第1206話 【乙女たちと乙女たちの戦い・その1】バニング・ミンガイル氏「……………………」 ~乙女たちに混じってしまった雄が1人~

 バルリテロリ皇宮内における現世サイドの位置を確認してみよう。


 喜三太陛下をうっかり殺し損なったものの、ノアちゃんの機転により穴のストーキングで奥座敷の座標を把握した南雲隊。

 皇宮西側の端から移動を開始。


 しかしそのスピードは速くない。


 敵の大本営で敵の総大将の首をピンポイントに狙う。

 電脳ラボおよびテレホマンが最も警戒すべき部隊と目しているのは必然。

 爆速で近づくと「ワシらの場所、バレてね?」と陛下もお気付きになられる。


 追いかけっこされると面倒なので、あくまでも迷宮組曲している皇宮であてもなく彷徨っている風を装い、じわりじわり距離を詰める。

 ある程度まで接近すれば六駆くんのふぅぅぅんからの現場に突入がキメられるので、ここは慎重に行きたい。


 ノア隊員とライアン門弟が頑張って情報をゲットしようとしたが、そちらは芳しくない。

 が、ゲットしようとする過程で電脳ラボの職員が「あー! 今度はこっち切らなきゃ!!」「おい! 断線してるって!!」と、落ちものパズルみたいな状態を強いられており、お邪魔キャラのノアちゃんとライアンさんの活躍で皇宮を走るケーブル網がかなりシンプルになってしまった。


 警戒レベルが下がった皇宮で、「情報収集なんかもうどうでも良いから皇帝の首もらいてぇ」として一気にキメるべく動いている南雲隊。


 そんな時にこそ役に立って欲しいのが陽動班。

 だが連戦に次ぐ連戦でさすがにメンバーの疲労が著しい。


 代わりに皇宮のど真ん中を壁ぶち抜いて移動中なのが芽衣ちゃん部隊with莉子氏。

 現在、西から東側へと莉子ちゃんがピュアドレスちゃんと一緒にダンスっちまっている最中であり、こちらはもう高速移動なんて遠慮がちな名称では呼べない。


 人の国の皇宮の壁をぶっ壊して直進行軍。

 六駆くんが割と初期ロットの頃からダンジョンの壁とか床とか天井とか壊しまくっていたので、それを「ダメだよぉ」と制していた莉子ちゃんがメインヒロインロケットになったかと思えば、なかなかに感慨深い。


 遊撃隊が完全に陽動役も引き受けており、電脳ラボの半数が「なんだ、これ。人?」「貴官。人はこんな動きはしない」と、なんかよく分からんけどイドクロア製の壁をぶち壊しているモノをモニタリング中。

 「コーラ持って来たよー」と差し入れられたコーラを飲みながら、「カロリー摂らねぇとやってられんぞ。こんなもん」などと嘆きながら、みんなで「パックマンみたい……」と莉子ちゃんの行方を追いかけている。


 本来の陽動班である小鳩隊。

 既にクイントと六宇ちゃんの将来があるのかねぇのかどっちなんだいコンビと一戦交えており、3つの部隊の中でも特にヘロヘロ。


 小鳩さんが『銀華ぎんか』を何個か適当に飛ばして「これで良いですわね!!」と指さし確認しつつ、安全地帯を探して皇宮東側へと移動中。


 皇帝陛下がおわす奥座敷は北東の最上階に位置しており、最も遠いのが南雲隊。

 逆に最も近いのが小鳩隊というポジショニング。


 芽衣ちゃん部隊with莉子氏は位置関係把握した次の瞬間にどっか行ってるので割愛。


 戦力的に乏しいのに良い位置をキープしてしまっている小鳩隊。

 これはもう、バルリテロリサイドからしたら真っ先に殲滅してスッキリしておきたい。


 そんな訳で小鳩隊の近くにあるテレホマンの置きトラップを2個ほど起爆させておびき寄せた。


 小鳩隊がクイント&六宇ちゃんと交戦してから20分ほど経過した時分である。

 とてもタイトなスケジュールで進むのが戦争。


 まったく、実に愚かなものですな。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うにゃー。小鳩さん、小鳩さん。あたし気付いちゃったぞなー」


 なんか久しぶりにどら猫が生で鳴いた気がするものの、20分ぶりである。


「なんですの!? わたくしの右手の方をご覧なさいですわ! 爆発してますわよ! そして、わたくしの左手の方もご覧なさいですわ! 爆発してますわよ!!」

「にゃはー! あたしたちの後ろも爆発したにゃー!!」


 爆発箇所が1つ増えていた。

 戦争では気を抜いた者からやられていくのだ。



「ご主人マスター。前方も爆発する確率。99%。瑠香にゃん、測定しました」

「ですわよね!! 完全に逃げ場がなくなってますもの!! わたくしたち、これ! まんまと釣られましたわよ!!」


 気を抜いてなくても爆発箇所は増える。



 気付けば四方が爆発している小鳩隊。

 陽動班としては大炎上なんてウェルカムだが、もうそろそろ外に出てぇになりつつあったところなので、これ以上の爆発はノーサンキュー。


「ふっ。四面楚歌か」

「バニングさん!! ふっ……じゃありませんわよ!! 歌なんか聞こえてませんわ!!」


「いや、小鳩。私は故事成語を使っただけなのだが」

「お口を動かすお力が残っておられるのなら、1つくらいご自慢のパンチで吹き飛ばしてくださいまし!! わたくしはもう前方の爆発を吹き飛ばしてますわ!!」



「……すまん。……『一陣の拳ブラストナックル』!! ……重ねてすまんが、このテンションで放ったスキルの威力が足りていないのは、私が悪いのか?」


 ガールズサイドから出してもらえないバニング・ミンガイル氏。

 「ふっ。むしろ私が四面楚歌か……」と周囲から聞こえる女子の声に絶望中。


 そんな氏はかつてアトミルカを率いて現世を恐怖のどん底に叩き落とした男。

 地力があって経験まであるので最初に気付いてしまうのはいつもバニングさん。


「むっ!? 皆、伏せろ!!」


 鋭い切れ味の煌気オーラ脚が飛んできた。

 なんか見覚えがあるとバニングさんは思った。


 割とついさっき見た気がする、と。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ついに戦場へ降り立った皇宮秘書官。

 名をオタマ。


 リクルートスーツに身を包み、スカート丈は陛下のご要望に応じてミニ仕様。

 彼女は今のところ、玉杓子おたまを具現化して陛下をお諫めしたシーンでしかスキルを見せていない。


 が、オタマの母はシャモジ。

 皇族逆神家のでぇベテラン、逆神十四男の意を受けて、受けた後でなんかいい感じに加工して命令を下す統率力。

 辻堂甲陽初代上級監察官の刀と杓文字しゃもじで切り結び互角の仕合を繰り広げた戦闘力。


 それらを受け継いでいれば、間違いなく猛者と呼べるであろう。


「ど、どうだった? オタマ? あたし、スキル上手くなった?」

「はい。六宇様。ダメです」


「どっち!?」

「はい。六宇様。確かに切れ味が増しておられますが、標的を見定めてから発現なさってください。初撃は敵を討つのに最も適したスキル発現の好機。私は特に何も申し上げておりませんが、六宇様。張り切りキックを繰り出すのであれば、せめて1人は確実に仕留めて頂けなければ困ります。結果として、私たちの存在が敵に露見しました。ゆえに、ダメです」


「すっごい溜めてダメ出しされた!! だって!! クイントがさ……その、アドバイスしてくれたんだよ。煌気オーラの出し方とか、さ? あいつ、エロいおっさんだけど、意外と教え方が上手くて。……実戦で試したくなるじゃん!! あと名前ね、『六宇蹴りムーキック』なんだけど!!」

「はい。六宇様」


「あ! 分かってくれた!? やっぱりオタマも女子だよね!!」

「はい。六宇様」


 オタマがにこりともせずに頷いた。

 続けて言った。


「六宇様。戦いに慣れておられない点を加味しましても、8点です。ラブコメをするなとは申しませんが、ここはもう戦場でございます。しょうもない御惚気で絶好機を使われる事、私にはいささか理解できかねます。以降は私の指示に従って頂きます。よろしいですね?」

「ひっ……。ご、ごめんなさい……。でも! 8点って結構高得点だし!! あと2点で満点じゃん!! あたし、学校の小テストで5点超えたことないし!! やっぱりスキル使いの才能あるじゃんね!! たははー!!」



「はい。六宇様。違います。990点満点中の8点です」


 オタマの採点はTOEIC方式だった。



 オタマが右手に煌気オーラを集約させていく。

 玉杓子おたまが出るのだろうか。


「おー! オタマのスキル! 見たい、見たい!!」

「はい。六宇様。では、お目汚しですが。はぁ!! 『暴行アサルト』!!」


 地面を拳で殴りつけたオタマ。

 煌気オーラが衝撃波となり奔っていく。


「オタマ? それ、なに?」

「はい。六宇様。これはパワーウェイブです。テリー・ボガードが使います」


 煌気オーラを転用した遠当てである。


「誰!?」

「はい。六宇様。刀剣男子です」


「また!? 刀剣男子って何人いるの!?」

「はい。六宇様。違います」


「なにが!?」


 爆炎に伴う噴煙で視界は未だに不明瞭。

 オタマ、初手こそ六宇ちゃんに譲ったが二の矢は自身で放つ。


 皇宮秘書官は万能タイプ。

 何でもデキなければ皇族逆神家の相手なんかやってられない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃のバニングさん。


「瑠香にゃんバリアを緊急展開。2秒の遅れでぽこが死亡していた確率、75%。バニング様。伏せろとお命じになられたので瑠香にゃんも皆様も伏せましたが、伏せていなければ、ぽこはシミュレーションでも死なずに済みました」

「いや。私は初撃に関してだな。……何でもない」


 女子会に紛れ込んでしまったアトミルカの雄。


 初手に飛ぶ煌気オーラ脚。

 二の矢に地を走る煌気オーラ衝撃ウェイブ

 周囲は未だに爆発の影響で満足に身動きが取れない。


 オタマの戦略が見事だったのだが、うっかりいつもの指揮官ポジションの慣れのせいで「伏せろ!」と言ってしまった手前、なんか敵のスキルを見誤ったみたいな空気になったバニングさん。


「にゃはー!! バニングさん、バニングさん! どんまいにゃー!!」

「クララ……。痛み入る……」


 氏は歴戦の経験で悟っていた。

 「ふっ。私がひどい目に遭う戦場はまだ続くか……」と。


 「もう莉子で良いから、速く来てくれ」と願うほどに、割と追い込まれる。


 それでも「サービスで構わん」とは言わない、お付き合いは慎重に考えるタイプなミンガイルさんちの旦那さん。

 莉子ちゃんとの縁はどうせ死ぬまで切れないので、とっとと来て欲しい。

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