第1228話 【激突・その2】夏の終わりのひまわり ~今明かされる、実はずっと明かされてた、周回者終了の条件~

 ここまで阿吽の呼吸を見せて来た、バルリテロリ皇帝・逆神喜三太とバルリテロリ総参謀長・電脳のテレホマン。

 基本的に喜三太陛下の皇道にテレホマンが付き従う形での連携プレーだが、電脳を冠する総参謀長の名は伊達ではなく、完璧に陛下の補佐をこなして見せる。


 対して、無償の敬愛を受けている喜三太陛下もテレホマンのサポートには絶対的な信頼をもって応えており、彼の身に危険が迫れば目的の遂行よりも優先して助けるという長年連れ添った夫婦のようなやり取りでこの戦争を生き抜いて来たコンビ。

 いやボコボコやないかいと言われることなかれ。


 六駆くんと交戦して生き残っているケースは過去にもバニングさんやサービスさんが経験済みだが、思い出して頂きたい。

 喜三太陛下はみつ子ばあちゃんのフルパワー殺戮ハッスルモードとも相対してなお、まだ人の形を維持している。


 これは偉業。


 厳密には1回死んでいるが。

 自分の「どうせ死んでも転生し続ける」という特性を活かした作戦である。


 死に慣れているという唯一無二の経験値すらストロングポイントに変える。

 これがバルリテロリの皇道。


 かつて、ここまで善戦を続けた組織は存在しなかった。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「ぶーっははははは!! ひ孫ぉ!! お前のそのチャージは長すぎるんだわ!! ワシの前で隙を見せたが最後だ!! ばぁぁ」


「チャオ!! それはチャーミングじゃないな! セニョール!! 『自暴自棄刀身伸突チャオチャオ・パニッシュ』!!」

「ばぁ、ああああ! 痛い痛い! こいつマジか!? ひ孫の背中ごとワシをぶっ刺して来たで!? 頭おかしい超えとる!! 痛い痛い痛い!! 普通に剣が腹に刺さった!!」


「あ。気付きませんでした? それ、僕の幻ですよ。『幻想身ファンタミオル』!!」

「チャオ!! 愛なき眼には見通せなかったようだね!! 刺さったジキラントをぐりぐりさせてもらうよ! 愛の理解には痛みも伴うのさ!! チャオ☆」



 ついにキラッが出てしまいました。



 今回はタッグ戦。

 六駆くんの相棒と言えば常に莉子ちゃんだったが、相性的には最高でも、それはプライベートがガッツリ入り込む前のお話。


 今や婚約者の六駆くんと莉子ちゃん。

 六駆くんは莉子ちゃんに気を遣うし、莉子ちゃんは六駆くんに色目使うし、正直公私混同し過ぎてどっちも最強格なのに組んだ方が弱くなるという不思議が発生して久しい。


 それを理解できない最強の男ではなし。

 ゆえに、ここ最近の猛者を相手にするケースでは六駆くん、意図して単騎で挑んできた。


 ピースとの戦いでのVSサービスさんがとてもよく分かる好例。

 莉子ちゃんには分隊の指揮を執ってもらう事で戦いやすい環境を整え、同時に自分と同格の戦力かのじょダンジョンなうを運用して見せた。


 悪例としてはVS逆神孫六が挙げられる。



 六駆くんも孫六もショートパンツちゃんもひでぇ目に遭った。



 だが、今回組むのはナグモさん。

 2人だけで組んで戦うのはルベルバック戦争のさらに前。

 日須美ダンジョン攻防戦まで遡る。


 しかしこの2人、相互理解という面では現世サイドの誰を選ぶよりも優れている。

 六駆くんは「うわぁ! ナグモさんって最高ですね!」と全幅の信頼を置く数少ない猛者として、上官として、南雲監察官時から古龍の戦士・ナグモ時までのオールタイムで背中を無条件に預けることができる。


 対してナグモさん。

 六駆くんに振り回された回数は監察官一の知恵者に「うん。もう数えるのはヤメたよ?」と言わしめるほど。

 数えるのを諦めるくらい振り回されても見捨てないのは、六駆くんに対して恩義があるのはもちろんである。


 南雲さんは六駆くんに生き返らせてもらった回数がトップである上に、嫁さんとの出会いを演出してくれたのも彼で、アトミルカとの戦いなどでは逆神家がいなければ敗北して、生き返れない死を迎えていた事も明らか。


 それはそれとして、「逆神くんにはなんだかんだ言って、根っこの部分には良識が残っている」と見抜いているのが南雲さん。

 「お金かかるけど!!」と付言はするものの、「逆神くんは道を外れない」と確信しているからこそ、これまでの作戦で重要なものを多数任せて来た。


 こんなに強固な信頼の絆はそうそうない。



 「お金かかるけど!!」ですら、信頼の1ピースにできるというのはもうよっぽど。



「さて! ひいじいちゃん!! 死んでもらおうかな!!」

「ふ……ぶーっははははははは!! 喩えワシが今! この瞬間に」


「チャオ!! 『自棄乱刀ジキラント大回転サイクロン』!! ふっ☆彡」

「おぎゃぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあああああい!!! おまぁぁ、お前ぇぇぇぇ! 喋っとるやろが!! 今、ワシ!! まず1度刺したら刀は抜けよ! 相手からぁ!! 常識ってねぇのか、現世の探索員には!!」


「えっ!?」

「チャオ☆」


 陛下がいっそ冷静になられた。

 一兵卒であれば、顔を真っ赤にして憤慨していたかもしれない。


 だが、偉大なる皇帝陛下は理解する。

 「ワシ、喋っとるのに邪魔されたで? マナーやろ? ラスボスが喋っとる時は話を無条件で聞くってさ? しかもあのチャオと叫ぶ異常者の刀……刺さっとる……まだ……! ワシの腹に!!」と。


 ここでムキになったらガチのマジでこのまま敗北まである。


「もうええわ! 刺しとけ! 刀!! ワシの腹肉で固定してやる!!」

「陛下。腹筋でございます」


「違うで、テレホマン!! ヤツの刀が伸びた先、見てみ? ワシのお腹貫通しとるからな。これはもう腹肉や! 腹筋は刀においでませした後や!!」

「は? ……ははっ!!」


 腹を貫かれながら会話に戻る喜三太陛下。

 この領域に到達した者たちは、腹刺されたくらいで会話を止める必要すらないのだ。


「ぶーっははははははは!!」

「逆神くん! 愛のチャオ内臓ズタズタをするかい!?」


「あ。ちょっと気の毒なので待ってあげましょうか」

「ワオ! 急に優しくなる君はチャーミングだね!! どうせその優しさが上げて落とすシークエンスの一部だと思う私は、哀しみを知り過ぎたのかな☆」


 喜三太陛下が大きく頷かれた。

 「喋っても酷いことされんのやな!?」という確認である。


「早くしてもらえます?」

「ぶーっはははははは!! その余裕を打ち砕いてやろう!! ワシは死んでも転生する!! 喩え死んでる間にバルリテロリを滅ぼされたとしても!! ワシが転生すればひ孫ォォ!! 次はお前を超えるぞ!! 今だってトントンやろが!!」


 六駆くんが「えっ!?」と驚いた顔をした。

 まさか、そこを計算していなかったのか。


 違う。


 彼の「えっ!?」は「まだ気付いてないんですか?」の「えっ!?」である。

 六駆くんは簡単に死刑宣告を下す事にした。


「ひいじいちゃん? 僕たちの転生周回者リピーターを終わらせる方法、知らないんだ?」

「ぶーっはははは!! そんなもんあるかい!! あったらワシ、とっくにヤメとるで!!」


「あ、それですよ! それ!!」

「どれや!!」



「僕らってね。じいちゃんもクソ親父も、それから僕も。転生周回リピートしてる回数は違うけど、終わった時はみんな同じ条件踏んでるんですよ。。もうやってらんない! って本気で思ったら、どうも転生周回者リピーターのシステムが終わるみたいなんですよね。ほら、スキルはメンタル勝負だから。僕らの能力も煌気オーラに起因するっぽいですし。……ひいじいちゃん? 今、心、折れたでしょ?」

「ぶーっはははははは! ぶーっはっはははっはははっは……はぁぁぁぁぁぁっ、はぁ、はぁぁぁっ? はぁぁっ、ひぃぃぃん、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」



 大変な事が判明した。

 使


 思い出して頂きたい。

 この世界が産声をあげた時、それは六駆くんの異世界転生周回者リピーターが終わった時。


 彼の心が折れた時である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 喜三太陛下の高笑いが、初めて淀んだ瞬間であった。

 これまでどんな苦境に立たされても高笑いだけは美しくキメ続けて来た、陛下のアイデンティティと呼んでも差し支えないものだったのに。


「へ、陛下!?」

「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ヤバい、テレホマン……!! あかん……!! ワシ、確かに今、心が折れたかもしれん……!!」


「し、しかし陛下!! 敵の戯言でございますれば!! それが事実であるか否か、判断する方法がございません」

「そこや、テレホマン。ワシ、こんなん聞かされてやで? せやったら、ちょっと死んでみたる!! って言えんのや……。これ、あかんで。ひ孫の言う事は確かにウソかも分からん……。けど、本当かもしれんのや。まずい!! 死なれんぞ、この戦い! もうワシ、死なれんで!! 死んだら死ぬ気がする!!」



 死んだら死ぬ気がする。

 陛下は至極当然な事を口にされたのに、なんだかこの世界で最たる秘密を暴かれたかのようなモニョっとした気配が漂う。



「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」

「く、くっそ!! ひ孫ぉ!! なに勝ち誇っとるんや!! 1つ教えといてやる!! 勝てばええんや!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「ナグモさん!!」

「チャオ!! 逆神くん、ジキラントを貸してあげるよ!!」


 あろうことか、専用武器と銘打っている武器を味方内で使いまわす暴挙に出るナグモ・六駆コンビ。

 六駆くんが勝手にパクった事はちょっと前にあったけれども。


 ナグモさんが古龍の戦士として振るっているタイミングで「ちょっと貸すね!!」と敵にぶっ刺さった状態の大太刀をタッチ交代。


「うふふふふふふふふふふふふふ!!」

「お前ぇぇぇぇ!! いくらなんでもマナーなさ過ぎやろ!!」



「えっ!? さっきから疑問だったんですけど。戦いにマナーとかってあるんですか? 勝てばええんや、でしょう?」

「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! クソがぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 喜三太陛下の煌気オーラ爆発バースト

 同時に六駆くんの両手に部分煌気オーラ爆発バースト


 夏の終わりのひまわりのように、テレホマンの頭の角度が割と下の方まで来ていた。

 場面転換したら「ひまわりは枯れても、種が遺る」とか、そんなナレーションで全てが終わるまである、晩夏の気配。


 バルリテロリ。

 夏が過ぎて風あざんで、誰ぞの憧れに彷徨うか。

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