第1224話 【迫るひ孫・その2】逆神六駆の「南雲さん、ナグモさんで開戦の一撃キメましょうか!! 総指揮官がやってくれたら、ね?」 ~「ねっ……!?」~

 奥座敷と奥座敷の階下で高度な情報戦が勃発。

 殺意による情報伝達という戦いを生きる者にしか許されない方法で、ISDNよりも速いスピードでそれは行われている。


「ノア、もうちょっと右に。それから、角度はね、こう……。なんて言うのかな。ええと。誰かに指示するのって難しいね」

「ややっ! ボクの逆神先輩ガチ勢を発揮する時ですか!? つまり、直撃ではなく斜め下から爆発ちゃんを打ち上げる事で、即死を回避されても燃焼による持続的なダメージを狙う2段構えですね!! ふんすっ!!」


「そう、それそれ!! うわぁ! ノアは最高の相棒だなぁ!!」

「逆神先輩! それ、今となってはノアちゃんを殺す言葉なので出来ればストップでお願いします! ノットふんすです!!」


 逆神先輩は師匠先輩でガチ推し先輩だが、先輩カップルも推しているノアちゃん。

 推すのは良いが、推されると危ない。

 危険が危ない。


 アルティメットになったメインヒロインに察知されて、崖下にドンッて背中押されるかもしれないので危ない。


 着々と「2階より上いらないから吹き飛ばそう」作戦の準備が進行中。

 穏やかじゃねぇのは南雲さん。


 こちらの監察官殿、みんながすっかり忘れてしまった人道主義をまだ保持している、稀有な男。

 先ほどからウキウキ攻撃準備中の見た目は高校3年生と2年生の先輩後輩、中身はおっさんと女子高生パパラッチの様子を見て「……コーヒーが飲みたい」とカフェインを欲し始めていた。


「南雲監察官」

「ああ! そうだ! ライアンさん!! あなたがいた!!」


「はっ。こちらにおりますが」

「ライアン・ゲイブラムと言えば、ピースの中で随一の常識と良識を持ち合わせた犯罪者ですからね!! この状況を見てどう思われます!? やはり、1度は降伏勧告をするべきですよね!?」


「かような言葉を賜ると恐縮いたしますな。確かに。通常ならばそうすべきだと私も考えます」

「嫌だ!! 通常ならとか前置きが出ちゃってる! じゃあもう良いです!! 私が話を振っておいて大変失礼なんですけど! この話はもうヤメましょう!!」



「私見を述べさせて頂きますと」

「……京華さん。私、頑張ってますよ。子供たちと、貴女のために」



 南雲さんが虚空を見つめてちょっと瞳も虚ろになって来た。

 ただ、虚無ばかりのこの世界、虚なんか4つくらい重なってはじめて心配してもらえるレベルに到達して久しい。


「人道主義、大いに結構。私個人としましては、南雲監察官のやり様に好感を抱きます。が、既にこの状況です。確かに、敵もあるいは追い詰められたがゆえに降伏勧告に応じる構えを見せるやもしれません。ですが、先に先にと攻撃を仕掛けて来たのもバルリテロリ。専守防衛に努めるタイミングはとうに過ぎたかと」

「あ。はい」


「ですが、南雲監察官は総指揮官。総指揮官としては、一言だけでも降伏勧告をしておくべきであるというお考えも理解できます」

「あ。は……い!? あれ!? 風向きが変わってる!!」


「例えば、一言。降伏せよ。然らざれば攻撃する。これで良いのです。間髪入れずに撃ち込みましょう。義は果たしたと記録されるでしょう」

「変わってなかった。……ライアンさん? あの、人と人の戦争ですので、そういうライブ感みたいなのでドンパチするのはちょっと、ねぇ?」


 ゲイブラム氏が深く頷いた。

 続けて「重ねて私見ですが」と前置きしてから言う。


「人の平均的価値を10としましょう。南雲監察官。あなたは100の価値がある方だ。逆神師範などは20000。ノアちゃんも同程度。ああ、失礼。決して南雲監察官が低いという訳ではなく、僭越ながら私も例に挙げますと、過大評価して精々6、良くて7でしょう」

「あ。はい」


「ですが、人の中にはマイナス1000000を叩き出すような愚か者が存在してしまうのも事実。全ての平均的な人の価値が10なのです。南雲監察官。マイナス1000000を消す事に躊躇われる必要はないかと。優しさは美徳ですが、過ぎれば臆病と誹りを受けますぞ」

「あ。はい。……ライアンさん?」


「はっ」

「一応、念のため、本当に軽くお聞したいのですが。わんことにゃんこの価値はどうなりますか? 人を10として」


 ライアンさんが「ふっ」とシニカルに笑ってから答えた。



「南雲監察官。人とワンコとにゃんこを同列にお考えであるかのような物言い、これはこのライアン・ゲイブラム、一本取られました。貴官は実にユーモラスだ。つまようじと鉄塔を比較して、つまようじが脆弱であると嘲笑する発想はなかった」


 南雲さんは思い出した。

 「あ。この人もそう言えば選民思想ガチ勢なピースで最上位調律人バランサーしてたんだった。というか、この人は選わん思想と選にゃん思想だった」と。



 降伏勧告したかっただけなのに、気付けば思想的仲間がいなくなっていた南雲さん。

 そんな氏の肩を叩くは、笑顔の悪魔。


「南雲さん!! 準備できました! お願いします!!」

「ああ! 逆神くん! やっぱり降伏勧告するよねぇ!! 良かったぁ!! 君はそういうところキッチリしてるから!! いやー!! 良かったぁ!!」


「降伏勧告? ああ! はい、油断させるヤツですね! やって良いですよ!!」

「あ゛あ゛あ゛!! もうこれ違うよ! 私、何させられるの!?」



「『古龍化ドラグニティ』してもらえます? それで、初撃はナグモさんにお願いしたいなって! だってほら! 総指揮官が戦いの狼煙をあげてくれたら、ね? 色々と! ねっ! うふふふふふふふふふふふ!!」

「…………誰かー!! 誰でもいいからー!! 誰か来てー!! 監察官の人ー!! 雷門さんでいいからー!!! 木原さんでもいいからぁー!!!!」


 戦争というものは実に無常ですな。



 呼んだら何かが来る。

 この世界の鉄則である。


『うーっす。南雲さん、お呼びっすか? 記録取れって聞こえたんで、準備して来たっすよー』


 サーベイランスが来た。


「そうじゃないのよ!! やぁぁぁまぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇ!! もう今は来なくていいの!! 記録取るって、私が降伏勧告キメて即パーン!! ってやるとこ!? その映像を遺すんでしょう!? 負けたら即刻処刑されるじゃないか、私ぃ!!」


 六駆くんが笑顔のまま首を横に振る。


「負ける訳ないじゃないですか! やだなぁ! うふふふふふふふふふふふ!!」

「例え話だよ!! 1%に満たない確率でも例え話くらいはしても良いでしょうよ! というか、勝った後で私! 世界中で叩かれるよ、これ!! もうね、知ってるの!! 最前線に出て来てもない権力者たちがね! 血も流してないのに! あの時はああしておけば、とか! ここではもっといい方法が、とかぁ!! 色々言うんだよ! で! 言われるのが私の立ち位置なのよ!! こっちは死んでるんだよ! 死んだ事もない癖に!!」



『あー。いいっすねー。いい画が早速撮れてるっすよー。世界に疑問を全力投球うったえかける、日本本部の若きニューリーダー!!』

「やぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」



 南雲さんの叫びが皇宮に響いた。

 もう居場所を隠す必要もないのは氏だって知ってる。


 決着をつけた先に待ってる結末は死だって知ってる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ほんの1分。

 1分で済んだ。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ……ちょっと出力足りないよ。逆神くん? 私が信任するから、君がやって良いよ?」

「ダメですよ! 士気に関わりますから!! こういうのは!!」


「私の死期にも関わるんだよ!! あ゛! しまった! テンション上がっちゃった!! 待て、私! 堪えろ!! 落ち着け!! さ、鮭が遡上してるシーンを思い浮かべるんだ……!! あー。シュール。すっごい。あ。ダメだ。ああああああああああああ!!」


 南雲さん、煌気オーラ爆発バースト

 スキルはメンタル勝負。


 嫌な気持ちが溢れ出しても、それは感情の発露である。

 メンタルが高揚すれば、スキルの効果も高くなるのは必定。



「チャオ!!」


 お待たせしました。

 大事な時の理性ガチャなんて当たった事がない、古龍の戦士・ナグモが推参。



「ナグモさん! 悪の親玉をやっつけましょう!!」

「ふんすです! ナグモ先生! ナグモ先生・愛の授業の時間です! ふんすっ!!」


「ナグモ監察官。私はこれほど尊敬に値する探索員をこれまで知りませんでした」

『あー。いいっすねー。盛り上がってるっすねー。カメラもマイクも感度ビンビンっすよー。いいっすよー』


 理性では分かっているはずなのに。

 こんなことやっちゃ、取り返しがつかなくなるかもしれないって。

 それでも何故かやりたくなる、甘美な魅力がそこにある。これまた紛れもない事実。


 これをカリギュラ効果と呼ぶ。


 全校集会で校長先生が喋っている時に「今、クソデカい声でキェェェェェって叫びながら壇上に駆けあがってあのハゲ蹴り倒したらどうなるんやろ!!」とか、答えは「とりあえず人生が終わるかも」と既に出ているのに、分かっているのに、逆にやりたくなる。


「……いけないな! 愛のためには、少しばかりのヤンチャも見過ごすさ!!」


 古龍の戦士・ナグモ。

 最終決戦フォーム。

 モード・カリギュラ。


「聞こえているんだろう! バルリテロリの諸君!! 降伏するのならば話は聞こう!! 今から10数える! 返事をくれるかい!! 10……。ワオ! カウントダウンしようとしたら最初から10になってたね! では! チャオさよなら!!」


 ナグモさんの両手に緑色の煌気オーラが増幅されていく。

 六駆くんがノアちゃんに指示を飛ばす。


「ノア! 撃ち方始め!」

「ふんすっ!! ふんす、ヨシです!!」


 ノアちゃんの『ホール』が口をあける。

 中には当然、アッツアツの爆発という事象が封じ込められている。



「チャオ!! 『古龍大爆殺自暴自棄砲ドラグジェノサイドブラスト』!!」

「うわぁ! 良い名前ですね、そのスキル!! 『極光死開封グラン・デスプレゼント』!!!」


 緑色の煌気オーラ砲が爆発と共に上階へ昇る。



 開戦である。


「チャオ!! ……あ。ダメだ。冷静になりそう。……チャオ!!」

「ナグモ監察官。戦後、良い心療内科を探されると良い。私もお供しましょう」


 戦争やってんのに、理性的でいられるかよ。

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