第1208話 【乙女たちと乙女たちの戦い・その3】そうだ、分断しよう ~何だかんだでいつも通りの戦局が生まれるのがこの世界~

 敵の接近を察知した小鳩隊。


「はいはいにゃー。並んでにゃー。煌気オーラ配りますぞなー」

「…………………………? ぽこがあまりにも自然に瑠香にゃんのおっぱいを管理するようになっていますが、これは普通なのですか。ご主人マスター。バニング様。瑠香にゃん、0歳児なので分かりません」



「……わたくし、ちょっとまだ子供なので分かりませんわ」

「……私は少し年老いすぎているゆえ、分かりかねる」


 瑠香にゃんの動力炉という名のおっぱいから煌気オーラを配給してもらっているので、どら猫の常識に対して何も言えねぇ常識人たち。



 オタマのガチを肌で感じた小鳩さんとバニングさん。

 お互いに「これは少しでも万全を期して臨まなければ、ファイナルバトルで使命を終えた戦士として殉職しかねない」空気も敏感に察知。


 こんなもんオーラなんぼあっても良いですからね。


 特にバニングさんはもうカラカラに干からびているので、オタマのメリケンサック・イン・ストッキングが命中すれば致命傷は避けられないだろうし、掠っただけでも致命傷になるだろうし、下手したら避けても煌気オーラ圧で致命傷になるかもしれない。

 クイント戦で使った『ダンディ・サービス・タイム』で無茶をし過ぎた。


 煌気オーラ供給器官がぶっ壊れかけている自覚は既に確信。

 一体バニングさんがどれだけの回数の煌気オーラ供給破損を繰り返して来たとお思いか。


 分からいでか。

 てめぇの死期を悟り続けて幾年月。

 アトミルカを率いていた頃から死への恐怖などなかったが、アトミルカを解体してからの方が死期と仲良くなったし、今はもう死ぬのがむちゃくちゃ怖い。


 だいたいチーム莉子のせいである。


 だが、恐怖を覚えた獣は強い。


「はいはいにゃー。たくさん配るぞなー」

「すまんな。クララ。これだけあればもう充分だ。どうにか、もう一戦くらいはこなして見せよう」


「…………………………? 端的憤慨モード。このおっさん、なんで瑠香にゃんにお礼言わねぇんだ。この野郎」


 瑠香にゃんの人権は与えられたり奪われたりが忙しい。

 戦後、まずは法廷でどら猫と対峙しよう。


「お相手はお二人ですわね。4人でかかりますわよ。瑠香にゃんさん、おっぱいありがとうございますわ。本当に助かりますわ」

「…………………………? ご主人マスターのお言葉を解析したところエラーが発生。瑠香にゃんが貸与したのは煌気オーラですが。瑠香にゃんはもうおっぱい搾られる感じに仕上がったのですか?」


 メカ猫、あるいはロボ猫のメンタルが危うい。

 というか、人工知能が危うい。


 だいたい全部どら猫が悪い。

 いやさ、戦争が悪い。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ゆっくりと、隠れながらも堂々と。

 矛盾だらけのバルリテロリの正道を往くオタマ。


 手に持ったストッキングをひゅんひゅん振り回しながら、最初の獲物を選定する。


「ぎゃー!! オタマぁ!? 今、あたしの髪にピシッてなったぁ!! ピシッて!!」

「はい。六宇様。お気を付けください。私の射程範囲は広いです」


「先に言ってよ!!」

「はい。六宇様。先に行っておりますが」


「あたしのバカレベルに合わせなくて良いからぁ!!」

「六宇様……!!!」


 オタマはど真ん中から小鳩隊を分断する気満々である。

 理想は1と3に分けて、3を自分が担当しつつ1を六宇ちゃんに任せる形。

 速やかに3人を片付けて六宇ちゃんの援護に向かえば、最もスマートかつ時間的にも速く、尺的にもスッキリする。


「六宇様。参ります」

「どこに!?」


「はい。六宇様。あとで国語のドリルを差し上げます」

「なんでドリル!? 地面掘るの!?」


「はい。六宇様。違います。はぁぁ!! 『暴行傷害鞭アサルトウィップ』!!」


 今日初めて戦場に出た才能はあれどただの女子高生にもいつも通り接する、皇宮秘書官の鑑なオタマ。

 彼女は常に皇族へ忠誠を誓っているので、毎日が全力で毎日がエブリデイ。


 ストッキングを伸ばして超威力かつ超長の鞭へと変異させ、それを目いっぱい叩きつけた。

 これは敵を分断するための一撃なので狙いは曖昧で構わない。


 ただ、運よく誰かが犠牲になったらそれはそれで良い。

 これが正しい煌気オーラを用いた鞭の使い方。



 ムチムチウィップとかいうふざけた武器を使っていたどこかの宿六とは違う。



 ガッと陛下をお諫めする時の音が響いて、明らかに敵の影が分散したのを確認するオタマ。

 陛下をお諫めする威力とは、喜三太陛下に比較的軽度な致命傷を与える威力。


 現世サイドからしたら割と結構な致命傷である。

 致命傷なのに段階が結構小刻みに設定されているのはこの世界の仕様であることを付言しておく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「に゛ゃ゛ー!!」

「ぽこ。瑠香にゃんにしがみつくのは適切な判断と言えません」


「危なかったぞなー。なんでだにゃー? 瑠香にゃんバリアでどんな攻撃でもちょちょいのぱっぱだぞなー! ……ふっ。……勝ったにゃ」

「ぽこ。ステータス『瑠香にゃん、普通に肩のパーツが取れた』を獲得したので、差し上げます」


 オタマの一撃を被弾したのは瑠香にゃん。

 競泳水着右肩の兵装がぶっ壊れたので、より一層ただの競泳水着みが増してしまった。

 が、問題はそこじゃない。



 そこも問題ではあるが、隣にいるどら猫はチアコスだし、やっぱり些細なヤツである。

 運動部の女子が2人いると考えたらむしろ普通の感覚に置換できるまである。



 瑠香にゃんが『瑠香にゃんバリア』を展開しなかった。

 否。


 できなかったのだ。


「ぽこ。哀しいお知らせモード。瑠香にゃんの煌気オーラ残量が15%まで低下しています。スマートフォンだとポコンと音がして『電池残量が少なくなっています』と警告が出る水域です」

「にゃん……だと……」


「ぽこも理解していると思いますが、念のために瑠香にゃんは警告します。ステータス『おっぱいの配り過ぎ』です」

「にゃん……だと……」


 おっぱいを配り過ぎた。

 そういえば、オタマが最初に繰り出したストッキング攻撃をバリア展開して防いだのも瑠香にゃん。


 ちょっと前にはスリープモードになっていた事を考えると、それは充電切れも近づこうというもの。


「小鳩さーん! ……いないぞな。じゃあバニングさんもおらんぞな?」

「敵が接近。ご新規様の方です」


 猫と猫、オタマとエンカウント。

 敏腕の皇宮秘書官が計算した3と1への分断は失敗に終わるが、等分でも悪くはない。


 各個撃破が基本戦略なのだから、目の前にいる皇敵を撃ち滅ぼして次へ行けば良い。

 どうせ全員ヤっちまうのだから順番が変わるだけ。


 あと六宇ちゃんの負担がちょっと増えただけ。


「失礼しました。私はオタマと申します。皇宮秘書官を務めております」

「にゃはー!! 綺麗なお姉さんキタコレにゃー!!」


「ぽこますたぁの情報を更新。命の危機よりも相手の容姿でテンションを上げられるメンタルは唯一無二の可能性。属性としては瑠香にゃんデータベースに存在する『お排泄物ども』のカテゴリーに近いことは告げずにおきます」


 ミニスカでリクルートスーツのオタマ。

 ブラウスのボタンは2つ外すのがバルリテロリ皇宮ではフォーマル。


 対するはスパッツ丸出しのスカート丈とタンクトップにノースリーブジャケットを纏ったクララパイセン・決戦チア衣装。

 兵装がちょっとずつなくなって来て、競泳水着がフォーカスされ始めた瑠香にゃん。



 マジメに戦争する気があるのか心配になる装備のヤツしかいない。



「貴女様は、ぽこ様でよろしいでしょうか?」

「うにゃー。まったくよろしくないぞなー。ペットみたいな名前にされたぞなー」


「ぽこ様。大変ご立派なスタイルとお見受けいたしました」

「お姉さんもボボボーン・キュッ・ボーボボンだぞなー!!」


 オタマが頷いてから言った。



「私よりも性的興奮を誘発させられる方が敵というのは大変に助かります。方針をいささか変更して、ぽこ様を生け捕りと致します。当方、性的興奮でパワーアップされる皇帝陛下がいます。現状使い切り終わったクイントの回復も見込めますし、ここは皇国の礎となってくださいませ」

「…………に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!! よく考えたらさっきからちょいちょい出て来るおっぱいジャンキーさんとお姉さん、所属同じだもんにゃー!! 瑠香にゃん、助けてにゃー!! おっぱいが捕虜にされるぞなー!!」


 クララパイセン、またしてもスポットライトを浴びる。

 さすが古参。初期の味方が最終決戦ではフォーカスされまくるヤツである。



 瑠香にゃんは冷静に瑠香にゃんサーチを発動させていた。

 珍しく少し言い淀んだ彼女だったが、恐るべき事実を口にする。


「敵、名称オタマ氏。瑠香にゃんは念のために確認を取ります。年齢は22歳でよろしいですか?」

「はい。瑠香にゃん様。左様です」


 瑠香にゃんがガクガクと震え始め、目からは人工涙が溢れる。

 内股になって最終的には座り込んでしまった。


「にゃー!?」

「ぽこ。ぽこますたぁ。椎名クララ。……敵のオタマ氏は、あなたと同い年です。仕事をされています。ワタシのますたぁは……。瑠香にゃんの戦意が900割減退しました」


 瑠香にゃんの心が打ち砕かれた。

 パイセンと同い年のリャンちゃんが大学卒業を控えているという事実だけでも程よい膨らみの胸が限界だったのに。


 敵がますたぁと同い年で、仕事をしている。

 もうダメだ。おしまいだ。


 だが、クララパイセンはすごく立派な胸をすごく張った。


「にゃーっははは!! 瑠香にゃん!! 今日は1月8日!! セクシーお姉さん!! お誕生日を教えて欲しいぞな!」

「はい。ぽこ様。2月2日です」


「ほい来たにゃー!! 瑠香にゃん、瑠香にゃん! このお姉さん、あたしより学年が1つ上だぞな!! これで勝つるぞなー!!」


 よろよろと立ち上がった瑠香にゃんが呟く。


「ぽこが1学年進級してもまだ大学生という事実は変わりません。ですが、もうぽこに大学を辞めさせて新年度から働かせることがデキれば……まだ活路はあります」

「冗談キツいぞなー。大学は8年までイケるんだにゃー」


 瑠香にゃんが内股になって脚をカクカク震わせた後で、ペタンと座り込んだ。

 苛烈極まる戦いになりそうである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る