で、ひいじいちゃんを1回だけぶっ殺しておきたいんです!!」
「じゃあヤメて! なおさらヤメて!!」と南雲さんが六駆くんを必死に止める。
この南雲さんが稼いだ勇気ある4秒が、喜三太陛下の命を救う事となった。
「……戦う前にコーラ飲んどったから。マジでお漏らしするとこやったわ。2本でストップしといて良かったー。なんやあのロリ子。ひ孫なんかより数倍ヤバいスキル使うやんけ。これ、どういうシステムでワシはギリギリ死を免れたんや」
喜三太陛下の周囲は焦土と化しており、もう皇宮なんかは半分以上が消し飛ばされて跡形も残っていない。
思い出だって消滅させる無属性の極致。
『
陛下の御子と御孫とひ孫様がお創りあそばされました。
戦いが終わった。
これはもう、誰の目から見ても明らかである。
六駆くんと南雲さんと莉子ちゃんの周りに地上では現世サイド+バルリテロリ乙女が駆け寄る。
バルリテロリ乙女は駆け寄る先がそっちで良いのだろうか。
上空からはテレホマンが、やはり六駆くんたちの輪の外に降り立った。
誰も陛下に駆けよらない。
「にゃっはっはー!! これでスッキリ全部終わったぞなー!! 莉子ちゃん、莉子ちゃん! お疲れだにゃー!!」
「あ! クララせんぱぷぇっ」
「はい。莉子様。お見事な殺戮未遂行為でした。このオタマ、次のバルリテロリ皇帝には莉子様を推挙いたしたく」
「あ! オタマさぷえっ」
「莉子ちゃんって人気者なんだねー。あたしさー。いっつも教室の隅っこで携帯いじってたから、なんか羨ましいわー。一応、あたしもお疲れ様って言っていい?」
「六宇さ……ん? 六宇しゃん!! やっぱりわたし、六宇さんとはアミーゴになれそうです!!」
パイセンの乳に「ぷぇっ」とされて、振り返ったらオタマの乳に「ぷぇっ」とされたのに、三度振り返った先の六宇ちゃんにはぷぇらなかった。
国交樹立。無乳の夜明けぜよ。
「みみみみみみみみっ」
「ぐーっははははは!!」
率先して動ける働き者コンビがノアちゃんの『
先ほど行われた決死隊オーディションじゃんけん大会だったが、これはもう明らかだろう。
負けるが勝ち。
今この場にて試合が終わった後のマネージャームーブをしている芽衣ちゃんとダズモンガーくんが恐らく、確定的に恐らく、最も危険が危ないから遠い位置にいる。
跪いているテレホマンが、ちょっとだけチラ見して相手を選んだ。
「白衣の御仁が常識人に戻っておられる……」と確認したのち、南雲さんに向かって発言の許可を求めた。
「ナグモ殿と申されましたな。宸襟を騒がせ奉り恐縮ではございますが。この電脳のテレホマン! 命は惜しくございません! 一言だけよろしゅうございますか!!」
「あ。はい。皇帝の助命嘆願でしょうか? 先にね、あの、すみません。ややこしいと思うんですけど、私、この状態が通常なので。この時はナグモではなく南雲なんです。……意味、分かります?」
「は? ……ははっ!!」
意味分かんねぇ事に同意するのは誰よりも慣れているテレホマン。
改めて言い直す。
「南雲殿!! この戦争の責任は電脳のテレホマンの首ひとつで収めて頂きたいというのはあまりにも虫の良い話、重々承知でございます!! しかし、しかしぃ!! 陛下はまだ、このバルリテロリに必要な御方!! 復興のために、どうか!! この首ひとつで今は!!」
南雲さんが少し困った顔をする。
それを急に「いいよ!」とも「ダメだよ!!」とも、即答するのは憚られる。
今回は現世全域と同盟国の異世界までを巻き込んだ戦争。
ここで南雲さんがどう答えても、氏の立場が後々の処理の邪魔をしてしまう。
「逆神くん」
そこで動く。
監察官一の知恵者。
制御しきれない状況を作り出してしまえば良いのである。
気付けば、ダーティープレイにも慣れてしまった苦労人。
「いいですよ! 金くれるなら、僕が現世の偉そうな人を全員黙らせます! ところで、テレホマンさん? あなた、どこから上が首なんですか?」
「は? ……ははっ!! ははぁっ!! ありがたき御言葉……!! さすがはひ孫様……! ちなみに私の首はこの肩みたいな部分よりも上でございます!!」
こうするのが手っ取り早い。
六駆くんが独断で決めた事に異を唱える者はいない。
というか唱えられない。唱えても良いけど安全が保障されない。
彼がいなければ戦争に勝っていない事実と、そもそも現世と異世界含めて六駆くんをはじめとする逆神家の制御ができる者がいない事実。
特に後者は権力者たちとの交渉で極めて効果的。
「私にはどうしようもないんですけど。逆神家の皆さんって怒ると国1つ滅ぼしちゃうんですよね。チラッ。チラッ」が必殺の交渉材料となり得る。
被害者の会が南雲さん1人だった頃から知ってる、会員なら常識。
六駆くんが喜三太陛下の元へと歩み寄る。
陛下も身を起こされた。
歴史的な和解の瞬間だろうか。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」
「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
全然違った。
お互いにまだ殺す気満々であった。
「もぉぉぉ! 六駆くんとひいおじいちゃん!! わたし、怒るよ?」
「あ。ごめんなさい」
「ぶーっはははははは!
間抜けが見つかったようである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「とりあえず綺麗に焦土ですね……」
「はっ。ですが、バルリテロリのスキル使いは皆、構築スキルに長けておりますれば! 物的被害に関しては我ら、自力で復興する所存でございます。無論、駐在武官が選定されたのちその御方のご指示を仰ぎます旨、お約束いたします」
南雲さんがテレホマンと「酷いことになりましたねぇ」「仰せの通り、いちいち御尤もでございます」と労い合うことで新しい苦労人コレクションが増えた実感を覚えていた。
喜三太陛下はと言えば。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『
「おぎゃああああああああああああああああああああ!! お前ぇぇぇぇ!! 仮にもワシぃ、お前のひい爺さんやぞぉぉぉぉぉ!!」
「莉子?」
「もうちょっと吸い取っていいよ。ちょっとひいおじいちゃんはアレだったね。お年寄り特有の良くないヤツが出てるみたいだから。うん。六駆くん、やっちゃえ」
抵抗する術を奪われておられた。
反逆の意思を遺しているのでればまずは従属する姿で欺いてから後ろからブスッというパターンがベターだったのだが、戦いに負けたことのない喜三太陛下はその辺りが下手くそであらせられた。
ジャイアンが急にビブラート利かせた美声で歌をうたえるようになっても、知らない歌のメロディラインはなぞれない。
喜三太陛下は上手な負け方を知らなかった。
同じく敗北を知らないはずの六駆くんだが、嫁にはもう何敗したのか分からないくらい負けているので、やはり最強を最強たらしめるのは適量負けの味を知る事と我々も思い知らされる。
「キサンター」
「六宇ちゃん!! なんで裏切ったんや!!」
「や。裏切ってないし。戦ったし。で、負けて? 優しくされたし。優しくされたのにさー。その人たちに恩知らずな事するの、なくない?」
「……オタマは!?」
「オタマならあっちでクララさんとお話してるー。なんかね、キサンタに? なんてったっけ? 瑠香にゃんさんの、何とかっていう……。うん。なんかアレ? 取り付けて、ひとまず生体機能? とか言うのを停止させよっかってさー」
「…………殺されるんやんけ!!」
莉子ちゃんが首を横に振る。
「そんな事しませんよ! わたしも六駆くんも、やっぱり家族は仲良しがいいもん! ねっ? 六駆くん!」
「いや。僕は個人的に1回くらい殺しておきた」
「六駆くーん?」
「ああああああ! ごめん! 莉子! 違うんだよ!! 冗談!! 莉子! 愛してるよ!! ああああああ!!」
リコられている六駆くんを見ながら六宇ちゃんが言う。
「キサンタさー。ごめんなさいした方がよくない?」
「……せやな」
喜三太陛下、ついにごめんなさいの時が来るか。
「おい! ロリ子ぉ!!」
「うわぁ! ひいじいちゃんってバカなの!?」
「あの。わたし、おっぱいがないって事は認めましたよ? なんですか? そのロリ子って」
「……え゛。あの、ワシな? ……ごめんなさい」
「質問の答えになってないですよね? 六駆くん! 1発だけならいいよっ! えへへへへへへへへへへへへへへへ!! やっぱり遺恨があると旦那様の精神的にも良くないもんね! スッキリしていいよ! えへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」
「は、はぁぁぁぁ!! はぁぁ、はぁぁぁぁ、はぁぁぁぁぁ!? ごめんやで!! ほんまにごめんな侍やで!! あ゛」
それから衝撃音が1度だけバルリテロリの大地を揺るがした。
続けて、この戦争で完全に見慣れた時間遡行の光が降り注いでから、喜三太陛下が改めてごめんなさいをした。
その後に「殺す前にぃ! ワシの話を聞けぇ!! 逆神家の崇高な使命に関するアレやぞ! すっげぇ重要なヤツぅ!! 気になる感じでワシが死んでもええんか!?」とお喚き始められた。
六駆くんが「ごめん。ちょっと戻しすぎたよ」と舌を出すのであった。
てへぺろの市民権も気付けばおじさん寄りになって来たものである。
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