第1215話 【決めようか、誰が最もピュアなのか・その1】メインヒロイン、現着

 小坂莉子Aランク探索員およびラッキー・サービス元ピース最上位調律人バランサー、停戦のために戦場へ突撃。

 フォーマンセルの利を活かして、まず前衛2人が。


「ふん。『ピンポイント・サービス・タイム』!!」

「ふぇ!? サービスさん!! その角度から撃ったらわたしのドレスに当たって……!!」



「ぐああa」

「みみぃぃ!!」


 連係ミスからのフレンドリーファイアをキメた。

 なにがフォーマンセル。


 100人乗っても(戦況的には)大丈夫な莉子ちゃんとサービスさんのコンビネーション。



 だが、幸か不幸か天運か。

 突入した側で戦っていたのはこちらの方たち。


「……ふっ。確かに私は願ったな。莉子で良いから早く来てくれと。……小鳩。すまんが、ここのところ神が私の願いを存外聞き届けてくれる。しかし、オーダーに齟齬がある。これはどう是正すれば良い?」

「神に頼るのはもうおヤメくださいまし。わたくしはとっくにヤメておりますわ。この世界の神なんて、凄まじいお排泄物ですわ。わたくしの思い出のアルバムを捲ったらだいたいひどいですもの」


「ひゃわわわわわわわわわわわわわ……!! 増えたぁぁぁ……!! ヤバい子たちがこっち来たぁ……!!」


 混沌極める不思議な戦場。

 どっちも不思議と言われることなかれ。


 猫と猫と秘書の方はおっぱいでおっぱいを洗い、おっぱいでおっぱいを奪い合う血戦ならぬ乳戦の地。

 莉子氏が突撃していたらどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい。


 考えるだけでも恐ろしいという事は、考えれば恐ろしい結果がガッツリ提示されると置換する事も可能。

 よって、どう転ぶか分からないこちらの不思議戦場の方がやっぱり不思議。


「ひゃわわわわわわわわわわわわわわわわわわ……!!!!」


 ぷるぷるしている六宇ちゃん1人が相対するは、バニング・ミンガイル元アトミルカ2番と塚地小鳩Aランク探索員と小坂莉子Aランク探索員とラッキー・サービス元ピース最上位調律人バランサーと木原芽衣Bランク探索員とダズモンガー魔王軍総司令。



 数的不利が過ぎる。

 いじめっ子の集団だろうか。



「あ!」

「あばばばばば……。1番見つかりたくなかった子に見つかったぁ……!! だ、出す? あたしの必殺キック。でも、効かない気がする。ってか、試着室から追い出されたみたいな恰好だったのに、あの子。なんか可愛い服になってる。良かったねー。……いや、そうじゃない! あたしが良くないんだった!!」


 莉子ちゃんと六宇ちゃんの視線が交差した。

 もう1つ、視線ではないがセンサーとも違う、ピュグリバーの国宝の判定システムが六宇ちゃんと交差していた。


 ピュグリバーの国宝、ピュアドレス。

 心が清らかな乙女にこそ似合うその装備は意思を持つ。


 ポロッと音がした。

 それは音だったのだろうか。


 擬音に擬態した破滅だったのかもしれない。


「みぃぃぃぃ! ラッキーさん! お願いです!!」

「やゅよょれゃ!! 『拡散・サービス・タイム・オーバー・ザ・鬼嫁リコ』!!」


 莉子ちゃんはピュアドレスを装備しているので、スキルを弾く。

 ならば莉子ちゃんを追い越して、先回りした『ピンポイント・サービス・タイム』を拡散発現。


 とてもピュアな乙女をぐるりと囲って、空間発現で時間を凍結させた。


「もぉぉぉ! サービスさんは何がしたいのかわたし、まだ分かんないんですってば!! ちゃんと言ってからやってくださいよぉ!!」

「ふん。……チュッチュチュッチュチュッチュ。今のでかなり煌気オーラを使った。芽衣ちゃま。すまん」


「みっ! 充分です! ありがとうです!! みみっ!!」


 何故か六宇ちゃんを無視して莉子ちゃんを攻撃しているサービスさんと、それを信任するラッキーちゃんの飼い主。

 サービスさんの煌気オーラ総量がまた一気に枯渇寸前まで減少したので、先に撃った『ピンポイント・サービス・タイム』の発現効果が消える。


「ぐあああああああああああああああああああああああああ!!」


 ちゃんとるところから解凍されてくれる、りの求道者タイガー。


「これは失礼。特に痛みの伴うスキルではございませんでしたのに、ついついってしまう。吾輩の悪い癖でございまする!!」

「ふん。トラ。殺すぞ。俺の『ピンポイント・サービス・タイム』は貫通スキルだ。逆神のスキルと同程度のダメージはある」


「……では! ぐあああああああああああああああああああああああ!!」

「…………………………チュッチュ。トラ。これを使え。上物だ」


 ダズモンガーくんの八百長りにサンキュー練乳で応えるサービスさん。

 プロレスなのか、八百長相撲なのか、ちゃんとダメージが通ったのか。


「よし! ダズモンガー殿が戻った! 小鳩!!」

「ええ! ええですわ、バニングさん!! これでどうにかなるかもしれませんわね!! ダズモンガーさん! やんわりとお伝え頂けますこと!? やんわりですわよ!! オブラート80枚くらい重ねてくださいまし!! あっくんさんが言っておられましたわ! 俺ぁよぉ、ガキ作るタイミングにはこだわりがあんだよなぁ。……ちっ。言わせんじゃねぇ。どっちも仕事に余裕がある時じゃねぇと無責任だろうがよぉ! と!! それで、よく分かりませんけれど! だからよぉ。重ねるぜぇ? 2、いや、3は重ねる……! 俺ぁ案外臆病なんでなぁ。くははっ! ともおっしゃっておられましたわ!! それってオブラートですわよね!? そんな感じでお願いしますわ!!」



 それは多分、オブラート。

 ヴェルタースオリジナルなオブラートである。


 異論は認めない。



 ダズモンガーくんが「ふぇぇ?」と戸惑っている凍った時の檻にぶちこまれた莉子ちゃんに向かって告げた。


「莉子殿!!」

「もぉぉぉ! なんですかぁ!!」


「ヌーブラが落下してございまする!!」

「…………………………ふぁ? ………………………………………………ふぁっ」



 莉子ちゃんの胸元がスマートになっていた。

 痩せたんだ、激戦続きだったから。


 痩せたんだ。胸が。


◆◇◆◇◆◇◆◇



 ベテランとは頼もしいの代名詞として扱う場合が多いものの、時として経験が正答の邪魔をすることもあると諸君には伝えたい。

 莉子ちゃんの「ふぇぇぇぇ!」からのガルルルルル化、あるいは黒リコ化、その辺りをベテラン探索員の諸君は想定されたはずである。


 実際、莉子ちゃんもそうなる予定だったと思われる。

 が、彼女よりも先に反応したものがあった。


 スッ、スッ、スッと何重にも織り込んだイドクロアの繊維で出来たフリフリが。

 ピュアドレスちゃんのフリフリが、数か所、勝手にパージされた。

 ノースリーブになっている肩口を彩る精巧なフリルもヒラヒラと木の葉が揺れて落ちるように莉子ちゃんから離れる。


 結果、アルティメット莉子ちゃんのヒラヒラとフリルがなくなり、肩が油断するとストンと逝っちまいそうな不安定感を醸し出すと同時に、腹部をヒラヒラと彩っていたパーツがなくなったので、ぷにぷにしたくなるお腹が露出。


 戦場で急に装備が脱げると大半の乙女は悲鳴を上げてしゃがみ込むが、そこは莉子ちゃん。

 もう現世最強のパーティーと呼んでも誰憚ることないチーム莉子を率いるリーダー。



「ふぁー」


 放心状態に留まる。



 ピュアドレスちゃんのパーツは明確な意思を持って、ふわふわと戦場を漂う。

 そして行き着く。


「えっ!? なんなん、これ!? なんかあたしにくっ付いてくるんだけど!! なにこれ!? 爆発するヤツ!? ……あたし独りだから誰も答えてくれない」


 六宇ちゃんの元へ。

 喜三太陛下記念高等学校の制服のブラウスにフリルが合体。

 ヒラヒラした部分はブラウスの前面の飾りに。

 オシャレなОLさんのブラウスみたいになった。

 肩もフリフリしている。


 繰り返すが、ピュアドレスちゃんは意思を持つ装備。

 あのピュアな人しか住んでないピュグリバーの国宝なのである。

 ピュアを守り、ピュアを尊び、ピュアと共に戦場を駆ける。


「……みみっ」


 芽衣ちゃま、察する。


「小鳩! 今のうちに!」

「かしこまりましたわ!!」


 バニングさんと小鳩さんもファイティングポーズを解除して芽衣ちゃんたちと合流する。

 相手は1人であるからして、包囲陣形がベターであるにもかかわらず1か所に固まる現世サイド。



 六宇ちゃんが修学旅行の班決めで余ってしまった子みたいな構図に。



「……み、みみっ。……芽衣、頑張るです」


 そこに飛んで来るサーベイランス。

 仁香さんにはお気の毒だが、山根くんもさすが監察官一の知恵者をワンオペで支え続けてきただけの事はある。


 完璧な人選だった。

 仁香さんの声が固まっている芽衣ちゃま共同体に届く。


『こちら、青山後方司令官代理です。そちらの情報はすべて取得しているので、戦況も把握できています。芽衣ちゃんにこんな事、言わせたりしない! そのピュアドレスについても、おっぱい男しゃ……。ある確かな筋から詳細な特性を聴取済みです! 良いですか、よく聞いてください! ピュアドレスはバスト周りをいじると爆発するらしいです!』


 だが、爆発はしていない。

 仁香さんが続けた。


『まだ続きがあります! おっぱいを偽ると……!! 裏切るそうです!!』


 一同が沈黙の深い海に沈んでいく、そしてもう2度と海面に浮上はしない。そんなイメージに押しつぶされそうになった。

 だが、ここには歴戦の雄がいる。


「なるほど。得心がいった。莉子。そのプルプルした偽乳ヌーブラをお前の新しい装備は裏切りと判断したということだろう。異世界には自律起動する装備や、意思を持つ生き物のような武具も存在する。我らアトミルカも所持していた。瑠香にゃんのプロトタイプに流用したものがそれだ。莉子。落ち着いて聞いてくれ」

「ふぇ……」


「脱げるぞ、その装備。再度持ち主として認められねば」

「ま、またまたぁ! そんなぁー! ひどいですよー!! わたし、もうそーゆう意地悪に翻弄される子じゃないですから……ふぁっ!?」



 左肩のフリルが全部飛んで行った。



「ふん。チュッチュ・ミンガイル」

「黙れ。せめてバニングと呼べ。分かっている。なぜ敵の少女にドレスが渡っているか、だな」


 小鳩さんがとても澄んだ瞳で答えた。


「簡単ですわ。この場で普段着なのは彼女だけですもの。ピュア過ぎますわよ。ご存じありませんの? バカとピュアは紙一重で両立する事が可能だと」


 バカ=ピュア。


 一瞬で六宇ちゃんが一騎当千クラスに昇格した瞬間である。

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