第1234話 【慟哭・その1】哭く、ナグモ ~復活の漆黒の哀しみの愛を知る混沌の、なんかそんな感じの古龍の戦士、最期の顕現~

 前回までの六駆くん。

 ハイパーインフレーションで貯金が心配になってメンタルがやられた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ライアン・ゲイブラム氏が分析、算出した結果、200000000%の確率で死ぬと予想された南雲隊。

 六駆くんは白目剥いて口から泡まで噴いて死んでいる。



 最強の男がここまで追い詰められたのは、かつてメタルゲルちゃんの外皮をぶっかけたお好み焼きを食べた時以来である。



「くっ! 万策尽きたか……!! しかし! 私には帰るべき家と! 愛する妻と!! 妻のお腹には双子がいるんですよ!! 200000000%死ぬのならば!! 200000001回トライするまで!!」


 ライアンさんがゆっくりと首を横に振った。


「ナグモ監察官。それは違います。そのロジックがそもそも間違いです。万策と申されるのであれば、10000の試行回数で例を挙げましょう。10000回の策を仮に有効としましょう。それを講じて10000回ほど試したとて、成功する確率はおおよそ65%とされています。10001回目に成功するものではありません。そもそも、致死率に関しての話ですので、ナグモ監察官。人は200000000回生きる事、叶いません。ナグモ監察官?」

「あ。はい。………………………………失礼します!! このテンションじゃ、凄惨な死に方をしそうだ!! 逆神くんの事は任せたよ!! ノアくん!!」


「ふんすです! 撮影完了しました!! イエーイな遺影撮れました!!」

「……死ぬときくらいはパーリーピーポーでいたい。これまで私はマジメに生き過ぎていたんだ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『古龍化ドラグニティ四重クアドラ』!!」


 ナグモさん、既に古龍モードになっているのにそこに重ね掛けての『古龍化ドラグニティ』であり、しかも四重発現。

 いつの間にそんな領域に到達していたのか。


 ナグモさんの体が黒い煌気オーラに包まれて、肉体は漆黒へと変化していく。

 黒い翼と金色の角。

 この形態は。



「ククククッ! フハハハハハハ!! この能力(ちから)はとても私に制御できる代物(ギフト)ではない……!! 私の身体を食い破るだろうが……!! ならば貴様たちも、セニョールだ!! 良いか、私はこれからチャオするが、この能力(ちから)、とてもではないが制御できるとてもではないがチャオではフハハハハハハ!!」


 漆黒の古龍の戦士・黒ナグモさんである。

 挨拶代わりに思考回路がショート完了なにいってんのかわからねぇ



 だが、この黒ナグモさん形態は男子にウケが良い。

 そして人生百年時代の今、100歳になっても男は男子。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 急降下して「もうさっさとひ孫殺そう!! さっきの話からすると、ひ孫は殺したら生き返らんのやから!! なぁ!!」と、ちょっと平静を取り戻された陛下が逆神家伝統のクレバーな戦闘IQを御披露なさっておられた。


 テレホマンの異次元から刺す逆転の一撃『ハイパーインフレーション』が六駆くんには効果がバツグン。

 なんか知らんが、なんもせんでも半死半生みたいになっている。


 今ならヤれる。

 しかし、遠距離攻撃だと回避される可能性がある。


 周囲に人影は3つ。

 煌気オーラ反応のほとんどない者が2名。

 とはいえ、ここまでの戦いで嫌と言うほど辛酸をペロペロしてきた、ペロリストの集まりなバルリテロリ軍団。


 「……敵が急に覚醒したり、あるやんな?」「はっ。あろうかと存じます」と皇帝が総参謀長の同意を得ていた。

 「戦闘力を抑えといてて、いきなり大爆発させてくるのが地球人やんな? 気の解放とかキメて来る可能性、あるやんな?」「はっ。むしろそれをしない理由が私には分かりかねます」と、もう3人敵がいたら3人ともいきなり豹変して来ると思えと、危機意識も共有済み。


 誰かが覚醒して転移スキル使われたら厄介どころの騒ぎではない。

 ひ孫が復活したら今度こそ殺される。


 ならば、近くまでビューンからの近距離でガッ。

 これに尽きる。


 急降下していた喜三太陛下。

 先頭に立つのも喜三太陛下の皇道であり、少し後ろにテレホマンとクイント、クイントに抱きかかえられて幸せそうなチンクエが並ぶ。


 急降下に「警戒を捨てて一直線にぶっちぎれ」という縛りなどない。

 が、喜三太陛下の急降下はそれだった。


 視界に敵が4人きっちり収まっているのだから、後は視線を切らさずにとにかくひ孫の元へ降りて、ビューンからのギューンでドンッ。

 そんな陛下の視界が一瞬真っ黒になった。


「なんやあれは……」

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



「おいぃぃ!! 異常者がさらなる異常者に変身しとるで!? 誰かアレ、知っとるヤツ!! すぐに教えろ!! このチャンス逃したら絶対にワシ、負ける!!」


 黒ナグモさんが余りにも異質過ぎて、陛下のビューンからのギューンを遮った。



 クイントとチンクエは黒ナグモさんと交戦経験があるものの、何も言わない。

 何故か。


 陛下ならば何も言わずとも勝てると思っての、敢えて無言。


 否。


「相変わらず……むっちゃイカすよなぁ……」

「……良い」


 男子の心がくすぐられて、見とれていた。

 ちなみに喜三太陛下も普段は男子オブ男子たちな御方。


 造ったガンプラの数は千を超え、創ったモビルスーツの数も100近く。

 平時であれば「やっぱ現世支配しよう! 最高に未来志向キメてんな!!」とワクテカされた事だろう。


「誰も知らんのなら、ワシが全力でぶち殺すで!!」


 しかし陛下も戦いの中で進化されておられたのだ。

 これまで一度だって仲良くした事のない死期とマッチングしてしまった。

 死にそうな時に中二病拗らせたみたいな形態のおっさんが常軌を逸した笑い方を片目隠してキメていたとて、命の価値が勝ち。


 いのちだいじに。


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「ほれ見ろ!! なんか笑っとるだけであいつ、近づいても来んやんけ!! こけおどしとか以前に、ぶっ壊れただけやろ!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



「フハハハハハハハハ!! 『漆黒竜の断罪バニッシュメント・チャオ』!!」

「ふっざけんなよ! マジでよぉ!! 普通になんかやって来たやんけ!! マジかあいつ!! 全方位攻撃スキルや!! くっそ!! みんなワシの後ろに!! 『欧州最優秀GKオリバー・カーン』!!!」



 喜三太陛下はやっぱり平成がお好き。

 守備範囲が広く鉄壁の防御を誇りそうな名前の煌気オーラ盾を構築して黒ナグモさんが放つ黒の衝撃をいなした。


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「なんで笑っとるんや!? 次もあるんか!? もう本当に現世なんかいらん!! 次から次へとぉぉぉ! 頭おかしいヤツはだいたいひ孫の友達やんけ!! 今すぐ滅びろ、くそが!!」


 黒ナグモさん、ついに大活躍。


 ちゃんと活躍の理由をこちらで捕捉してあげないと、謎のテンションとライブ感で納得されてしまうのは氏が余りにもお気の毒。

 南雲さんは1度、皇宮の外にクイント宮が墜落した際、六駆くんの『時間超越陣オクロック』によって蘇生されている。


 そのため、煌気オーラが全回復状態に。

 加えて、スキルはメンタル勝負。


 六駆くんが大事な時にいなくなる事には慣れていたはずのナグモさんだが、まさか、この瞬間、このタイミングでそれをキメられるとは思わず、不測の事態に対して「あ゛あ゛あ゛あ゛!! もう嫌だ!!」と管理職の魂が咆哮。


 結果、かつてないほどの煌気オーラを得るに至る。


 だが、ヤケクソで得た煌気オーラは暴走しがち。

 ならば最初から暴走するスキルを使ってしまえば、相乗効果まで見込める。


 監察官一の知恵者はちゃんと考えていた。

 ちなみに知恵者の知恵ごとなくなチャオったので、過去のお話である。



「この能力(ちから)は……ダメだ、堪えろ……! 私の右腕と左腕と両足とお腹が疼く……!! このチャオが世界を呑み込む時、私は真なるチャオとして世界の終焉の交響曲(シンフォニー)をチャオするだろう……!! フハハハハハハハハハハハハ!!」

「いや、もう絶対に近づけんで、アレぇ!! どうなっとるんや!! テレホマン!! なんや、あれぇ!! ワシ、死ぬのが怖くなったからか知らんけど! 頭おかしいヤツと関わるのも怖くなっとるんやが!!」


 ついに『君子、危うきに近寄らず』を会得された喜三太陛下。



 そんな黒ナグモさんを見つめるノアちゃんがパパラッチとして鍛えた取材眼を光らせていた。


「ややっ! ナグモ先生の煌気オーラが地面に広がってます! ライアン先輩! あれはふんすですか!?」

「いや。ノアちゃん。ノットふんすだ。ナグモ監察官が煌気オーラのお漏らしをしておられる……。別に煌気オーラ力場を構築しているとか、広範囲スキルの予備動作とか、そういうものでは全くない。ただ、お漏らししておられる。そもそも、このような事を本人の前で申し上げるのは失礼かと思い黙っていたが、まあ今の状態ならばよかろう。四重発現が可能なほど、ナグモ監察官のスキル使いとしてのステージは高くない」


「つまり! ふんすっすですか!? よく考えたら全方位スキルもボクたちのとこに来てないですね!」

「そうだ。ノアちゃん。イエス、ふんすっすだ。我々は幸運が味方に付いている。我が身は未だ重要容疑者ということを考えると、逆神師範のこれまでの行いの成果だろう」


 ちょっとナニかがズレると死ぬ。

 そんな終盤のジェンガみたいな戦局で2人が落ち着いている理由など、1つしかなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の莉子ちゃんと愉快な決死隊。


「六駆くんの煌気オーラがなんか変!! みんな、飛ばしますっ!! やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『閃動せんどうラブ』!!!」

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……。こうなるって知っとったぞなぁー」


 莉子ちゃん、ハイスピードで現場へ急行中。

 その勢いは凄まじく、クララパイセンが「知ってるのにだみ声で鳴く」ほどと言えば、諸君にもその大変なスピード感が伝わるだろうか。


 ヒロインのピンチにはヒーローが現れる。

 ジェンダーフリーが叫ばれる昨今、ヒーローのピンチにヒロインが現れて何が悪いのか。


 いやこの子さっきまでヴィランやったろ、などと言ってはいけない。


 ハイパーアルティメットフォームですぞ。

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