第1227話 【激突・その1】逆神六駆&南雲修一VS逆神喜三太&電脳のテレホマン

「うわぁ!!」


 奥座敷の、失礼、奥座敷だった場所があった階下では。

 六駆くんが疑問符をひとつまみ加えた感嘆の「うわぁ!」をあげていた。


 隣には理性が戻ってきてしまったナグモさん。

 監察官一の知恵者らしく、隣にいる逆神特務探索員の心中を我々に示してくれる。


「そうだね。君がスカレグラーナに送り付けた爆発が、どういう訳かまたこっちに戻って来て。しかも的確に敵の隠れ家を燃やして。というか、今も燃えてる真っ最中で……。そりゃね、うわぁって声も出るよ」


 バルリテロリ皇宮の上の部分が爆発炎上中。

 喜三太陛下が煌気オーラ防壁で囲んだため、延焼火災に発展はしない。

 発展しないというだけで、奥座敷が燃え尽きるのは確定している。


 「火事と喧嘩は江戸の華」とかいう笑えない言葉は現代でも残っているが、江戸時代における江戸の町では常軌を逸した数の火災が起きていた。

 一説には267年の間に大小合わせて1798回の火事が起きたとされており、令和の時代で良かったと思わざるを得ない数字である。


 理由はいくつかあるが、まず江戸に人口密集し過ぎ問題。

 武士以上の階級が権力をゲッツしていた時代であるからして、武家屋敷の敷地面積は変わらねぇのに人がどんどん増えるので町人地の人口密度はヤバいを超えてもう怠いレベルに到達していた。


 江戸の総面積における武家地の割合は約70%とされており、重ねて令和の時代で良かったと思わざるを得ない。


 さらに放火がむちゃくちゃ多かった。

 少し前にも触れたが、現在の刑法でも放火は厳罰に処される忌むべき行為。

 そんな放火がでぇブレイクして、町人の日常をデイブレイクしていた江戸時代。


 失うモノのない者はとりあえずその辺に火をつけて火事場泥棒で生計を立てていたという話も残っているし、奉公人に対して待遇改善の抗議としてとりあえず火を付けていたという耳を疑いたくなる事情もあるとかないとか。

 しまいには「ふと火をつけたくなった」という、もう耳を疑うとかそういう領域には収まらない者もいた。

 これは『御仕置裁許帳』にも記録が残っており、下手人の女は正月に放火をキメた際、奉行所でそう供述したという。



 ちなみに六駆くんとナグモさんは似たような動機で奥座敷に火を放ったので、あまり強く非難できない。



 江戸時代では火事が起きると大八車に貴重品を乗せて避難する。

 するってえと火消しがやって来る訳である。

 我々にとって聞き馴染みのある「め組」だが、これは火消しチームの1組に過ぎず、いろは四十八組が存在して、それがさらに何隊もあった。


 このままだと江戸時代の火事事情で尺がアレするので、諸々をすっ飛ばして結論へと向かうが、火消しが「あー。これはダメっすね」と判断した場合、蔵などの貴重品が詰まっている建物や、やんごとねぇ身分関係の建物を守るため、周囲の家をぶっ壊して延焼を防いでいたという。


 それが今のバルリテロリ皇宮における奥座敷。

 こちらは逆に、やんごとねぇ身分の皇帝陛下がおわす場所を放棄することで階下への延焼というか、皇宮全焼を防いでいた。


 喜三太陛下をはじめとする最後のバルリテロリサイドの人員は上空へ退避済み。

 戦いとは何がどうなって上手いこと行くのか分からないものであり、燃える奥座敷が遮蔽物の代わりをこなして、六駆くんたちのいる場所からは上空の様子が分からない。


 これは大変にディスアドバンテージ。

 上空からの急襲を許してしまう。


 ゆえに、最強の男はこうする。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん! 『黄金色エルドラ大竜砲ドラグーン』!!!」


 六駆くんが奥座敷を吹き飛ばした。

 多分バルナルド様に対して「ちょっと悪かったかな」という思いが金色のブレスとして発現された模様。



「よし!! ノア!!」

「ふんすです!! とおー!! 『ホール』!!」


「よし!! ライアンさん!!」

「はっ。…………分析完了しました。ノアちゃんの穴を通して確認。敵は上空に4名。煌気オーラ反応が戦闘可能レベルの者は内、2名。半分は負傷兵でしょう。1名は皇帝です。もう1名は四角い男です」


「よし!! ナグモさん!」

「よし! じゃないよ、君ぃ!! おかしいでしょうよ、逆神くぅん!! いや、私もさっきヤってるけども! 敵拠点だよ、そこ! 勝った後には色々と検証しないといけないのに!! なんでその親玉である皇帝がいたであろう、最重要ポイントを消し飛ばすの!?」


 六駆くんが真顔で答えた。



「えっ!? ナグモさん!? 今は戦争中ですよ? 終わってないのに戦いの後のこと考えてるんですか!? 大事な場所なら、勝ってから復元すれば良いじゃないですか!! 敵からこっちが確認されてるっぽいのに、こっちは敵の場所が分からないとか、1番ダメなパターンですよ!? ナグモさん!! 昔、下柳さんでしたっけ? なんか太った人! あの人に後ろから刺されて死んだの忘れたんですか!?」

「………………………………うん。ごめんね」


 戦いの事になると急にマジレスされるので、ナグモさんがしょんぼりした。



 見晴らしの良くなった空にはノアちゃんとライアンさんの有能分析班による報告通り、ドン引きした表情の喜三太陛下が六駆くんを見つめていた。

 その隣には無表情、四角い頭の総参謀長。


 すぐに「あれが残りですね! 2人! 行きましょうか、ナグモさん!!」と計算を終えた六駆くん。

 今回は彼がクレバーな判断をしたというよりは、ノアちゃんは正攻法だとザコ寄りのザコで連れて行けないし、ライアンさんはとっくにガス欠なので人員が自陣も2名しかいなかっただけの事。


「じゃあ! 僕がなんか四角い人の相手しますから! ナグモさんはひいじいちゃんの相手をお願いできますか?」

「よし、分かった! ……いや、お待ちよ逆神くぅん!! 君ぃ!! 私の命の価値がすっごい軽くなってる!! 分かるよ!? 確実に落とせる方から片付けて、その間に私が殺されたら生き返らせるんでしょう!? けどね、逆神くん!! 死ぬのって痛いんだよ! 生き返らされた後は記憶消えてるから、これ予想だけど!! 君ぃ! 死んだ事はないだろう!! 私はある! 何回も!!」


 やっぱりクレバーだった六駆くん、人の心など戦いに不要と言い切る。

 しかし、皆が六駆くんの位まで追いつくと世界は終わりかと思われるので自制を求めたい。



「ナグモさん? 僕、6回死んでますけど。割と痛いですよ?」

「あ。……ごめんね」



「仕方ないですねぇ。じゃあ、ナグモさんが四角い人の相手してくださいよ。良いですか? なんか変な能力で爆発トラップ仕掛けて来る人ですからね。爆発しないでくださいね?」

「さ、逆神くん……。なんだかんだ言って、やっぱり心配はしてくれるんだね」


「いえ、爆発されると邪魔なので。僕も本気出さないとひいじいちゃんは殺せないだろうなっていうのはさっき戦って分かってますし。急に近くで味方に爆死されると、さすがに僕でも集中力がちょっとくらいは持って行かれるんですよ」

「…………………………そう」


 最終決戦。

 マッチアップが決した瞬間である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 上空では。


「もうさ……。現世いらんわ、ワシ。あのひ孫が絶対に支配しとるやろ。よく考えたら、おかしいんだわ。なんで30年前の一斉侵攻はほとんど完封勝ちしてんのによ? 今回はこんだけ苦戦してんのかって。……全部、ひ孫のせいやろ!! あいつぅ!! 現世の王かなんかやろ!! そんな土地、もういらん!!」


 半分くらいは正解している辺り、さすがは陛下。

 御慧眼であらせられる。


 隣でテレホ・ボディ飛行ユニットに換装したテレホマンが念のために忠言を試みる。


「では……。降伏なさいますか?」

「そうやな。……ぜってぇ降伏なんかするか!! 悔しいやろ!! このまま負けを拗らせて! 散々ボコボコにされたひ孫にごめんなさい、許してくださいって言うの!! しかもやで!? よしんば! 許してくださいって頭下げたとしてぇ!!」


「あ。はい」



「ワシの下げた首から先をその瞬間に叩き落とすやろ! あのひ孫ォ!! そんならワシがひ孫の首を叩き落としてから、それ手土産に講和じゃ!! 最後は勝つんや!! 勝てばええんや!! そうやろ! テレホマン!!」

「は。……ははっ!! もう何をしても手遅れかと愚考いたしますれば! 最期の時まで私はお供いたします!!」


 勝てばええんや。

 ここで勝てば、トータルで負けてても引き分けなんや。



「やるで! テレホマン!! 煌気オーラを高めろ!! ばぁぁぁa」


 喜三太陛下が一旦ヤメていた煌気オーラ爆発バーストを再度始めたタイミングだった。

 ついさっきまで「なんや……あのひ孫……」と冷めた目で見つめていた場所。

 そこにはもうひ孫がいなかった。


 上空にはノアちゃんの出した穴がある。

 『ホール』と『ゲート』は構成術式が同じ。

 六駆くんに『ホール』は出せないが、『ゲート』ならいくつでも出せる。


 六駆くんのいた場所には小さい門が生えていた。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『墨汁おしる三重トリプル』!!」

「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 目が、目がぁぁぁぁぁ!!」


 穴から出て来た六駆くん、先制攻撃。

 有利なポジショニングをキメていた喜三太陛下、いささか慢心と油断があったか。


「陛下!! 『電話砲テレホガン』!!」


 すぐにテレホマンが右腕を砲門に換装して六駆くんの背中を撃つ。

 この総参謀長、自分の弱さを理解しているため正々堂々などと言っていられないことも承知済み。


 背中からだろうと躊躇なく撃つ。


「チャオ!! やっと返してもらえた私の愛刀!! ジキラント!! 『古龍大斬撃ドラグブレイカー』!!」

「へ、陛下ぁぁ!! 理性的な姿を装っていた異常者も上空へと!!」


 ナグモさんはまた理性を捨てた。

 というか、ここに来て理性を出したり引っ込めたりする術を身に付けるに至る。


 逆神家の戦いに巻き込まれたのだ。



 こんなもん、理性があったら頭おかしくなる。



「ワオ! チャーミングな頭だね!! セニョール、君の名は?」

「陛下!! 自爆してよろしゅうございますな!!」


 バルリテロリ最終決戦。

 テレホマンが常識人格付けチェックの最上位へと躍り出た。


 いやさ、とっくにその地位は堅守していたのかもしれない。

 いつからなのかはもう分からない。

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