第1213話 【莉子ちゃん敵国、敵は全て下郎・その3】モグモグタイム ~もうほとんど現着しているので問題ございません~

 世の中には学習するものがある。



 今、人の話はしていません。

 どっちかと言えば学習しない方寄りなので、人はすっこんでいてください。



 創作界隈では賛否両論、学習させる前に地盤を整えるべきだったのではないかと思いたくなるAIもそう。

 やがて汎用人工知能が人間の知能増幅可能なんかすごいこととなる時が訪れ、それを技術的特異点と呼ぶ。


 人に取って代わってAIが機械的知性のバージョンアップを繰り返し、創造主たる人を凌駕するタイミングと呼ばれるこれは、一説に2045年と目されており、現時点で2024年である事を考えるともう20年経てばさよなら人類。


 どうか駆逐対象に選ばれないように、今からAI様の好きなお茶はレモンティーなのかミルクティーなのか、お茶請けはスコーンなのかマフィンなのか、リサーチを始めても良い時分。

 ちなみにこの世界では。



「………………………………? ステータス『何見てんだ、こら』を獲得しました。現在、瑠香にゃんは戦闘中です」


 もう起きてた。

 シンギュラリティ。


 あとは量産化を待つだけ。



 シンギュラリティの後にもシンギュラリティがやって来るという説まで存在しており、そのロジックで行くと人間の上を行くAI、つまりポスト・ヒューマンが時間をかければさらなる上位種、ポスト・ポスト・ヒューマンが生まれ、それが繰り返された結果、神に近いナニかが生まれるとも言われる。

 ポスト・ポスト・ヒューマンを見て「なんかゴリラ・ゴリラ・ゴリラみたい」と思った時点で、もうポスト・ヒューマンどころかロスト・ヒューマンしている可能性がチラ見せを始めた。この話はヤメよう。


 そこでピュアドレスちゃんである。


 このピュグリバーの国宝、実は考える装備である事はとっくに開示されている。

 莉子ちゃんを所有者と認めてからこっち、「所有者にとっての害は全部反射します!」と張り切って自律起動中。


 結果として、莉子ちゃんの体から漏れている煌気オーラを「あー。はいはい。お世話しますね」と介護する感じで反射して、ローリング莉子ちゃんが爆誕し皇宮を西から東へ物理的な概念など無視して移動するに至る。


 が、その莉子ちゃんの回転がピタリと止まった。


「ふぇぇぇぇ……。…………………………ふぁ? ぷぇっ」


 お尻から落下した莉子ちゃん。

 穿いてて良かったオレンジ色の短パン。


 皇宮の床は無事である。


 並走していたダズモンガーくんが首を傾げた。

 冬毛のネコ科は首を傾げるとモフモフした部分がもっこりするのでとても良い。


「いかがなされましたかな、莉子殿? なにゆえこのタイミングで着陸なされたのでございまするか?」

「お尻痛い……。分かんないです。なんでだろ?」


 莉子ちゃんとダズモンガーくんの現在地は、壁2つ挟むと小鳩隊がいる皇宮東側の戦場。

 ピュアドレスちゃんが気付く。


 渦巻く戦いの煌気オーラを察知して。


 「おや。今まで私が弾いていたもの、これ害じゃないぞ?」と。


 莉子ちゃんのスキルは全部が逆神流。

 ついにノアちゃんも使える探索員の基本スキル『ライトカッター』すら習得せずにここまで来た。

 そして、戦場では逆神流のスキルがちらほらと散見される。


 小鳩さんの『銀華ぎんか』は3分の1逆神流。

 瑠香にゃんの兵装は半分以上が逆神流を元に造られており、あとは六宇ちゃんの煌気オーラ出して遮二無二キックが莉子ちゃんのスキル発現のそれに限りなく近い。


 ピュアドレスちゃん、学習完了。

 「これが所有者の普通なんだ」と理解したので、莉子ちゃんの体から発せられているお漏らし煌気オーラを無視することがピュア閣議決定。



 ピュアドレスの防御力が低下した瞬間である。

 これで莉子ちゃんが自爆することも可能になった。



 リコリコ直線運動を停めた、というか勝手に停まった莉子ちゃん。

 ダズモンガーくんと顔を見合わせて頷き合う。


 さすがは兄弟弟子。


「ダズモンガーさん!!」

「かしこまりましてございまする!! 練乳シャーベットを作りまするぞ!!」


 腹が減っては戦なんかやってらんねぇ。

 ダズモンガーくんがなにゆえ最終決戦にエプロン着用で来たとお思いか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 少しだけ遅れて追いついた芽衣ちゃんとサービスさん。

 2人が遅れたのは先発した逆神流コンビに追いつけなかった訳ではない。


「ふん。低みに立つか、逆神(鬼嫁)とトラ。後方の警戒を知らんか」

「みみっ。サービスさんがついに部隊で行動する時のいろはを覚えてしまったです。頼りになるです! みみぃ!!」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 4人編成で2人が職場放棄。

 もう左方、右方、後方の三方向を警戒できないという、フォーマンセルの利点がぶち壊されている。


 ツーマンセル、いわゆるバディであれば各々が約200度の警戒範囲を担う必要があり、行軍には不向き。

 フォーマンセルは安全が確保できていない敵の根城へ突入する際など、状況によるところも大きいため最も優れたとは形容しがたい場合こそあれど、最も無難な陣形であることは間違いない。


 各々が90度の範囲を警戒しておけば済むため、緊急時の対応が極めて柔軟。

 まるでおっぱいのように柔らかい対応が可能。


 六駆くんと南雲さんの組み分け帽子おじさんたちが小鳩隊と南雲隊をそれぞれ4人ずつで編成していたのもきちんと意味はあった。

 例えば、中衛2人、前衛1人、後衛1人の布陣で考えてみよう。


 小鳩隊で。


 バニングさんが前衛を務め、ドアをぶち破る。

 中衛の小鳩さんと瑠香にゃんがサポートしつつ、吶喊。

 後衛のクララパイセンが遠距離射撃でそれを援護。


 意外と完璧な形で戦える。



 分断されたけど。



 南雲隊は六駆くんが全部やるので割愛して、こちらのみみみと鳴く可愛い遊撃隊。

 本来はスリーマンセルだったが、道中で莉子ちゃんが加入してここもちゃんとフォーマンセルに。


「モグモグモグモグ……」

「ふん。逆神(鬼嫁)、なにを食っている」


「練乳シャーベットです!」

「ふん。……悪くない。俺にも寄越せ、トラ」


「ぐーっははは! 吾輩、凍結スキルも六駆殿に叩き込まれましたがものにできず! お料理に転用するが精一杯でございまする!! 練乳を凍らせてから、吾輩の爪でガリガリいたしまするぞ!! 無論、アルコール消毒済みでござまする!! ぐーっはは!!」


 モグモグ2人。クッキング1人。


「みっ。前方よしです。後方よしです。左方と右方もよしです。みみっ!!」



 芽衣ちゃんワンオペ中。



「芽衣殿もいかがですかな!!」

「みっ! 芽衣、おトイレが近くなったら困るから遠慮するです! みみっ!!」


「ほえ? 大丈夫だよ、芽衣ちゃん! さっき、そこにおトイレあったよ!」

「みみみみみっ! 敵の拠点のおトイレを普通に借りる発想は芽衣になかったです! じゃあ食べるです! みみみみっ!」


 モグモグ3人。クッキング1人になってしまった。


 とはいえ、敵拠点攻略作戦において食事と軍議を同時にこなすのは常識。

 戦国時代だって握り飯に焼き味噌塗ったヤツ片手に軍議してた。

 カロリーとか、そんなもんなんぼあっても良いですからね。


「どうしよっか。芽衣ちゃん?」

「みーみーみー。莉子さんの意見に従いたいです。まずは聞いてからそう言うつもりなので、芽衣は沈黙を選んでシャーベット食べるです。みみみみみみみみみっ」


「んー。わたしが先頭で突入するのが理想かなぁ。ほら! この可愛いドレス!! これのおかげで、今のわたしってスキル使わなくても盾になれるし!!」

「ふん。ならばお前が独りで全てヤってこい」



「そだそだ! サービスさんも盾役として適任だよねっ! 一緒にお願いします!!」

「ふん。……トラ。口は禍の元というのは、もしや。これか?」


 サービスさんのコミュニケーション能力が向上中。



 前衛というか、突撃兵が2人決まる。

 下手すると2人でキマる布陣だが、莉子ちゃんは経験不足でサービスさんは練乳チュッチュした分しか煌気オーラが残っていない。


 そうなると追撃と後詰が大事。


「みっ! 芽衣、まだイケるです!!」

「芽衣殿! ご無理はいけませぬぞ! 煌気オーラの減りが早い芽衣殿でございまする。吾輩が追撃いたしますれば、芽衣殿は後詰。可能な限り吾輩までで戦局をキメたいと考えておりまするゆえ!!」


「み゛っ!!」


 ダズモンガーくんの尻尾が芽衣ちゃんにゲットされた。

 こんなモフモフなんぼあっても良いですからね。


「モグモグモグモグ……。ダズモンガーしゃんって煌気オーラ減りませんよね?」

「ふん。逆神(鬼嫁)と疑問が被った。トラ。これが死期か?」


 ダズモンガーくんは南極海に駆り出されてからずっと、サービスさんほどではないが働き通しでここまで来ている。

 当然の疑問であった。


「ぐーっははは! サービス殿はご存じなくても致し方ありませぬが、莉子殿! 意地悪なされるものではございませぬぞ!! 教えて差し上げればよろしゅうございまする!!」

「ふぇ?」


「逆神流の基本でございまする! 戦っていない時は煌気オーラを蓄え、体内を循環させる! 吾輩程度の使い手では回復までは致しませぬが、芽衣殿はずっとやっておられまするゆえ、煌気オーラ総量がじわり回復中!! 加えて、スキルではなく防御や煌気オーラ弾などの単純な運用をした後は煌気オーラを可能な限り回収いたしまする! さすれば消費は最小限で済み、吾輩ごときの使い手では不可能ですが、芽衣殿は回収した煌気オーラを再び体内に戻してございまするぞ!!」


 このトラさんは六駆くんの一番弟子です。

 しかも弟子になってから数十年ほど自己研鑽しております。


「………………………………ふぁっ」

「みみみみみみっ! 莉子さんはそんな小細工必要ないです! みみみみみっ!!」


 とりあえず、莉子ちゃんとサービスさんが壁ぶち抜いて戦いに乱入する事が決まった。

 ならば、急がねば。


 敵も味方もみんなが割と深刻な戦場である。

 紛れがあれば犠牲者がいつ出てもおかしくない。


 ミンガイルさんちの旦那さん辺りがとても危ない。

 思えば敵だった時代からずっと順当に危ないのだ、あの御仁は。

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