第1203話 【敵だったら敵ですよね・その6】退かぬ(ログアウト)、媚びぬ、省みぬ(ログアウト) ~3つも目標あったらさ。1つ守れるだけでも偉くない? 3の1ってすごい事やで?~

 皇宮西側の戦いも佳境に突入。

 陛下がお隠れになられるのか。

 六駆くんがひいじいちゃんをぶち殺すのか。


 失礼。



 どっちも同じだった。



 陛下が皇帝の威厳を御示しあそばれて、ひ孫を仕置きなされるのか。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」


 芽衣ちゃまのスキルからインスパイアされた『皇帝合身エンペレルミオル』の最中な喜三太陛下はテレビから距離取って見てても脳がやられそうなほどの輝きを放っている。

 対して六駆くんもバチバチと煌気オーラを爆ぜさせながら究極スキルの準備中。


 陛下の最上仕上がりが早いか、六駆くんのチャージが早いかの単純な徒競走の様相を呈しているように思えるが、そこにテレホマンが介入したことで全力疾走だけでは決着がつかない障害物競走へと種目が変わる。


 現在、皇宮西側の全域がテレホマンの『超過料金オーバーペイ』の効果範囲に指定されている。

 テレホタイムを逃して請求される超過料金の額は5桁でも充分に致命傷であることは一定の年齢を超えているベテラン探索員の間では広く知られている。

 しかしこの『超過料金オーバーペイ』は5桁では済まない。


 うふふふふと胸を高鳴らせながらダイヤルアップ接続でエッティーな動画を見ようとしたところ、なんか見た事ねぇ画面に連行されて、ついでに画面が動かなくなるもののフリーズではない。

 マウスポインタは動くのに、画面のどこをカチカチやっても反応はしない

 そうこうしているうちに始まる、例の音。


 プー。

 ピポパポパピピポピポ。ジー。

 ピーピーピーピーヒョロロロピープーピプガー。


 滾らせていた劣情はどこへやら。

 背中をつたう嫌な汗。

 画面には見たことねぇんだから読めるはずもねぇ外国の文字と思しき羅列。


 まずい。

 これは一体、どこに繋がっているのだ。

 ワールドワイドウェブだからって、そんな、マジでワールドワイドに波乗りキメてくれなくても良い。


 お手軽に。その辺の、隣県くらいの距離でそれなりのセクスィーな動画が手に入れば良いのだ。

 止まれ。止まれ止まれ止まれ。行くな、帰って来い。


 数ヶ月後。届く。

 国際電話の請求書。

 クロアチアと連絡取った記憶はないのに。


 それほどの危険が今、この皇宮西側には起爆性の空間トラップとして漂っている。

 『超過料金オーバーペイ』の極めて有用なポイントは、スキルではなくテレホマンの眼の固有能力という点。


 バルリテロリの民には気付けるが、それ以外の者はよほど注意していなければ気付けない。

 さらに「スキルを発現した瞬間に爆発する」というシンプルだが回避までの時間がほぼないところも特大ストロングポイント。


 あっと思った時にはもう遅い。

 その時が迫っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 先に準備が整ったのは六駆くん。

 発光中の喜三太陛下目掛けて、両手を組んだ。


 同時にテレホマンが穏やかな表情を浮かべた。

 現在の彼は『ダイヤルアップ』によって思念体で活動しているが、陛下が「幽体離脱」と評されたのはある意味で正しく、思念体であるからして物理的なダメージは受けないが、辺り一面を焦土と化す規模の爆発に巻き込まれると思念体でも消滅するかと予想される。


 断定できないのはテレホマン自身、思念体で爆発に巻き込まれた経験がないからである。

 そして多分、巻き込まれたら最期、情報の確定と共に死が待ち構えている。

 それでも彼は「この場にいる者と私の命で戦争が終わるのならば……」と、意に介してはいなかった。



 この場には皇帝陛下もおわすのだが。

 「まあ、どうせ転生あそばされるし。最期の不敬は冥府で償おう」と、そこらの辺気持ちの整理が1番速く済んだまであったという。

 これが四角い忠義。



 その時、来る。

 ここからはおおよそ3秒ほどの出来事である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『極光……』あれ!? うわぁ!!」


 究極スキル発現の直前で違和感を覚えたが、既にチャージしていた煌気オーラはどうしようもない。

 六駆くんはスキル発現せざるを得ない状況と、スキル発現したら「なんか爆発しそう!!」という未来の予見をこれまで培ってきた戦いの遺伝子で察知する。


「ふぅぅぅぅぅぅん!! 『極光滑走グラングライド』!!」


 もう止められないスキルならば、とりあえず攻撃用ではないものに。

 選んだのは『滑走グライド』だった。

 足に煌気オーラの膜を構築してスケボーに乗るような動きで周囲を縦横無尽に駆け回ることができる移動スキル。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! よっしゃ!! これで勝つる!! ……いや、これあかんヤツぅ!!」


 ほとんど同時に喜三太陛下がジュニアを取り込んで『皇帝合身エンペレルミオル』を完了させた。

 ひ孫の首を今度こそ取っちゃるでと目標を定める前にお気付きになられる。

 陛下はバルリテロリの民ではないが、当地で長いこと皇帝をやっておられるでぇベテラン。


 さらにテレホマンとはこの戦争の前から八鬼衆として、特に技術者である彼は皇宮にある電脳ラボにいつもいたので付き合いも長い。

 『超過料金オーバーペイ』の発動を察知すると同時に、テレホマンの思念体が爆発に巻き込まれて消えるところまで想定を済ませる。


「テレホマン!! 何しとるんや!! ワシ、許してないで!!」

『陛下。どうか、今度生まれ変わる時はもう少しだけ常識と良識を供に皇道を往かれますこと……。私の最期の言葉でございます』


「おいぃぃ!! これまでのワシの治世を軽くディスるなよ!! テレホマンがおらんようになったらワシ! 誰と皇帝トークすればええんや!! 絶対に逝かせんぞ!! ここは撤退じゃ!! テレホマン!! 一応確認なんやけど、その幽体離脱バージョンさ、思い切り握っても破裂したりせんな!?」

『分かりかねます』


「だったら包む!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『泡泡お姫様抱っこバブル・トゥンク・ハグ』!!」


 喜三太陛下が掲げられたこの戦争のスローガンは退かぬ、媚びぬ、省みぬ。

 戦争のスローガンとか言ってる時点でかなりアレだが、忠臣のためにスローガンの2つ目までを御捨てになられた。

 引くほど退くし、引くほど反省した。


「爆発で死んだらええな! ひ孫とか!! バイビー!! 『全然敗走じゃない転移ポジティブ・ワーピング』!!」


 バイビーとは80年代から90年代に若者を中心としてブレイクしたさよならの言葉。

 だが、2020年代になってギャルなどがリバイバルとして使い始め、再びブレイクの兆しを見せているとか。


 陛下、忠臣の命と時代性のスピード感を握りしめ、一時撤退。

 同時に作戦立案について激しく省みられた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 残ったのは南雲隊。

 既に『超過料金オーバーペイ』の効果範囲内に全員が揃っており、全方位から爆発するというスキル攻撃ではなく災害みたいなものに見舞われていた。


「急になんで!? しかし、煌気オーラが残っているのは私だけ!! はぁぁぁぁぁぁ!! 『古龍化ドラグニティ』!! さあみんな! 私の周りに集まって! チャオ!!」


 唯一まだまだイケるナグモさんが防壁を展開しようとしたところ、滑り込んで来た六駆くんに怒られる。



「ナグモさん! 余計な事しないでください!! ああああ! もう! これじゃ古龍の煌気オーラが邪魔して転移スキルが使えない!! 責任感も大事ですけど! 咄嗟の時こそ知恵者の頭で考えてくださいよ!! 僕、駆けつけるに決まってるでしょ!!」

「ははっ! 怒った逆神くんもチャーミングだね! チャオ!! ……ごめんなさい」


 割と緊急時に良かれと思ってやったことがマイナスになると、とても落ち込む。



「逆神先輩! 爆発を吸い込むのはどうでしょう!! ふんすしますか!?」

「その手があった!! ノアは最高だ!! ふんすでいこう!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 ノアちゃんが『ホール』を出現させる


「とおー!! あとはお願いします!!」

「助かるなぁ!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『極光吸引穴グラン・スポイルホール』!!」


 爆発を吸収していくノアちゃんの穴。

 六駆くんは究極スキルのために煌気オーラをチャージしまくっていたので、その穴を基点にさらにスキルを重ねがけ。


 事象を吸い込むブラックホールが誕生する。


「ナグモ監察官」

「……チャオ」


 ナグモさんがライアンさんのハンカチで涙を拭いてもらっている間に全てが終わっていた。


「いやー! 危なかったですね! ちょっと焦りましたよ! あれもひいじいちゃんのスキルかな!? 全然煌気オーラ感知できなかった!! 皆さんご無事で何よりです!!」

「…………そう」


 テンションが急降下したのですぐに南雲さんに戻った監察官殿がしょんぼりしている。

 代わりにライアンさんが懸念される事項を述べた。


「師範。ノアちゃんの『ホール』は『ゲート』と同じ構成術式。つまり、今の大爆発はどこかへ放出せざるを得ないのではないかと愚考いたします。バルリテロリを滅ぼしますか?」



 テレホマンが命を賭けた奇策で皇国が滅びそう。



 だが六駆くんは首を横に振った。


「僕、ものすごい煌気オーラ溜めちゃったんですよ。ちょっと残りが不安になるくらい。だから、この爆発は蓋して持ち歩きます」

「なんと。蓋をするという発想が……! さすがは逆神流ですな!!」


 穴に蓋する事を閃いた六駆くん。

 ノア隊員が師匠先輩に告げる。


 どうやら、ここが株の上げどころと見極めた模様。


「はい! 逆神先輩!! さっきの皇帝先輩にですね! ボクの穴ちゃんくっ付けました!! 今なら場所が分かります!! ふんすっ!!」

「えっ!? ……ノアの事がもっと好きになりそう!!」


「うああー。それじゃないです! ボクが求めたヤツはノア隊員の有能さアピールなんです!! 南雲先生!! 皇帝先輩の部屋にカチコミかけられますよ!! ふんすですか!?」

「…………知らない」



 皇宮西側の戦い。


 引き分け。


 ただし、南雲隊にダメージ。


 逆神六駆、煌気オーラがかなり減る。

 南雲修一、いじける。


 得たものは奥座敷への道しるべ。


 逆神六駆と逆神喜三太。

 両雄が次に見えた時こそ因縁を断つ時となる。




 はずである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る