第1211話 【ここで電脳ラボが仕事をします】何人かで外に行ってさ、もう勘弁してくださいって正直に言おうぜ!! ~あとこの世界のきたねぇ伏線回収しようぜ!!~

 皇宮が戦場となってしばらく。

 西側が爆炎で消し飛び、今度は東側もきっと大火に覆われて目を逸らしたくなる感じにこんがりと焼き上がるであろう、九死に一生を得られるか否か、多分無理だろうな、そらそうよという予感を現在進行形でビンビンに受信している、バルリテロリのはたらく細胞。


 彼らの名前は電脳ラボ。


 電脳のテレホマンが創設したバルリテロリのテクノロジーを結集させ、より良い明日を目指そうぜな組織。

 後方で戦局を最も正確に捉えている彼らだが、誰ひとりとして逃げようとも裏切ろうともせず、絶望すらもせず、ただ粛々と職務を全うしていた。


 一説には戦争において最初に感覚が麻痺するのが情報機関であるという。

 戦争における大義を本国の民に世論形成なんやかんやで定着させ、プロパガンダなんやかんやの強化を担う情報機関。


 個としての思想を持ってたりなんかしたらば成立し得ない職務であり、もうどう見てもあかん状況でも「皇国! ものっすごい勢いで反転攻勢中!!」と臣民に伝えるためにはまともな感性なんか必要ない。


 が、バルリテロリには眼の同期があるので、情報機関の役割が我々の知っているものとはまったく違う。

 既に臣民の多くは「なんかやっとるわ」と把握しているし、莉子ちゃんが落下して来る陛下謹製モビルスウィーツを『苺光閃いちごこうせん』で焼き払った時点から「なんかロリロリした陛下の側室がクーデター起こすってよ!!」という情報も同期されており、一瞬で同期が済む都合上いっそ逆に色々と錯綜するという不思議な状況下に置かれている皇国バルリテロリ。



 情報統制なんかしなくても、みんな避難して普段通り過ごす。

 錯綜が日常。そんな皇国。移民募集中である。



 よって、個としての意思を持たぬ屈強な集合体である電脳ラボはバルリテロリ勝利のために働くが、バルリテロリ敗北。万が一、いやさ兆が一の備えだが、同時進行でこなしていた。

 勝っても負けても得るものより失うものの方が多い。

 それが戦争。


「みんなー。コーラ持って来たよー」


 未来はなくともコーラだけは売るほどある。

 皇宮が戦地になったので、電脳ラボのやる事は2つだけ。


 皇宮内で戦うバルリテロリ軍(もう片手で数えられる)の援護。

 敗北した際、速やかに臣民の生活を保護する施策。


「それじゃあ、じゃんけんで負けた3人。外に行っておばば殿と交渉して来い」


 施策をいくら試作して保管しておいても、それを実行に移す場所が消えてしまっては本末転倒。

 絵に描いた和風スイーツ。砂糖醬油で頂きたい。


 砲弾を外にぶっ放したら倍の勢いで戻って来る電脳ラボ。

 このままでは机上の空論をキメる机もなくなる。



 よって、地獄みたいな任務に挑む必要があった。



「貴官。家族は?」

「私は写真館を営む両親がいるだけだ。貴官は?」


「オレは独り身。親父もお袋も行っちまったよ……」

「ああ。皇宮のおせち料理盗み食いしたんだっけ? バカだねー」


「そういう貴官は?」

「この戦争がなけりゃ、年明けに結婚してたんだけどな。どうやら延期らしいぜ!」



「おい! こいつ連れてったらダメだ!!」

「それな!! こいつがいるだけで多分失敗するよ! この交渉!!」

「なんでだよ!! じゃんけんで決まったんだから仲間外れはよせよ!!」



 実家が写真館のパンジー。

 両親が皇宮の食堂で盗み食いして投獄中のサルビア。

 この戦争が終わったら結婚するらしいハボタン。


 学校の花壇と言えばこの3種類だった、平成時代。

 いざ、地獄からより凄惨な地獄へ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「そねぇな事を言いに来たんかねぇ! あんたらぁ、バカじゃねぇ!! あたしゃ、うっかり殺すところじゃったろうがね!!」


 バルリテロリ皇宮にもう城門はないし、外壁も大破している。

 電脳ラボから出て駆け足で1分。

 すぐにみつ子ばあちゃんの視覚的射程圏内へと到達。


 白い旗とおはぎを持って接近したところ、意外と殺されなかった。


「おばば殿。ここはどうか、講和条約の交渉までしばし御手を止めて頂けないか」

「講和ねぇ。……それを言うんじゃったら、まずはお父さんのお父さんが来てから、頭下げるんが筋じゃないかいね?」


 みつ子ばあちゃん、喜三太陛下に対してはまだヘイトが残っていた。

 なにせ愛する四郎じいちゃんに対してあまりにもな態度をキメたのである。


「ほっほっほ。まあまあ、みつ子や。そうすげない態度を取る事もなかろうじゃて。彼らも相当な覚悟でここに来たはずですからの」



 3人が「やっぱ皇太子殿下だわ」と、四郎じいちゃんを勝手に皇族復帰させてから跪いた。



 四郎じいちゃんは純粋な戦闘力で評価すると八鬼衆よりも劣る。

 ミンスティラリア魔王城でアゲアゲに仕上げて来たが、それでも老い陛下にすら及ばなかった。


 だが、城門前には四郎じいちゃんの創ったアタック・オン・みつ子が違法駐車されている。

 駐車場の区画線なんてガン無視して、斜めに停めるどころか真横に停める。

 その武骨なフォルムと大胆不敵なギミック。あと憚ることなき駐車違反。


 たまに高速道路のサービスエリアで見かけると義憤に駆られる前に「ええ……」と何故か感心してから関わらないよう距離を取る。


 バルリテロリにおいて構築スキルはスキル使いのステータスとして最も分かりやすく、最も憧れる指標。


「これはすごいな」

「本当にな。シンプルなのに兵装がすごい」

「どういう発想してるんだろうか。現世の皇族の皆様は」


 アタック・オン・リコを創った六駆くん。

 アタック・オン・みつ子でバルリテロリの国道を「爆走! 無免許運転!!」キメた四郎じいちゃん。

 忘れられがちだが『ゲート』を考案した大吾。


 逆神家の異常さは構築スキルを見れば分かる。


「なんかぃね!! お父さんがそねぇな態度取るんじゃあ、あたしがいつまでもちょったら恥ずかしかろういね!! 仕方ないねぇ!」



 はぶてるとは中国地方、および独立国家・呉で使われる「いじける」「不機嫌になる」という方言。

 「殺戮する」という意味ではありません。



 みつ子ばあちゃん、振り上げた拳をおろす。

 パンジーが言った。


「おばば殿。皇太子殿下。よろしければバルリテロリの歴史についてご案内させて頂けませんか」

「あたしゃ全然興味ないねぇ!!」


「……では、ヤメましょう!!」

「お前ぇぇ! きたねぇぞ! シャモジ様の真似して逃げるなよ!!」


「えー。だって貴官。おばば殿は興味がないと仰せだ。無理強いすれば首を捻じ切られるだろう?」

「なんかね、あんたら! 物怖じせん子らじゃねぇ! こねぇなか弱い年寄り捕まえてなんて言い草かいね! あたしゃ今は煌気オーラがなくなっちょるけど、みつ子コンバットだけでも戦えるんよ?」


 サルビアが首を垂れる。


「重々承知の上です。砲弾をキャッチされた回数、実に58回。最初の3回まではラボメンの誰かが驚いてコーラ噴いてモニターを随分とダメにしました」


 ハボタンが締めくくる。


「我らが死んだところで代わりなどいくらでも。ご存じありませんか? バルリテロリの民は9割の者が眼を持っておりまして、情報の同期が行えます。電脳ラボの人員が数人死のうとも、今わの際に同期さえ行えば業務に支障は出ませんゆえ」


 みつ子ばあちゃんが飽きれたように笑った。


「あんたらは気概があるんかないんか分からんねぇ。……仕方がないけぇ付き合ってあげようぃね。どこに連れてってくれるんかね?」

「はっ。喜三太陛下記念館でございます」


 逆神老夫婦が顔を見合わせてちょっと気まずそうにアイコンタクトをキメた。


 アタック・オン・みつ子で物損事故を起こした現場である。

 通報義務も怠っており、これは当て逃げ。

 四郎じいちゃんは運転免許を返納済み。


 こりゃあいけん。


「皇太子殿下は陛下の御父上についてご存じですか?」

「まーったく知りませんのじゃ。アレはワシが生まれる前にナニしておりましての」


 父親をアレと呼びだした四郎じいちゃん。

 逆神家偶数代四郎と六駆で見られる症状である。


「なんと。では、崇高な使命をどうやって伝承されたので?」

「なんぞ紙が遺されておりましての。汚い字で。とりあえず、馬車に轢かれろと。まあ、一応轢かれてみたところ転生したもんですからの。ああ、これは何やら大したもんですわいと、ワシも息子をトラクターで轢きまして。なんやかんやで孫の代まで続けた次第ですじゃて」


「……さすがは陛下の第一皇子」

「ノリで死ぬのですね。皇族の皆様は」


 聞けば聞くほど頭のおかしいお話。

 こちら、なんと。



 この世界が始まった瞬間だいいちわの出来事である。



 アタック・オン・みつ子に乗り込んで喜三太陛下記念館へと向かった逆神老夫婦と電脳ラボ講和担当職員3名。

 さては、崇高な使命の帳尻合わせを始めるつもりか。


 最終決戦のどさくさに紛れてやり始める辺り、この世界の汚さが見て取れる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の電脳ラボ。


「……ヤツら、死ななかったぞ」

「なー。すげぇよな、皇族の方々。さっきまでオレら殺す気で砲弾撃ち込んでたのに」


「いや、それを言えば私たちの方がすごくないか? そんな御方に砲弾撃ち込んでたんだぞ? 怖いもの知らずで片付けられる所業ではない」

「でもまあ、我らがやれる事って足止めしかなかったからな。あの場は無意味でも何かするのが正解じゃないか? それで死んだら仕方ないだろう。皇宮にくっ付いてるんだから、電脳ラボは」


「違いない」

「ところで、どうして喜三太陛下記念館へお連れした? 皇宮から距離を取って頂くにしても、たかだか数キロでは意味も無かろう」



「ああ! 誰も陛下の自伝の内容覚えてないから! 同期の仕様がなかったんだ!! 記念館には陛下の自伝があるから。読んでもらうのが早い」

「みんなー。コーラ持って来たよー」



 ラボメンがコーラを飲んで「確かにな。知らんものは同期しようがない」と頷き合ってから、皇宮で行われている戦闘のサポート業務に戻っていった。

 どうせ負けると心の中で思っていても、それをラボメンで同期していても、それでも皇国のために負ける瞬間までは勝つ気でサポートする。


 電脳のテレホマンが造ったラボには、四角い男の忠義心が生きている。


 ところで、皇宮の西側が消し飛んだのはテレホマンの『超過料金オーバーペイ』が原因という情報だけは同期されていないのは何故か。

 総参謀長殿、少しずつ陛下と同じ色に染まり始められましたな。

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