第1238話 【慟哭・その5】ワシたちの失敗 ~最期で噛み合わなかった電話交換機~

 喜三太陛下は静の煌気オーラ爆発バーストを習得されている御方。

 その先にある煌気オーラコントロールの最奥、精の煌気暴走オーラランペイジという、もうそれは凄いのか酷いのか分からない領域にも到達されておられた。


 六駆くんは29年間ただひたすら戦い続けて来た事で最強の称号を得たが、喜三太陛下も周回リピート時間だけなら六駆くんに勝っておられる。

 ただ、前述した最強の男がなにゆえ最強たり得るのかと言えば、29年が純度100%の戦いオンリーで構成されていたからであり、対して陛下は色んな女性とチュッチュしたり致したりして子孫繫栄、バルリテロリ皇国の拡大にも精を出しておられた。


 割合が違うとたどり着くゴールも結構変わると我々に教えてくださる、偉大なる皇帝陛下。


 しかし、時間が長いという事はそれだけ色々とやれる事も多かったという事。

 セックらこいてる間でも「おっ。これ使えるやんけ!!」とスキル研鑽はながらでこなして来られた皇道を往く陛下。


 ある時、致しながら煌気オーラ爆発バーストがデキるとお気付きになられた。

 バル皇族逆神家第三世代がちらほら生まれ始めた時分の出来事。


 ながらで行う煌気オーラ爆発バースト

 それを煌気暴走オーラランペイジに進化させることは難しくなかった。


 今では会話しながら両手に究極スキル級の煌気オーラを2つ蓄えても、精の煌気暴走オーラランペイジがなんか邪なアレを出して感知を阻害するらしく、この戦場の気取られてはいない。


「ひ孫! お前が勝ったらアレや! お前の像を金で造るとええで!!」

「えっ!? それ、価値が下がりますよね?」


「ちっ! 賢しいヤツめ」


 莉子ちゃんがドドドドドドドドドと駆けて来た。

 砂埃を巻き上げながら旦那の考えを訂正、そして修正する。


「六駆くん!」

「ああああ! なんか分かんないけど、ごめんね!?」


「六駆くんの金の銅像! わたし見たいかもだよ!」

「莉子は可愛いなぁ! 金だったら銅像じゃなくない?」



「わぁー! ホントだー! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!」

「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」


 陛下が「こいつらぁ! このタイミングでイチャコラし始めおったで! やっぱ若いと性欲のコントロールが下手くそ!!」と好機を見定められた。



 右手と左手、2つの究極スキル。

 これをひ孫とロリ子の2人に、同時にぶっ放す。

 こいつらを片付ければ、残ったヤツらはちょっと上空に退避して体制を整えれば楽勝でぶち殺せる。


 四郎の嫁は煌気オーラないはずなのにすげぇ怖いから、どっかに転移させる。


 勝てる。

 勝てるんや。


 喜三太陛下の脳内で、完全な勝ち筋がピカピカに輝いた瞬間であった。

 その輝きは黄金と見紛うレベルか。


 いやさ、黄金以上の眩しさ。

 完全に勝ちへのルートが確立された。


 ならば、その道を往くだけ。


 陛下は1つだけ見落とされておられた。

 余りにも眩い輝きは、自身の瞳さえも眩ませるという事を。


 同じ漢字なのだから気付いてほしかった。

 しかし、同字異音は難しい。


 戦場の行く末と同じくらい、読むのは難しいのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 喜三太陛下が右手を振り上げた。

 スキルの名は『鬼人雷迎閃オーガニック・アクティナ』と言う。


 鬼のような一撃を雷よりも速く敵に撃ちこむ、煌気オーラ拳と煌気オーラ弾の複合スキル。

 バルリテロリへと転生された際に「なんやここの住人。みんな鬼やんけ」と感じたのも今や昔。

 気付けばどいつもこいつも結構良い鬼で、喜三太陛下はバルリテロリが好きになっていた。


 喩え現世に戻れなくなったとて、好む者たちに好まれる皇帝として永き世を生きればそれで良かったはずなのに。

 どうして太陽に手を伸ばしてしまったのか。


 羽も生やしていないのに太陽に向かって飛び立ったとて、蝋まみれにもなれないし、イカロスって名前も付けてもらえない。

 どこで間違ったのか。


 そんなもん、勝てばええんや。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 最後の最後じゃああ!! 喰らえぃ!! 『鬼人雷迎……』ば!?」


 結果から申し上げよう。

 喜三太陛下の究極スキルは発現されなかった。


 何故か。


 喜三太陛下が使った精の煌気暴走オーラランペイジは、という一点に尽きる。


 上空ではテレホマンが「陛下。陛下が再転生されるまでの時間はこのテレホマンが稼ぎます……! ご安心して御隠れあそばされる由を……ヨシ!!」とほとんど同じタイミングで『電話砲テレホガン』を放っていた。


 誰に向けて。

 喜三太陛下に向けて。


 どこに向かって。

 喜三太陛下の脳天に向かって。


 人は不意に飛んで来るものに気付いたらどうするか。

 反射的にそれを遮る。


 喩え究極スキル発現の間際だったとしても。



 だって、当たったら痛いかもしれないじゃないか。



「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『皇帝振り向き上向き手刀エンペラーウイングチョップ』!! まだ伏兵を忍ばせとるんか! くっそ! 選手層厚いなぁ!! そいつから消し飛ばしたる!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! 『鬼人雷迎閃オーガニック・アクティナ』!!」

「……は? へ、陛下!?」


 刹那のやり取りで双方が気付いた。

 とんでもない行き違いが起きている現実に。


 喜三太陛下は「なんでテレホマンなんや!? あ゛あ゛!! ワシを一旦殺してってことか!?」と察知し、ノールックで放った究極スキルを解除。

 これで両手に溜めておいた究極スキル級の煌気オーラがどちらもなくなる。


 テレホマンは「陛下……!! このような奥の手をまだお持ちで……!! このテレホマン……フライングアタックを……!! ここまで来て……こんな時に……!!」と、瞳を閉じた。


 皇帝と忠臣。

 最後の最期で失敗する。


 お互いを慮ったがため、陛下の究極スキルは「ワシは今! だまし討ちをしようとしていた!!」と六駆くんたちに知らせるだけの綺麗な花火に。

 テレホマンも再度方針を変更して、六駆くんか莉子ちゃんを狙撃する事はできたのに「ああ……。陛下、申し訳ございません……」と己が過ちを悔いて四角いフォルムが完全に丸くなった。


 皇国の一戦。

 ここに潰える。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんは「ひいじいちゃんが大きいの仕掛けてくるっぽいから、莉子とイチャイチャするふりしてよう!!」と様子を伺っていた。

 が、さすがに最強の戦闘IQをもってしてもお空に花火を打ち上げるのは想定外。


「うわぁ! 意味が分からないや!!」


 呆気にとられる。


 六駆くん、これまで隙を作って来た回数は結構あるものの、「相手の行動」が「意味不明」なのではなく「敵同士がなんかお互いを思いやり始めて大好機を逸した」事が「意味不明」であり、ちょっと呆ける。


 味方は死んでも生き返らせれば良いと言い始めて久しい、この男。

 忠臣を庇って自分に向けるべき矛をなかった事にした曾祖父の行動が理外過ぎてのフリーズ。



 人の心なんか戦争にはいらねぇでお馴染み。我らが主人公である。



 この隙を利用できれば、あるいはまだ、喜三太陛下にも好機は残っていたかもしれない。

 ならば掴み取るだけなのだが、先にそれを握りつぶした乙女がいた。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 莉子ちゃんにしては長いチャージ。


「えっ!?」

「えっ!?」


 六駆くんと喜三太陛下が同時に驚く。


「六駆くん、どいて!!」

「あ! はい!!」


 最強とは。

 文字通り、誰よりも強い事を示す。


 嫁とは。

 文字通りではないが、旦那よりも強い事を示す。


 この瞬間。

 戦場での最強が一瞬だが入れ替わった。


 とても久しぶりだが、不思議と実家のような安心感。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!! 『極光竜牙盾グランドラグシルド』!!!」


 六駆くん、ひいじいちゃんの隙突いてぶち殺すためにチャージしていた煌気オーラを究極スキルとして発現。

 嫁から身を守るための盾として。


「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! お正月休みが全部潰れたんだよぉ!! 高校生活最後の冬休みも!! 私、ヤりたい事、あ。違う。やりたい事! たくさんあったのにぃ!! 反省しなさい!! たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『苺滅光閃いちごめっこうせん』!!!」


 広範囲攻撃でもない。

 零距離発射でもない。


 お仕置きの「めっ!」が込められた『苺光閃』は、これまで見せて来たどの苺色よりも苺色に輝いていた。

 苺色が悪夢を指すようになって、一体どれ程の時が経ったか。



「お、おおおおおおおおおおお、おぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 それはとりあえず旦那の曾祖父ぶち殺してから考えれば良い。



 喜三太陛下、苺色に死す。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 莉子ちゃんがフィニッシュをキメた。

 六駆くんは頑張って身を守った。


 それほどに凶悪な苺色がバルリテロリの大地を、空を染めたのである。


「うわぁ! 危なかったぁ!!」

「もぉぉぉぉぉぉ! 六駆くん!!」


「あ。はい!?」

「わたし気付いたんだけど! いくらお金のためだってね! ひいおじいちゃん殺すのは良くないと思う! ダメだよ!!」


 莉子ちゃん、気付く。

 戻る、戻るんだ。

 ピュアで血の匂いなんて知らない、虫も殺せないメインヒロインに。


 婚約者の言葉に違和感を覚えてすぐに爆心地を振り返ると、思ったよりも大地が焼けていないし、この世の終わりみたいな光景にもなっていない。

 これはいけないと六駆くんが手のひらを喜三太陛下が死にかけているであろう地点に向ける。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

「もぉぉ! 六駆くん! 聞き分けがないのも良くないと思う! じゃあ、わたし言うね!? 六駆くんがバルリテロリに来てから使ってる究極スキルって! 全部お義父さんとネームングが被ってるよ!! 『極光グラン』のとこ!!」


 大吾の必殺技は『煌気極光剣グランブレード』である。



「う、う、うわああああああああああああああああああああああああああ!?」


 逆神六駆、嫁の言葉に死す。



 こうして、世界どころか異世界をいくつも巻き込んだ戦争の原因。

 次元を超えた逆神家の当主同士の熾烈な戦いに終止符がぺったんされた。


 キメたのはこの子。


「うるさいのもやっぱり家族だよね。けど、そーゆうとこも可愛い! えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」


 愛と金の価値比べは難しいが、この愛は金よりも稀有で強い。あと重い。


 結果が全て。


 異議があれば意義ある証を立てよと、莉子氏がこの戦争の最期に付け加えた。

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