第1214話 【魔王城から水着のお姉さんがお送りします・その3】仁香さん、現場の戦術指南お願いします ~そろそろ「嫌です!!」と断りそうな放っておけないお姉さん~

 その頃のミンスティラリア魔王城。


「はい。青山仁香後方司令官代理です。山根さん、そちらからご連絡頂いているのに不躾な事を申し上げて恐縮なんですけど。先に一言だけ良いですか?」


 仁香さんが相変わらず白ビキニでお仕事中であった。


『うっす。どうぞっす』

「ありがとうございます。では、端的に申し上げますね」


 すぅぅと息を吸った仁香さんが、端的に申し上げた。



「川端さんとナディアさん、こっちにもらえませんか!? 私、知ってるんですよ!? もうあの人たちやる事ないでしょう!? どうせ、ピュグリバーでおっぱい談義してるでしょう!! もうこっちでおっぱい談義してもらって結構ですから!! ナディアさんはフランスで上級監察官に就任されるんですし! 川端さんなんか今はただのおっぱいに詳しい人じゃないですか!! ……協力してもらう事って可能ですよね!? というか、余裕ですよね!?」


 仰る通りであった。



 日本本部とフランス本部の関係は良好。

 ピースとの戦いではミノタウロス♀との婚約が嫌で闇落ちしようとしたのに、結局闇に堕ち切れずに何なら寄り戻そうと決めた、未だ南極海で意識不明のレオポルド・ワチエくんと、ピースに拾ってもらったので善悪の判断は無視して一宿一飯の恩を返すべく暗躍していたバンバン・モスロンくんがぶどう園でハッスルをキメていた際の救援要請を時差とか無視して近隣のヨーロッパ圏ではなく日本を選ぶほどに関係が良好。


 クレルドー上級監察官は「ああー。やっと退役できます」と解放感に体が喜んでいるし、着任するナディアさんも頼めば「はーい。いいですよー」と軽く緩い感じで受諾してくれること疑いようのない事実。

 ついでにナディアさんは水着なので、水着乙女が3人になれば働き方改革も進んで仁香さんの肩の荷も軽くなる。


 おっぱい番付も大関をキープしているので、乙女的にもあり寄りのあり。


『あーっと。……ちょっとお待ちを。確認するっすね』

「はい。お願いします」


『ええと。春香さん、ピュグリバーのサーベイランス起動お願いします。あ゛。向こうでスイッチ切ってるっすねー。これ、雨宮さんがやってるんじゃないっすか。どっすか? 春香さん? プロテクトかかってる? あー。やってるっすねー。これ。福田さんは気付いてるけど功績大として数十分見逃す感じっすかね。確かに、もう大勢に影響ない人たちっすからねー。回復したらこれから戦場へ向かうって事にしといて、青山さんには勘弁してもらうっすかねー。え? 春香さん? マイク? ……あー。……ああー』


 ブツッと音がして、数秒。

 サーベイランスが何故か再起動された。

 山根オペレーターが応答する。



『えー。こちら本部の山根っす。今確認したんすけど』

「聞こえてましたけど!? 山根さんもお疲れみたいですね! 通信マイクのスイッチ切り忘れるなんて!! それで!? なんです!?」


 山根くんは『対チーム莉子・贈賄セット』から人気温泉スパリゾートの宿泊券を仁香さんに横流しする事でどうにか事なきを得た。

 経費では落ちないので、南雲監察官室の予算がちょっと減った。



 続いて、本来の通信内容を伝える山根くん。


『青山後方司令官代理に通達っす。バルリテロリの稼働可能サーベイランスが2基に増えたんすよ。逆神四郎さんと奥さんが……ちょっとナニ敵と仲良くしてて。小坂さん……じゃなかったっすね。失礼しました。芽衣さんの部隊のサーベイランスと繋げるので、戦術指南してもらえるっすか?』

「了!! ……じゃないですよ!? 私、後方司令官代理ですけど!?」


 隣でルベルバックと共同で書類の捏造作業中。

 リャンちゃんが水着をフリフリさせながら先輩をサポート。


「仁香先輩! 探索員憲章に書いてありました! 戦時の後方司令官は場合により、前線の戦術指南を担うこととする。だそうです!」

「リャン? 日本語って日本人でも読むの難しいのに、あなたってやっぱり努力家だよね。私、そういうところが好きなの。……了ォ!!」


 ヤケクソ気味に了解した仁香さん。

 一体なにを指南しろというのかと言えば、それは当然。


「戦後処理のためのデータを……改ざんじゃなくて。あのー。いい感じに、アレするんですよね。シミリートさんがいらっしゃる魔王城に命令が来たって事は。シミリートさん? 技術者の魂みたいなものが、そういう不正をするなって叫んでいませんか?」

「くくっ。仁香殿。私が初めて探索員協会と接した際の仕事内容をお教えしようかね。莉子殿が使っておられた、アームガードにはめ込まれた記録石の改ざんなのだよ。いやはや、懐かしい。あれは素晴らしい体験だったのだよ。おかげで私は研究分野が広がったのだからね」


 お忘れの方は記憶の泉を潜って頂きたい。

 南雲さんが「ふふふっ。興味深い子たちだ……」と謎の暗躍をしていた頃の勇姿が確認できます。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 山根くんに代わってサーベイランスの操作をシミリート技師が担当する。

 ミンスティラリアはあくまでも同盟国で、悪魔、もとい六駆くんの植民地なので、現場ここでのイエスかノーかもう嫌だは階級が最上位の仁香さんが判断しなければならない。


 何をするにもまず責任の所在。

 まったく、働くということは無常ですな。


「あ。どうぞ。繋いでくださって結構です」

「くくっ。結構というのは、もう嫌だと受け取っても良いのかね?」


「……もう! シミリートさんは日本語で遊ばなくていいんですよ!!」

「ふむ。煌気オーラが上昇したのだよ。仁香殿、まだ前線で戦えるのでは?」


「くぅぅぅぅ! この交渉上手! 私がうっかり、そっちの方が良いですよ! とか言ったら、スーパーコンピューターのなんかピカピカするヤツで! 私を水着のままバルリテロリに飛ばすって分かるんですからね!! ウィットに富んだやり取りをしながらどうぞ!! ああ、もう! また汗かいちゃいましたよ!!」


 掃除機みたいなヤツの中で悪辣な魂が「水着なのに汗を!? 早く自分を解放するんですよ!! ところで汗をかいている部分ですが。布と接着している箇所が濃厚ですね。つまり、お尻ですか? それとも胸の谷間ですか?」と蠢く。


「リャンさん。ここは私にお任せください。この身に代えても防ぎ切ります」

「ザールさん! 私もワガママを言うって決めました! ザールさんの身に代えるくらいなら、私! ちっちゃいですけど、おっぱいを差し出します!!」


「ふっ。やはりあなたはお強い。では、必ず五体満足のまま! 防ぎ切ります!!」

「了! お手伝いが必要でしたらお声がけくださいね!!」


 フレッシュカップルがナニかを封印している。

 ザールくんの視線の先ではゴリ門クソさんが未だに時間凍結されて転がっている。



「この2つの災厄。どうにか戦争が終わるまで現状を維持して見せる……! それが私の任務!!」


 ザールくんの任務ランクが最前線で戦ってるヤツらに匹敵するレベル。



 仁香さんと目が合ったので敬礼するザールくん。

 「いいなぁ。リャン……」と呟いて「いいんだよ! それで!! 仁香、よくないぞ! そういうの!!」と両頬をパンと張り、敬礼した仁香さん。


 続けて言う。


「シミリートさん。繋げてください」

「拝承仕るのだよ」


 バッツくんが角度調整したデカいモニターがバルリテロリ皇宮内を映し出した。

 そこにはあられもねぇリクルートスーツ姿のオタマと戦う猫コンビ、ミニスカの女子高生と戦うバニングさんと小鳩さん、さらに壁をぶち破ってそこに飛び込んで来た瞬間の莉子ちゃんとサービスさんがいた。


 仁香さんは短く言う。



「ちょっと1回止めてください!!」


 惨状もここまでとは聞いてない。



 芽衣ちゃま応援パブリックビューイングとして設置されたはずの機器が、なんか危機を映し出している結果を少しだけ呑み込めなかった仁香さん。

 彼女は考える。


「……この中の誰かを選んで、戦術指南するの? 形式上とはいえ、私が? 落ち着いて、仁香。冷静に。そう。これまでだって潜伏機動隊で色んな任務に携わって来た」


「くくっ。仁香殿?」

「仁香先輩?」


 ファニちゃん様が「お静かに! なのじゃ!!」と書かれたプラカードを流用する。

 無駄なものはなるべく出さない方針のミンスティラリア。

 魔族間でもSDGsはもう始まっている。


「バッツ。妾も何か言った方が良いと思うか?」

「いえ。アリナ様。私たちは求められた時に発言する方が良いかと」


「そうであるか。仁香の苦悶の表情を見ておると居ても立っても居られない気持ちになるのだがな」

「分かります。ですが、私たちにできる事と言えば、美味しい照り焼きを作ることくらいです。アリナ様。お味見をお願いします」


 アトミルカ。

 かつて数十年にわたり現世を恐怖に叩き落とした、恐るべきテロ組織である。


「クララちゃん。クララちゃんなんだよ、いつもなら。ただ……! 相手が悪い!! なんでスーツなのか分からないけど、敵の女性!! もうブラ丸出し!! 莉子ちゃんが突入してる事を考えると……! 相手が! 相手が悪い!! となれば、瑠香にゃんちゃんもダメ……!! バニングさんと小鳩ちゃんは申し分ない! いつもなら……!! 場所が悪い!! 莉子ちゃんが出て来たところから最寄りの戦場……! ダメ……!! 芽衣ちゃん! 芽衣ちゃんはどこ!? あの子に負担かけたくないけど、芽衣ちゃんしか……! 芽衣ちゃんしか無理……!!」


 苦悶を極める仁香さん。



 ちょっと福本伸行作品の主人公みたいな葛藤をし始める。



「仁香先輩! 私にできる事はありますか?」

「リャン……! ううん、大丈夫! 私を見てる後輩がいる……!! やって見せる! 簡単な事! なるべく非人道的な戦闘を映さないようにしながら、現場でもそのレギュレーションを順守してもらって、ダメそうなら上手いこと誤魔化せるシーンを作ってもらう……!! 簡単……じゃ、ない!!! もう知らない! 通信しながら流れでどうにかします!! はい、繋いでください!!」


 葛藤の結果、サーベイランスは芽衣ちゃんの近くへと飛んで行った。


 この戦いが終わったら、芽衣ちゃんとリャンちゃんと3人で温泉スパリゾートへ行こうと心に決めた仁香お姉さんである。

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