第1209話 【乙女たちと乙女たちの戦い・その4】猫と猫VSオタマ
椎名クララは考える。
彼女はチーム莉子の他のメンバーに比べるとかなり一般人寄りの乙女。
チーム莉子のメンバーは皆、動機こそ違えどプライベートと探索員活動の境界線が曖昧な乙女の集まり。
莉子ちゃんは六駆くんが仕事するって言うからオフィスラブ希望で探索員やってる感がどんどん強くなって、今は旦那と一緒に退役するんじゃないか説も随分と濃くなった。
芽衣ちゃんはおじ様の呪縛から解き放たれて、むしろ探索員という仕事に魅力を感じており日夜トレーニングに勤しむマジメでみみみと鳴く可愛い生き物。
小鳩さんは元からストイックだった。
そこに大学を卒業して探索員一本でこれから先も頑張るぞいと気持ちを固めたところに、あっくんが特務探索員として監獄ダンジョン・カルケルから特例で釈放、オフィスラブも開始。
お師匠様の久坂さんが退役したら塚地監察官室になるのか、それとも久坂監察官室を五十五くんが継ぐのかは分からないが、敬愛する師とお姉ちゃん困りますわな弟というか義弟というか、心の弟がいるのでプライベートにも磨きがかかる。
ノア隊員も愉快犯で定着しつつあるが、思い出して頂きたい。
彼女はチーム莉子加入前から探索員として故・雷門監察官室に所属していたため、後発で面白いこと大好きパパラッチ女子になっただけ。
別に探索員を疎かにしてはいない。
楽しい事を優先するようにはなったが、仕事と並行してどっちもこなしている。
瑠香にゃんはミンスティラリアへ帰れないと思われるので、特務探索員をしていないと人権というかロボ権、あるいはにゃん権が失われる。
職務に邁進しない理由がない。
そこでクララパイセンである。
彼女は大学生。
大学生は学費を自分で払ってりゃ適当に遊んで暮らして良い時間。(椎名クララ個人の見解)
探索員という腰かける肩書があるからこそ、モラトリアム大学生を楽しんでいられる。
しかし、気付けば結構な額の貯金もあるし、引きニートどら猫になっても問題はないはず。
この1点が他の乙女たちと探索員に賭ける気持ちの重さが違う。
どら猫は探索員としての修業もこなしてはいるものの、やる事がないからやっている側面を持つ、他のやる事の序列が変わると一瞬でやる気を失くす可能性をその無駄にデカい胸に潜ませている。
ビールを日にロング缶で3本キメる生活を20歳過ぎてからずっと続けているのに、出て来るのは腹ではなく胸。
莉子ちゃん並に運動しないのに、太ももは程よい肉付きで程よくぷにぷに、ウエストなんかどういう理屈でくびれているのか判然としないが、へそ出し装備を身に付けて何ならちょっと似合うまである。
これ以上の考察はこれからやって来る援軍に苺色の悪夢で誤射されかねないのでヤメておこう。
そんな一般人、いやさ一般猫なパイセンは考えていた。
「……どうにかして、このセクシーお姉さんを味方に引き込めないかにゃー。このお姉さん、きっと敵さんたちの性的なアイドルだと思うんだにゃー。つまり、あたしと仲良くなってくれれば、完全なる安全地帯がゲットできるぞなー」
クレバーなどら猫。
安全な状態でにゃーにゃー鳴くためならばビール色の脳細胞がにゃんにゃこ働く。
働くのが嫌なのではない。
働くことを強いられるのが嫌なのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
オタマがストッキングから
これは
「失礼します。ぽこ様。バストサイズを伺ってもよろしいですか?」
「……うにゃー」
対話の余地、あり。
どら猫の瞳が光る。
「はい。瑠香にゃんが答えます。ぽこはGランクです」
「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! なんで言っちゃうんだにゃー!! 高度なおっぱい情報戦をこれから始めるとこだったのに! ひどいぞな!!」
「左様ですか。ぽこ様。私はFランクです」
「大変立派ですにゃー!!」
オタマが頷いた。
続けて宣言する。
「ぽこ様を、皇帝陛下の側室としてバルリテロリにお迎えする用意がございます。あるいは、ここで殺害いたします。お選びください」
「瑠香にゃん、瑠香にゃん。あたし、瑠香にゃんを初めて恨んでるにゃー」
交渉の余地はあったが、どっちも嫌な二択の交渉になってしまった。
おっぱいさえ隠しておけば、こんな事には。
「端的モード。このポコ野郎。オタマ氏はぽこのおっぱいに有用性を見出しています。先刻の、割と消したい戦闘データにもおっぱいと連呼する敵幹部が記録されています。ぽこ。おっぱいがある限り、今のぽこは無敵です」
「……にゃ!! にゃるほどにゃー!! つまり! あたしは攻撃されんのだぞな!?」
ガッと音がして、クララパイセンと瑠香にゃんがそちらをしゅばっと見た。
猫は耳慣れない音に大変敏感で本能的にそちらを見てしまう生物。
そこには床にめり込んだメリケンサックがあった。
「ぽこ様。瑠香にゃん様。バルリテロリはロボット工学が現世よりも先進的かつ変態的な領域へと一足先に到達しております。そちらのおっぱいを避ければ、私は貴女たちを害すること、躊躇しません。おっぱいがあれば、後はどうとでもなります。『
伝えるべきことが終わると、オタマのパワーウェイブが地面を走る。
瑠香にゃんの太ももにしがみついたパイセン。
「緊急瑠香にゃんウイングを発動します。ぽこ。重い。
「嫌だにゃー!! 瑠香にゃんの推理、大外れだもんにゃー!! なんか怖いこと言っとるぞな!! オタマお姉さんが!! おっぱいを避けて攻撃されたら、おっぱい以外はぐちゃぐちゃになるぞなぁ!!」
オタマがメリケンサックを回収すると宙にフラフラと浮かんでいる2人、いやさ2匹に狙いを付けた。
「おっぱいだけは生であれ。残念ながら、バルリテロリの技術ではおっぱいの人工生成がまだ不可能です。安心してください。肉塊と化しても新鮮なうちにおっぱいだけ回収いたします。はぁ!! 『
「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!! 『グラビティ・レイ』だぞなぁ!! 今さらこんなもん効かんぞなぁ!! ……にゃー?」
飛んできていたメリケンサックがどら猫を真っ二つにすることなく、地面に再びめり込んだ。
ついでにオタマもしゃがみ込んだ。
「……くっ。さすがです。ぽこ様。おっぱいを狙った重力付与スキル。これほどの
「オタマお姉さんは何言っとるんだにゃー」
「解析不能。ですが、ぽこますたぁ。今、輝いています。そのへなちょこ重力スキルの発現を維持してください」
おっぱいとおっぱいが今、苛烈なる戦いを繰り広げている。
◆◇◆◇◆◇◆◇
パイセンがたまに使う重力スキル。
御滝ダンジョンを攻略していた頃にはもう使っていた古参のスキルであり、とっくにインフレが起きた後の属性でもある。
重力スキルは六駆くんクラスの使い手になっても相手の足を止める用途で使われる属性であり、例えばモンスターを圧殺していた頃の様な運用方法は対人戦になると見かけなくなった。
これは重力スキルが
1点に
しかし、オタマの
オタマの
心臓付近に存在しているケースが多い
破損させるプロのバニングさんなども例にもれず。
しかし、オタマはおっぱいにある。
おっぱいが成長するにつれて、
中学生から高校生にかけて、オタマは一気にスキル使いの階段を駆け上がった。
シャモジ母さんが彼女に言ったので間違いない。
「おーっほっほっほ!! わたくしたちバルリテロリの民の大半は眼が
オタマ、中学三年生の時の出来事である。
この日から彼女は感情をほとんど失くした。
手の平に眼が付いているのに。同期だってできるのに。
眼の固有能力はなかったが、スキルは使えた。
成長と共になんか知らんけど使い手としてのステージが上がっていく。
何故か。
おっぱいに
オタマは感情を失くした。
話を重力スキルに戻そう。
オタマは
それは1点に集まっている。
おっぱいである。
「くっ。……ぽこ様。……なんという御明晰。一目で看破されるとは、このオタマも想定外でした。くぅ……。胸が……重い……!!」
苦悶の表情を浮かべるオタマ。
クララパイセンは言った。
「なーに言っとるんだにゃー。オタマお姉さんは。あたし、確かにギャルゲー好きだぞな? 現実のおにゃの子も愛でるぞな? でも、他人のおっぱい重くしようとか考えたことはないにゃー。もう2度と莉子ちゃんがいるとこで重力スキル使えんようになったにゃー」
一転して、なんか冷めた瞳のどら猫がいた。
瑠香にゃんの太ももにぶら下がって。
『グラビティ・レイ』を発現している限り、安全マージンが完璧に担保されるという事実と共に。
担保とは債権の弁済手段として使われる。
物的担保と人的担保がある事は広く知られているが、今、ここにおっぱい担保という新しい保証の形が誕生した。
損保会社の山が動くか。
保険界隈は基本的に早い者勝ち。
次回、どら猫Z。
おっぱい保険破綻。出るか、満額おっぱい支給。立ちはだかる責任準備おっぱい9割の壁。
ぜってぇ見てくれよな。
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