第1219話 【決めようか、誰が最もピュアなのか・その5】小坂莉子ちゃんの「力こそパワーで、それはピュア」 ~ドンッ~

 ピュグリバーでは大仕事を終えた男たちが地酒を片手に労い合っていた。


「あららー。川端さん、もうグラス空いてるじゃないですかー」

「いえ、雨宮さん。私はこのくらいで」


「良いじゃないですかー。私はこっちに引きこもる、あらら、間違えましたー。このピュグリバーと現世の橋渡し役として生きていく訳ですし。川端さんはフランスに亡命するんでしょ? もうこうやってお酒飲む機会も減るんですからー」

「亡命とは聞こえの悪い言い方を。……開国です!! おっぱいの自由な世界へ、川端一真の心が開かれたんですよ!! もう一杯頂きましょうか!!」


 おっさんたちがおっぱい談義してた。

 仁香さんの推測がピタリ賞。



 ただ、おっぱい肴にして酒まで飲んでるのは想定外だったので、ニアピン賞へと格下げか。



「んー? この感じはー」

「どうなされましたか? ナディア男爵夫人!! お口に合いませんでしたか!? おばあ様を呼んでグラスの中身をぶちまけますか!?」


「わー。わたし、男爵夫人になっちゃったんですかー。なんだか大袈裟な感じで困りますねー。あははー」

「是非、私とも仲良くしてください! 順平様の心の友である川端男爵の奥様! 私、色々とお勉強させてもらいたいです!!」


「わー。エヴァンジェリンちゃんはいい子ですねー。雨宮さんは悪い人ですねー」

「あらららー! ナディアちゃん、違うのよー? 私ね、とってもピュアな気持ちで……ん? これは、アレだねー。みんな、下がって、下がってー」


 水着のナディアさんが何かに気付き、少し遅れて雨宮さんも気付く。

 川端さんの隣からスッと立ち上がると、おっぱい宴席を催していたバーバラおばあ様と近衛兵のお姉さんたちを後ろに下がらせて、「まだ出るかなー? せいや! あ、意外と出るねー」と、残り少なくなった歯みがき粉のチューブをギュっとやったらもう2回くらいイケそうな手応えを感じた時のような声を出して、煌気オーラを練った雨宮さん。


「よいっしょー!! 『薔薇色の粉砕する薔薇の花バラバラ・ローズ』!!」


 無数の薔薇の花びらが具現化されて、雨宮さんを中心にドーム型へと構築されていく。

 その中にいつの間にか移動していた福田さんが感想を述べた。


「これは、久坂五十五Aランクのスキルですか。塚地小鳩Aランクのスキルと合わせて発現されるとは、さすがです。やはりまだ手放すに惜しいですね。雨宮おっぱい大好きおじさん」

「あららららー! 違うゾ! 福田くん! これはね、風華円舞陣だから! 私、ほら。幽遊白書で言ったら蔵馬でしょ? そっちのリスペクトだよー」


 バーバラおばあ様が疑問を呈す。


「順平国王様。川端卿がまだあちらにおられますが」

「あー。川端さんはね、大丈夫なんですよー。あの人、意外と丈夫なんです。昔もね、真っ二つにされたりしてたんですけど、なんやかんやで再生して元に戻ってるのでー」


 時間が来てしまったので、バーバラおばあ様の疑問に答える猶予はなかった。



「どうされたんですか、皆さん。急に距離を取って。誤解があるようですが、私は全てのおっぱいを愛します。しかし、個人的な愛を捧げるおっぱいはナディアさんのものだけと決め、あ゛。ナディアさぶっ————」


 川端さんが爆発した。



「か、川端卿!!」

「わたしの名前を呼んでくれた瞬間に爆発しちゃうとなんかー。ちょっと嫌ですねー」


 雨宮さんが「足りるかなー?」とロシアンルーレットをするノリで爆発した川端さんを再生スキルで治し始めた。

 イケるかと思ってひねり出した歯磨き粉が意外とイケないことの方が多い事は広く知られている。


 大変そうなので説明はこちらで引き取ろう。


 ピュアドレスの胸周りをいじると爆発する。

 これは既に分かっていた事。


 しかし、川端さんが「ワクワク! おっぱい工作!!」をキメても爆発しなかった。

 だからセーフ。


 ではなかったのである。


 爆発はするが、いつ爆発するとまでは誰も知らない。

 莉子ちゃんが覚醒した瞬間がその爆発と重なったのは偶然か、宿命か、運命と言う名のディスティニーか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 川端さんと言う名の祝砲が炸裂して、戻って来たのはバルリテロリ皇宮東側の戦場。


「わたし……。ずっと、オフショルダーとか、チューブトップとか……。そーゆう可愛いヤツ着るの、怖かったんです。だって、胸が……ちょっとだけ、控えめだから。ズルってなっちゃうんじゃないかなって。けど、関係なかったんですね。ヌーブラがなくなった方が、動きやすいんだもん。……これ! わたし専用に調整されてるでしょ!! 分かっちゃったんですよぉ!!」


 ピュアドレスちゃんに苺色の煌気オーラが走る。

 それはまるで「なにウロチョロしちょるんじゃ! おどれの所有者はわたしじゃろがい!!」と猛り狂うが如き、禍々しい性質の煌気オーラだった。


 少なくとも、ピュアからは程遠い。


 ゆえにピュアドレスちゃんは躊躇う。

 むしろ、六宇ちゃんとオタマの胸周りに固執して、その居場所を堅守しようとする。


「もぉぉぉぉ!! 聞き分けなさいっ!!」


 ドンッ。

 ちっちゃくて柔らかくてプニプニしている莉子ちゃんの手がキュッと拳に変わり、宙を思い切り叩いた。


 虚空にヒビが走り、次元が断絶されそう。


「もういいんですぅ! 別に胸が小さくても!! 可愛いドレス着るもん!! ヌーブラなんか付けるからむしろ動きにくかったって分かりましたぁ!! もぉぉぉぉ!!」


 もう一度虚空を叩く莉子ちゃん。

 ドンッ。

 やはり宙にヒビが走る。


 ドンッ。ドンッ。ドンッ。


 漁師が海底などをぶっ叩いて魚をビビらせ網にぶち込む、追い込み漁。

 シャドウボクシングで対戦相手を威嚇する格闘家。

 サバンナで雄たけびをあげて「ヤるぞ?」と意思表明する獣。


 それぞれに被害者が存在し、その被害者がまず感じ取るのはこれ。



 どんだけー。

 ドンッの勢い、どんだけー。



「あ、あれ!? あたしのセーフアイテムが!!」

「はい。六宇様。御ロリ様の力量をこのオタマ、測り切れてはいなかったようでございます。構えてください。遅きに失していても、六宇様。あなたは残っている皇族の中で最も尊ぶべき御方。……生きて残られたのち、しっかりとお勉強されてくださいね」


 ドンッ。ドンッ。

 莉子ちゃんのエアドラミングが響く中、オタマが優しく微笑んだ。



「え゛。ねー!? あたしこれ知ってるんだけど!! オタマ、死ぬの!?」

「六宇様……!!!! このタイミングで賢くなられるのは反則でございます!!」


 六宇ちゃんとオタマからピュアドレスのパーツが全て回収された。



 莉子ちゃんの体にぴったりフィットするピュアドレス。

 アルティメット莉子ちゃんはまだ完成系ではなかったのである。


 だって、胸周りがヌーブラだという事は、そこだけウィークポイントになっていたから。

 サービスさんの練乳ビームが莉子ちゃんの胸から発現できたのも、ピュアドレスちゃんが仕事をできない箇所があったから。

 ヌーブラによって仕事を阻害されていた場所がそこだけ残っていたから。


「えへへへへへへへへへへへ。もうどこにも行っちゃダメだよ?」


 潤んだ瞳で微笑む莉子ちゃん。

 そして確認するようにちっちゃな拳で宙を叩く。


 ドンッ。


 力による圧倒的な支配。



 またの名を殺意ぴゅあ



 これが正答。


 人が賢しく言葉を操るようになるずっと前から地球上で繰り返されて来た、弱肉強食と言う名のピュア。

 莉子ちゃん、最終覚醒完了。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の奥座敷。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「陛下! 陛下、お待ちください!! 陛下!!」


 煌気オーラ爆発バーストしている喜三太陛下とそれをお諫めするテレホマンの姿があった。


「止めてくれるな、テレホマン!! これはあかんヤツぅ!! ワシが行って、助けて転移してくればまだどうにかなる!! せやろ!?」

「はっ。……いえ! 陛下、それは違います!! このテレホマン、どのような処罰もお受けする次第! ここは申させて頂きます!! 陛下! あのロリ子様の前に御出になられて!! 仮に生きて御帰還なされたとて!! 確実にこちらの場所が特定されます!! そうなればもはや、多方向から同時に攻め込まれるは戦の道理!! 陛下!! ロリ子様とひ孫様、そして太子妃様!! 全ての勢力を同時に御相手なされる余力がおありでしたら、それは今、この時に御使用になられぬよう! どうか! どうか!! この四角い頭ひとつで御容赦くださいませ!!」


 テレホマンが総参謀長として言うべきことを申し上げた。

 これはいよいよクライマックスか。


 陛下は煌気オーラ爆発バーストをおヤメにはなられないが、転移スキルの発現は留まられた。

 テレホマンに確認する。



「…………ワシ、精力は誰よりも強いで!?」

「陛下ぁぁぁぁ! 今は夜戦の話をしておりませぬ!!」


 落日の時が見え始めてしまった皇国。



 クイントも軍議と呼ぶにはあまりにもドタバタしているものに参加。

 彼も将来の嫁候補と、浮気相手候補の危機となれば黙ってはいられない。


「じじい様が逝けねぇなら、オレが逝ったらぁ!!」

「おい、ヤメろやクイント!! 逝くつもりないわい! 行くんじゃ、ワシは!!」

「お二人で逝かれてどうなさいますか!!」


 転がっているチンクエが指をぷるぷるさせながらさした。

 その方向には電脳ラボがある。


「左様ですな、チンクエ様! 無為かもしれません。それでも、我ら電脳ラボ!! 皇宮において唯一機能している力を結集して、六宇様とオタマ様をお守りします!!」

「いや、でもワシ行けるで!?」


「じじい様はボケナスかよ!! テレホマンの話聞いてねぇんか!? ……オレが逝くぜ?」

「……ぅぃ」


 誰も話なんか聞いてねぇ。

 それは今に始まったことではない。


 もうきっと皇宮回に女子は来てくれない。

 それでも無事ならいつかまた会える。


 テレホマンが同期を行った。

 「ゔ……」と呻いてすぐに蹲る。


 「もっと早く言え」という同期が山ほど行われたらしい。


 皇宮東側の戦い。


 決着の時、迫る。

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