第1218話 【決めようか、誰が最もピュアなのか・その4】本日、乳、天晴なり ~嘘を嘘だと認められる心。それは紛れもなくピュア。~

 オタマ。

 皇宮秘書官として極めて有能な乙女である。


 22歳の新卒女子として秘書官に着任、そろそろ1年目を終えようとしている。

 君主独裁制において皇帝は絶対的意思であり、唯一無二の存在であり、逆らおうという発想さえも抱かせない、そんな陛下の隣に仕えてだいたい10カ月。

 幾度となくお諫めしてきた、皇帝陛下に拝するのか皇国に忠誠を誓うのか、そこのところはまだ決めかねている年相応の幼さも持っている。


 幼さとオタマぼいんのミスマッチ感がすごい。



 今、莉子ちゃんおさなさの話はしていません。



 そんなオタマは戦局を見て、即座に判断をキメた。

 決断は早い方が良い。

 考えるよりも時には起こせよムーヴメント。

 間違っていた場合のリカバリーもそちらの方がずっと早い。


 彼女は口を開いた。


「ここに申し上げます。偉大なるバルリテロリの皇帝陛下。陛下はどちらかと言えば熟女を好まれます。低めのストライクゾーンは狭く、特にバストサイズにはこだわりがおありのご様子。一定の水準を超えていない場合、25歳以下は無視されます。逆に申しますと、一定の水準を超えている際には16歳から手を出されます。以上です」


 水を打ったように戦場が静まり返った。

 水を打ったようにとは、砂塵舞う状況に水打ちしてそれを抑えた様を言う。


 爆炎までなんだか「ええ……。そうなんです?」と戸惑い、炎の勢いが弱まったかのように思われた。


「ふぇぇ!? なんで!?」

「……私のような浅慮でも時には命中する事もあるようです。御ロリ様。一部ですが、そのお強い装備を拝借いたします」


 ピュアドレスちゃんの脇腹パーツがちょっとだけ莉子ちゃんからオタマに移動した。

 もうクイズ番組で他チームが獲得したポイントを奪うが如き、ピュアドレスちゃんのパーツたち。


 いわゆる横取り40萬である。



「私は愚考いたしました。六宇様に集まる最強の装備。これは何故なのかと。仮説を立てました。おバカになると頂けるのではないかと。私にとってバカな行為とは、秘書官の職務放棄。皇帝陛下の御心を守秘義務違反してみたところ……。どうやら、ジャストミートとはいかずとも、外してもいなかったようです」


 陛下。

 このままでは陛下の性癖に続いて皇国の秘密がお漏らし大洪水ですが。

 皇国勝利のためならばよろしゅうございますな。



 オタマのブラウスにピュアドレスちゃんのパーツがほんのちょっと合体。

 六宇ちゃんが遠慮がちに声をかけた。


「ねー。オタマ? もうね、あたし意味分かんないよ?」

「はい。六宇様。戦いに意味を見出すことほど愚かなものはありません」


「うん! 多分ね、そうじゃないと思う!! あれ!? フリルが浮いてる!? なんか飛んで行きそう!!」

「六宇様……!! おバカに徹してください!! なにを少し賢くなられておられますか!! パーツが剥がれています!!」


 ピュアドレスちゃんが右往左往し始めた。

 バカ決定戦が乙女たちの天王山で良いのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 距離を取らざるを得ない現世サイド。

 近づけるはずがないのである。


「とんでもないことになりましたわよ……。距離を詰めて攻撃なんてしようものなら、こちらはスキルの反射に警戒しなければならないのに対して、あちらはやりたい放題できますわ。莉子さん!? どうにかなりませんの!?」

「わたし、今、両手が塞がってて……」


「あ、拝見してるので分かっていますわよ。そのピュグリバーの国宝は莉子さんの装備ですわよね? コントロールできませんの?」

「できたらやってますよぉ!! わたし、かつてないほど大ピンチです!! こんな、こんな恥ずかしい恰好で戦えって言うのはさすがにひどいですよぉ!!」


 莉子ちゃん、真っ裸アルマゲドン寸前である。


「ぬぅりゃ!! 『魔斧ベルテ』!! を! 投げる!!」

「ふん。チュッチュ・チュッチュ。それはスキルか?」


「お前、チュッチュと私をイコールで結ぶつもりか? 何かしらの攻撃は続けておかねばなるまい。あちらとて、ピュアドレスの力は得たばかり。慣れるまでの時間稼ぎくらいにはなる。そして! そろそろ煌気オーラが足りん!! スキル発現する余力がない!! お前は!? サービス!!」

「ふん。俺の名は?」



「ダズモンガー殿ぉ!! もうヌーブラとやらは良い!! こっちへ来てくれ!! 私の頭がおかしくなりそうだ!! バカになる!!」


 それでもバニングさんにはピュアドレス破片が飛んでこない。

 頭がおかしくなりそうと申告する余力があるうちは頭おかしいヤツ判定されないのである。



「みみみみみみみみっ。仁香さん! 助けて欲しいです!! みみみっ!!」


 サーベイランスに向かって芽衣ちゃまの上目遣いがさく裂した。

 ガタッと音がしてから応答がある。


『どうにかしてあげたいけど、これどうなってるのかな!? 何をどう解決したら戦いが正常になるの!? 私、25歳なのに分からない!! 芽衣ちゃんより9歳も年上なのに!! 本当にごめんなさい!!』

「みみみみっ。仁香さんの声が聞けただけでなんだか落ち着いたです! みっ!!」


 ガタガタッと音がして「仁香が玉座から落ちたのじゃ!!」とファニちゃんの声が聞こえた。

 誰も何もできないのか。


 否。


 目には目を歯には歯を。

 混沌には混沌を。


「にゃはー!! 莉子ちゃんのおっぱいはAランクと思われがちだけどにゃー!! 実はもうちょっとアレしとるぞなー!! あたし、任務の後のシャワーいっつも隣だから知っとるにゃー!!」


 混沌にはどら猫を。



「ぽこますたぁ。あなたは命を賭けて。瑠香にゃん、目からオイルが流れています。ステータス『これが最終決戦か』を獲得。ぽこのお墓にお供えします」

「でぇじょうぶだにゃー。莉子ちゃんはオタマお姉さんのおっぱいに釘付けのはずだにゃー!! ほら見てにゃー! 瑠香にゃん、瑠香にゃん! ドレスのパーツが女子高生ちゃんから戻ってきとるぞなー!! これ、嘘つかないってルールのバトルだぞなー!! ならば! あたしに必勝法があるにゃー!! にゃっはっはー!!」


 ライアーゲームなら任せとけ。

 人生がチップのゲームにはめっぽう強いどら猫が参陣。



 莉子ちゃんがヌーブラで乳盛ったのがピュアドレス暴走の発端であると理解したクララパイセン。

 ならば、盛ってない情報を開示すれば良い。


 他方でバカな女子高生や賢いおっぱいお姉さんがバカのふりしても当たり判定が通るのならば、元の持ち主のあられもねぇ情報の方の一撃は大きい。

 それはほぼ10割に近い正答であった。


 が。


「もぉぉぉぉぉぉぉ!! クララ先輩ぃぃぃ!! そんなことないもんっ!!」

「にゃん……だと……。莉子ちゃん、ちょーあたし見てるにゃー? なんか涙目だぞなー?」


「端的モード。ぽこ。そらそうよ。ステータス『乳の真実バラされてこっち見ねぇヤツいるかよ』を獲得。これもぽこのお墓にお供えします」


 最終決戦において命と言う名のおっぱいが危機に瀕しがちなパイセン。

 だが、ここまで死亡フラグはへし折り続けて来た彼女、今回だって大丈夫だと思っていた。


 高を括る訳ではない。

 ほんのりと分析した結果に基づいたロジカルな行動。


 そのはずだった。


「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! わたし、おっきくなったんですからね!! 去年の身体検査の時よりも!! ……身長とか。……体重とか。……あと、握力とか」

「にゃ、にゃはー。……る、るる、るぅーるるぅー……瑠香にゃん、続きお願いするぞなー」


「ぽこますたぁ。先ほども申し上げた通りです。瑠香にゃんのマスター権限はグランドマスターが最上位ですが、プリンセスマスターは天上位です。神の声よりもプリンセスマスターの声が優先されるようにプログラムされています。瑠香にゃん、モードチェンジ。ファイナルモード『たんぽぽ、きれい』発動。これより瑠香にゃんの電源が落ちます」

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!! それはズルいぞなー!!」


 次回。パイセン、死す。

 この予告がハッキリと見えてしまった椎名クララ監察官。


「二階級特進ヤメてにゃー!!」


 しかしその功績は大である。

 莉子ちゃんが両手を胸から離した。


 真っ裸アルマゲドンが来るか。

 いや、来ない。


「バニングさん! サービスさん! 瞳を閉じて愛する方を描いてくださいまし!! 目を開けたら、多分お亡くなりになりますわ!!」

「心得た! 恩に着る、小鳩!!」

「ふん。……高みに立つか。白き鎧の女。……後で練乳をやろう」


 男子じじいたちが小鳩お姉さんによって避難する。

 戦場のど真ん中で目を閉じるという理外の行為。

 だが、即死よりはマシ。


 バジリスクかな。


「ぐああああああああああああああああああああああ!!」

「みみみみみみっ! ダズモンガーさん!! みみぃ!!」


 やってしまったか。


「……ダズモンガーしゃん。ありがとうございました。でも、平気みたいです。わたし、覚悟を持って今、胸から手を離したんですけど。……落ちないんです。ドレス。えへへへへへへ。変ですよね? なんで落ちないんだろう。えへへへへへへへへ」



 莉子ちゃん、最終兵器彼女みたいになる。



 次回予告の前に、なにゆえオフショルダーがズルッと逝かなかったかだけここに明示しておこう。

 そもそも諸君はピュアドレスの胸周りをいじると爆発すると言われていた事を覚えておいでだろうか。


 現在、ピュアドレスは爆発していない。

 胸部に詰めた綿はセーフ判定だったからである。


 その綿を創ったのは川端さん。

 煌気オーラで構築した、おっぱい綿。


 そう。煌気オーラで出来ているのだ。

 莉子ちゃんの胸部との間にあったタイガーヌーブラがなくなったことで、おっぱいとおっぱい綿が巡り合う。


 そしてくっ付いた。

 莉子ちゃんの正確な胸部装甲サイズを知らなかった川端男爵だが、氏は世界でも唯一のおっぱい爵位を持つ男。


 おっぱいの事なら、喩えそれが無に等しくても寄り添える矜持を持つ男。



 「何もなかった場合に備えて、胸で支えるのではなく胸を支える形にしておきましょう」とおっぱい綿に吸着属性を付与していたのだ。



 次回。川端男爵、死す。

 デュエルスタンバイ。

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