第1225話 【逆神喜三太、家を焼く・その1】逆神喜三太の「みんな、来るぞ! というか、マジで燃えとる!! キてんなぁ! ひ孫ぉ!! えっ。ひ孫じゃない?」 ~頭おかしいヤツばっかやんけ!!~

 上の階と下の階でけん制し合うのかと思いきや、下の階がいきなりキメようとして来た件。

 迫りくる爆炎。

 これを戦いの狼煙と呼ぶのは余りにも奥ゆかしい。


 自分とこの総参謀長の能力が襲い掛かるまであと数秒の奥座敷では。


「陛下。自裁の御許しを賜りたく……」

「そうやな。……そんなもんやるわけないやろ!! この爆発! 元はワシとひ孫のスキルが原因やんけ!! くっそ! ひ孫めぇぇぇ! ヤってんなぁ!!」


 だいたい15秒くらいで爆炎に包まれる予定の奥座敷だが、割と冷静な皇帝陛下と総参謀長。


「いえ。陛下。私の不始末で今わの際に立たされた皇国を脇に置いて申し上げるのは甚だしく恐縮でございますが、ひ孫様ではございません」

「よっしゃ、あとは任せとけ! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……えっ?」


 煌気オーラ爆発バーストから煌気暴走オーラランペイジへと移行しつつある喜三太陛下が御首を傾げられた。


「そんなら誰や!? こんな頭おかしい作戦キメてくるのがひ孫とロリ子以外にもおるんか!? 四郎の嫁さんは煌気オーラなくなったろ!?」

「はっ。白衣を纏った穏やかそうに見える紳士が」


「ああ! あの苦労してそうな司令官な!! それが?」

「はっ。端的に申し上げても?」


「ええで!」

「では、宸襟を騒がせ奉ります」


 テレホマンがひと呼吸置いてからご報告申し上げた。



「我らバルリテロリの民とは違う、まるで竜の角が如き立派なものをそそり立たせております。瞳は赤く染まり、チャオ!! と陽気に挨拶をしながらジェノサイドと名の付いたスキルで爆炎をこちらに向けて放ちましてございます」

「…………それもう頭おかしいレベルやないやろ。命の取り合いしとるんやで? チャオ? チェストの方がよっぽどマシやで? あの苦労してそうな司令官、そんな豹変キメとるんけ……? それ、ガチもんのサイコパスやんけ!!」


 否定する材料が結構少ないので、諸君に置かれましてはナグモさんに向けて「がんばえー」をお願いしたい。

 今回に限り「陛下、がんばえー」でも主審は利敵行為と認めない旨、付言する。



 とりあえず、ナグモさんの脅威判定が爆上がりした。爆発ぶっこんで来ただけに。

 戦場では単純な戦闘力が重視されるのは当然として、セオリーに沿った戦い方をする猛者と同じくらい、異常なプレイをキメてくる戦士は怖い。


 自分よりもはるかに実力が劣っていても、「チャオ!!」とか陽気に声をかけて来て、次の瞬間には他所の国の建造物に放火してくる。

 これはもう警戒するなと言う方が無理である。


 むしろ、ひ孫が割と真正面からぶつかって来るタイプだと把握した今、「チャオ!!」の方が怖い。

 なにゆえチャオなのか。

 戦争である。


 戦争で、それを指揮する者がチャオって言って敵の本陣に放火する。

 砲火なら良いのだ。


 放火はいかん。


 古くからとある亡国において、放火は殺人に次いで重い罪とされてきた。

 令和のご時世でも放火の法定刑は死刑、若しくは無期、5年以上の懲役とされている。


 喜三太陛下も時代は古いが昭和にはちゃんと現世に存在しておられた御方。

 放火のヤバさくらいは御理解あそばされておられる。


 ゆえにヤバい。


 皇宮に突入されてからしばらくは「初手、皇宮爆破!!」に警戒していたが、どうやらひ孫は金目の物にめっぽう弱いらしく、五千円札トラップで実証実験も済んでいる。

 どこから得た情報なのかは知らないが、皇宮に金目の物があると確信している気配もしっかりと把握して「皇宮は戦場になるが、完全に破壊されることはないんや!!」と結論を出したのがついさっき、ガチのひ孫と仕合った時。


 たった十数分でその仮説がぶっ壊れた。


 しかも、一番常識人っぽいヤツナグモによって。

 これは相当な恐怖である。


 窮鼠猫を嚙むというが、ネズミって別に追いつめられた個体じゃなくても急に遭遇したら怖いのは常識。

 むしろ追いつめられているのはバルリテロリなのに、勝手に窮鼠になってガブリチュウしてくるきたねぇ白衣の司令官。



 怖い。



「じじい様よぉ!! オレら、死ぬんじゃね?」

「あ゛あ゛! そうやった!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「陛下! 私にお任せください!!」

「いや、テレホマン! 無茶すんな!! ここでお前が死んだら、ワシはマジで独りになるやんけ!! 合いの手入れてくれるヤツおらんようになったらワシ! さすがにメンタルちょっとやられるで!?」


 テレホマンがガシャンガシャンと両腕を変形、換装させていく。


「うおおおい! マジかよ、テレホマン!! そのギミックいくつあんだよ! すっげぇクールじゃねぇか!! なぁ! チンクエぇ!!」

「……ぅぃ」

「テレホマン? それ、ワシの分は?」


 緊急時にも慌てず騒がず、平常心を保つことが肝要。

 ただし、平常心を保つことと危機感の欠如は似ているようで全然違う。


 避難訓練でふざけてるヤツはいざという時に死ぬ。

 災害はこっちの都合を察してくれたりはしないのである。


「このテレホ・ボディには歴代八鬼衆の能力が記録されております」

「なんでそれ早く出さんかったんや!!」


「は? ……ははっ!!」


 「さっき出来ましたと申し上げたのに」とテレホマンは思ったが、口をつぐんだ。

 忠臣のあり方も人の数だけある。


 テレホマンは全肯定タイプ。

 優れた為政者の傍仕えとしてはこの上ないマッチングだが、愚かな為政者の傍仕えとしては最悪のぴったんこカンカン。


「ああ! 分かったで、テレホマン!! あいつのスキル使うんやろ! ええと、ほら! なんかクーデター起こそうとして、ほら! 現世の同盟国の、アレ!! ええと、ルベルバック!! あそこに行った……!! そう! 氷菓のガリガリクン!!」



「陛下ぁぁぁぁぁ!! 見えない力にその御身! 消されますぞ!! 氷鬼のガリガリクソでございます!! もう説明は省きます!! 『緊急事態消火氷結装置ガリガリクソ・スプリンクラー』!!」


 ここまで、約15秒の出来事でした。



 テレホマンの放ったスキル。

 正確には疑似スキル。

 テレホ・ボディをテレホマンの煌気オーラにて稼働させることにより記録されている多彩なスキルを発現する事のできる、ロボット工学が妙な方向へ驀進の進化を遂げたバルリテロリの集大成。


 電脳ラボの総決算セールによって生み出された、戦う四角い男。

 テレホマン・パーフェクトバージョン。


「陛下。宸襟を騒がせ奉っても?」

「ええで?」


「テレホ・ボディだけでは爆炎を押し戻せませんでした」


 だって陛下とひ孫様の極大スキルと究極スキルが起爆剤だったから。

 それは仕方がない。


「よっしゃ! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『哀過トラウマ転移術じいちゃんのかげおくり』!!!!」


 テレホマンが火の勢いを弱めて、喜三太陛下が弱くなった爆炎を転移させる。

 するとどうなるか。


「陛下。私の力不足で御手を煩わせてしまい……」

「ええんやで!」


「は。……ははっ! では、階下に送られた爆炎で結局皇宮は炎上いたしますが、よろしゅうございましたか!!」

「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 喜三太陛下が煌気暴走オーラランペイジのギアをさらに上げられた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こっちは階下の南雲隊。


「あ゛!! しまった!! そうだった! ひいじいちゃん、小賢しい転移スキルを結構な種類使えるんだった!! みんな!! どうしよう!!」


 『哀過トラウマ転移術じいちゃんのかげおくり』は対象者の影を基点として物体だろうと事象だろうと丸ごと転移させる極大スキル。

 基点は1度でも戦って煌気オーラを感知できれば、喜三太陛下レベルになるとそれで事足りる。


 六駆くんの影から爆炎が噴き上がる。

 さっき送ったのに、着払いで返って来た。


「ワオ!!」

「ナグモ監察官。不謹慎が過ぎます」


「……なんで分かったんですか? ライアンさん。ああ、分析スキル。そりゃあね、私だって冷静になりますよ。どんな気持ちで人様の家に火を放ったんだろうって思うと」

「ややっ! ナグモ先生! ちょっと齟齬があります!! 爆炎をぶっ放したので、放火というよりは爆撃です!! 爆撃罪が存在してなくてふんすでしたね!!」


「……ふんすだね。……なんで私、古龍モードから戻れないんだと思う?」

「はっ。僭越ながら、私が。ナグモ監察官の深い絶望がメンタルの強さとなってお身体に滞留している様子、見て取れます。つまり、先ほどまでチャオ!! とはっちゃけておられたところ、急降下で落ち込まれましたので、メンタルの起伏で考えますと依然として極めて高水準をキープしておられるからかと」


 ナグモさん、南雲さんに戻れず。

 つまり、戦えてしまうという事実。


「あ。私、皇帝じゃない誰かとマッチアップさせられるんだ。はは……。子供をこの手で抱きたかったなぁ。よぉし! ……チャオくそが!! ブォンジョルノぶっ殺す!!」


 この土壇場で静の煌気オーラ爆発バーストを身に付けてしまったナグモさん。

 これはもう猛者の証。

 直近の敵だったピースで言えば、サービスさん、ライアンさん、辻堂さんくらいしか使用者がいない、ナンバーワンでオンリーワンの欲張りパックな極致。


「うわぁ!! ナグモさん!!」

「これから君はこう言う!! この爆発、どうしましょうか!! ってね!! ワオ!!」



「ほう。ジョジョ第二部ですか。たいしたものですね」

「おいおいおい。ナグモ先生、ふんすだわ。ですね!!」


 多分ノアちゃんも使おうと思えば静の煌気オーラ爆発バーストくらい余裕で発現できそうな肝の据わりっぷり。



「僕も『ゲート』で転移させる事はできますけど!」

ベニッシモ聞きたくねぇ! バルリテロリが消えるんだね!! それは困るな!! 本当に無辜の住民が死んじゃうじゃないか! あ。ダメだ。……ここまでの流れで察してるよ、私!! 君主独裁制の起こす戦争なんて、住民は巻き込まれるだけなんだから! どうにかしなさいよ、逆神くん!!」


「えー。…………あ! 僕、良い場所知ってるんですけど! そこに転移させてもいいですか!?」

「………………………………私も知ってる。そこ」


 次回。

 死す……。誰もしない。


 でも、どこかの異世界の大地が焼かれる。


 デュエルスタンバイ。

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