第1201話 【敵だったら敵ですよね・その4】「……よし。……自爆させるか」 ~こっちもちゃんと倫理観はない六駆くんの曾祖父、閃いた~

 六駆くんが珍しく、空中で足場を固めてインファイトに徹する戦型で喜三太陛下と相対していた。


「ふぅぅぅぅぅん! ふんふんふん!! ふぅぅぅぅん!! 『卵の殻乱撃エッグクラッシュ』!!」

「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『瞬拳しゅんけん』!! ばぁぁぁぁくっそ! 鬱陶しいなぁ、そのスキル!! なんじゃい、それぇ!!」


 『卵の殻乱撃エッグクラッシュ』とは、一振りする度に煌気オーラ拳とは別の石礫を混ぜて繰り出す連撃スキルである。

 石礫は低ランク探索員でも使える『ストーンバレット』程度の威力であるため、本来ならば喜三太陛下は避けるまでもない。

 陛下でなくとも、この最終決戦に臨んでいる戦士たちならば全員がちょっと煌気オーラを放出するだけで砕くことが可能。


「それはボクにとって、とても難しいことです!!」


 ほとんど、大半、限りなく、全員。


 しかし、煌気オーラ拳は全て四重発現している状態、目にもとまらぬ剛腕から放たれるパンチ。

 そこに混ざる、目玉焼き食ってたらジャリッと口の中で音を立てるが如き不快感。

 無視できない事もないが、またジャリッとするかもしれないと思えばもう警戒してターンごとにお箸で突っつくほかない。


 代替わりごとにバリエーションが増えていく逆神流の当代、逆神六駆が数多の戦場を駆けて身に付けた嫌がらせと攻撃を兼ねるオリジナルスキルである。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 対して喜三太陛下も『瞬拳しゅんけん』で応戦。

 速度と手数に重きを置いたシンプルなスキルだが、陛下の実力になれば一撃で並の使い手の致命傷となり得る威力のパンチを六駆くんのラッシュよりも回数は多く繰り出されておられる。


 が、たまに混じる卵の殻。

 これに警戒するため、せっかく勝る手数の分だけきっちりと殻の除去に持って行かれてしまい、無為に体力と煌気オーラとメンタルが削られる。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ジュニアぁぁぁ!? お前ぇぇぇ!! 休み過ぎやろ!! 今ってほれぇ! 見ろや、ひ孫の背中ががら空きやぞ!? こいつの仲間はコーヒーしばいとるし!! 千載一遇がいっぱい来てんのに!! なんでお前が来んのや!!」


 喜三太ジュニアは渦巻く煌気オーラを見つめながら、その少年の瞳で戦局も見つめていた。

 そして思ったことを口に出した。



「オリジナル! オレは勝っても負けても最終的に消されるの確定しとるやん!? それで、今って身内の贔屓で勘定してもオリジナルと敵、五分五分やん!? そこにオレが参戦しても戦局は変わるか分からんのに! 確実にオレだけ余計なダメージ喰らうやろ!! どうせ消えるのにさぁ!!」

「なんやこいつぅ!! むっちゃ頭ええなぁ! 腹立つぅ!! 親の顔が見てみたいわ!!」



 逆神十四男が再評価される、分身スキルの使い方。その良し悪し。


 陛下は分身スキルを習得されておられたが、使用されるのは此度が初めて。

 初めてだったので気合入れて創ったところ、思ったよりも自分の思考のまんまなクローンが生まれてしまい「こいつぅ! 捨て駒にされるって理解しとる!!」と自分の考えることを見透かされた上でストライキをキメられる。


 ストライキとは要求が満たされれば解消される場合が大半だが、喜三太ジュニアはもう勝とうが負けようがどうせ消えるという達観視を会得しているので、これはストライキではなくサボタージュ。

 サボタージュも本来は労働組合の争議戦略が1つとして、仕事の能率をガチで下げて経営者をイライラさせた結果の紛争解決を図る手段とされていたが、いつしか「だりぃんでぇ。うぃーす。サボりまーす」の俗にいう「ただ怠ける」の意味が我々の生活にコミットして久しい。


 経営者が損をして紛争が解決してしまったら働かなければならない訳で、ならばもうサボるをチョイスするが良い。

 そんなヤツ見つけたら経営者はクビにするも自由だが、今の戦局に当てはめると経営者であり偉大なる皇帝陛下はジュニアをクビにしたところで特に得るものもなく、むしろひ孫とガチンコバトルが苛烈さを増すだけ。



「……………………あいつ、自爆させるか。ワシがコントロールして。よし。それでいこう」


 まあそうなるのも必然。



 喜三太陛下は臨機応変。

 初志貫徹などと頑固な手腕で治世を行ってきてはいない。

 着の身着のまま、気分も気のまま。

 その時のライブ感で取るべき覇道はルート分岐する。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『鬼鈴きりん』!!」

「うわぁ! うるさい!!」


 バリエーションが乏しくとも喜三太陛下だって逆神流。

 既に三代目の時点で嫌がらせスキルは存在しており、バカでかい鈴を煌気オーラで創り上げると遮二無二振り散らかして騒音被害を六駆くんにもたらした。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『鬼鈴鈴々きりんりんりん』!!」

「うわぁぁぁ!! うるさいっ!!!」


 六駆くんの攻撃の手が停まった。

 機、来るか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 奥座敷では、『フォーエバーアゲイン・テレホーダイ』を通して残った人員で皇宮西の戦闘をモニタリング中であった。


「テレホマン様」

「……は。あ、失礼しました。いかがされましたか、オタマ様」


「はい。テレホマン様。私は六宇様と共に出陣いたします。皇宮内のトラップをいくつか発動させておりましたところ、先ほどチンクイント様を滅された莉子氏と練乳チュッチュ部隊が抜けて出涸らしの陽動部隊が引っ掛かりましたので」

「左様ですか。……左様ですか!?」


 テレホマンが激しく狼狽えた。

 基本戦略の各個撃破方針は維持されているので、小鳩隊が明らかに浮いている今、そちらを叩くのは当然の流れ。


 だが、テレホマンが異を唱えた。



「オタマ様!! 陛下がれっせ……互角の戦いをしておられる今!! そ、その御勇姿を見ずして戦場へ向かわれるのは、その、アレでござませんか!?」


 このまま陛下が敗れた場合とても心細いのでちょっと待ってくださいというアレをナニして頑張ってオブラートに包んだ電脳戦士。



「でもさー。テレホン? キサンタ互角なんでしょー? じゃあ、最悪でも引き分けじゃん?」

「はっ……。ははっ。六宇様。恐れながら……」


 無垢な六宇ちゃんに返す言葉がどっか行ったテレホマン。

 クイントがコーラ飲みながら応じる。


「バカだなぁ、六宇。あのな? じじい様が今、仮に互角って事にしてやるぜ? 互角でひ孫と戦ってる状況でよ? 例えばひ孫が特攻してみ? 互角ってんなら、じじい様も死ぬか、死なねぇにしても相当やべぇダメージ受けるだろ? で、下ではコーヒー飲んでる連中いるじゃん。つーことは、まあ普通に追撃されてじじい様がまーた死んじまうんだわ」

「……くっ!! どうしてクイント様!! 戦えなくなってからその様なクレバーな思考を!! チンクエ様は半死半生だから! ……良いとすら言ってくださらない!!」


 モニターの向こうでは陛下が鈴をわんさか出してお遊戯会を始めていた。


「おっ! 見てみ!! 追い詰められたじじい様がボケてんぜ! ぎゃははははは!!」

「なんかキリンって聞こえたけど、アレってアレじゃん。ハンドベルじゃん。あたし幼稚園でやったよ。きらきら星、みんなでリンリンリンって。なつかしー」


 テレホマンは陛下の忠臣。

 どんな時でも一緒にいたし、これから冥府へも一緒に逝くつもりの忠義人。


 違和感に気付く。


「おかしい。陛下がこの局面で無意味な事をされるはずがない。どうせやられるのであれば、ヤケクソで皇宮ごと自爆して、ワシはワンチャン転生が間に合ったらまた強くなれるわ! ぶーっはははは!! を8割、いや、9割強選ばれるはず……!! はっ!?」

「はい。テレホマン様。私も同意見でございます」


 オタマも陛下とずっと一緒。

 新卒で皇宮秘書官に採用されてからこっち、セクハラされたりお諫めしたりと一進一退の関係を築いている。


「……ぅぃ」

「ああ! チンクエ様!! ご無理されずとも結構です!! 私の言い様が悪うございました!! もはや……良いも叶わず、フランス料理のシェフが肯定している感じになっておられますが!! ある意味では良いと同意なので逆にピンポンでございます!! どうぞ、どうぞご安静に!!」


 チンクエが絞り出した「……良い」も受けて、テレホマンは「陛下。……ジュニア様を遠隔操作して自爆させるおつもりか!!」と真実を掴む。

 そこで天啓がテレホマンを導いた。


 喜三太ジュニアをコントロールするためだろう。

 陛下の煌気オーラがひっそりと爆発バーストしており、ジュニアの方も連動して爆発バースト中。


 喜三太陛下の煌気オーラから創り出された喜三太ジュニア。

 長い長い今日の戦闘データは全て四角い頭の電脳に叩き込んでいるテレホマン。

 思い出していた。


「……敵のみみみと鳴く可愛らしい戦士。彼女が使っていたスキルの応用でイケる!!」


 芽衣ちゃんは攻城戦に際してテレホマンと邂逅している。

 厳密にはテレホマンは眼の能力『ダイヤルアップ』で幽体離脱していたので、会っているのは彼だけ。


 みみみと鳴きながらドッペル芽衣ちゃまとオリジナル芽衣ちゃんが再び合わさり瞬間的に本来持つ煌気オーラの出力を2倍にして見せた極大スキル『倍体身デュアルミオル』は電脳戦士の脳裏にも鮮烈な衝撃として刻まれていた。

 「あの応用力はバルリテロリにないものだ。素晴らしい」と。


 陛下とクローン陛下。



 あれれ。条件が揃っている。

 そして陛下が気付いてねぇ。


 テレホマンは全部分かった。



「オタマ様。私は少しばかり抜け殻になります」

「はい。テレホマン様。私は六宇様と共に出陣いたします」


「御武運を」

「はい。テレホマン様。ありがとうございます。テレホマン様も、ゆめゆめお亡くなりにならぬよう」


 テレホマンが『ダイアルアップ』を使い、思念体だけ皇宮西側へと飛んで行った。

 オタマと六宇ちゃんは予め陛下が創っておいた転移ポイントへ片道切符の出陣。


 急に静かになった奥座敷。


「おいおいおいおい!! チンクエぇ!! オレ、今こそ玉座に着陸キメちまっても良いんじゃね!?」

「……ぅぃ」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 陛下。

 陛下がおられなくなってから寸刻、部屋ががらんとしちゃってございます。

 さりとて、すぐに慣れると愚考する由、ご心配召され無きよう。


 陛下……。(テレホマン著『さようなら、バルえもん』より。5章『帰って来た陛下』から抜粋)

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