第1205話 【バルリテロリ皇宮からお送りします・その32】「陛下」「……テレホマンが生きとる! それでええんや!!」「陛下、あそこに何か……」 ~勝ってチャンネー山ほど呼んでパーティーするんや!!~

 純白の高貴なるマントが血に染まるどころか燃え尽きた喜三太陛下。

 それでも忠臣にして友誼を結びし良き隣人でもあるテレホマンをお姫様抱っこして、どうにか奥座敷へと御帰還なさるに至り、玉座ではなく床に座り込まれた。


 まだ皇宮はあるんや! でお馴染み、バルリテロリ皇宮からお送りします。


「おっ。じじい様、生きてんじゃねぇか。座る? オレの尻で良い感じに温まってるけど」

「……ワシ、現世におった頃は意外と勉強家でな。近所のばばあとかに褒められとったんや。……きったねぇ秀吉だなぁ、クイント。とりあえずテレホマンの魂を身体に戻してからだわ」


 抜け殻テレホマンがもう起動しており、陛下の前に跪いた。


「申し訳ございません……。このテレホマン、面目次第もなく……。陛下が皇敵を討ち果たされるその瞬間をあろうことか! この私が邪魔立てする始末! どうぞ、どうぞ私の矮小なこの身を陛下の御手で処してくださいませ!!」


 玉座に腰かけてほっと一息。

 陛下は首を横に振られる。



「いや、むしろテレホマンにお礼言うのはワシやろ。あと、ごめんなさいもワシやで。テレホマン来てくれんかったら多分死んでるケースやったもんな。それがなんか、またちょっとパワーアップしてとりあえずどっちも無事に戻って来られたし。テレホマンはやっぱり最高や!! ずっと一緒やで!!」

「は? ……ははっ!!」


 テレホマンが深く首を垂れる。

 「私も既に……ライブ感で動いている!! その証拠に、なにやら意味不明な喜びを感じている!! なんだろう、これ!!」というナニかを抱きながら。



「しっかし、野郎の尻で温められた玉座は座り心地良くないわ。オタマー。ちょっとストッキングちょうだい。……あれ? オタマは?」

「はっ。陛下。オタマ様は六宇様と共にご出撃致しました由にございます」


「えっ!? ……嘘やろ。テレホマン、お前、それは……つまり? ここ、野郎しかおらんのけ!?」

「はっ。左様でございます」


「…………マジかよ! あーあーあー! せっかく上がった煌気オーラがなんか今、下がってる。テンションも。オタマに褒めてもらってからの六宇ちゃんによる、おじいちゃん大好き! までセットだと思っとったのにさぁ」


 陛下が「テレホマンを優先した結果、勝機をふいになされた」という。ちょっとだけ好感度アップイベントを一瞬でなかったことに。

 さすがはバルリテロリを導かれし皇帝陛下。



 女見つけちゃ抱いて子孫増やして来られた歴史は伊達ではございませんな。

 女子がいない奥座敷で皇宮回をやらされる事実に絶望なされますか。



「まあ、仕方ないか。クイント、ちゃんとチンクエの面倒看とるか?」

「おうよ! コーラ定期的に飲ませてんぜ!!」

「……ぅぃ」


「ダメそうやな。チンクエは。ってことは、オタマと六宇ちゃんが戻って来て……。テレホマンとワシ。4人で敵を殲滅せにゃならんのか。なかなかハードモードやぞ、これ」

「陛下。宸襟を騒がせ奉っても?」


「もう騒がれても何も感じんとこまで来たで。なに?」

「オタマ様と六宇様の現在地を確認致しましたところ。申し上げにくいのですが。先ほどチンクイント様をメタクソに痛めつけられて、ばちくそに拷問なされた、少女と推定される御方を中心とされた部隊が、急速に我が皇国の女子たちへと接近しております」


「急速にって、テレホマン。ワシの皇宮は今、迷宮モードやで? 無限城キメとるんやで? 甲冑部屋から陽動しとったヤツらのところまで、どんなに頑張っても30分くらいかかるやろ?」

「……壁をぶち破って行軍している旨、電脳ラボより届いてございますれば」



「……もうアレやな。あのちびっ子。お化けやん。チビでテロリ、なんつって。あ、これはな? バルリテロリと語感を似せてな? チビとテロとロリを組み合わせた」

「陛下ぁ!! おヤメくださいませ!! 無用なヘイトを集めますると!! 何故でしょうか!! この奥座敷を捕捉される、そのような予感が四角い頭を満たしてございます!!」


 背中をガルルルルされた後に母乳ビーム(命名クイント)を喰らってなお、まだ莉子ちゃんを煽れる気概こそが皇道を往かれる陛下の偉大なる御心メンタル



 テレホマンが『テレホーダイ・スパーキングメテオ』を起動させる。

 オタマと六宇ちゃんが隠匿スキルで姿を消して、撒き餌として爆発させておいたトラップの近くに潜んでいる様子がモニターに映し出された。


「おー。ええやん。よく考えたらワシ、オタマが戦うとこ見るの初めてだわ。ちょっとリクルートスーツ女子の戦闘シーンで心を癒そう。クイント。ワシとテレホマンにもコーラちょうだい」

「面倒くせぇな。自分で取れよ。……皇帝ってコーラ自分で取らねぇといけねぇの!? オレが思ってたのと違うんだけど!!」


 皇宮御用達冷蔵庫(電脳ラボ製作)からキンキンに冷えたコーラを取り出して、片方を全力でシャカシャカやってから陛下とテレホマンに手渡すクイント。


「アホやな、クイントは。今、こうしてワシの命令に従って? お前がコーラを取りに行っとるやんけ。ぶーっははは! これが皇帝の威光よ! あー。これこれ。ラボが造ってくれた冷蔵庫はものっすごい冷えるからええんや! ぶっはははおぎゃああああああああ!! お前ぇぇぇぇ!! クイントぉぉぉ! なに振っとるんや!」

「…………やっぱ皇帝ってそんな良いもんじゃねぇよ。な? チンクエ?」


「……ぅぃぃぃ」


 バルリテロリ皇帝の地位に対する魅力値がクイントの中で低下してきた。

 テレホマンがコーラを飲みながら四角い頭をかしげた。

 テレホマンのフォルムはに首と呼べるパーツがないので、人が首をかしげる感じの動きを取る時、彼は体ごと傾く。


 チンクエの力なき「……良い」があまり「良い意味」に聴こえなかったのである。

 今日という長い時間で、何度も耳にしてきたチンクエの「……良い」である。

 電脳を冠するテレホマン、記憶力は抜群であり、その記憶力から分析する事も可能。


 導き出された結論を口に出す。


「チンクエ様。なにか御懸念がおありですか?」

「……ぅぃ」


「ああ! 申し訳ございません!! コーラをご所望でしたか!?」

「……ぅぃぃぃ」


 イエスとノーの違いがはっきりと分かったテレホマンが転がっているチンクエの見つめる先に視線をやったところ。


「なんだ、あれは」


 天井に穴が空いていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 これだけ色々やって来た皇宮。

 陛下だって玉座に座ったまま、横着して仕上がられたのだ。

 天井に穴くらい空こうもの。


 と、簡単に片づけられるのならば、このテレホマンという男はもっと気楽な人生を歩んでいる。

 凝視すれば、穴の中がある。


 例えば地面に掘った穴ならば、当然中身が存在するだろう。

 落とし穴にすれば尖った竹槍を地面に突き刺すのがバルリテロリでは一般的な子供のいたずらとして普及している。


 だが、天井に穴が空けば、見えるのは変な色の空であるはず。

 しかしテレホマンの見据える穴の先には、なんか黒くて、なんかよく分からなくて、なんか絶対に縁起の悪そうな空間が渦巻いていた。


「陛下ぁぁぁ!!」

「ぶぼぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 一気飲みしとる時にデカい声出すのはレギュレーション違反やろ!? マジかよ! 決戦衣装がコーラまみれや!!」


「そのような場合ではございません!!」

「ええ……。ごめんやで? まあ、確かにな! 敵の苦労してそうな総司令官も白衣がきったねぇ色に染まっとったもんな! ちょっとくらい服も汚れといた方がなんか威厳も出るか!! よし、分かったわ!!」


 テレホマンが右腕を伸ばすと、ギミックが発動する。

 ガシャンガシャンと変形して、サイコガンみたいな砲門の付いたフォームに。



「おいおいおいおいおい!! テレホマン!! お前、それぇ!! むっちゃカッコいいやんか!! いいなぁ! じじい様が創ったん!?」

「ワシ知らんで!! なにそれテレホマン!! えっ!? テレホマン、ひょっとして変形機構付いとるん!? マジかよー!! 出し惜しみするなよー!! それ、アレやろ!! 近接モードとか遠距離モードとか! スピードモードとかパワーモードとかにもなれるんやろ!?」


 いつまでも少年の心を絶やさないのが逆神の血脈。



 テレホマンが敬うべき皇族と尊ぶべき皇帝の言葉を無視して、サイコガン風の砲門を見つけた穴に向けると照準を合わせる。


「こちらは先ほど届きました。電脳ラボの技術を結集させた。ファイティング・テレホ・ボディです。説明は後に回します! 失礼!! 『電脳砲テレホガン』!!」


 テレホマンが穴を撃ち抜くと、日が落ちた後に影がスッと消えるように、「あなたが見たそれは見間違いですよ」と優しく教えてくれるように、穴は姿を消していた。



「ヘイヘイヘイヘイヘイヘイ!! すっげぇイカすな!! テレホマン!! オレも欲しいなぁ! それ!! 皇帝はもういいから、オレさ、戦争終わったら電脳ラボに就職するわ! 六宇も仕事してる男の方が好きっぽいし!!」

「……センスええなぁ。電脳ラボのみんな。これ、給料アップやで。ワシのためにオリジナルロボ造らせよ。テレホマンさ。それ見た目変えられるなら、ギャバンみたいにしようぜ! ギャバン!! キカイダーでもええで!!」


 少年の心が絶えない。逆神の血筋である。

 多分、六駆くんも似た感じのリアクションを取ること、想像に難くない。



「…………………………。申し訳ございませんでした。私も少しばかり過敏になっていたようです。こちらのファイティング・テレホ・ボディですが、スキルの扱いにまったく長けていない私が戦場へ出るために、イドクロアと煌気オーラ発生器を組み合わせたものでして」


 テレホマンが今、そこら辺にある危機をスルー。

 チンクエだけが虚空を見つめて「……ぅぃぃぃぃぃ」と呟いていた。


 バルリテロリ皇宮から、あと何度お送りできるでしょうか。

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