第1198話 【敵だったら敵ですよね・その1】南雲修一監察官の「あ。これセルジュニアだ」 ~さすがに煌気が減って来たのでチャオれなくなった南雲さんに試練が迫る~

 バルリテロリ皇宮、西側の端。

 情報収集班を担当している南雲隊はしっかりと任務遂行中。


「ややっ! ライアン先輩!!」

「また見つけたのか、ノアちゃん。ノアちゃんは私の分析スキルですら追いつけない速度でケーブルを掘り当てるな。是非ともその秘訣を伺いたい」


「ふんすですね! 猫先輩たちはもういるので、ボクはわんわんノアちゃんとしてやっていこうかなと模索しているのです! だったら掘り当ててしまうのも道理!!」

「なるほど。然り」


 バルリテロリサイドがやたらとトラップを出しては引っ込めて、出しては六駆くんを引っかけて、また出してを繰り返すのでその辺の煌気オーラが揺らぎまくっており、淀みなく情報伝達を続けている有線ケーブル、もう何度もノア&ライアンの発掘コンビに掴まれては穴空けられているのでいっそ勇戦ケーブルと呼んであげても良い皇宮を走る情報の線路がまたしてもここ掘れノアちゃんの面白そうセンサーに見つかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 電脳ラボの様子を見てみよう。


「あー!! まずい! また捕まった! こっち切断するよー!」

「待て、貴官。そこ切断したらケーブルが断線する。反対側を切ってくれ」

「うわぁぁ。対おばあちゃん砲弾がそろそろなくなるな。詰むよ? どうする?」


「砲弾なら陛下謹製モビルスウィーツを解体して、それを材料に造ってるから。裏から持って来い」

「おいおい。貴官。それ不敬じゃね?」

「敬意をもって解体してたら良いと思うが」


「というか、外のおばば上。どう見ても我々がパンクしないラインを見極めてから砲弾を投げ込んでおられるよな。やろうと思えば5秒でラボ爆発してると思う」

「分かる。時間稼ぎのおつもりなのか。それとも、運動的なアレなのか。私たちとしては死んでないからありがたいけれども」


「どうせ負けたら死ぬんだから、一瞬でみんな一緒に逝く方がよくね?」

「貴官は死んだことあるのか? 怖いじゃないか」

「みんなー。コーラ持って来たよー」


 とても仕事をしていた。


 ノア隊員にケーブルを発掘される度に伝達システムを解除、別のケーブルへと役割を移管させる。

 同時に外でみつ子ばあちゃんが「さぁぁぁぁぁ!!」と煌気オーラなんか出してないのになんか真っ赤な陽炎が見える、そんなハンマー投げスタイルで砲弾飛ばして来る、一手誤るだけで投了飛び越えて逝ってしまう現状にも対応。


 長期連休の飲食業が見せる、店長、社員、バイトが一丸となって「ええ……。すごい。そんな急がなくても、待ちますよ? 大丈夫ですから」と心配になるような連係プレーを見せつける。

 これが電脳ラボ。


 テレホマンが造り上げた、割と歴史は浅いバルリテロリの最終防衛ラインである。


「あ。……端末にコーラこぼした」

「こっちの使え。もう良いんだよ、コーラこぼしても。だってオレたち、涙はこぼしてねぇもん」


「あっはっはっは! 違いないな!!」

「みんなー! コーラ持って来たよー!!」


 もう奥座敷の座標だけを隠し通せれば後は何がお漏らししても大勢には影響ないやろな現状を全ラボメンが理解しているので、「うあー。これ被っちゃいましたー」とノアちゃんがガチャで特殊演出からの持ってるSSRを引き当てたリアクションを見せるのは4度目。

 今はバルリテロリの国庫情報を垂れ流して巧妙な囮にしている。


 さっきは喜三太陛下の歴代抱いて来た女列伝を垂れ流した。

 まだまだ垂れ流す皇国の秘密は残っている。


 その間に、勝てばええんや。

 勝てんのなら綺麗に負けてくれればええんや。


 戦争において後方支援に徹する者は戦局が最も把握できる場所に居ながらにして、自身ではどうにもできないという極めてストレスフルなポジショニングを強いられる。

 それでもコーラとメントスを携えて働く電脳ラボは偉い。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「南雲さん! 離してください!!」

「いいや! 離さないよ!! 逆神くん! アレは罠だって説明してるじゃないの!!」



「そんなこと分からないですよっ!!!」

「なんで金田一少年の事件簿で犯人を推理ショーで追い詰めた後に居直られて、俺の気持ちなんかお前に分からねぇだろ!! ってキレた犯人に対して本当の思いをぶつけるはじめちゃんみたいになるの!? そこはさ! 一旦分からなくても理解するふりしようよ!? 犯人だってもう捕まるか自殺するかしかないんだから、開き直って襲われるよ!? 『異人館村殺人事件』読んでみて!? 推理ショーをキメ過ぎて、犯人その後にも人殺してるんだから!!」


 南雲さんの長尺セリフは冴えを見せる。

 まだまだ戦えそうですね。



 六駆くんは「ひいじいちゃん見つけたら即、殺しに行きますけど! それまでは戦力的に不安なのでこっちの用心棒しときますね!!」と言っていたはずなのに、さっきから五千円札トラップに引っ掛かって憤怒に燃え、今は千円札トラップに引っ掛かろうとしている。

 南雲さんは司令官としてもう六駆くんにすがりつくしかない。


 その様相は生活費に手をつけて「これ倍にして戻しゃ良いんだろ!!」とパチンコ屋へ出かける夫に「もうヤメてぇ! 働いてとは言わないから! そのお金は持ってかないでぇ!!」と最終局面に到達しているのに何故か離婚はしない夫婦もかくや。

 「せめて1円パチンコにしてぇ! 4分の1で済むからぁ! 負けるお金ぇ!!」と悲痛な声をあげる南雲さん。


 六駆くんはギャンブルに興味がないのでその喩えが通じない。

 ギャンブルするくらいなら、堅実に落ちてるお金を拾うのである。


「くそぅ! これなら敵が来てくれた方が良いよ!! 把握できてないけど、数は減ってるんでしょ!? 1人、2人、こっちに来て、今の逆神くんの相手してくれないかなぁ!?」

「南雲さん!! 1000円あったら何がデキると思うんですか!? 莉子に! マックでチキンナゲット買ってあげられるんですよ!!」


「小坂くんがまた太るでしょう!!」

「どうせ何か食べるんですから! チキンだったらカロリー低いし良いんじゃないですか!!」


「マックをチョイスしてる時点でカロリーの話を持ち出すのはナンセンスだよ!!」

「でも、南雲さん!! マックってサラダセットありますよね!?」



「あれは……! アレだよ!! 意識高い系の女の子が選んで満足感を得るだけだから!! 別にマックでヘルシーキメようとしてる訳じゃないから!! 野菜不足気にする子ならまずマック行かないでしょうよ!! 焼肉バイキングで初手サラダバーに行く子と同じ種族だよ!!」


 南雲さんは追い詰められているため少しばかり配慮のない発言をしておりますが、決して氏の本心ではございませんこと、ご了承ください。



 そんな南雲さんの願いが叶う。

 1つだけ願いが叶うなら、一等賞が絶対に良い。


 この戦争の一等賞は「もう現世に帰って戦後処理して。家に帰って妻のお腹に手を当てて、男かな! 女かな!! ってやりたい……」である。

 だが、直近のものをチョイスされがちなのが叶う願い。


 南雲さんは言った。


「ぶーっはははははははははは!! 愚かなり!! ひ孫ぉ!! その千円札は罠じゃい!!」


 敵が来てくれればいいのに、と。


 ラスボスが来ました。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 喜三太陛下、現場へゴー。

 六駆くんの首取っちまえばこっちのもんよと、あろうことか総大将が自陣を攻められている最中のポイントへ転移して来た。


 もはや盤上に残された王将が縦横無尽に「ワシ、全方位1マスずつ動けるんや!!」と銀とか金とかゲットして「ぶーっははは!!」と無双感に酔わされて、その数手先で「はい。詰みですね」と身動き取れなくなるまでのカウントダウンを体現しているようである。


 だが、戦争は将棋ではない。

 駒を操るのではなく、血の通った人が人と戦うのだ。


 詰んだからなんだと言うのだ。

 詰んだから、それがどうした。



 詰んだら眼前の銀でも金でも飛車でも角でも、叩き潰して強引に突破すれば良い。

 投了しなきゃ負けてないんや。



「ぶーっはははははははは!! こうして直接会話をするのは初めてだな! ひ孫!! まずは名乗ろうか!! ワシは逆神喜三太!! バルリテロリの皇帝にして、貴様の曾祖父よ!! ……なんで迎えに来んかったんや!! 今さら一緒に帰ろうとか言ったってもう遅い!! 後には引けんところまで来たんや!! さあ! ひ孫! うぬの名は?」


 喜三太陛下、ついに六駆くんと邂逅す。

 六駆くんは笑顔で応じる。


 彼は無駄な労力を行使する事は大嫌い。

 話が纏まるのならば、自分の意に反することだろうとやってのける男。


 喜三太陛下に歩み寄って、にこりと微笑んでから手を差し出した。

 陛下は「やだ。イケメン!」とトゥンクされた。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『豪拳ごうけん四重クアドラ』!!」

「ぶーっはははあ゛っ。ひゅぅっ……!! おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 差し出した手を拳に変えて、全力パンチをひいじいちゃんの腹にぶちかました。



「ええ……。逆神くん。いや、やるかなとは思ったけど……。ん?」


 もう六駆くんに慣れてしまった逆神六駆被害者の会名誉顧問。

 最強の男のご乱行はスルーして、すっ飛んで行った喜三太陛下の後ろから出て来たちっこいシルエットに気が付いた。


「うけけけけけけけけけけけ!! クソが!!」

「……あ。セルジュニアだ」


 南雲修一。

 ドラゴンボールは週刊連載リアタイ読者世代。


 もうすぐに気付いた。

 喜三太ジュニアの存在に。


 セルジュニアの戦闘力が意外に曖昧だということは広く知られている。

 ベジータさんがひぃひぃ言いながら応戦している一方で、天津飯とかヤムチャも瞬殺されてはいない。


 サイヤ人の細胞入ってるから舐めプ癖があるのか。

 急いで大量生産されたから個体差が大きいのか。


 喜三太ジュニアの実力はいかに。

 喜三太陛下はご存命なのか。

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