第1207話 【乙女たちと乙女たちの戦い・その2】ガチる、秘書官

 前回の小鳩隊。

 オタマが意外とガチだったので今回からヤバそう。


 前回のバニングさん。

 もうヤバい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 小鳩隊の布陣のおさらい。

 急にみみみと鳴く遊撃隊&とても可愛いメインヒロインが参戦した結果、一瞬戦力が拡大したが、今は組み分け帽子おじさん六駆くんと南雲さんによって編成された初期状態に戻っている。


 近接から中距離までは任せとけ。

 防御力だって『銀華ぎんか』の応用で高水準。

 足りないのは露出度だけ。

 白い鎧でつま先から肩までがっちりお肌をガードしている塚地小鳩Aランク探索員。


 煌気オーラは残り6割程度。

 現世から六駆くんに豆大福のついでに拉致られてバルリテロリに参戦しているため、比較的だが心身ともに余裕がある。


 にゃーにゃー鳴いてここまで来た。

 遠距離でしか仕事をしないが安全マージンの確保はピカイチ。

 遠距離から動かないので戦局を見通すほんのり分析スキルも冴える。

 チアコスという戦争を舐めた装備は未だに一度も被弾すらせず。

 椎名クララAランク探索員。


 クララとランクが薄目で見るとなんか同じに見えてくるのでしばしばどら猫探索員扱いされる彼女の煌気オーラ残量は10割。

 ルベルバックからスタートした今日1日、散々スキルを使っているのになぜなのか。


 その理由がここにある。

 おっぱい揉まれる傷薬にされた、万能ロボ猫。

 多分、六駆くんに操縦させたら一瞬で喜三太陛下もぶち殺せそうな多種多様の装備と兵器を搭載した、競泳水着と揶揄されるミンスティラリア製の魔法衣を纏って戦うアンドロイド乙女。

 跡見瑠香にゃん特務探索員。


 動力炉では理論上無限に煌気オーラが生成されるため、どら猫におっぱい揉まれ過ぎなければ常に煌気オーラは10割キープ。

 現在は残り5割程度。さらに減少する予定。

 おわかりいただけただろうか。


 もう赦されないのであれば戦場で散りたい。

 近接戦のプロフェッショナル。

 ここのところ遠距離も強いられた結果、ハンマーブロスの斧投げる版みたいになって来た。

 バニング・ミンガイル氏。


 煌気オーラはもう1割も残っていない。

 心のゆとりはもっと少ない。

 61歳にして得た故郷ミンスティラリアへ帰りたい、ホームシックな62歳男性。


 こうして列挙してみると意外にもバランスの取れた陣容であり、戦闘マスィーンの六駆くんと監察官一の知恵者な南雲さんがちゃんと考えて組み分けしている事が分かる。


「ぽこ。前方に2名。煌気オーラ反応を確認しました。ぽこにまず報告して、それを周囲の皆様に間接的な報告をせざるを得ない現状に慣れてしまいました。ステータス『なんか久しぶりで戦い方忘れた』を獲得。こちらは瑠香にゃんが保持します」

「にゃー。知っとるぞなー。2種類の攻撃が来とるもんにゃー」


「端的モード。このポコ野郎。だったら先に言うんだよ、ポコ野郎。これからご主人マスターにも怒られる瑠香にゃんの身にもなれ」

「瑠香にゃんさん!!」


「ステータス『ほらご覧なさい』を獲得しました」

「炎と煙と色々で視界が悪すぎますわ。敵の場所を正確に捉えられますの?」


「ステータス『瑠香にゃんがふざけたみたいになった』を獲得しました。バニング様に差し上げます。ご主人マスターの質問は半分肯定。瑠香にゃんは捉えられますが、ご報告するまでのラグで最新の情報との齟齬が発生します」

「つまり、お強いんですわね。どの程度ですの? バニングさんを1としてお願いいたしますわ」



「……バッドステータス『気まずいったらない』を獲得しました」

「構わん。やってくれ。瑠香にゃん。私はとうに傷つく心など失った」


 本当に心を失った人は「傷ついたりしなくなりました」と申告しない。



 瑠香にゃんの目が光る。

 比喩ではなく実際に瑠香にゃんサーチで光っているので、より猫っぽさが増す。


「解析率50%以下。1名は先ほど交戦した、プリンセスマスターの被害者です。女子高生と思しき女子を確認。日本語が難しい状況も確認。女子高生の単位を入力してください」

「……人で良いのではないか」


「バニング様から『やっぱ年取ってるだけあるわ』を獲得。では、女子高生1人。19バニング様です」

「……ふっ」


「瑠香にゃん! 言って良いことと悪いことがあるぞなー!!」

「現在の死にかけバニング様を1としました」


「じゃあオッケーですにゃー!」


 バニングさんの「心とは、存外なくならんものだな……」という嘆きを無視して小鳩お姉さんが纏める。


「でしたら、そちらの方は充分に対応できますわね!!」

「……ふっ」


 戦争中なので、人の心に気遣いを与える余裕がない時は端的に情報交換が行われる。

 やはり戦争などというものは存在してはならない。


「はい。ご主人マスター。もう片方は瑠香にゃんデータベースに未登録です。ステータス『このタイミングで新手とか絶対強い』を獲得しました」

「あ。瑠香にゃん、バリア出してにゃー」


 瑠香にゃんが「ぽこの要請を受諾します」と言って瑠香にゃんバリアを展開。

 薄緑の防壁に石のようなものが衝突して、バリアにヒビが走る。


「ご主人マスター。いわゆる危険が危ない確率。80%を突破しました」

「皆さん! 1か所に集まるんですわ! これ、狙い撃ちにされるから散開ですわよとか言ったら、場面が変わってどなたかお亡くなりになってるヤツですもの! わたくしと瑠香にゃんさんでとにかくガードですわ!!」


 バニングさんが「私か?」と確信に近い疑問を呈したが、隣でどら猫が「あたしもですにゃー」と同意してくれて、なんだか心が少し軽くなったという。

 猫はアニマルセラピーの中でも「猫セラピー」という固有の言葉があるほどの人々の心を癒してくれる存在としてあまりにも有名。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ちょっと前のバルリテロリ乙女コンビ。

 オタマがおもむろにストッキングを脱いでいた。


「ねー。オタマー? なんで急にサービスシーン始めたの? それってあれ? モニターで見てるキサンタに向けてのヤツ?」

「はい。六宇様。違います」


「これは違うってあたしにも分かった!」

「六宇様……!!!!」


 オタマのタイトスカートの腰部分にはメリケンサックが光っており、それを手に取るところを見て六宇ちゃんが納得した。


「あー! オタマ、それ持って敵にしゅばばばーって距離詰めて! バシバシ殴るんだ!」

「はい。六宇様。違います」


「それはどっち!? ……なんで脱いだストッキング引っ張ってるの!?」

「このメリケンサックは陛下の御創りになられた、いわばバルリテロリの神が創りし神器でございます。これを、こういたします」


 ストッキングにメリケンサックがイン。


「うん。うん? なんで?」

「このように致しますと、1度この部分を結びます」


 メリケンサックをつま先にセットしてから、ブレないように結び目で固定する。


「なんで!?」

「そしてストッキングに煌気オーラを流します」


「ストッキングに煌気オーラを流すってどーゆうこと!? あたしの知ってるスキル使いの戦い方じゃないんだけど!!」

「そして最後にストッキングを強化し、伸縮性を付与します。スキル! 『暴行娘。星モーニングスター』!!」


 オタマのストッキングが伸びていく。

 先端には固定されたメリケンサックが煌気オーラを帯びており、小さな隕石のように燃えながら回転して六宇ちゃんの視界から消えていった。


 直後にガッと衝突音がして、ストッキングとメリケンサックが戻って来た。


「では、六宇様。こちらをどうぞ」

「どーゆうこと!?」


「私はパンティストッキングではなく、いわゆるサイハイストッキングを愛用しています。つまり、とても長い靴下タイプです。こちら2つ作れますので、片方をどうぞ。これで敵に向かってメリケンサック部分を投げつけます。何かにぶつかった感触があれば引き上げます。血が付いていればヒットです。肉片が付いていればホームランです」

「やだ! 怖い、怖い怖い怖い!! なにそれ!? 今度はどこの誰のヤツ!?」


「はい。六宇様。平賀=キートン・太一です。主に砂漠や荒野などの遭遇戦で落ちている石を利用して投擲武器を製作するのが得意です」

「……やっぱ誰!?」



「はい。六宇様。刀剣男子です」

「……刀剣男子ってヤバいじゃん。もう世界征服できるじゃん。呼ぼうよ。ここにも」


 呼べません。



 シャモジ母さんの血を色濃く継いでいるこちらの新卒乙女。

 ガチである。


 数の不利は圧倒的なパワーで補うんやがモットーのバルリテロリにおいて、これまで八鬼衆もバル逆神分家も皇族逆神家も、皆が1人や2人で多対戦を挑んで来た。

 勝率を振り返ってみると、戦争において過去のデータというものは大変に有用である証明まけまくりの証明。


 オタマはガチで勝ちに行く。

 数的不利は敵部隊の戦闘力と切り離して考える。


 とりあえずストッキングモーニングスターでチクチクと攻撃を繰り返し、2人くらい良い感じに脳天直撃を確認してから距離を詰めて一気に畳みかけるのだ。


「……オタマ。ごめんなさい」

「はい。六宇様」


「思いっきり投げたら、飛んで行っちゃった」

「はい。六宇様。想定内です。では、距離を詰めて戦います。過去のデータなどを心の拠り所にしていては革新的な戦いなど生まれないでしょう。敵は所詮有象無象の陽動隊。私たち2人で充分に殲滅できます」



 臨機応変に方針転換しまくるのがバルリテロリの覇道にして皇道。

 皇宮秘書官もその道を往くしかないのである。



「六宇様。私が先に参ります。後ろから張り切りキックをした場合、手が滑ってストッキングがそちらへ飛ぶかもしれません。ご了承ください」

「え゛……。……クイントと一緒の方がなんか気持ち的に楽だったかも」


 ラブコメを促進させるのも皇宮秘書官の務め。

 皇族が絶えれば一大事である。


 陛下がお隠れになられた場合、六宇ちゃんは直系の血筋である。

 諸君。これ以上は不敬ですぞ。

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