第1197話 【バルリテロリ皇宮からお送りします・その31】「陛下」「ちょっと待って!! 怒らんとって! ワシのクローン出すから!! 可愛いヤツ!!」 ~ワシのクローンと2人なら勝てるんや!!~

 融合戦士が割と悲惨な敗北を喫してしまった。

 そんなバルリテロリ皇宮からお送りします。


 収録現場は奥座敷ですが、そしてもう戦闘も全て同じ屋根の下で行われておりますが、広義的な解釈をするとバルリテロリ皇宮です。


「ねー。オタマさー。いくら人の命かかってるとはいえさー。すごいよね、やっぱ。社会人って。咄嗟に自分のパンツ脱いでクイントの死体に投げるとか。あたしには無理ー」

「はい。六宇様。違います」


「どっち!?」

「先ほど投げたのは確かにパンツでございますが。私のものではありません」


「えっ!? パパッてストッキングおろしたじゃん!!」

「はい。六宇様。あれはミスディレクションと言います」


「あー! それ知ってる!! クラスの女の子たちがハマってたヤツ!! 黒子の王子様だ!!」



「はい。六宇様。違います」


 同期なしで平成初期からたった数日でテニプリ、黒バス、刀剣男子までたどり着いた六宇ちゃんを褒めてあげて欲しい。



 スマホを見て「あー! バスケだった!!」とまた1つ賢くなった六宇ちゃんにオタマが続ける。


「六宇様。私がストッキングをおろした事で、パンツを脱いだとお思いですね?」

「お思いだよ!?」


「私は紐パンを愛用してはおりません。では、どうやってストッキングがまだ両足から抜けていないのにパンツを脱ぐこと叶いましょうか」

「……ホントだ!!」


「これがミスディレクションです。六宇様。ストッキングをおろしたら、パンツもおろしいているだろう。その愚かな常識を利用させて頂いたまでです」

「へー。やっぱ社会人のお姉さんってすごっ。……待って。じゃあ、投げたパンツは? オタマは普段からパンツをポケットに入れて歩いてるの?」


「はい。六宇様。違います。少しおバカさが下限値を突破しそうですので、ご調整ください。いよいよ戦場に出ようかという時分にそれは困ります。先ほど投げたのは、六宇様が試し穿きされておられた陛下の御創りあそばされた見せパンの限りなくパンツに近いフォルムのものです」

「あー! なるほどー!! ……………………それもうあたしのパンツじゃん!! 1回試しに穿いてる時点でもうあたしのじゃん!!」


 人命救助に役立ったのだから、ギャルのパンティとはかくも偉大なり。


「とはいえ、六宇様。次はいよいよ私たちの出番かと存じますれば、パンツの1枚や2枚で涙目になっておられるようでは困ります」

「あたしは命の危機に瀕してもこーゆう辱めに対して涙目になると思う」


「六宇様……!! お難しい御言葉を事もなげに……!!!」


 ガールズトークで現実逃避も完了。

 お通夜ムードの玉座では。


「陛下。御下知に従いまして、皇宮西側、仮称・ひ孫様ポイントに新しいトラップを仕掛けましてございます。ですが……陛下……」

「ちょっと待って。ワシ、むっちゃ息が苦しい!!」


「過剰なストレスによる呼吸器の障害……! 陛下! 御首級をお渡しになられますか!?」

「なんでや! ちょっと動き過ぎて息が乱れたって話してんのに! どうせ苦しいなら首刎ねるのも同じじゃね? みたいなノリで首を刎ねられて堪るか!!」


 テレホマンが跪いた。

 そして「隙あらば陛下の御首級を敵に差し出して全面降伏の機を伺っていたのか……私は……!! 無意識のうちに……!!」と、自分の忠誠心がちょっと明後日の方角に向かい始めていた事を恥じた。


 恥じる必要はないんだよと声をかけてあげたい気持ちも分かるが、それをやるとこれまでに散って往ったバルリテロリの戦士たちが浮かばれない。



 割とダメなヤツしか散ってないから別にいいじゃんとか思ってはいけない。

 陛下の御前ですぞ。



「マジかよ、チンクエ……! こんなに焦げちまって! おら! 冷蔵庫からコーラ持って来たぞ! 飲め!! 飲め!! 水分摂らねぇと!!」

「……良いゲホゴホガハゲホヴェア。……ゔぉえい」


 クイントは動けるものの、煌気オーラが枯渇。

 チンクエに至ってはもう転がってるのが精いっぱい。


 いよいよバルリテロリサイドの戦力が片手でカウント可能な状況へと追い込まれた。

 が、陛下はマントを外して、新しい純白のマントを構築スキルで御創りあそばされている。


 死装束かな。


「ぶーっははははははは!! クイント! これが皇帝の高笑いじゃい!! お前はまだまだ!! ひよっこよ!! これがデキるようにならねば女を山ほど抱けんのだわ!! ぶーっははははははは!!」

「じじい様よぉ。別にオレ、山ほどじゃなくてもいいんだわ。もう36よ? 今からハーレム目指すより、1人の女と添い遂げるわ」


「ぶーっははははははははははは!! 甲斐性なしめ!!」

「陛下! おヤメください!! 私がうっかりこの感情を同期した瞬間!! 臣民からの支持率まで低下いたしますれば!! 事ここに至り、もはや私、心の拠り所を失いますこと!! どうぞ、どうぞご承知を!!」



「えっ?」

「……はっ!!」


 陛下が冷静になられました。



 純白のマントは本来の陛下が好んでお召しになられるもの。

 皇帝の背は何人も傷つける事叶わず。

 汚れることなどない、覇道の象徴と知りおけとはバルリテロリにある喜三太陛下記念館のエントランスに掲げられたありがたい御言葉。


 既にアタック・オン・みつ子の激走に際して物損事故の由、エントランス前にある喜三太陛下モニュメントは3体ほど倒壊したが、記念館は健在。

 きっと敗戦処理で真っ先に壊されるだろう。


「……分身」

「は? 陛下?」


「……分身がある。……まだ、ワシ。……使っとらん。……分身スキル」

「は……ははっ!!」


 合体戦士作戦は一の矢。

 二の矢がまだある。


 減った人員は皇帝の御身を増やすことで補うという、フレキシブルかつ追い込まれティブルな御発案。


「しかも、ワシは敢えて子供の頃のワシを産み出す!!」

「は? ……ははっ。陛下。よろしゅうございますか」


「ぶーっははは! 分かっとるわ! 子供の頃のワシでは力が足りんって言うんやろ?」

「はっ! 差し出口をお許しください!!」


「いや、テレホマンはやっぱり総参謀長だわ! そこよ! 子供の姿!! この意味が分かるな?」

「私のようなただ四角いだけしか能のない電話男には到底及びもつかぬ高尚なお考えかと存じます。小官に思い付く事といえば、精々子供のいたいけな姿で敵を油断させ、背後から一撃を狙うという皇道にも覇道にも騎士道にも逸れた卑しい策くらいでございます!! 是非ともご教授頂きたく!! この窮地を打開し、戦局逆転の足掛かりとなり得る陛下の策を!!」



「…………………………………………………………」


 逆神家奇数代は都合が悪くなるとすぐ黙る。



「陛下?」

「ええやんけ!! ワシの子供の頃の姿はみんなも知らんやろ!! ワシ、何回死んでも17歳からリスタートなんやから!! バルリテロリの皆も知らん、とびきりキュートなワシやぞ!! 絶対に油断するやんけ!! と言うかさ!? 普通、戦場に子供がいたらいきなり攻撃する!? ワシらだってさ! チンクイントまでぶち殺された拷問大好きちびっ子莉子ちゃんの事を敵として認定したのついさっきやで!? まずはこうやろ! ボク? どこから来たの? お父さんかお母さんいる? それで、こう!! けけけけけ!! かかったなぁ!! で、ぶすー!! よ!! 2人は殺せる!! ひ孫とあの苦労してそうな指揮官!! これで敵は最大戦力と司令塔を同時に失ってもう、バーンよ!! バーン!! ぶーっはははははははははは!!」


 諸君。

 六駆くんの性質について密告はお控えください。



 陛下の御メンタルがえらい事におなりあそばされます。



 喜三太陛下が煌気オーラを増幅し始められた。

 自分の分身を出すのではなく、クローンを構築するのである。

 芽衣ちゃんのメインスキルであり、逆神家でもよく見かける『分体身アバタミオル』とは規模が違う。


 自分と同程度の実力を持たせるとクローンが賢かった場合叛逆されるためパワーは3分の2に抑えるものの、逆神喜三太陛下に次ぐ実力者をすぐに産み出せるという事実は脅威そのもの。


 なにゆえそれをさっさとやらなかったのかと言えば、前述の通り。

 まだ八鬼衆やバル逆神家、皇族逆神家がわんさかいた頃に陛下のクローンを出して、仮に善の心に満ちたクローンだった場合、どうなるか。



 バルリテロリ軍は謀反気溢れる猛者たちが売り。

 多分、本体の陛下とクローン陛下の御家騒動が勃発して戦争どころじゃなくなる。



 しかし、ここまで追い詰められたらどんな心を持っていても、生まれた瞬間からハードモード。

 とりあえず敵を殲滅してから自我が生まれる。

 生きるために殺すのである。


 ああ無常。そして無情。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『映す価値ナシ一歩前ソックリサン・バース』!!!」


 喜三太陛下の構築した煌気オーラ力場が渦巻き、1か所へと収束していく。

 そして背丈120cm程度のシルエットがむっくりと起き上がった。


「ぶーっはははははははは!! ほら見ろ! 可愛い!! お前は喜三太ジュニアじゃ!! これからワシと敵をぶち殺しに行くで!!」

「うけけけけけけ!! 任せとけ! やってやらぁ!!」


 オリジナルから生まれたクローンが真逆の性質を持つケースよりも、思想もそっくりなケース。

 確率論がなんやかんやでそっちの方が圧倒的に高いのではなかろうか。

 自身のクローンを産み出した事のある方は、バルリテロリ皇宮までお越しください。


 テレホマンが跪いて申し上げた。


「さすがでございます。陛下」

「せやろ!!」


「はっ。実質的な第4世代であらせられるジュニア様に七のつく名をお与えになられた場合、私は命を賭してでも止めるべきと考えておりましてございます!!」


 陛下がゆっくりと頷かれる。



「それな! 七太郎とか名前付けたらさ! よく分からんけど、即この世界から消される気がした!!」


 さすがは陛下。御慧眼であらせられる。



 狙うはひ孫の首。

 喜三太陛下。御出立(今季3号。前世含めて通算4号)である。


 供に立てよ、臣民。

 そして叫ぶのだ。唱和せよ。


 勝てばええんや。

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