第1235話 【慟哭・その2】おぎゃる、皇帝 ~メインヒロイン、最終決戦に参加~

 前回の逆神喜三太陛下。


 さっさとひ孫をぶっ殺して残った出涸らしもサッと殲滅したいのに、なんかパーリー異常者がガチの異常者になってて怖い。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「陛下!! お急ぎください!! 煌気オーラ反応が多数……こちらへ接近しております!!」

「マジやんけ!! ……いや待て。六宇ちゃんとオタマおるやん!! これぇ、来たんやないんけ!? 敵を欺いてからのワシのピンチに馳せ参じて参りました!! なヤツぅ!!」


「参るが2つ……? 陛下、参っておられるのですか?」

「……参っとるわ。参りに参って参りまくりや」


 最終決戦では攻撃に極振りしているひ孫の六駆くんと比べると、さすがは年の功と評すべきか。

 喜三太陛下はいずれの分野も他の追随を許さぬ領域へと到達されておられ、殺意極振りだったみつ子ばあちゃん以外には膝を屈してなどいないのである。


 当然、煌気オーラ感知能力もこの場に残った戦士で随一。

 絶対的で唯一無二の偉大なる皇帝陛下、秘書官と可愛い方のひ孫の接近を御察しになられた。


「ぶーっははははは!! 形勢逆転じゃい! ひ孫ぉ!! ぶーっはははははははは!! もう生意気な口も利けんようやな!! なんでか知らんけど!」



 テレホマンがやりました。



 喜三太陛下、増援の気配で一気にメンタルが盛り返して来られたご様子。

 両手に巨大な煌気オーラ球を発現させ、バリバリとスパークさせながら悠然と肥大化させていく。


「陛下!?」

「知っとるけ? テレホマン。ワシな、歴史だけは得意やったんや。昔、徳川家康の息子の秀忠がな。関ケ原の戦いに遅れて来たからおとんの家康がぶちギレたんや。なんでやと思う?」


「は? ははっ。私には到底理解できない御考えかと……!」

「せやろ? ワシ、知っとるんや。家康おとんはな。自分の活躍を息子に見せたかったんや。あと、家臣にもな。それが思ったよりも早く関ヶ原合戦終わったもんやから、こう、やり切れん思いが爆発して、秀忠にキレたって訳や。つまり。ワシの言いたい事、分かるな?」


「は? ……ははっ! 皆目見当も付きませぬ!!」


 陛下が「ぶーっはははははははは!!」と高笑いを御美しくおキメあそばされるところを見て、なんだか嫌な予感が四角い体に去来したテレホマン。

 「家康公は単純に負けるかもしれない可能性を増やした秀忠公におキレになられたのでは?」と思った。


 そして気付く。


 「私は今、まったく同じことを危惧している!!」と。


「へ、陛下。恐れながら……」

「ええんや! フィニッシュバスターをキメるのはみんなが来てからですぞって言うんやろ? 知っとる、知っとる! あ、この煌気オーラ球な、最後はワシの頭上で1つにしてな? バシーンキメたるんやけど。名前の由来? そんなもん、決まっとるやろ! ワシによく似たイケメンのトランクスから着想よ! 勝ったらまた一緒にやろうな! スーパー武闘伝!!」


 油断と慢心は絶対的な強者にのみ許された、伝統ある舐めプ。

 なにせ、現状はもう余裕も余裕。


 敵で相手になりそうなのは黒ナグモさんだけであり、ついさっきまでは「なんやあいつ……。怖い!!」と異常な動きと言動にぷるぷるしておられた陛下だが、可愛い方のひ孫が来てくれていると分かった途端に「いや。よく考えたらどんだけ頭おかしくてもワシの敵やないで」とお気づきになられる。

 ワシの敵になり得る六駆くんは未だに力なく横たわって「……パン。……パン、1つ買えない。……怖い。……ハイパーインフレーション」と意味不明なうわ言を呟いている。



 勝ったな。



 陛下が「仕方ないから、究極スキルのさわりだけやで?」と威風堂々、ゆるりと両手を頭上で組み、煌気オーラ球を合わせた瞬間であった。


 油断と慢心による舐めプ。

 舐めプで勝った者はいるかもしれない。


 だが、舐めプで勝ったラスボスを我々はまだ知らない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ー」


 喜三太陛下が究極スキルの準備の準備の準備を進めておられたタイミングで、莉子ちゃんwith決死隊が現着。

 どら猫が勢い余ってピュアドレスのヒラヒラから転げ落ちた。


 その隣にはもう枷で煌気オーラを封じられていないオタマが姿勢よく並び立つ。

 反対側には瑠香にゃんがやっぱり姿勢よく並び立つ。


 クララパイセンだけ、ガチのどら猫が伸びてるスタイルで真ん中をキープ。


「さすがです。ぽこ様。これまでの激戦を潜り抜けてなお、一番槍をご所望ですか」

「ねー。オタマー? ぽこさん言ってなくない?」


 六宇ちゃんも仲間外れにされるのは辛いのでササッと最前線に参加。


 芽衣ちゃんとダズモンガーくんはキャリアも長いので「みみっ。芽衣たちは後方で待機です」「ぐーっははは!! 然りですな!!」と分を弁える。

 みんなで一斉に前へ出ると危険が危ない。


「ふぇぇぇ!? 六駆くん……!?」


 そして莉子ちゃんは全然ダメージ受けてないのに死にそうな顔した旦那と対面。


「……莉子? ……ごめんね。……僕、パン、買えない」

「六駆くん!! こ、こんな酷いことしたの……誰!?」



「じ、ジンバブエ……」

「分かった! ジンバブエだね!! 後はわたしに任せて!!」


 ノアちゃんが慌てて訂正に駆け寄ったので、ジンバブエの冤罪は晴れました。



 ノア隊員はチーム莉子箱推し。

 逆神先輩が死んでる今、莉子先輩が大活躍するのは箱推ししてたらもう雰囲気で分かる。


「と言う訳で、ふんすふんすのふんすです!!」

「ひいおじいちゃんが……!! 許せない……!!」


 やったのはテレホマンの『テレホ・レディ』なのだが、ノアちゃんが何かしらの忖度をした模様。

 多分「戦いが終わった時に四角先輩がいないと色々アレしてナニでふんすですね!」とノアちゃん脳をフル回転させた故の取捨選択だったと思われる。


 という事で、目標が決まる。

 捨てられた方。


 偉大なるバルリテロリの皇帝。


「クララ先輩」

「悔しいです! だにゃー。弓さえあれば……完全体になれたのに、だぞなぁ……」


「強弓サジタリウスなら出せますよね?」

「あ。これ、SSR莉子ちゃんだぞな。たまーに出て来るけど、出てきたらちょーキレッキレなヤツだにゃー。はいはいにゃー。遠距離攻撃で牽制するぞなー」


 パイセン、両足を開いてから腰を落として『強弓サジタリウス』を発現。

 これを扱う際には脚を思い切り開く必要があるのだが、このどら猫、終ぞ恥ずかしがることなかった。


「しっかしだにゃー? あたしの煌気オーラ矢なんか多分、意味ないぞな? 回避行動すらとってくれんと思うぞな?」

「はい。ぽこ様。左様です。そこで、私が……はぁ!! 『玉杓子おたま』をお貸しします」


 オタマの完全な利敵行為おたまが飛び出した。


「ねー。オタマー? キサンタ、かわいそうじゃない?」

「はい。六宇様。違います。自業自得であらせられます。それに陛下はお隠れあそばされても雨後の筍のようにどこかで生えて参りますので」


 痛恨の情報伝達ミスが発生していた。

 オタマさん、陛下が「もう死ねへん! 怖いやん!!」と違う覚悟をおキメになられている事を知らない。



 ちょいとお諫めするいつもの感覚が、皇国の行く末をすげぇ左右しそう。



 そんな事情なんか知ったことないどら猫はオタマから『玉杓子おたま』を受け取って、サジタリウスにつがえてみたところ。


「にゃはー!! なんか思ったよりフィットしとるにゃー! 莉子ちゃん、準備出来たにゃー!!」

「さっすがクララ先輩だよぉ! 付き合いが長いもん! やる時はやるのがクララ先輩!! もうそのおっぱいを抉り取ろうとか思いません、わたし!!」


「えぐ……? 抉り取られるんだったのかにゃー。バイオレンスかつグロい感じであたしのおっぱい逝くとこだったにゃー……」


 牽制準備完了。

 ちなみに莉子ちゃんには降伏勧告の用意などない。


 旦那がやられたんじゃ。

 降伏なんて甘っちょろいもので済ませるものかよ。


 同じ目に、いやさ、それ以上の目に遭わせてやらぁ。

 ハイパーアルティメット莉子ちゃんに甘さなどなし。


「瑠香にゃんちゃん!!」

「はい。プリンセスマスター。瑠香にゃん、おっぱい差し出します」


「んーん! それはまだいらない!」

「………………………………? まだ? 瑠香にゃん、人工知能がフットーしそうです。では、オーダーをどうぞ」


「わたしをひいおじいちゃんのところに投げ飛ばして! すぐに空中で『閃動せんどう』使ってもっと加速するから!!」

「ステータス『目がマジ』を獲得。瑠香にゃん、オーダー受諾しました。アプリケーション起動。『プリンセスマスターをぶん投げる』シークエンス、準備完了」


 瑠香にゃんが莉子ちゃんのカタパルトに。

 バレーボールのレシーブの構えを取った瑠香にゃんの手に莉子ちゃんがちょこんと乗っかる。


 やはりメインヒロインにはちょこんという表現が良く似合う。


「にゃはー!! 『強弓玉杓子矢う、うらぎりもんやー』!! 行っちゃうにゃー!! うにゃにゃにゃにゃー!!」


 陛下も殴られ慣れている『玉杓子おたま』が矢の代わりに飛んで行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 上空ではテレホマンが気付く。


「へ、陛下ぁ!!」

「ぶーっはははは! オタマのおたまやんけ!! なんやあの子! 照れ屋さんやなぁ!! ちょっと負けたからって顔見せづらいとか、可愛いところあるやんけ!! なぁ、テレホマン! テレホマン?」


 テレホマンが目を閉じて、祈っていた。

 バルリテロリの神は皇帝。

 つまり、喜三太陛下。


 それなのに、テレホマンは多分どこかの違う神に、「うちの神様が死にませんように」と祈っていた。


 ドスンと音がして、喜三太陛下が振り返る。

 そこには。



「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

「お、お、おおお!? おぎゃ!? おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 皇宮秘書官だと思ったら、残念、莉子ちゃんでした。



「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『零距離えいえんのぜろ苺光閃いちごこうせん』!!」

「————ひゅっ」


 己が乳と向き合い、乳と対話を済ませ、わずかな希望いくにゅうと甘さを失くした、いやさ、捨てた莉子ちゃん。


 彼女はとても強い。

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