第1212話 【乙女たちと乙女たちの戦い・その6】何かが接近中 ~準ゾロ目回だと気付いたのは今~

 現在移動中の部隊が新しい舞台へと接近していた。


「あれ!? これ、やってますね!! どうします、南雲さん!? これやってますよ!!」

「やってるね。逆神くん、君ぃ。君が感知できてる煌気オーラなら、私の方が先に感知できてるんだよ。君より勝ってるところなんてさ。それくらいしかないんだから……」


 諸君。

 世界は問いたい。



 可愛い莉子ちゃんだと思った?

 残念、六駆くんでした。



 ゆっくり移動中の南雲隊。

 南雲さんのメンタルは依然として拗ねたまま。


「ややっ! 南雲先生!! 南雲先生は逆神先輩より先に結婚されてます!! これはふんすでは!?」

「ノアくん……。君ぃ!! 確かにジャストイットふんすだよ!!」


 ライアンさんがノアちゃんを窘める。

 みんなでゆっくり移動しているのでお喋りし放題。


「ノアちゃん。無責任な煽りはよすんだ。南雲監察官を見ろ。なんかよく分からない言葉を発しておられる。重症だ……」

「ここはせめてジャストふんすっイットで返して欲しかったですね! ライアン先輩!!」


「うむ。それでもさっぱり意味は分からないものの、何やらポジティブであろうとする努力は伺えるな。時に、逆神師範。やっていますが、我らはいかがしますか?」

「結構遠いんですよねぇ。でも、敵さんたち強いですよ、これ。あと、気のせいかもしれないんですけど。瑠香にゃんの煌気オーラがものすごく減ってませんか?」


 パイセンの成果かもしれないけれども、これは致し方なかったせいかと思われる。


「逆神先輩の溜めてる爆炎ちゃんをボクの穴ちゃんでぶわーってやりますか? 画的には絶対にふんすですっ!! 大興奮です!!」

「えー。それやると僕のカードが1枚減るからなぁ。……まあ! 莉子が飛んで行ってるし!! 僕たちはこのままひいじいちゃんの秘密基地目指そうか!! ですよね、南雲さん!!」


「あ。そうね。うん。頑張ってテンション上げようとしたけど、なんか無理だったから。そうしてもらえると私も助かるかな。『古龍化ドラグニティ』ってある程度はハイテンションじゃないと使えないっぽいんだよ。ピースのなんて言ったっけ。私と戦った子。ああ、バンバンくん。彼、すごいよねぇ。TPОに合わせてテンション変えられるんだもん。あんな若い子って稀有だよ。日本本部に欲しいなぁ……」


 バンバン・モスロンくん。

 既に川端男爵がドラフトで指名済みなので、彼はフランスに持って行かれる。


 南雲隊、予定変更はなし。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」


 つまりこういうことになる。



 最強の主人公だと思った?

 残念、可愛い女の子の莉子ちゃんでした。



 狡いことやってんじゃねぇよと醒めた瞳を向ける諸君には強く申し上げたい。

 いつから少年、あるいは少女の心を失ってしまったのか。

 「こいつぁ一本取られたねい!!」と大げさにリアクションを取ってからの「ワハハ!!」までが礼儀作法だと道徳の時間に学んだこと、忘れたか。


 非行少女が飛行中のみみみと鳴く可愛い生き物遊撃隊。

 遊撃って遊んでるって意味じゃねぇぞというネタを擦るのも何度目か判然としないが、自分のお漏らし煌気オーラでクルクル回転しながら等速直線運動をキメている姿はどこか楽しそう。


 等速直線運動についてのクレームは魔王城の水着お姉さん係までお願いします。

 この世界で誤用や微妙に誤用を擦る正用、誤用を装ったやっぱり誤用等々、アラを探し始めたら地中深くまで到達している。


 虚ろなる虚構が空虚に口を開けていたのはいつからか。

 宇宙の誕生の秘密に迫るが如く途方もないエネルギーが求められる。


 等速直線運動で。


「みみみみみみみみっ! 『瞬動しゅんどう二重ダブル』です!!」

「ふん。……芽衣ちゃま、何故そうまでアレを追う?」


「み゛っ! ラッキーさん! めっ! です!! 莉子さんは芽衣の大事な先輩です!!」

「…………チュッチュチュッチュチュッチュ」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 久しぶりに「めっ!」って言ってもらえて、あとラッキーさんって呼んでもらえて、ラッキーさんはこの世の不条理の大半がどうでも良くなった。


 『サービス・カット』というなんか安く髪切ってくれそうな理髪店か、あるいは今や地上波で見かける事がほとんどない絶滅危惧種なお色気シーンみたいな響きのスキルを無言で発現。

 前方の時間をちょっとだけカットして移動した結果だけ持って来るという、キング・クリムゾンめいた能力で加速した芽衣ちゃまを追走。


 トラさんの笑い声が聞こえないと首を傾げた時、既にトラさんは行動を終えている。


「ぐーっはははは!! 莉子殿! 吾輩が壁をぶち破る係を引き受けましょうぞ!!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……。だず……ダズモンガーしゃん……! わたし、別に好きでこれやってる訳じゃないんですぅぅぅぅぅぅ……」


「ぐーっはははは! 『猛虎奮迅ダズクラッシュ』!! ぐあああああああああああああ!!」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」


 芽衣ちゃん遊撃隊、なんか楽しそうに戦場へ到達寸前。

 どこの戦場なのかはまだ分からないので、確定ランプを灯すのは早計である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぎゃー!! なんか来る! って言うか、来てる!! この煌気オーラは覚えてるよ、あたし!! 追いはぎの子じゃん!! ぎゃー!! やだやだやだ!! もう裸になる準備しとくから、ガルルって唸るのはどうにかなんないかな!?」


 確定ランプをどうぞ。


 六宇ちゃんが真っ先に莉子ちゃんの接近に気付いたのは、彼女の中に眠る資質の覚醒、その予兆か。

 それともついさっき作ったばかり、出来立てホヤホヤのカサブタにもなってない初陣のトラウマがそうさせたのか。


 スキルはメンタル勝負。

 この鉄則だけは何人にも違えること叶わず。


 六宇ちゃんの煌気オーラが変質する。



 危険が危ないという感情は人を成長させるメンタルの中でも相当な上位。

 だって危険が危ないのを放置していたら、危険が危なかったになって、行き着く先はラブイズオーバーである。



「な……なんだ!? この煌気オーラは!?」

「バニングさん! もうおひとりでというこだわりはお捨てくださいまし!! この、莉子さんが高速回転しているような煌気オーラ……!! あちらの女子高生様、ただ者ではありませんわ!! 同時にかかりますわよ!!」


 バニングさんと小鳩さんが狼狽える。

 六宇ちゃんから、まるでうちの子がヤンチャしてる時みたいな煌気オーラを感じ取ったのだ。


 バニングさんは拳に煌気オーラを、小鳩さんは『銀華ぎんか』を咲かせて一気にキメにかかる。


「ひぃぃぃぃ!? なんでなんで!? あたし何もしてないのに!! ガチめじゃん!? だぁぁ! 『六宇蹴りムーキック』! 『六宇蹴りムーキック』!! 『六宇蹴りムーキック』!!!」

「ふっ。その不安定を装ったスキル……! そう何度も惑わされる私と思うてくれるな!! 『魔斧絶空投擲ベルテ・ヤケレ・バッレイン』!!」


 バニングさんが極大スキルで『六宇蹴りムーキック』を相殺。

 ヤケクソで放っているスキルに対してアトミルカの雄はマジメに極大スキルを使ってなお相殺なので、やっぱり六宇ちゃんからは逆神の血脈を感じさせられる。


「続きますわ!! 『銀華ぎんか』!! 百二十八枚咲!! 『シルバーランス・ラパニース』!!」


 六宇ちゃんに迫る花の槍。


「小鳩? 一応確認なのだが。それは?」



二十日大根ラパニースですわ!! せっかく瑠香にゃんさんのおっぱいで煌気オーラ回復しましたのに、1手で使い切ってはアレがナニしますもの!!」

「ふっ。私は結構、アレがナニしている……」


 槍と言う名の二十日大根(ギリシャ語)。



 だが、二十日大根の先っぽ、根っこの部分は割と尖っている。

 家庭的な一面をスキルで魅せ始めた小鳩さん。


 六宇ちゃんから依然として放たれている異質な煌気オーラは未だ消えず。

 厳密には六宇ちゃんの後背からなのだが、そんな事は些細な違いである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……さすがです。ぽこ様」

「嫌だにゃー!! そーやって強敵認定されて良かった試しがないもんにゃー!! でも『グラビティ・レイ』をヤメたら、さすがって言われたあたしが先に狙われるぞなー!! 瑠香にゃん、おっぱいビーム出してにゃー!!」


 こっちはこっちで不思議な善戦中の猫コンビ。

 オタマの胸を中心に重力スキルで動きを封じているが、それ以上のキメ手はなく、というか効果があると思っていなかった『グラビティ・レイ』なので止めるタイミングも失い、あとは瑠香にゃん頼みのパイセン。


「ぽこ。瑠香にゃんが兵装を使うためにはエネルギーが足りません。煌気オーラを使っている瑠香にゃんウイングを格納すれば攻撃可能。どうしますか」

「……地面に降りたら、さっきのバシューンが来る気がするぞな」


「はい。ぽこ様。その通りです。テリー・ボガードを召喚します。刀剣男子です」

「嘘だにゃー!! それ餓狼伝説だぞなー!! パワーウェイブだにゃー!!」



「……さすがです。ぽこ様」

「えー。嘘だぞなー。なんで今のやり取りであたしの評価が上がったんだにゃー?」



 オタマがリクルートスーツのジャケットをごそごそし始めた。

 出るか。玉杓子おたま


「これを使いたくはありませんでした」

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! なんかとっておきが出ちゃうぞなー!!」


「私は今から、ブラジャーを取り換えます」

「お姉さんがちょいちょいおかしくなるせいでイマイチ危機感が出んぞなー。どーゆう事情でそうなるんだにゃー」


 目にもとまらぬ速さでブラウスをガバッとやって、しゅばっとナニかを引き抜いてから、ザッとナニかを装着したオタマ。



「随分と楽になりました。ぽこ様のクレバーな戦闘スタイルには敬服いたします。ゆえに私も本気でお応えしましょう。今、煌気オーラ供給器官をイドクロア製のブラジャーで覆いました。出力は落ちますが、これで重力から解放されます」

「にゃん……だと……」


 彼女たちは真剣に命の取り合いをしております。



 何かが接近中の皇宮東側の戦い。

 突入されて被害が甚大なのは猫と猫とオタマか。


 否。


 ミニマムから見上げた景色は全てマキシマム。

 マキシマムを全て壊せば。


 そう。


 ミニマムがマキシマムに。

 今、「0は何やっても0や」と呟いた方は放課後、職員室までお越しください。


 反省文です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る