第1229話 【激突・その3】永く思えた、蝉の一生 ~まだワシ(蝉)は5日目くらいやからギリギリ鳴けるんや~

 今日大丈夫だったから、明日もきっと大丈夫。

 人の心を落ち着かせてくれる魔法の言葉である。


 確かに、その日を精一杯生きた者には明日に希望を抱く権利を与えられる。

 だが、明日の可能性を無限定に捉えてはならない。


 人はいつか死ぬ。

 だから、閃光のように眩しく生き抜こうとするのだ。



 ポップが言ってた。



 さて、であれば喜三太陛下。

 転生失敗を繰り返した結果、「死んでもどうせ生き返るんや!!」と御自身の可能性を無限定に確信していた偉大なる皇帝陛下。


 あろうことか、同じ血族のひ孫に論破される。


 六駆くんは賢いおじさん。

 社会復帰したての頃は莉子ちゃんにすら「もぉやだ! このおじさん!!」と唾棄されるくらいバカになっていたが、元々は賢い男子高校生だった。


 ついでに長きにわたり29年孤独に戦って戦闘IQは爆上がり。

 社会通念上の賢い生き方を思い出した彼に戦闘IQが合わさると、天下無双。


 バルリテロリに来るもっと前。

 四郎じいちゃんから喜三太陛下の話を聞いた時から、六駆くんは違和感を覚えていた。


 確かに、自分たち逆神家が能力で転生周回リピートするのは事実。

 これは自身も6度経験したのだから疑う必要なく、次の思考シークエンスへ。


 17歳で能力が発現する点。

 これはなんでそうなるのかクソ親父に聞いてもじいちゃんに聞いても分からなかったので、放置。

 分からん事を「なんで分からんのや」と考えるのは無駄な事と切り捨てられる思考も六駆くん強さの秘訣。


 そして次。

 ここが引っ掛かった。


 ひいじいちゃんが転生失敗したのは良いとして、どうして失敗を繰り返しているのか。

 思考を発展させる。


 よく考えたら、自分やダメ親父、じいちゃんはどうして転生しなくなったのか。

 ひいじいちゃんだけ繰り返し続ける理由は。


 そこで仮説にたどり着く。


「あれ? 僕たちみんな、心が折れてヤメてるよね。崇高な使命(笑)を。だって、やってる事は地獄の所業なのに、得られるものって何もないじゃん」


 この仮説を披露したタイミングはバルリテロリへと向かう直前。

 呉で口に出してみた。

 その相手が大吾だったのが、意外にも幸運だった。

 みんな準備で忙しそうだったのである。


「あん? そんなもん、六駆が今からもう1回死んだら分かるんじゃね? そのまま死んだら、合ってるし? 死ななかったら合ってないんじゃね?」


 六駆くんは「親父でもたまには役に立つなぁ」と感心して、右手に『光剣ブレイバー』を出してから素早くササっとギコギコはしませんと言わんばかりに滑らかな太刀筋で大吾をなます斬りにした。


「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うわぁ!! 親父、この程度じゃ死なないんだった!!」



 ならば、どうして斬ったのか。



 ただ、この段階でほとんど確信に近い手ごたえを感じていた六駆くん。

 その後、バルリテロリ宙域でイドクロア拾いしている間にみつ子ばあちゃんが陛下をぶち殺したと聞いた時には「分かった! ひいじいちゃんだけ周回者リピーターが終わらない理由! これ、メンタルだ!!」と原因の特定を完了。


 どうせ死なねぇという強い確信が逆神喜三太の失敗転生周回リピートを繰り返させているという答えにたどり着いた。

 が、誰にも言わなかった。


 何故か。


「ひいじいちゃん!! 人はね!! 死んだら生き返らないんだよ!!」

「そんなはずないやろ!! 生き返るんや!! ヤメろや! 怖い話するの!!」


 最も効果的なタイミングで発言する事によって、どんなスキルの発現よりも不死を気取る賞金首ひいじいちゃんの首回りをスッキリひんやりさせる事ができると思っていたから。

 盗聴の可能性にはとてもすごく大変に気を付けた。

 せっかくのサプライズが台無しになってしまう。


 それ故、口には出さなかった。


 死んだら生き返らない。

 子供でも知っている世界の摂理なのに、逆神家にはとても効く。


「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!! さあ! この僕の剣に煌気オーラを込めて! 刺さってるひいじいちゃんのお腹を中心に少しずつ外側へ向かってグリグリしていくと……!! どこで死ぬのかなぁ!! うふふふふふふふふふふふふふ!!」



 この子は主人公です。



 別に拷問をするつもりはない。

 たった今「ワシ、死ぬかもしれん!!」とおそれを覚えた中身100近いじじいに「ほーらほら! 殺しちゃおっかなぁ!!」と脅しをかけていくことは、スキル使いの力の源、メンタルをゴリゴリ削る。


 実際に六駆くんはジキラントをピクリとも動かしていないのに、喜三太陛下の御顔の色がかつてないほどに悪化していく。

 血色良く赤ピクミンみたいに戦いの高揚感で満ちておられた顔面は今や昔。


 ほんの数分で黄土色ピクミンという名の新種が生まれていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 待てぇ!! ひ孫……。聞いてくれ……。この世界の半分をお前にやるで? いや、待て! 現世を一緒に支配しよう!! 好きな女、抱いてええで!!」


 陛下の中ではドラクエ1の思い出も割と最近。

 今の子供世代にはもう伝わらないネタであるからして、六駆くんも「何言ってんの?」とすげない返事をする。


「ぶーっははは!! ワシとお前が組めば!! 隙ありぃぃ!! 『大危機入れ替えピンチはチャンスぅ』!!」

「あっ! くそっ!! 小賢しいな!!」


 喜三太陛下の十八番。

 転移スキルである。


 ジキラントと六駆くんの居場所を置換する、最近ピュアドレスちゃんの送り付けで福田弘道Sランク探索員が使ったスキルに似ている。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

「遅い!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『教育的平手打ちマシンガンビンタ』!!!」


「あ、痛い!!」

「ふっざけんなよ、お前ぇぇ! なんでワシの全力スキルが痛い! で済むんや!! 頭取れろよぉぉ!! くっそぉ!!」


 死へのカウントダウンが始まった喜三太陛下。

 だが、追い詰められると人はしぶとい。


 死ななければええんや。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ナグモさんは引っ込めておいた理性を取り出して、理性の戦士・ナグモへと換装。

 目の前ではガチャンガチャンと本当に換装しているテレホマン。


「……カッコいいなぁ」


 ナグモさん世代には合体変形機構とかぶっ刺さるのである。

 そして、「どうせ逆神くんがそろそろ皇帝殺しちゃうだろうから、私は彼の足止めしておけばいいな」と高を括っている。


 これはいけない。

 監察官一の知恵者、南雲さんらしくもないミスである。


 今はナグモさんなので、だったらまあ、らしいミスなのかもしれない。


「……………………やはりこの白衣の御仁。異常者を装っているだけか。しかし、それにしては演技が迫真極まっておられた。察するに、普段からよほど異常者に囲まれて過ごしておられるのだろう」


 換装中のテレホマンは割と強い。

 テレホ・ボディに全身が覆われるので何もしなくても高硬度の鎧を纏っている状態であり、スキルではない純粋な兵器のテレホ・ボディは勝手に変形するため思考のためだけに使えるシンキングタイムモード。


 なおかつ変形したら何かして来ると相手は身構えてくれるので、時間も稼げる。


「陛下のメンタルを立て直さなければ……。しかし、それは叶いそうもない。あの御顔。まるで、かつて皇宮にて夜這いを仕掛けた際、お相手がシャモジ様だった時の御姿を彷彿とさせる。1ヶ月ほどお粥しか召し上がられなかった事を考えれば、今、この場でメンタル攻撃に処置ができようはずもない……! 仮にそれが叶ったとて、私では足りぬ……!!」



 シャモジ母さん最強説は未だ根強い。



「長いな。変形。……攻撃しても良いのだろうか。ダメかな?」


 ナグモさん(理性ゲット)という、下手すると南雲修一における最弱の形態でテレホマンを見つめる監察官殿。

 その様子を見て、バルリテロリの総参謀長も天啓に導かれる。


「この御仁の余裕……! 絶対的なひ孫様への信頼感か!! ならば……!! そこを壊せば……あるいは!! 電脳ラボ!!」


 ガシャンガシャンと音がし続けているので独り言なんかいくらでもし放題のテレホマン。

 電脳ラボと同期する。


 総員退避命令を無視しまくった、愛すべき部下たちはすぐに応じた。

 欲しい情報なんかとっくに揃っている。

 山ほど被害を出した代わりに、六駆くんの弱点だってゲットしている。


 バルリテロリにとって唯一のアドバンテージ。


「……イケる!! 分裂!! 『テレホ・レディ』!!」


 四角い姿をしたテレホマン♀みたいなヤツが誕生した。

 ナグモさんは得物を六駆くんに貸しているので、身構える。


 お忘れかもしれないが、氏は「武器取られたらただの面白枠ですよ!!」とか六駆くんに言われた事があり、あれはピースとの戦いの最中だったか。

 ノアちゃんの初任務でダンジョン探索されられた時に、古竜の爪による爪撃スキルを習得していた。


「こうして会話する事も初めてなのに私ね、失礼な事を言いますが。あなたの相手が務まりそうだ!! はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「結構! 私は元より、貴官とやり合って勝つつもりなどない!! 『テレホ・レディ』! 発動!!」


 機械的な女性の声が大音量で発せられる。


『日本円は安定していると言われておりますが、安定は永遠ではありません。かつてジンバブエドルというものがありました。登場当初、1ジンバブエドルは1米ドルよりも価値が高かったのです。しかし、悲劇が起きました』


 YouTubeでよく見かけるお饅頭による解説動画みたいな声は、作業をしていても耳に入って来る。

 それは戦闘でも同様らしく、六駆くんの注意が少しこちらに向くのを長い付き合いのナグモさんは察した。


 理性を戻していたので、テレホ・レディの解説がどれほど恐ろしいものかを瞬時に理解する。


「だ、ダメだ!! 逆神くぅぅぅん!! 聞いちゃダメだよ、これ!! 君に最もキクぞ!! これぇ!!」

「えっ!? だってお金の話ですよね!?」



「お金が死ぬ話だよ!!」

「うふふふふふふふふふふふふ!! そんな事ある訳ないじゃないですか! 一時的に価値が下がる事はあっても! うふふふふふふふふふふふふふ!!」


 六駆くん、半端にお金の知識をつけたせいで、彼はまだその恐怖を知らない。



 ハイパーインフレーションの魔手が、最強の男に襲い掛かる。


 次回。ジンバブエドル、死す。

 デュエルスタンバイ。

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