第1193話 【融合戦士チンクイント・その2】戦鬼、もとい戦姫の帰還
チンクイントが仕上がった。
仕上がったを「最良の状態へ完成した」とイコールで結ぶのは乱暴なロジックである。
例えばお菓子作り。
クッキーを仕上げるために生地をこねこねしていた中継点と、焼き上がったら思ったよりちょっと焦げていた終点。
これは仕上がっていないのだろうか。
ちょっと焦げたクッキーに仕上がったと言えないのだろうか。
例えば人生。
夢に満ち溢れていたキッズ時代に思い描いた未来予想図は。
やっぱりこの例え話はヤメておこう。
例え話で失うエネルギーが多すぎる。
全てが思い通りに仕上がるのならば何の苦労もない代わりに、仕上がった時の喜びも失われる。
失敗するかもしれないと仕上げていくからこそ、仕上がった時の気持ち良さがあるのだ。
仕上がった時にモニョっとした場合の話を始めるとお通夜みたいな空気になるので、このくらいにしておくのが上策か。
あるいは仕上がりに関して言及した時点で下策か。
「ぶーっははははは!! あ! デキた!! じじい様の高笑いできたわ!! おい、白髪!! 聞いた? 今の!! これもチンクエが遺してくれたものだわ!! 良いな良いな、兄弟って良いなってか!! ぶーっはははゲホゲホごっふぁ……。やっぱつれぇわ」
そんな訳で融合戦士チンクイントが仕上がっていた。
「ふん。……意味が分からん。お前。どうして自分から低みに堕ちた」
サービスさんが困惑する。
最初に一人二役でセルフお喋りしている異常者と判断したら急に勝つための手段を選ばない好戦的な強者になったので警戒を強め、守勢に徹するという初めてのプレイにまで応じ、追い詰められてたはすなのに、その自分にトドメを刺さず弱体化したようにしか見えない眼前のチンクイント。
しかも均整の取れていた見た目は露骨にパワータイプへ。
淀みなく流れていた
これは擬態でも何でもなく、普通に弱体化しているとサービスさんクラスの使い手になれば分かる。
先刻まで仕合っていたのだから断言できる。
「ふん。……チュッチュチュッチュチュッチュ」
それはもう「
チュッチュしててもやっぱり分からなかったので、万全を期すことにしたサービスさん。
自分の強さに驕りなく自信があるゆえに「意味が分からん」という戦局は最も避けたい。
ピースの最上位
経験を積めば積むほど自身の求める強さの高みへと上っていくが、その高みからの景色が万人同じと判断するのは早計。
「すべての人類を同じ景色に導いてやろう。この俺が」と平等を掲げたのが元なので、愚民に高みを授けるまでは高みに近い者を傍に置き、平等の権限を与えて合議制としていたのもそんな思想あっての所以。
サービスさんは六駆くんに敗れた。
最終的にピースもなくなった。
ゆえに、少しだけ柔軟な思考を手に入れる。
別に求めていなかったが、手に入れさせられてしまったのだから仕方がない。
今も高みに立つ自負はあれど、未だ頂点には到達していないと考えるようになった。
「ふん。……不本意だ。芽衣ちゃま。子供を頼るのは俺の主義ではないが。この状況をどうおも」
チンクイントに警戒しながらサービスさんが振り返ると、そこには。
「ふぇ!?」
「ぐーっははは!! サービス殿! ラッキーの名を持たれるだけございまするな!! 莉子殿がまさにお着替え中でございまするぞ!!」
莉子ちゃんがキャミソールを脱いで、いよいよピュアドレスに袖を通そうとしていたタイミングで初めて子供を頼ったサービスさん。
ラッキースケベなど望んだ事は一度もないのに、メインヒロインのラッキースケベを拝受するに至る。
「ふん。お前たちに用はない。芽衣ちゃ」
「もぉぉぉ! いつまで見てるんですかぁ! たぁぁぁぁ! 『
ピュアドレスのスカートパーツは既に穿いており、ゴムのウエストがとても馴染んだらしく後はトップスだけという半端なアルティメットフォームな莉子ちゃんが照れ隠しの『
サービスさんは余裕をもって躱したが、頬がピッと斬れる。
莉子ちゃんのスキルが明らかにアップグレードされていた。
落ち着いて練乳をチュッチュして、「……ふん」と考えるサービスさん。
「おい、おめえ。すげぇ頬っぺた切れてるけど。なあ。オレがヤる前にヤられるのはあんまりじゃねえか? ここ一番の出血すんなよ。腹の穴塞がってるのにさ。絆創膏持ってる? 持ってたら貼れよ」
チンクイントから受けた腹部の傷はとっくに『サービス・タイム』の凍った時の空間で治療していたサービスさん。
それはもう疲れる治療だった。
応急手当のために3時間くらい時間を停めていたのだから。
「ふん。我が盟友。バニング・チュッチュ・ミンガイル。お前はやはり高みに立つ者。同じ景色を俺も見た。ならば、お前に倣うのも悪くない」と、氏にしては珍しく長尺のセリフを吐いたのち、空になった練乳チューブを床に叩きつけて叫んだ。
「……クソが!!」
なんでそのパワーアップしたスキルを敵に撃たねぇんだと、戦闘IQ低すぎな莉子ちゃんに憤慨した。
「なあ? もう良いってことだな? 良い? 良いなぁ!! 『
「ふ……ん……!? このパワー馬鹿、俺の想定を超える速さだと。……『
クイントの意図しないところにチンクエの残留物が付着しており、セリフに「良い」が増えており、スキルの練度も増していた。
サービスさんが咄嗟に『
パワータイプを真正面から受けるには充分に押し切れるという確信、あるいはそのための準備が必要。
慌てて対応するのは下策である。
「ぶーっはははゔぉえ!! なんか知らんが、強いヤツからキメちまったぜ!! 見てるか! 六宇!! 愛してるぞー!! 良いぞー!!」
「ふん。……俺はもしかすると。……これにも劣っているのか?」
サービスさんの心が折れそうである。
これはいけない。
そんな時に降臨するのが、戦いの女神。
ゴォッと可愛くない轟音と共に駆けつけたのは、氏が望んだ子供の助力。
「たぁぁぁぁぁぁぁ!! 『
「おべっしゃらぁぁぁぁい!! ……すっげぇ痛い!!」
苺色のげんこつと共に莉子ちゃんが戦線復帰。
戦鬼、ではなく、戦姫が戦争を終わらせるために舞い降りた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「みみみみみみっ」とサービスさんの求めていた方の可愛い子供はダズモンガーくんの隣でトラさんを慮っていた。
「ぐーっはは!! この程度、どうということはございませぬ!! 芽衣殿、ご心配には及びませぬゆえ!!」
「みみぃ!! ダズモンガーさんの手! 血が出てるです!!」
「ちとヌーブラに無茶をさせ過ぎましてございまする!! 莉子殿がもっと! もう一声!! ダズモンガーさんのいいとこ見てみたいなぁ!! と囃し立てまするので、つい吾輩も限界を超えましてございまする!!」
もったいつける事でもないので端的にご報告。
莉子ちゃんはヌーブラで盛りました。
腋のお肉を寄せてバストアップも可能な魅惑の装備、ヌーブラ。
莉子ちゃんもそれを試みたが、「ふぇぇ。腋って意外と遠いんですね……」と、意味が分かると怖い話を繰り出しており、最終的にヌーブラ本体を盛った。
その難しいを強引に突破した結果、ダズモンガーくんの指が針傷を負う。
散々ぐあっているじゃないかと申されることなかれ。
想定していない時に針みたいな細くて尖ったものに指の先端を襲われると、かなり痛い。
ボールペンのキャップに謀反を起こされてペン先がぶっ刺さった辛い経験は誰しも通る大人へのステップ。
「ぐーっはははは。ですが莉子殿は……これにて無敵!!」
「み゛っ」
芽衣ちゃんの脳裏には去年の夏、莉子ちゃんが似たような
1人と1匹が見つめる先では、新たなる最強タッグの初陣が。
「ふん。お前は呼んでいない」
「な、なんでそういうこと言うんですか!! わたしだって! この可愛いドレスを初めて見せるのは六駆くんが良かったんですよ!? けど……。さっきバニングさんに怒られましたし……。だから渋々サービスさんのお隣に来てあげたのに!! 知らないんですか! お隣の天使様ですよ!! 今のわたし!!」
「ふん。厚かましさの高みに立つか。逆神(嫁)」
「あ。そーゆうこと言うんですね? わたし、サービスさんが六駆くんと喧嘩した事、ちょっと根に持ってますよ?」
最前線に復帰した戦姫様が不和を生じさせていた。
だって、久しぶりだから。
あとそんなに親しくないし。この人と。
ちなみに莉子ちゃんがひとり旅を始めたのは2時間くらい前。
単純作業をしていると時間の経過が遅くなる、アレである。
決して時空は歪んでいない。
2時間前は久しぶり。
「あー。すっげぇ痛かった。けど、なんだこれ!! オレ、やれる気がする!! チンクエ!! 良いな!! なんか知らんけど!! 良いぜ! 今のオレ!!」
敵は仕上がったチンクイント。
相手にとって不足なし。
試運転の時である。
アルティメット莉子ちゃんはちゃんと動くのか。
この世界ではちゃんが付くと乙女の価値が上がりがち。
おわかりいただけただろうか。
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