第1192話 【融合戦士チンクイント・その1】ひとつになる兄弟
新装備が届いて1秒、「よっしゃあ!!」と身に纏ってすぐ最前線に復帰できるのは戦闘民族にのみ許される行為。
莉子ちゃんは乙女。
お着替えにも時間がかかる。
「よいしょ……。芽衣ちゃん、これ変じゃないかな? 後ろが見えないの不安なんだよね……。こんなに背中がバーンってなってる服、着た事ないんだもん……」
「みっ。……みみっ。…………………………みみみみみっ」
芽衣ちゃんは少しの間、葛藤する。
「みっ。戦局を考えると何も見なかった事にして、バッチリ決まってるです!! と答えるのがきっと正解です。けど、芽衣は子供だから嘘つけないです」と心の中で結論を出すまでに要した時間はわずかに3秒。
カップラーメンが100個できる。
緊急時は単純計算こそできなくなりがち。
27時って何時だっけとか考え始めるといっそキマって頭が冴える。
何が言いたいのか分からないという諸君には、これをどう表現して良いのか世界も困っている旨を知って欲しい。
そう思うのはエゴだろうか。
我らが芽衣ちゃまが言ってくれた。
「みっ!! 莉子さん!! キャミソールの肩紐がフリフリのオフショルダードレスに合ってないです! あと! 背中が開いてるのにキャミソール着てるです! 芽衣、子供だから分からないです! 分からないけどドレスが台無しだと思うです! み゛ぃ!!」
莉子ちゃんのキャミソールとピュアドレスのミスマッチ問題が生じていた。
背中なんてテレビ越しにアカデミー賞の女優さんが着ているシチュエーション以外ではお目にかかる事が一般人にはないと断言しても良いくらいにセクスィー。
そこに立ちはだかる、キャミソール。
ドレスコード的にキャミソールはアウト。
これはもう間違いない。
だってキャミソール丸出しのハリウッド女優さんなんか見た事がないのだから。
日本アカデミー賞でも良い。
やっぱり見た事ない。
では、キャミソール脱げばいいじゃないかと思われるのであれば、ちょっと乙女心の理解に問題があると言わざるを得ない。
ただ、一概にその貴重な意見を否定するわけではなく、そのような結論に即たどり着いた方には戦況把握能力、ひいては指揮官の素養に恵まれていると言い換える事もできる。
「ふん。いい加減にしろ。逆神(嫁)……。お前がこれ見よがしに装備を見せびらかしたからだ。敵がお前ばかりを狙う。俺が一体、何度時間を停止させてお前を守ったと思う。チュッチュチュッチュチュッチュ。殺すぞ」
乙女心の履修よりも先にサービスさんの時間稼ぎの命脈が尽きそう。
だが、キャミソールの下にはおブラがあるわけであり、背中が展開されているドレスならばキャミソール丸出しがおブラ丸出しに進化を遂げて、最終的にピュアドレスを着た莉子ちゃんがダズモンガーくんの背中に再度格納される未来しか見えない。
何のためにピュグリバーより愛をこめたのか。
「ふぇぇぇ……。そういえば、こういうドレスってどうやって着るの!?」
「みっ! 芽衣、今度はホントに子供だから分かんないです!! みみっ!!」
カップの付いたドレスであれば、まさに綿なんかを詰めて直接乳をインするのが伝統的な手法。
ただ、現在ではヌーブラという便利なアイテムが存在し、こちら、なんと、なんとである。
腋、さらには脇、その辺にあるお肉をかき集めて、乳を盛る事も可能。
ヌーブラそのものにも盛る機能が搭載されている場合が多く、もう綿なんか詰めてる時代は終わったのだ。
とはいえ、ないものねだりをしていたらピュアドレスは着れないし、サービスさんがそろそろ消耗戦の極致に至り、なんやかんやで死ぬかもしれない。
戦いとは時に女神の気まぐれロマンティックと形容されるように、偶然が結びついて運命めいた線になる事がままある。
それを後世の者が「戦いの女神が微笑んだ」などとドラマチックに形容するのである。
「ぐーっはははは!! 莉子殿!! こんな事もあろうかと!! 吾輩、ヌーブラなるものを繕っておりまするぞ!! しばしお待ちくださいませ!!」
家庭科関係だったら何でもできるぞ、ダズモンガーくん。
既にトラさんのイラストが付いた裁縫箱から針と糸を取り出して、なんかヌラヌラしたものをチクチク縫い縫いしていた。
「だ、ダズモンガーしゃん……!!」
「みみみみっ! すごいです!! ……み゛。その群青色のお肌には見覚えがあるです。でも、芽衣はもう黙るです。2回目はダメダメな芽衣でも言っちゃダメって分かるです。み゛っ!!」
グアルボンの皮である。
カエルっぽいフォルムをしたモンスターでミンスティラリアにおける主食。
糞から生えるグアル草は野菜として、吐しゃ物はお酒にソースに発酵食品、肉も最近はたいして美味しくないが調理して魔王軍で消費している。
皮はシリコンっぽいプルプルしたナニかで構成されており、これはもうヌーブラにしてくださいと言っているようなもの。
捨てるところがないグアルボン。
この戦争が終わったら天然記念物に指定されているかもしれない。
絶対に乱獲される。
◆◇◆◇◆◇◆◇
サービスさんが練乳をチュッチュしたあとに「ちっ」と舌打ちもした。
「ふん。俺を時間稼ぎに使うか。……殺すぞ。トラ」
「やはり吾輩でございまするか!! いっそスケープタイガーに使われるのも何やら光栄に思えて来ましてございまするな!!」
サービスさんが自己犠牲の精神まで獲得。
半分は「ふん。とっておきの練乳もなくなって、そろそろ
これまで自身の力を誇示することにのみニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィして来た白髪野郎が、自軍の味方を守る事に力の意味を見出す。
「……るょ!! …………………………?」
次の兄者ショットガンが来ると思い、両手を広げて『サービス・タイム』の構えを見せたサービスさん。
スキルの全てに自分の名前を付けているせいで、サービス連呼の大サービス。
頭の悪い血戦の様相を呈しているのはこちらの責任ではない。
それよりも、兄者顔付き弾が飛んでこない。
「ふん。俺は時を停めていないが。なぜあいつは停まっている。まあ、悪くない。チュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュ」
動きを停めたチンクイント。
極大スキルの予備動作かもしれないし、操縦中のチンクエがまた良いアイデアを思い付いてそれをキメるために隙を見せているのかもしれない。
サービスさんはピースを組織したのに運営をライアンさんに放り投げて戦いの事ばかり考えて来た男。
戦闘IQは極めて高く「ふん。何をするつもりか知らんが。時間をくれるのならば悪くない。こちらはチュッチュさせてもらう」と、とっておきじゃないけどまだまだいっぱいある練乳をチュッチュして
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、チンクイントの脳内では。
精神世界で兄弟トークがすぐにデキるこの2人、何やら語気を強めて話し合っていた。
「ふっざけんなよ!! チンクエぇ!! 何が起きてんのか全然分かんねえって言ってんのに!! 余計に訳分かんねえこと言うなよ!! オレ、保育所しか出てねえんだぞ!! 分かるように言えよ!!」
クイントが兄弟喧嘩を吹っ掛けていた。
珍しい事もあるものだというのが、観測者視点での感想。
実際は珍しいどころではなく、彼らが兄弟としてこの世界に誕生してから初めての出来事である。
チンクエが短く言った。
「兄者。私の意思がもう消えるので良い……」
「何も良くねえよ!? 最悪、そこをもう良いとしてもだわ!! なんで消えるんだよ!!」
それはそう。
チンクエが続ける。
「私は生まれて初めて、テンションが上がってしまった。とても良い気持ちだったので良い……。良いをずっと良いしておきたいと思って良いしていたら……。私の自我をこの合体形態で維持するだけの
「つまり!? どういうことだってばよ!!」
「私は消えてなくなるので良い……」
「えっ!? お前、マジいなくなるの!?」
多分、誰も「お前……消えるのか?」とチンクエに聞いてあげたりしないし、大して興味もないはずなので巻いて行こう。
チンクエの意思が消失する事はどうやら割と前に決定していた話らしい。
「兄者。私の狡猾さ。小賢しさ。身につけて欲しい。兄者は清々しくて良い……。汚れた部分は私が補おう。良い……。兄者と1つになれて……良い……」
「えっ!? オレ、汚れんの!? 今のオレが綺麗なのか知らんけどさ!? わざわざ汚れる必要なくない!? 綺麗なオレでいたいんだけど!!」
「兄者。綺麗なだけでは……六宇とラブコメできない。それは……良くない……」
「マジかよ、じゃあ汚れるわ!! 戦争終わったらどうにかじじい様に生き返らせてもらうから! それまでバイバイだな!! チンクエ!! で? 外で何してたん?」
この世界の命が軽くなり過ぎてしまったことに関して、良いとはとても言えない。
チンクイントの姿が変化していく。
チンクエベースだった細マッチョな肉体が、クイントベースのゴリマッチョな体型へ。
スマートに放出されていた
あまりゴリと連呼していると芽衣ちゃんが「み゛。こんな不穏な言葉が飛び交うとこになんかいられないです!」と戦線離脱するか、ガチゴリが転移してきかねないのでこの辺でヤメておこう。
合体戦士・チンクイントは消えた。
融合戦士・チンクイントがここに爆誕。
莉子ちゃんはまだ着替え終わっていない。
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