異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第1202話 【敵だったら敵ですよね・その5】電脳のテレホマン、本日何度目かの覚醒
第1202話 【敵だったら敵ですよね・その5】電脳のテレホマン、本日何度目かの覚醒
前回の皇宮西側の戦い。
喜三太陛下が鈴をたくさん出してハンドベルの大演奏中。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「これ知ってる!! じいちゃんが言ってた!! パチンコ屋で耳を焼かれると日常生活でも支障が出るってヤツだ!! うちのクソ親父、テレビの音量がバカでかいもん!! 深夜2時とかに爆音でテレビ見始めるから、何回全力で殴りつけたことか!! ……それだ!!」
喜三太陛下はジュニアを六駆くんの背中に貼り付けて、チャオズスタイルの自爆を敢行させる気満々。
対して六駆くんは「スキルの音量間違えてる!! このひいじいちゃんもダメだ!!」と、今されている事に不快感を覚えた結果、未来でされる事に対して背中がお留守。
時、早速来るか。
「ぶーっははははははは! 今しかない!!」
そこに出現したのは、電脳のテレホマン。
八鬼衆はとっくに解体されて、皇宮もあっちこっちで火災や崩壊が断続的に発生し始め、玉座からついに皇帝がいなくなってもなお総参謀長として職務遂行する四角い男。
『ダイヤルアップ』の能力で幽体離脱して戦場が惨状、失礼、戦場へ参上。
忠臣を名乗るなら本体で来いよと仰せになるのはバルリテロリの軍勢エアプである。
テレホマンもそれなりに搦め手を使えるし、多対戦になれば戦力として充分にカウントできるものの今この場で仕合っているのはおらが国の皇帝陛下とそのひ孫様。
割って入ったらそれだけで隙が生まれて即致命傷からの皇国ドーンである。
それが分からないテレホマンではない。
ついでに「もはやこれ以上……」と、言うまでもない事も全部分かっているが、今日に至る新生バルリテロリ建国の父である喜三太陛下が「勝てばええんや!!」と申されるからには「はっ。勝てばようございます」と付き従うのが彼の生き方。
後世、バルリテロリ戦争の歴史について論争が起きれば総参謀長のテレホマンも散々な誹りを受ける事、これはもうどう足掻いても不可避。
それでもテレホマンは今を生きる。
後世の評価も未来のバルリテロリも、申し訳ないがその時代の人間に預ける。
テレホマンは今、この瞬間、皇帝陛下の御身のために働く事こそが生涯を賭した証だと考える。
考えざるを得ない。
もう考えるのをヤメたい。
総参謀長もここまで来たら後戻りなんかできんのや。
『陛下!! 私でございます!!』
「ばぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛!? うわああああ!! テレホマン!? 死んだんけ!?」
『陛下。……あんまりな御言葉でございます』
忠臣の能力を忘れて、「今わの際のお別れに来たのかな?」とお考えになられた陛下。
またテレホマンが少し丸っこくなったのは言うまでもない。
ハンドベルがリンリンと喧しい戦場で、総参謀長と皇帝が出会った。
『ダイヤルアップ』はテレホマンの意思で声をはじめ姿など確認できる相手を選ぶことができる能力。
皇宮の外ではうっかり慣れない殺意を垂れ流してみつ子ばあちゃんに察知されたので、同じ轍は踏まぬ。
今のテレホマンの心は無。
仕事が終わらな過ぎて到達する、選ばれし社畜にだけ与えられる境地。
この『無』に到達すると、仕事が減って終わりが見えても「どうせ違う仕事が増える……」と希望すら拒絶するようになるので、心は動じず殺意なんてアグレッシブなメンタルが生まれる余地はない。
「…………えっ!? そんなこと、ワシにできるん!? 初めての事やしなぁ。失敗したら恥ずかしいやん? ひ孫が見とるしなぁ。うわ! 見た目は若くてもやっぱじじいやな!! とか言われたら傷つくで?」
敵のみみみと鳴く可愛い戦士の『
そう忠言したテレホマン。
陛下の御言葉は前述の通り。
『陛下。私はこれからご無礼を働きます。どうぞ、処されて結構!! ……クイント様の皇位継承をバルリテロリ全土へ同期いたします!!』
「よっし! いっちょ、やってみっか!! テレホマン! ヤメてくれ!! ワシ、戦争が終わった後でどうやって臣民感情を宥めようか考えとるのに!! それされたらもうどうしようもない!!」
テレホマンが穏やかな表情で「かような御心配は無用ですよ」と微笑んだ。
なぜ無用なのかは分からない。
きっとテレホマンが色々と考えてくれるからに違いない。
「勝った時の心配は勝ってからしろ」だなんて、そんな辛辣な言葉を吐くテレホマンではないのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
喜三太陛下の方針が何度目かの転換。
ちょっと離れたところに避難してる自分そっくりの思考を持った喜三太ジュニアの自立行動権を奪う。
「うけけけけけけけけけけけけけ!! クソがぁぁぁぁ!!」
だが、喜三太ジュニアも喜三太陛下の廉価版。
さっき生まれたと思ったら特に何もしてねぇのに足りないパーツを補強する粘土みたいに扱われようとしている事はすぐに察知。
まるでシャボン玉の歌ではないか。
生まれてすぐに壊れて消えて堪るか。
「うけぇあぁぁぁぁぁぁぁ!! 『
どうせ消えるなら自爆してやる。
これが喜三太陛下にとって予測通りなのだから、クローンというものは怖い。
「自分の考えることはクローンも考えるだろうから、それを利用したろ」という一枚上手な陛下。
なぜその一枚をジュニアにではなく、眼前の耳塞いでイライラしているひ孫に対して上手に使えないのかと苦言を呈されたい気持ちはわかるが、諸君。
陛下の御前ですぞ。
「ほい来たぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『
人のスキルをパクってもっと良い感じに仕上げるは逆神流の本分。
芽衣ちゃまが創ったアレンジスキルをおパクりあそばされて、さらに自分のスキルとして新しく名前をつけて上書き保存。
芽衣ちゃまの臣下がキレそう。
喜三太陛下とジュニアが超スピードでくっ付いた瞬間、眩い輝きを放つ。
だが、六駆くんの「しまった!!」という割と聞き慣れた声が聞こえてこない。
不具合だろうか。
「ノアくん? 目、痛くないの? あんなピカピカしてるものにスマホ向けてて。私、なんかポケモンショックを思い出しそう。知ってる? ポケモンショック」
「ふんす、ふんすっ!! 大興奮のシーンです!! 南雲先生、そのお話は後で良いですか!!」
堪ったもんじゃないのは、コーヒーブレイク中だった南雲さんたち。
爆風はすごいし、光りはもっとすごいし、コーヒー飲み終えてなければガチギレ案件であった。
「南雲監察官。私は存じております」
「あ。ライアンさんって親日家でしたもんね。あれからなんですよ。アニメで光り方が変わったの。ポリゴンショックとか言われましてね。ポリゴン何も悪くないのに、ポケモンのアニメ出禁になっちゃって」
「はい。存じております。任天堂の株価がえらいことになりましたね。当時私はまだ国協の理事をしておりましたが、部下が数人ストレスで胃潰瘍になりました。あと、ハーパーが1日でハゲました」
「半年くらいポケモンアニメは放送されませんでしたからね。もう25年以上前なんですねぇ……」
ほんの数十メートル先でバチバチと光り散らかしているバルリテロリ皇帝の姿を見ながら、在りし日の思いを語るおじさんと中身はおじいさんなおじさん。
ノアちゃんは「目の鍛え方が足りないんです! ふんすっす!!」と当時のマスコミに聞かれたら一瞬で顔出し名前出しで報道されそうなことを言いながらスマホを構えてその時を待つ。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!!」
六駆くん、
彼は今回、ガチのマジ。
喜三太陛下が鈴を鳴らし狂っていた時から「何かして来るな」と察していたが、敢えて「うわぁ!」と術中にはまった演技をしていた。
割と大根役者な彼だが、陛下と六駆くんは初対面。
モニター越しでほんのちょっと見たくらいの関係性であるからして、「ひ孫のリアクションだっさいなー!!」くらいにしか思っていなかった。
当然だが、味方サイドは「……あっ」と理解完了。
コーヒーブレイクを切り上げて自分の身を守るシークエンスへと移行済み。
相手が何をして来るかまではさすがに判断しきれなかった六駆くんだったが、結果的に喜三太陛下が自分のクローンと合体する選択をしたことで的が1つに減る。
凄まじい
一撃で屠る規模の究極スキルをキメるため。
ひとつだけ六駆くんの誤算があったとすれば、テレホマンの存在に気付けなかった事。
とはいえ、『ダイヤルアップ』は初見殺しどころか2度目でも3度目でも大半の相手には有効な能力。
最大の不運はテレホマンが忠義の人の見本市に並べたら大絶賛されるくらいに、妄信的と評して過言どころかもっとくれと言わんばかりの忠誠心を喜三太陛下へと向けていた、その1点に限る。
『私はこの戦争で初めて、自分の判断が正しかったと確信に至りました……! 陛下!! はぁぁぁ!! 『
眼は2つ持ちのテレホマン。
片方は『ダイヤルアップ』で幽体離脱中。
その抜け殻になっている本体の左手が開くと、
効果範囲は皇宮西側の全て。
テレホマンの胸三寸でこの場にいる全員が爆発するという、爆発しがちなバルリテロリ戦争の極致とも言える状況が生み出されていた。
陛下の仕上がった先の仕上がりが早いか。
六駆くんのガチのマジが早いか。
あるいはテレホマンが二階級特進するのか。
もう
多分仕様だと思われるが、誰にも分からない。
一寸先の未来と同じで、誰にも分からないのだ。
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