第1237話 【慟哭・その4】最強夫婦の挟撃 ~金をください wo wo~

 バルリテロリの南の果て。

 皇宮の反対側に位置する上空に偉大なる皇帝陛下と愉快な家臣たちがいた。



「うっそやろ!! ロリ子ぉ!! 殺人光線を零距離でぶちかまして来たで!? 力士に突っ張りされたんかと思ったわ!! あっぶねぇぇぇ! 咄嗟に転移してなかったら、死んどったで、マジで!! みんな、生きとるか!!」


 リーチ。ロリ子。力士。突っ張り。

 喜三太陛下、とりあえず満貫まで確定させる。



「はっ。しかし、陛下。私は敢えて宸襟を騒がせ奉り頂きましてございますれば。……この戦局、ここに及んだ、この状況。逃げても特に好転するもの無きに等しく愚考いたします」

「テレホマン。違う。そうやない」


「は?」

「怖かったんや」


「はっ」

「怖すぎて、思わず転移してしもうたんや!! ホントは究極スキルぶっ放す予定やったんや!! せやからものっすごい距離を集団で転移できたんやで!! ……人間、恐怖は克服できんのや。テレホマン。お前四角いから分からんかもしれんけど」



「陛下。私はバルリテロリの民ですが、生物学的には人間です。ちょっと四角くて角が生えていて、肩と首の境目がないだけで人間でございます」

「あああ! ごめんやで!! 違うんや!! テレホマン!! ワシ、ちょっと色々あり過ぎてつい!! ごめんやで!! ワシの事を嫌いにならんでくれぇ!!」


 キサンタ×テレホマン、あるいはテレホマン×キサンタが生まれそう。



 クイントとチンクエはもう「なあ、チンクエ。キャラメルモカフラペチーノってなんなん?」「……ぅぃ」と戦争から意識を切り離している。

 この短期間でスマホを使えるようになったクイントがスタバについての見識を深めていた。


「転移した事は好機と捉えましょう。ここは一旦、作戦を練りまして。一撃をもって全ての敵を屠ること叶うスキルのチャージをしつつ、陛下の御身の安全を第一に、なおかつ皇国の維持と、とにもかくにも敵の殲滅を……」


 言ってて虚しくなって来たテレホマンだが、彼は四角い忠義者。

 四角い部屋は四角くしか掃けない不器用者でもある。


 四角い部屋を丸く掃ける横着さがあれば、どんなに生き易かっただろうか。


 そんなテレホマンは常に陛下へ視線を向けていた。

 その後ろに門がズズズズズズと出現して、扉が開いたかと思えば手が伸びて来る瞬間を目撃する。


 人は咄嗟の時に悲鳴すら上げられない事がある。

 例えば車に轢かれた時。


 経験のない者は是非とも後学のため一度轢かれてみよう。

 言葉を発する余裕もなく視界が捻じれて、次の瞬間には呼吸する事だけで精一杯。

 遠くから近づいて来る救急車のサイレンの音を聞きながら「あ。誰か呼んでくれたんだ。やさすぃー」とか他人事のように自分を俯瞰する。


 テレホマンは意外とマイノリティな方だった。


「へ、へへへ、ヘイヘイヘイ、陛下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「どうしたんやテレホマおぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 手の主が身を乗り出して喜三太陛下をキャッチ。



「こんなところにいた! 見つけましたよ! うふふふふふふふふふふふふふふふ! さあ、帰りましょうか! うちはひいじいちゃん殺すにもね、記録取らないといけないんですよ! サーベイランスがあるとこで戦わないと! よいしょー!!」

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! テレホまぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 劇場版名探偵コナンの「らぁぁぁぁぁぁん!」みたいなテンションで叫んだ陛下が、シュッと門の中に吸い込まれた。



 残されたテレホマンにクイントが尋ねる。


「よお、テレホマン? もう無理に追わなくても良いんじゃね?」

「……そのような訳には参りません!! 私は参ります!!」


「おい、チンクエ。テレホマンのセリフもバグってね? 参ってんの? これ?」

「……良い」


 結局出しっぱなしの門の中へと飛び込むテレホマン。

 それに続くクイントと、抱っこされているチンクエ。


 アットホームな職場は家主の最期に付き合うのもお仕事なのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再び戻って来た最終決戦場。皇宮上空。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! やっぱオタマと六宇ちゃんが敵と仲良くしとるぅ! 何ならオタマは攻撃に参加しとるぅぅぅ! くっそ! 心折れそう!!」

「そう言いながらちょこまかとすばしっこいなぁ! 莉子!! そっちから!」


「ぎゃあああああああああ!! ロリ子とひ孫がタッグ組んどるぅぅぅぅ!! 嘘やろ! ラスボス相手にオーバーキルしてええと思っとるんか、お前らぁ!! 接戦にしろ! 接戦!!」

「えっ!? 僕、接戦ってしたことないんでやり方分からないんですけど。それやったら金もらえるんですか!?」


「お、おお! よし! ワシの持っている金を半分お前にやろう!」

「全部ください!!」



「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『莉子激突リコパンチ』!!」

「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ロリ子は明らかに六宇ちゃんのキックにインスパイアされたガチ殴りして来るぅぅぅぅ! あ゛あ゛! 心折れるぅぅぅ!!」


 陛下がゴチで最後の2人まで残って、シェフのいやらしい「タッチしようかな。ヤメよっかな。でもやっぱりしよっかな!!」のノリでお腹と尻がキュッとなる感じに苛まれておられた。



 それでも生きている。

 伊達に7度転生している訳ではない陛下。


 ワシの心がヤバいヤツになっても、体は元気な17歳。

 六駆くんに羽交い絞めにされて「金をください!! どこにあるんですか!?」と囁くにしてはあまりにも過大な音量で怒鳴られて、その間に「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」と掛け声は1つなのにラッシュキメられるドラゴンボールでピッコロさんとかがよく使うパンチの連打を喰らってなお、意識は健在、闘志は不在、金投資はやった事ないけど資財はある。


「よし! 分かった! 引き分けにしよう! ひ孫! ロリ子!!」

「えっ!? 金くれるんですか!?」


「やるやる! やるで! 全部やる!! なぁ! ロリ子!!」

「ロリ子じゃないもん! 莉子だもん!! やぁぁぁぁぁぁぁ!! 『零距離えいえんのぜろ苺光閃いちごこうせん』!!」


 喜三太陛下の瞳が怪しく光る。


「それを待っとったぁ!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『遮二無二位置転換デッドエデンチェンジ』!!」

「うわぁ!」


「ふぇ!? 六駆くん!?」

「危ない、莉子!!」


 喜三太陛下の十八番の転移スキルはたくさんある。

 初見のスキルに対応できないのは六駆くんと莉子ちゃんがどっちも抱えている数少ない弱点。


 まんまと『苺光閃いちごこうせん』と場所を入れ替わっちまった六駆くん。

 しかし、これは零距離。


 つまり、六駆くんの胸に莉子ちゃんが飛び込む形になる。



「あれ!? 莉子、痩せた!?」

「も、もぉぉぉぉ! もぉぉぉぉぉぉぉぉぉだよ、六駆くんてばぁ!!」


 ラブコメが発生する。



 逆神家の女たちが使う照れ隠しは狂気の凶器。

 六駆くんが「おべっ」と言って地上に急落して逝った。


「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ! わたし、痩せたのかなぁ!! そっかぁ! たくさん戦ったからだ!! どう思います!?」

「えっ!? ……痩せとるんやないか!? よう分からんが!!」



「無責任に女子の体型について言及しないでください! もぉ!! 『剛腕豪掌拳ムキムキリコパンチ』!!」

「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 嘘やろ、こいつぅ!! 口裂け女システムやんけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 喜三太陛下は地上へフリーフォールして逝った。



 そして落下した先には。


「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」

「はっ!? はぁ!? はぁぁぁぁぁん!? ばぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『大転移極s』」


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『粘着糸ネット』!!」

「おぎゃああああああ!! ベタベタするぅぅぅぅぅ!! 最悪や! 身構えたせいでスキル使えんかった!! 嫌がらせかよ!! 性格悪いなぁ、お前ぇぇぇぇ!!」


 莉子ちゃんが降下して来た。


「今、誰の性格が悪いって言いました?」

「あかん。もうこれ、あと1度死んでみるしかないで……。ハメ技やんけ。ひ孫とロリ子と地獄のトリコロールやんけ……」


 喜三太陛下、いよいよ年貢を納める時が近づいて来られた。

 これまで年貢を臣民からさほど取って来られなかった、治世は意外と温情派な皇帝陛下。


 それって僕たち、わたしたちに関係ありますか。

 多分、この2人はそう考えている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 上空では手出しされなかった、というよりは「もう無視しといて問題ない」と判断されたテレホマンがテレホ・ボディを換装させていた。


「おいおいおい。ヤメとけって。テレホマン。マジでバラバラにされるぞ、おめぇ」

「クイント様。私は人間ですので、その部品がポロリする的な表現はいささかお控え願いたく存じます」


「……良い。テレホマンは良い。つまり、テレホマンがヤるという事で、とても良い」

「きぇぇぇ!! 喋ったぁぁぁあ!! チンクエぇぇぇ! どういう事ぉ!?」


 テレホマンが『電話砲テレホガン』の照準を合わせる。

 六駆くんでもない。

 莉子ちゃんでもない。


 ナグモさんたちでもなければ、オタマでも六宇ちゃんでもない。

 もちろん芽衣ちゃんや猫たちでもないし、ダズモンガーくんはひょっとしたら流れ弾が当たるかもしれないけどとりあえず目標ではない。



 照準合わせ。喜三太陛下の頭部。



「陛下……! 私にできる忠義はここまででございます……!! このお叱りは冥府にて……!!」

「……良い」


 もうバルリテロリサイドはクイント以外みんな思っている。

 これ、陛下に死んでもらって、ワンチャン転生リアルタイムアタックに賭けてもらうしかないと。


 テレホマンと喜三太陛下は以心伝心。

 2人の距離繋ぐテレパシー。


「ぶーっはははははは!! よし、ひ孫! お前の好きな金の話で盛り上がろうぜ!!」

「えっ!? 種類あるんですか!?」


 問題は、喜三太陛下がオレンジレンジの世代まで到達していなかった点である。

 テレホマン・フライングアタック。


 果たして陛下はお気付きになられるのか。


 多分だが、今、陛下は死ぬタイミングが整っておられない。

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