第1232話 【莉子ちゃん敵国、最後の旅・その2】国交 ~莉子ちゃんと六宇ちゃん、お友達になる~

「マジ!? 莉子ちゃん、彼氏いるの!? つか、婚約してんの!? 18歳でしょ!? えー。やばっ。あたしなんか彼氏できたこともないのに。大人だわ」

「うへへへへへへへへへへへ!! あのあの、六宇さんは気になる人とかいないんですか!? 可愛いのに! 高校三年生ですよね? モテると思います!!」


「いや、あたし留年しまくって20歳だもん。同級生はちょっとキツいって言うか。相手が無理めじゃない? 周りの目とか気になるんじゃん?」

「そんなことないと思います!! 本当に好きだったら他人の目なんか全然の全然ですよぉ! だって六駆くんなんかちょっと前まで、電車には独りで乗れないし、券売機に話しかけるし、マクドナルドに行く度にわたしを使って注文してたんですよ!!」


「えー。ヤバいじゃん」

「その頃はホントにもぉって思ってたんですけどぉ! ぐへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! 今はまた、そんな感じになってくれたら……! わたし、朝の歯磨きから寝る前のおトイレまでずっと一緒で……付き添ってあげるのにって思ったりしてて! 今思えばあの頃の六駆くんもすっごく可愛くて! ふへへへへへへへへへへへへへへ!!」



「えー。ヤバいじゃん」

「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! そんなそんなそんな!! 惚気ちゃいましました! えへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」


 ちょっと目を離したすきに、バルリテロリとの国交の窓口ができていた。



 莉子ちゃんと六宇ちゃん、普通に打ち解ける。

 それを少し離れたところで見つめながら、こちらも会話中。


「うにゃー。やっと解放されたぞなー。オタマお姉さん、大学2年で卒業しとったとはにゃー。もったいないぞなー」

「端的モード。よせ。ぽこ。瑠香にゃんが恥ずかしい。その分オタマ様が有能であり、しかも学費と時間を節約できている事実に気付いてください。ぽこますたぁ」



「はい。瑠香にゃん様。違います」

「………………………………? 会話に齟齬が発生しました。瑠香にゃん、人工知能を再起動させます」


 猫たちとオタマも国交樹立。

 おっぱいでおっぱいを洗う激戦を繰り広げた両者、思うところがあったらしい。



「私どもバルリテロリには教育機関が少ないのです。高校大学はそれぞれ喜三太陛下記念高等学校と以下同文大学しかございません。なにゆえ陛下の銅像が立ち並ぶキャンパスライフを送らねばならないのでしょうか。1年で卒業を目指しましたが、無理でした」

「にゃー? オタマお姉さん、新卒って聞いたぞな?」


「はい。ぽこ様。左様です。インターンシップとしてスキル使いの鍛錬に2年ほど費やしました」

「それはどこでしてたんですかにゃー? 皇帝さんの銅像建ってないとこですぞな?」


「はい。ぽこ様。喜三太陛下幼年学校の特別コースです。……私の負けです、ぽこ様」

「勝ったぞなー!!」



「………………………………? 人間の優劣の基準が瑠香にゃんの中でおかしくなりそうです。人工知能を再再起動させます」


 このままだと瑠香にゃんが最初に再起不能になりそう。



 楽しいガールズトークで国交を開き、バルリテロリを改革するのだ。

 と、悠長な事をやっている場合ではなくなる衝撃が皇宮を揺るがせた。


 六駆くんと喜三太陛下が2度目の血戦に突入したのである。


「ふぇ!? そうだった!! 六駆くんのとこに行かなくちゃだよ!! 六宇さん!! わたしとお友達になってください!!」

「えー! もちろん良いよ!? あたしも嬉しいし!!」


「わぁー! やっぱりお話してみて確信しました! 六宇さんとわたし、気が合いますね! じゃあ、その、言いづらいんですけど」

「なになに? 言ってよ、莉子ちゃん!!」


「ちょっと命を貸してもらってもいいですか?」

「……うん? ちょっと待ってね?」


 六宇ちゃんもオタマも既に拘束は解かれている。

 つい数分前までちちとおっぱいの取り合いをしていたのに危機意識の希薄さを追求すべきではないかと憤る諸君の気持ちも分かるが、少しお考え頂きたい。


 莉子ちゃんがおっぱいと対話を済ませて覚醒ハイパーアルティメット莉子ちゃんになった今、その過程を味わっているのが六宇ちゃんとオタマ。

 こんなに強固な心の拘束もないかと思われるほど、2人とも「逆らう理由も意味も見出せません」「ねー」とガッツリホールドされたまま。


 これなら両手両足を縛られて目隠しヘッドホンでトランクケースにぶち込まれていた方がまだ心の拘束力は緩いとさえ言える。

 バルリテロリ乙女たちがそれを理解しているという事は、現世サイドから異論が出るはずもなし。


 既にこの場は莉子ちゃんの領域。

 ついに最強の男の嫁に相応しい、最強の乙女の肩書が随分と長い遠回りをしたものの、戻って来た。



「ねー。オタマー? あたし、何かミスった?」

「はい。六宇様」


 断定調で論じられると「あ。やっぱそうなんだ」と納得する六宇ちゃん。



「あ! 六宇さん! もちろん、わたしだって見返りをご用意しますよ!?」

「えー! そうなん!? なになに!?」


「わたしの同僚には六駆くんの小指の爪くらいですけど、ステキな男の人がいます! 六宇さんと合いそうな人、紹介しちゃいます! わたし!!」

「えっ……!? でも、クイントに悪いような……」


 莉子ちゃんが珍しくじっとりとした視線を六宇ちゃんの控えめな胸に向ける。

 もう莉子ちゃんは他人の乳を羨ましがらない。

 時々は憎みもするが、常時敵対する時期は過ぎたのだ。


 莉子ちゃんは六宇ちゃんの胸に問いかける。



「あの……。それって口を開けばおっぱいって言う人ですよね? スキルもおっぱい揉む感じの人ですよね? 六宇さん、その人の事好きなんですか? ホントですか?」


 莉子ちゃんが他人の恋愛にとやかく言うようになりました。



 六宇ちゃん、ほんの数秒悩む。

 彼女は恋を知らない女子高生(20)という、アダルティーなビーディオのタイトルになってしまいそうな稀有極まる存在。


「そんな気がしてきた!! 別に好きじゃないかもだわ!!」

「ですよねー!! わたし、何人か声かけてみます! 六宇さん可愛いもん!!」


 六宇ちゃんの吊り橋効果を勝手に解除した莉子ちゃん。

 これは評価が分かれるところか。


 クイントは頭と性癖と理性と品性が悪いだけで、六宇ちゃんに対する気持ちは本物。

 「高嶺のおっぱいよりも手の届く手のひらサイズ」なるスローガンを掲げて、命を捧げて来た。


 なんか酷いが、それでも確かに愛である。

 愛を重んじる莉子ちゃんが他人の愛を冷たい目で蹴り飛ばすとは、この世界で最も清らかな乙女ともあろうメインヒロインにあるまじき行為。


「わたし! 六宇さんとは仲良くしたいんです!! だって! えへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! 六宇さんとわたし、遠いですけど親戚になる訳ですし!!」

「ん? うん? そっか? ねー? うん……?」


 よく知らねぇ乳狂い野郎の愛よりも、自分の今後の親戚付き合い。

 多分、ひいじいさんは殺される。

 バルリテロリは探索員協会の管轄になるだろう。


 現世では国協が形骸化している。

 日本本部が最も力を保持している事を優等生の莉子ちゃんが知らないはずもなく。


 その日本本部を実質的に動かすのは誰か。

 南雲さんである。


 では、その南雲さんが唯一保持している子飼いの部隊で、なおかつ南雲さんが逆らえない部隊はどこか。



「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」


 チーム莉子である。

 莉子ちゃん、おっぱいとの対話で旦那に似たクレバーさをゲットしていた。



 六宇ちゃんとの関係は非常に大事。

 彼女を形式上の次期皇帝に据えてしまえば、その渉外にあたるのはチーム莉子。


 ここに親戚付き合いも盤石にしておけば、隠居がとても捗る。

 別荘地として定期的に訪れても良い。

 コンビニのネクターは美味かった。


「莉子ちゃん? 現世ってさ。いや、あたしバカなんだけどね? バカでも嫌がられない?」

「当たり前ですよぉ!! すっごくステキな人がいます!! でも、それはお楽しみとい

う事で! ささ! 戦場へ行きましょう! あと少し、頑張るぞー!! おー!!」


 莉子ちゃんの交渉術を見つめていた現世サイドの戦士たち。

 「これは、最後の戦いの前の真剣勝負が起きるな」と覚悟を決める。


 随員オーディション、決行である。

 六駆くんが息を引き取るまであと1分。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の日本本部。

 中庭ではせっせと働く久坂さんちの息子さんがいた。


「皆! 手の足りないところは私を呼んで欲しい! Aランクという地位は父上と兄上、そして姉上が与えてくれたもの! 私、久坂五十五はそのような過分な地位に相応しくないと考えている! どうか、遠慮なく声をかけて欲しい!!」

「ちっ。ざっけんなよなぁ、五十五ォ。おめぇがんな事言うからよォ。ひよっこの女どもが群がってんだよなぁ」


「確かにそうかもしれん!! あなた方のお役に立てるだろうか!!」


 低ランクの若手女子探索員たちが五十五くんの元へと駆け寄って来ていた。


「あの! 五十五さん! 豚汁のレシピを伺いたいんですけど!」

「確かに合わせ味噌かもしれん!! 信州味噌が多めかもしれん!!」


「すみません。太ももに擦り傷が」

「それはいけない! 『薔薇の癒し絆創膏ローゼン・ファーストエイド』!! これで間に合わせてから、私の背に!!」


「え゛。いえ、そこまでは! 自分で医療班のところに行きますので!! 作業を抜ける許可を頂こうと思ったんですけど……」

「確かにそうかもしれん!! だが、あなたの傷を診た私にも既に責任が生じているかもしれん!! さあ!」


「は、はい……!!」


 五十五くんがキャーキャー言われながら、名もなき女子後輩探索員を背負って爆速で中庭を駆け抜けて行く。


 気配りができて料理上手で全ての人を尊び誰に対しても、敵味方すら分け隔てなく接し、そしてバカと相性が良い。


「あ゛ぁ゛……? なんだぁ……? このクソみてぇな予感はよぉ……」


 あっくんは久坂さんと養子縁組をしているため、五十五くんとは血の繋がっていない兄弟。

 五十五くんが莉子氏の計略に、仮に、仮にであるが、組み込まれているとした場合。


「あ゛ぁ゛ぁ゛!? おい、てめぇ、ふざけんじゃねe」


 おわかりいただけただろうか。

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