第1231話 【莉子ちゃん敵国、最後の旅・その1】メインヒロインは戦場へ行きたい ~誰も止めない、だけどついて行きたくはない~

 ほんのちょっと前のバルリテロリ皇宮東側地点。


 我らがメインヒロイン小坂莉子ちゃんが自身の胸と向き合い、対話を済ませて最終覚醒をキメた事で現世サイドの大勝利で終えた戦いの後。

 負傷者は奇跡的に出なかったが連戦に次ぐ連戦に次ぐ連戦に次ぐ、もうなんかいっぱいいっぱいで、負傷をしたまま戦っているメンバーも多かった。


 特に死にかけているのはバニング・ミンガイル氏。

 かつての強敵のポジションも、現在の猛者のポジションすらも譲った氏だが、死にかけ現在進行形の座だけは誰にも譲らず。


「ふん。……チュッチュ・高見沢・ミンガイル。……これを使え」


 隣には振り返ってみるとチンクイント戦でなんで死ななかったのかよく分からない、ラッキー・サービス氏。

 この男、腹部を貫かれたはずなのだが「時間を停めて、その世界で3時間くらい応急処置して来たから平気」とかいう日向くんもびっくりの強引なドリブルで押し通した。


 3時間で腹の穴が塞がる。

 これがピースの掲げた選民思想である。



 うっかりピースを支持してしまいそう。

 「えっ!? 今からでも入れる保険が!?」というヤツである。


 入りたい。



「ふっ。先ほどダズモンガー殿から聞いた。……聞いてしまった。その練乳、煌気オーラ回復作用があるそうだな」

「……チュッチュチュッチュチュッチュ。……使え」


「新しいのを寄越せ!! お前!! 今、多めにチュッチュしたヤツを何故差し出す!? 私も日本の文化に詳しくないが、クララが言っていたぞ!! 部活でスポドリを回し飲みするのが青春だと! ……冗談ではない! なぜお前と青春せねばならんのだ!! もう62だ、私は!! あと、生理的に嫌と言ってはならんのか!? 日本の青春とやら!! 私は飲み回しなど、戦場でもなければ好かん!! こと、それが練乳に及べばなおの事!! 気持ち悪いだろうが!!」

「ふん。……チュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュ」



「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。

 楽しそうで何よりです。



 バニングさんとサービスさんが小鳩隊とみみみ遊撃隊with莉子氏のメンバーで重傷兵。

 それでも割と元気そうなので、スキル使いってすごい。


「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」


 ダメージを受ける描写が終ぞなかったクララパイセンのだみ声が響いている。

 先ほどからずっとである。


 ひょっとすると、初期ロットのパイセンのように活躍シーンを割愛されていた頃のアレがナニして、どこかで怪我でもしたのだろうか。


「クララ先輩。なんですか、これ。……ぷぇ。ペシッてやったら……ぼよんってなるよぉ。ふぇぇぇぇ……。こんなの人の体じゃないですよぉ……」

「だずげでに゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……!! 莉子ちゃんが栽培マンスタイルであたしに貼り付いて取れる気配がないぞなぁぁぁぁ……!! おっぱいタプタプされることにこんな緊迫感を抱いたのも初めてだにゃー!!」


 おっぱいと和解した莉子氏。

 現在はこの戦場で最も強いおっぱいと模擬戦闘訓練中。


 和解はしたが、急に仲良くもなれない。

 とはいえ、芽衣ちゃんから少しずつ慣らしていくと悠久の時が必要となる。


 じゃあデカいヤツに胸を借りるのが早い。


 「胸を借りる」とは相撲で「上位の力士に稽古の相手を頼む」旨を示す言葉だが、本当におっぱい貸してくれよという意味で使うと、持たざる者に貼り付かれた持ってる者は恐怖しかない。


「それにしてもですわぁー!! これから、どうするのが良いと莉子さんはお考えですのー!?」

「小鳩さーん!! なんでそんなに遠くにいるんだぞなぁー!?」


「……わたくしー!! ……ちょっと怪我をしましたのでー!!」


 怪我人が遠くから大声で会話をするメリットを知りたいとどら猫は思った。

 だが、どら猫は賢いので「メリットがあるからそうしている」事も知っている。

 普段は自分がいるはずの安全マージンゲット地点が、今は遠い。


「んー。わたし、ピュアドレスと仲良くなれたので! 今なら六駆くんの役に立てると思うんですよね!! どう思います? クララ先輩!! ……ぷぇっ。顔が弾かれりゅ」

「あたいのおっぱいに爆弾が埋まっとるぞな……。瑠香にゃーん!! 助けてにゃー!!」


 さすがどら猫、賢い。

 瑠香にゃんが人工皮膚をものすごく歪めて、とても嫌そうな顔で飛んできた。


「端的モード。ふざけるなよ、このぽこ野郎。瑠香にゃん、マスター権限には反抗できないので呼ばれたら来てしまいます。にゃん権、あるいはロボ権の取得を急ぎたいです。……ぽこますたぁ。オーダーをどうぞ」


 鉄腕アトムの時代には既にロボットの人権について論じられていたというのに。

 この世界は遅れている。

 瑠香にゃんはそう思いながら、しかめっ面を習得した。


「莉子ちゃん、莉子ちゃん! 瑠香にゃんのおっぱいが程よいサイズですにゃー!! 慣れるのにはちょうどいいと思うにゃー!!」

「瑠香にゃん砲のチャージに入ります。たった今、ぽこますたぁの明確な利敵行為を確認。グランドマスターのオーダー『とにかく早く勝って帰りたい』に反すると判断。チャージ、23%。もうこれで良いので発射します」


 莉子ちゃんがパイセンから離れた。

 瑠香にゃんが死を覚悟した。


「瑠香にゃんちゃんの意見が聞きたいな。わたし、どうしたら良いと思う?」

「はい。プリンセスマスター。すぐにグランドマスターの元へ駆けつけるべきだと思います。瑠香にゃんは1秒も惜しむべきだと付言します。ステータス『早く行け』を獲得。全隊員に付与します」


 莉子ちゃんがにっこりと笑った。

 やはりメインヒロインは戦いの中でも笑顔を見せるべきである。



「だよねっ!! じゃあ、誰かについて来てもらいたいんだけどぉー。えと、元気な人がいいかなぁ? あ、それとも経験を重視すべき? 指揮官してくれる人の方がいいかも! わたし、戦いたいし!! んー。悩むよぉ……」

「………………………………? ステータス『みんな、すまねぇ。こんなはずじゃなかった』を獲得しました。これは瑠香にゃんのおっぱいに格納します」



 メインヒロインは最終決戦の場にいなければならない。

 ヒーローの帰還を、その無事を、手を組んでお祈りしているか弱いヒロインは六駆くんに相応しくないのである。


 さあ、最後の随員を決めて、早いところ雌雄を決す時へと移行しよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふっ。……両手が砕けているな。これは。とても役に立てそうにない」

「んもぅ! 嫌ですわ! わたくし、両脚骨折してますわ!!」

「ふん。……練乳が足りん」

「み゛っ……」



 みんなで一斉にログアウトしようとする、仲良し現世サイド。



 既に莉子ちゃんのテリトリー内に足を踏み入れてしまっている猫たちは「にゃー」「にゃーです」と抵抗の無意味さを理解しているのでとりあえず鳴いて無能をアピール。


「ぐーっははは!! 吾輩は盾にくらいなれまするが!! 吾輩でお役に立てまするかな!?」


 ダズモンガーくんは莉子ちゃんに捕まった六宇ちゃんとオタマにグアル草のスープを作ってあげていたので、ようやく会話に復帰。

 火中の栗を拾うどころか、自分が弾ける栗になるのがダズモンガーくん。


「くっ……。私はなんと下劣な真似を……」

「わたくし、お胸が痛いですわ……」

「ふん。トラ、良いぞ。戻ったら極上の練乳をくれてやる」

「……みみっ。め、芽衣も! 芽衣もイケるです!! みぃぃぃぃ!!」



 高潔なトラさんを見て、3人が一斉に再度ログイン。

 「よく考えたらダズモンガーくんが一番ひでぇ目に遭ってた」と思い出す。



 このタイミングで各人、気付く。

 良い事をすれば良い事が、悪い事をすれば絶望がやって来るのが人の世。


「んー。じゃあ……。ダズモンガーさんは逆神流使えるし、一緒に来てもらって……。あ、でもでも! オタマさんと六宇さんのお世話する人がいなくなちゃう!!」

「ぬう。それはあまり良いとは言えないでございまするな。正々堂々とした戦いの後ならば、相手を最大限に遇するものが戦士のしきたりでございまする」


 ここしかない。

 何人かが手を挙げた。


 良い事をして、良い事に来てもらうのだ。


「ふっ。私はアリナ様と家事を分担している! 莉子!! 聞いてくれ! しかも私はアトミルカという犯罪組織を束ねていた男! 捕虜の扱いにも長けている!! 何人の探索員を連れ去ったか!! 国協の理事とかも連れ去ったな!!」

「なっ!? わ、わたくし! 皆様のお料理を最も多く作っていますのよ!? お料理だったらお任せですわ!!」


 捕虜の飯作るから、ちょっとすぐには動けねぇ。

 こんなにステキな理由がそこに落ちてる。


 拾わない理由を知りたい。


「み゛……。芽衣は……お料理もそんなにです。ダメダメな子です。だから芽衣、莉子さんと逝くです……」

「ううん! 芽衣ちゃんは後方司令官をわたしが任せちゃったし! もう休んでて! ここまでお疲れ様!!」



「……っ!? ぬかったぁ!!」

「わたくし、自分が恥ずかしいですわ……」


 芽衣ちゃま、一抜け

 しかし、が付いてる。



 『苺悪夢囲いいちごナイトメア』の中でグアル草のスープをズズズッとやっていた六宇ちゃんが呟いた。


「ねー。オタマー? あたしたちが案内してあげたら良くない?」

「はい。六宇様。違います。最悪です。私はもう、六宇様と絶交します」


「なんで!?」


 六宇ちゃん、口は禍の元という諺を知らない。


「そっかぁ!! そうだよぉ! 六宇さん! 一緒に来てくれますか!? わたしたち、お友達になれそうだなって思ってたんです! えへへへへへへへへへ!!」



「あれ? ……あれぇ? ねー? オタマぁ?」

「はい。六宇様。逝ってらっしゃいませ。御夕飯までにはお戻りください」



 六宇ちゃん、口は禍の元という諺を知る。


 ファイナル随員オーディション、開催の時。

 あと2分ほどで六駆くんが致命傷を喰らうため、巻いて頂きたい。

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