第1226話 【逆神喜三太、家を焼く・その2】バルリテロリで学ぶ、ふんわり因果律(なお、信じると恥をかく)

 異世界スカレグラーナからこんにちは。

 ほんの4日前に太陽が降って来た当地だが、今はとっくに普段の静かな環境を回復させていた。



 ほんの4日前というのは、だいたい10ヶ月くらい前のことである。

 だいたい去年のお盆くらい。

 ガンダムSEED劇場版の予想で盛り上がっていたのが4日前。



「卿。ムリポと申したな。郷里の妻子を案ずる気持ち、余には経験こそなれど。その慈しみの心は分かる。しかし卿。敢えて申すが、卿が悲観しておったところで状況が好転する訳でもなし。言い換えれば、状況が悪化する訳でもない。飲まず食わずではいかな屈強な戦士でも体がもつまい。ホマッハ族の者たちが蒸かしてくれた芋があるゆえ、食すが良い」


 お久しぶりでございます、帝竜バルナルド様。


 いつの間にか帝竜のお姿が帝竜人に戻られていた。

 そして、現在はスカレグラーナで形式上は捕虜扱いだが、扱い上は客人扱いうというちょっと難しい日本語を発生させているのが、八鬼衆が1人。


 哀愁のムリポである。


 全滅したみたいになっている八鬼衆だが、意外と生きている。


 哀愁のムリポ以外にも、現世の久坂家には爽快のキシリトール。

 ルベルバックには正式な八鬼衆ではないものの、不飲のナタデココ。

 バルリテロリ本土決戦跡地に転がっている西のハットリ。


 それ以外は再起不能だったので、半分生き残っている計算になる。

 ムリポを含め前者3名は割と高潔な戦いをしたご褒美なのか、結構安全マージンを確保してバルリテロリ戦争の終焉の始まりを知らずにいる。


 始まるのか終わるのか。


「このムリポ。貴官ら、竜の者たちに刃を向けてなお施しを受けるなど……ちょっと心がムリポ。部下たちに与えてやってくれぬか」


 冥竜人ナポルジェロがやって来て、蒸かした芋の追加を差し出す。


「貴公の部下たちならば、あちらでジブリ作品を見ておるが?」

「……その適応能力はムリポ。哀しい。皇帝陛下の臣たる我は、一体この心をどちらに向ければ良いのか。部下たちを叱責すれば良いか。それともこの不甲斐なき将を責めぬ寛容さを賞賛すれば良いか。ああ……。哀しい……」


「卿。生きづらそうな性格をしておるな」

「バルナルド様。こちらのホクホクなお芋をどうぞお召し上がりください」



「ナポルジェロよ。卿が余との友誼を3000年と申した事、余はまだ忘れてはおらぬ。余は卿と友誼を結び4000年ときっちり覚えておったところに1000年のカウントミス。卿。どのような気持ちで余が今、ここに座っておるか。それが分かるか? 卿?」


 バルナルド様は4日も寝ずに不甲斐なくぶち殺された幻竜人ジェロードと冥竜人ナポルジェロの看病をしていたのに、あろうことかその要介護者が「3000年の友誼は伊達ではございませんな!!」と笑顔で舐めた口キメた事、根に持っておられる。



 そんな「まずい。バルナルド様がメンヘラ女子みたいになっておられる……」と自分のやらかしを悔いながら、古龍としての格上の帝竜が未だにいじけている現状に苦悩していた竜人の黒いヤツが、気付いた。


「バルナルド様!! 何かが転移して参ります!!」

「卿。その流れはもう済んだ。余も、余と共にあるスカレグラーナの大地も、爆発物を送り込まれたり太陽を山ほど降り注がれたりと、散々な目に遭い過ぎたこと、既に承知しておる。かような話題逸らしなど卿の口から聞きたくはなかった」


 いじけるバルナルド様。

 供にテンションが低下したのは隣にいるムリポ。


「このムリポ。面目次第もない……。竜の者たちにここまで厚遇されておるというのに、我は『太陽がいっぱいアラン・ドロン』で殺戮行為を……」


 遠くにいるホマッハ族たちが反応した。

 彼らの聴力は人間の8万倍ほど優れているので、3県向こうにあるイオンのフードコートで「注文された石焼ビビンバできましたよー」と鳴るブザーの音も聞き漏らさない。


「鬼! 元気出せ!!」

「ホマッハ族、頑丈! あの程度で死なない!!」

「ホマッハ族、元から熱に強い!!」

「スカレグラーナ、火山いっぱい!!」


 ムリポが「ああ……」とよろしく哀愁をキメたところで、ナポルジェロの報告がちゃんとした報告だったという、小学生の読書感想文でももう少しエッジの効いた表現をするであろう事態がおいでませ。


 ゴウンッと音を立てて、爆発が降って来た。

 読書感想文を書かされる事の意義が分かる。

 なんだ、爆発が降って来るって。


 でも、爆発が降って来た。


「……ナポルジェロよ」

「はっ。バルナルド様」



「疑ってごめんね」

「これでイーブンでございますな!! では、このナポルジェロ! 退避いたします!!」


 すぐにイーブンではなくなった。



 お忘れの方のための振り返りバルナルド様。

 こちらの金色の古龍、凍えるブレスが得意技。

 アトミルカの軍事基地デスター攻略戦で和泉さんと一緒に『ゴルドブレス』で大活躍したのは


「………………………………余はイケるのか?」


 これまでは爆発物が送られて来ていたスカレグラーナ。

 例えばアトミルカの半分人造兵器10番だったり、それに付随した爆弾だったり。

 その度に「カァァァァァァ」と雄々しさと冷徹さを同居させたブレスで瞬間冷却して来たバルナルド様だが、ちょっと今回はよろしくない。


 爆発という事象が空に「……逆神印の門であるか」と見慣れたヤツが出現して、そのまま投下されたのだ。

 これ、凍らせられるのだろうか。


 爆発物を凍らせるのと爆発を繰り返している事象を凍らせるのは、字面が似ているだけで多分内容は全然違う。

 それでもスカレグラーナで4000年を超える時を生きて来た帝竜、今は改造されて帝竜人。


 故郷は守るもの。


「……普段より多めに息を吸うとしよう。卿。ムリポよ。離れておるのだ」

「ああ……。偉大なる皇帝陛下。感謝いたします。このムリポに名誉挽回の機会を頂けるとは恐悦至極……!! 受けた恩を返すは今! 竜の者! ここは我に任されよ!! つぁ!!」


 そう言うとムリポは手のひらを太陽に、いやさ、上空に向けた。

 バルリテロリの民もホマッハ族も、僕らはみんな生きている。

 ならば守らねば。


 お忘れの方のための振り返り哀愁のムリポ。


 この男の持つ眼の能力は『メントゥス』と言う。

 眼であらゆる事象を吸い込み、他方へ転移させる事が可能。

 また、逆に他方からあらゆる事象を現地に持ち込む事もできる。


 結果、『太陽がいっぱいアラン・ドロン』でスカレグラーナを火山口のど真ん中みたいな地獄に変えてみせた。

 つまり、爆発だろうと迷惑客のクレームだろうと、やらかした後の気まずい空気だって『メントゥス』で吸い込んで他方へ飛ばせばスッキリ。


 今さらだが、『メントゥス』の由来はメントスである。


「竜の者たち! ホマッハ族の者たち!! 我が仰ぐは皇帝陛下ただ御一人!! しかし、受けた恩は返したい! でなければ哀しい!! 『メントゥス』!!」


 爆発がスッと消えてなくなった。


「……卿。その能力、いささかチートが過ぎぬか?」

「なにを言うか、竜の王。偉大なる皇帝陛下に比べれば、我の力など児戯にも及ばぬ」


「ふむ。時に、この世の終わりのような爆発はどこへ向かったのだ?」

「知れたこと。バルリテロリだ。我が仕える皇帝陛下は全知全能、永久不滅。この程度、玉座に腰を下ろされたままで処理成されるであろう」


 諸君。

 忠義者の善行が、なんやかんやで最悪のケースを引き起こしたとして。


 それっていけない事なのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな訳で、バルリテロリ皇宮。

 奥座敷では。


「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? なんで爆発が戻って来たんや!!!」



 いけない感じになっていた。



 喜三太陛下の極大転移スキルで六駆くんの影に爆発をしゅばばばと移動させ、六駆くんは虚を突かれながらも「バルナルドさんのとこに送ろ!!」と躊躇なくスカレグラーナへ『ゲート』で爆発を発送。

 そしてスカレグラーナで客として扱われていたムリポが「……よそ様の玄関口でこれは哀しい」と気を利かせて、絶大な信頼を寄せる皇帝陛下ならこんなもんちょちょいのぱっぱよと、『メントゥス』でバルリテロリへと送り届けた。


 1周回って爆発がそのままの勢いで、まったく警戒していなかった喜三太陛下の真上に出現したのである。


「ヘイヘイヘーイ!! テレホマンがいるだろがよぉ!!」

「それや!! クイント、賢くなったなぁ!! テレホマン!!」



「……陛下、宸襟を騒がせ」

「ああああ!! ダメやんけ!! そらそうや!! ついさっきガリガリクンの、あ、ごめん! ガリガリクソの能力使ってもかき消せんかったもんな!! ……あかん!!」



 陛下の御判断は早かった。


 煌気オーラ力場で覆われている奥座敷。

 もう回避のしようがない大爆発。

 元をたどれば自分とひ孫の極大スキルと究極スキルが原因。


 腹をくくるしかない。


 決断してからすぐに動けるのは逆神家の血脈のとてもすごくすごい長所。


「……ワシの家。諦めるか。奥座敷を空間防壁で囲ったら、うん。イケるんや。……ガンプラとか、モビルスーツとか、ビデオテープとか。移動させたかったな」


 陛下、煌気暴走オーラランペイジ


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『惜別の我が家チ・ク・ショウ・メ』!!!」


 奥座敷の煌気オーラ力場が陛下に感応し、四方八方を防壁が塞ぐ。

 そして床と天井も壁で塞がれると、残ったのは爆発と陛下とテレホマンとクイントとチンクエ。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! テレホマン! チンクエ拾え!! クイント! その辺のコーラ持てるだけ持て!! 飛ぶで!! 『大飛翔帝ジャンプマン』!!!」


 スキル使いはある水準を超えると宙に煌気オーラで足場を作ることで移動が可能。

 皇帝の領域に到達すれば、飛行スキルを複数人に付与することだって造作もない。


 皇宮上空へと退避した陛下御一行。

 眼下には、奥座敷だけが器用に炎上していた。


 ひ孫、許すまじ。


 喜三太陛下の怒りがバルリテロリの大気を揺らす。


 バルリテロリは部下のミスを責めたりしない、クリーンな職場環境が売り。

 しかし戦勝のあかつきには、ムリポの肩をパーンくらいはなされるだろう。


 勝てばええんや。

 勝ってから犯人探しや。

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