第1199話 【敵だったら敵ですよね・その2】逆神六駆VS喜三太ジュニア

 逆神喜三太。

 既に六駆くんよりも1周多く転生周回者リピーターをしている、言い換えればこの世界で1番死んでる、そして生き返ってる偉大なる皇帝陛下であらせられる。


 相手は逆神六駆。

 敵としての情報は既に十分すぎるほど得ている。


 と、思っていたが。



 まさかお互いに名乗りと口上をキメてから仕合おうというボス格の大事なインシデントを無視されるのは想定外。



 ノアちゃんとライアンさんも既に南雲さんの隣へと駆けつけている。

 2人は南雲さんの両サイドにポジショニングを取ってから感想を言い合った。


「おおー! 興奮するヤツです!! 逆神先輩の初手、ガチ殴り!! 相手の話を聞く意味ってあります? これから殺すのに! うふふふふ! が出てます! 興奮ふんすですね!!」

「逆神師範の何が怖いかと言えば、戦いに対する躊躇や葛藤、恐怖に抵抗、果ては愉悦や快楽の全てを金銭欲に置換できるところでしょうな。師範とて、戦いそのものはお嫌いではないと申されておられますが。それ以上にお金が大好き。好きなものから食べる主義の師範に対して握手を求めるとは、まさに悪手。愚かな」


 味方サイドはみんな知ってる、逆神六駆イズム。

 戦闘の美学みたいなものも一応持ち合わせているし、時と場合によっては相手に合わせてくれる。


 かつてバニング・ミンガイル氏、ラッキー・サービス氏も、六駆くんに合わせてもらった人たち。

 特にバニングさんは矜持としての一騎討ちに応じてもらった。

 「その節は本当にすまなかった。アリナ様の作ってくださったグアル草のスープを飲んでいってくれ」と六駆くんには定期的に自宅でおもてなしをしているくらい感謝している。


 サービスさんも「ふん。お前のせいで俺はスキルの大半を出せなかったが。……悪くなかった」と、今は逆神(鬼嫁)と一緒に行動しているため、莉子ちゃんとマッチアップさせられたライアンさんを慮れる心と「ふん。俺じゃなくて良かった。むしろライアン。お前、どうしてまだメンタルが保てる? 高みに立ちすぎるか?」的な感情が増殖中。

 あと5分くらいでサービス・メンタルの過半数を獲得し、与党が変わりそう。


 そこで喜三太陛下。

 陛下の御首級をゲットすると、もうフェルナンド・ハーパー氏がやらかしたこの世界で最大の禁忌「六駆くんの資産凍結」という負債を補って余りあるお金がゲットできる。

 その権利をゲットしたら、現世に戻ってハーパーじいさんをボコる。


 なんということでしょう。

 お金がもっと増えるのです。


 顔も名前も知らんかったひいじいさんの相手してるより、預金通帳の0の数を指さし確認してうふふしたいと思うのが最強の男の脳細胞。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ほう。たいしたものですな。師範の四重クアドラ発現の拳撃を喰らってダメージがほとんどないとは」

「ふんすですね! おいおいおい! 死ぬわアイツですね!!」


 煌気オーラ爆発バーストでどうにか不意打ちのガードはできた陛下。

 だが、距離は詰めて来ない。


「うふふふふふふふふふふふふふふ!! 僕の名前はですね!! 息しなくなった首に教えてあげますよ!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 代わりに距離を一気に詰める六駆くん。


「おぎゃあああああああああああああ!! こいつぅ!! 頭おかしいとは思っとったけども!! 礼儀作法!! 四郎のヤツ、どんな教育しとるんや!! 最悪でも名前くらい名乗るやろ!? ワシ、なんて呼んだらええんや!!」

「あ。別に呼んでくれなくて結構ですよ? 今さらお小遣いもらうためにひいおじいちゃん! って呼ぶのも面倒なので!! 『大竜砲ドラグーン』!!」


「おぎゃあああ……いや、これなら躱せる!! 『緊急脱出装置ジャンピング・ワシ』!!」

「その叫び声……。イライラするなぁ!!」


 四重クアドラ発現から急にノーマル『大竜砲ドラグーン』を放った六駆くん。

 まさか、ここで舐めプを始めるのか。

 「もうトドメを? ふふ……まだ早いよお父さん」を始めるのか。



「あ。ちゃんと実体ですね! 小賢しく分体とか、誰かの姿を変化させて替え玉特攻とかかなと思ったけど。今の回避はむちゃくちゃ強い人じゃないと無理ですから。……よし! じゃあ、一旦殺しますね!!」


 ガチであった。



 六駆くんの知りたい事は「首とったどー! しても良い陛下なのか否か。否だった場合はクソ面倒」である。

 仮に否で、搦め手が得意な猛者が化けてたりして、例えば自分の能力をコピーして実体化を許し「自分VS自分」みたいな事をされたりすると極めて怠い。


 相手にこれ以上のカードは与えずに、ドロー4も喰らわせずに、ただただ殴る。

 殴ってる間にこちらはカードを全部捨てて、ウノと言ってあがり。

 これが最速。


「……ぶーっはははははははは!! やるではないか、ええと。……ほらぁ! お前が名前教えてくれんからぁ!! ここぞで呼べんやんけ!! もう良い! ひ孫ぉ!! だが! これを見てもまだその活きのいいセリフが吐けるかな! ほい来た、ジュニア!!」


 喜三太陛下の見つめる先には。


「うけけけけけけけけけけけ!! このおっさん、殺すぞ?」


 羽交い絞めにされた南雲さんの姿が。


「あああああ! もう嫌だ!! 私、こんなのばっかり!! もう、殺して良いですって言ってるのに!! 逆神くんに怒られるんですってば!! もうひと思いにヤってください!!」


「ぶーっはははは!! さすがは指揮官! なんという気高き自己犠牲の精神!! ワシ、結構引いてる!! 人質になった瞬間に殺せコールしてくるってことあるぅ!?」


 六駆くんが両手に別々の煌気オーラ球を構築した。

 続けて、チャージに入る。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「ぶーっはは……は?」


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!」

「はったりはヤメるのだ、ひ孫よ。はったりにしてはすっげぇ気合入ってんね! さては演技派か!! ひ孫!!」


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!!!!」

「おいぃぃ! ジュニア! 1回そのおっさんを解放してこっち来い!! なんか知らんが、ひ孫はガチやぞこれぇ!! お前出すのは仕上がったワシでもむちゃくちゃ煌気オーラ使うんやから!! おっさんごと殺されたらワシ、何のためにここまで来たんか分からんやん!!」



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!! 『積尸気せきしき虚狼大竜砲ウルフィスドラグーン』!!」

「言ったでしょうよ!! 私が殺されても生き返らせたら済むんですから!!」


 命の重さなど、お金の重さに比べたら高いダウンジャケットよりも軽く、高い羽毛布団よりもふわっとしているのである。



 倫理感は置いて来た。

 はっきり言ってもうこの戦いにはついていけない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 だけどちゃんと心がほんの少しは残っていた六駆くん。

 みつ子ばあちゃんの引力・斥力スキルを両手から発現したので、今回の究極スキルは遠隔操作可能。


 喜三太ジュニアが転移したのを確認すると南雲さんの鼻先を擦ってから天井へ向かって吠える飢えた竜。

 バルリテロリ皇宮がどんどん風通しの良い職場に変身させられていく。


「あ。殺さないんだ。私、てっきりさ。また人質にされると面倒なので、1度殺しときますね!! とかやられるのかと思ったよ」

「南雲さん! なんてこと言うんですか!!」


「さ、逆神くぅん!!」

「南雲さんをここで殺したら! 誰が僕の勝ちを証明してくれるんですか!! 『時間超越陣オクロック』で生き返らせたら記憶失くなってるんですからね!! 南雲さんの事だから、しばらくは疑うでしょ!! 面倒くさい!!」



「そんな事だろうと思ったよ……。コーヒー飲んでていいかな?」


 南雲さんがメンヘラ女子みたいなテンションのアップダウンを見せ始めてしまった。



 その間に喜三太陛下は態勢を整えている。

 さすがは偉大なる皇帝。

 チャンスは逃さない。


「よっしゃ!! 隙だらけや!! 行け、ジュニア!! 後ろからブスってやれ!! でぇじょうぶだ!! 1回だけなら、なんかそういう流れだったからで済む!! ひ孫殺しちまえば、あとは正々堂々と皇道を往けばええんや!!」


 喜三太ジュニアは喜三太陛下の3分の2という偉大なる戦闘力を保持。

 これはバニングさん、サービスさん、南雲さん、そしてライアンさんの4人で掛かっても勝ち筋が見えないくらいには猛者の中の猛者。


「うけけけけけけけけけけけけけけけ!! 『茂る胸毛の刺突ミック・ジャガー』!!」

「ぶーっはははははは!! ジュニアの年齢は8歳!! 小学生だったら……なんぼや。2年生くらい? とにかく、年端もゆかぬ子供!! ぶーっははははは!! 何もできまい!! お前は正義を重んじる探索員だろう!! ぶーっはははははははは!!」


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『竜巻豪拳煉獄鬼火囲いトルネード・ゼンブノセ・パンチ』!!」

「うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 喜三太ジュニアが吹っ飛んだ。

 六駆くんのグーパンで吹っ飛んだ。



「……お前ぇぇぇ!! 正義の味方がやって良いことってあるやろが!! 子供やぞ!!」

「敵だって分かってるのに、何もしない人っています? いや、いるんですよねぇ。良くないと思う。そういうの。だって、子供だろうと年寄りだろうと、殺意持ってるんですよ? じゃあ正当防衛!! 敵だったら敵なんですよ!!」


 人質作戦も子供を使った特攻も六駆くんには通じない。



「うけぇぇぇ……」

「あれ!? 生きとる!! ぶーっははははは!! ジュニアの地力が意外と高い!!」


 南雲さんが呟いた。


「あれで逆神くんも初期ロットに比べたら随分と丸くなったからねぇ。無意識に手加減しちゃったんだよ。最近、結婚とか子作りとかそういう話題が多いし。皇帝のクローンってことは、逆神くんの親戚なのも同じだし。ちょっと気分悪かったんだよね。……あ。怒ったら嫌だな。今のやり取りで。ノアくんはカフェオレね? ライアンさん、今度はちょっとお砂糖入れます? ブラック以外でも楽しめるのがコーヒーですよ。甘いヤツもイケますから」


 レジャーシートを広げて、コーヒーを淹れながら。

 「だって、ガチの逆神くんだよ? 呼ばれたら援護するけど、私の判断で参戦して怒られたら嫌だし」と、メンヘラ彼女みたいなことを言いながら。

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