第1191話 【莉子ちゃん敵国、旅は道連れ・その4】急に服が来た ~それは渇望し続けた可愛い装備。しかもドレスだった~

 観測者視点は戻って来て、バルリテロリ皇宮。

 甲冑部屋である。


「……ふん。俺のとっておきの練乳がなくなった」


 とりあえずサービスさんはご存命だったが原因不明の練乳消失事件が発生。

 練乳はサービスさんにとって煌気オーラ補給アイテムであるのと同時に心を癒してくれるメンタルの支え。

 スキルはメンタル勝負の理論からいくと、頑張った自分へのご褒美として取って置いたとっておきが急に姿を消したのは痛恨。


 しょんぼりするサービスさんに対して、猛攻を止めないチンクイント(チンクエ操縦中)は「……隙があって良い」と口元を歪める。

 ニィィィと。


「……かなり楽しめたので良い。これでまた兄者のラブコメ観察に戻れる。スッキリとした気持ちで良い。……良い。ねえ!? なにがどうなって良いなの!? チンクエ!? オレの感覚遮断すんのヤメて!? マジで今のオレ、勝ってんの!? 負けてんの!? 煌気オーラだけ減っている実感があるのがまた怖いんだけど!! ねえ!! ……良い」


 文字通り飛び散る兄者の顔をした煌気オーラ散弾銃。

 弾数を毎回変更するという狡猾な手段によって、900の兄者弾が放たれたかと思いきや次は3発だったりする。


 3発ならばダズモンガーくんがれば事足りるが、900も兄者の顔した小さい煌気オーラ弾を放たれるともう時間を停止させるしか防ぐ方法がない。

 『サービス・タイム』を発現して、凍った時の空間で兄者弾を排除して元の空間へと舞い戻るサービスさん。


 これを何度繰り返したかは氏だけが知っている。

 この戦法の何がいやらしいかと言えば、チンクイント(チンクエ操縦)がサービスさんのスキル発現を察知すると距離を詰める仕草を見せるところにある。


 『サービス・タイム』は予備動作が大きく、六駆くんと戦った際にも『ソード』や『小剣ナイフ』などで隙を作ってから発現させていた事を諸君は覚えているだろうか。

 六駆くんにもその点を「すごいけど弱点もありますね! うふふふふふふふ!!」とお金ドーピングをキメた直後でテンション高めに指摘されていた。


 高みに立つと認めた逆神六駆の指摘はサービスさんの記憶にも刻まれている。

 よって、チンクイントが兄者弾を何発撃ってこようが『サービス・タイム』を必ず発現する事は確定しており、発現させる過程でうっかりチンクイントに触れられると凍った時の空間へと不法侵入を許してしまう。結果、今度こそ仲間が撃たれる可能性が高く、可能性として存在しているものを「まあそんな低確率なんて当たらねぇって! げへへ!!」と笑えるのは死んでも死なないヤツだけ。


 絶対に死なせる訳にはいかない芽衣ちゃま。スキルを喰らえば死ぬかもしれない。

 やや死なせたくないトラだってスキルを喰らえばるだろう。

 逆神(嫁)はマジで援護しろ殺すぞ。


 サービスさんに芽生えた仲間意識が、氏にとってかつてない苦戦を強いられる原因となっていた。

 結局サービスさんにタッチするのはチンクイントでも至難なのでやってこないけれども、毎度凄まじい警戒の中スキル発現していると心労もかさむ。


「みみみみみみみみみみみみみっ!!」

「ふん。芽衣ちゃま。これは赤い練乳だ。気にするな」


「みみみっ! 違うです!! サービスさん!!」


 芽衣ちゃんがサービスさんの背中を指さして慌てる。

 彼女が慌てるという事はサービスさんも慌てなければならない凶事であり、その視線の先に手を伸ばすと布っぽい触感が確かにそこにあった。



「……ふん。……ふん? ……意味が分からん」


 莉子ちゃんのピュアドレスが届いたのだが、ちょっと配送先がズレた模様。



 福田さんの転送スキルは「物体と物体、等価値のものを入れ替える」効果を持つ。

 サービスさんのとっておき練乳には煌気オーラがたんまり詰まっており、それを補給するタイミングを見定めながらとりあえず背中越しに時間凍結空間(小)を構築して保管しておいたのである。


 その練乳が持って行かれたら、当然ピュアドレスが届く。

 別に求めていないサービスさんの元へと超速でお届けされた。


 莉子ちゃんはダズモンガーくんの背中で未だに引きこもり中。

 温かいので何ならちょっと眠くなってきていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「みー!! 莉子さん!! あれ、絶対に莉子さんの装備です!! 多分、誰かが援護してくれたです!!」

「ふぇ!? わたしの装備!!」


 ダズモンガーくんの背中から莉子ちゃんがひょっこり飛び出した。

 とても可愛らしい様子をお届けできず実に残念。


「みみみみみみみみみみみみみみみみみみみみっ! サービスさんが持ってるです!!」

「え゛。わたしの装備をサービスさんが? なんか……やだ……」


 気持ちは分からないでもないが、今回のサービスさんは命がけで皆のために戦っているのでそれ以上はいけない。


「でも、わたしの装備ってどうして分か……ふぇ……。…………………………ふぁ」


 言葉を送ることはできなかったピュグリバーサイド。

 確かに、シチュエーションによっては多対戦が行われている可能性も大いにあり、というか戦争中という事を踏まえるとその可能性が圧倒的に高いため、莉子ちゃんの近くに転送はできるが、莉子ちゃん以外の者に渡る想定はして然るべき。


 彼の地には日本本部を率いた、ついに過去系をゲットした雨宮順平一般のおじさん。

 日本本部の移動式コンピューター福田弘道Sランク探索員。

 日本国籍とかもうどっかに行ったけど爵位は捨てない川端一真男爵。


 この3名が揃っている。

 想定できるシチュエーションは全てシミュレート済み。


 最も確実に莉子ちゃんの手に渡る方法を採択して、実行も済ませていた。


「ぐーっはははは! 莉子殿ぉ!! ドレスに『莉子』と書かれてございまするぞ!!」

「ふぇぇぇ……。せっかくの可愛いドレスが……。なんで金色の文字で名前書いてあるの……。小学生の頃の体操服みたいだよ……」


 雨宮さんが言った。

 「逆神くんがやってた事に合わせとけば、莉子ちゃん怒らないんじゃないかなー」と。


 福田さんが応じた。

 「小坂Aランクの怒りを買っても逆神特務探索員に飛び火するという、いかにも雨宮さんらしい良いお考えかと」と。


 川端さんが纏める。

 「では、おっぱい部分に印字しましょう。ご存じですかな。スクール水着の名前を書く部分がどうしておっぱいにあるのかという事を。それは、体の中で最も大切な部分だからです」と。


 川端さんの言葉に関してはおっぱい男爵家が責任を取る旨、いやさ胸、ご承知いただきたい。

 付近に爵位持ちが存在しないため確認の取りようがない。

 お客様の中におっぱい卿がいらっしゃいましたら、至急戦場までお越しください。



 その後でご自身のおっぱいに責任を抱えてすぐ帰ってください。



「みみみみみっ! 莉子さん! スカート丈短いです! 胸元がセクシーです!! ノースリーブでヒラヒラしてるです!! 莉子さんのために存在するみたいなドレスです!! みみぃ!!」

「た、確かにだよ……! わたしがずっと着たかったヤツ!! あれを着れば! アルティメット莉子になれるかもだよ! わたし!!」


「ぐーっははは! とっくにスパーキングしておられまするに! この上アルティメットされるとドレスもすぐに爆発しそうですな! ぐーっははぐあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 今のはダズモンガーくんが悪い。

 やる気を出した莉子ちゃんに水ぶっかけるのはレギュレーション違反である。


 ダズモンガーくんの背中に立った莉子ちゃん。

 敵国で続けて来た長き旅路のゴールが見えた。


「たぁぁぁぁぁぁぁぁ! 『粘着糸ネット』!!!」

「み゛っ! 莉子さんが煌気オーラコントロールの難しいスキルを涼しい顔で発現してるです!!」


 六駆くんが初期の頃から使っている『粘着糸ネット』だが、これは省エネスキルである代償にコントロールを要する。

 だが、思い出して欲しい。


 莉子ちゃんの名を冠した、糸を吐くモンスターがいる事を。

 そして、莉子ちゃんは結構そのモンスターを可愛がっていた事を。


「えへへへへへへへへへへへへ!! リコスパイダーちゃんを見学してたから!! 糸の使い方なら何となく覚えたんだよ!! てーい!! 一本釣りだぁ!!」


 莉子ちゃん、サービスさんの背中からピュアドレスを釣り上げる事に成功。

 胸に「莉子」と書いてあるせいでピュグリバーの国宝としての神々しさはかなり減少し、一気に庶民的な親しみやすさが爆増しているが、莉子ちゃんは庶民派の素朴なメインヒロイン。


 むしろ、自分の持ち物には名前書いちゃうくらいマジメで優等生な彼女にとって、この形のピュアドレスが相応しいのかもしれない。


「みみみみみっ! 莉子さん!! 早く装備するです! 防具は持ってるだけじゃ意味がないってクララ先輩が教えてくれたです!! みみっ!!」


 多分パイセンはドラクエに教えてもらっている。


「う、うん! よーし!! 着替え……ふぇぇ。ちょっと待って!! どこで着替えたらいいの!?」


 新たな問題が浮上する。

 こいつ結局着替えねぇのかよ問題である。


 だが、家庭的なトラさんの一声が全てを解決する。


「ぐーっはははは!! 莉子殿! 今のお召し物の上に着ればバッチリでございまするぞ!!」

「ふぇ!? ………ふぁー!!」


 莉子ちゃんの現在の装備。

 キャミソール。1度肩紐が切れた。

 オレンジ色の短パン。いわゆる見せパン。


 本当だ。

 肌着しか身に付けてなかった。


 莉子ちゃん、アルティメットフォームへと至る時、来る。

 長く長く、途方もない道だった。


 果てのない、ほんの数時間の出来事である。

 時間の概念がもうこの世界では機能していない。


 ならば、時間を制するサービスさんは救わねば。

 「氏が時間停めてた」という理由いいわけはこの先、絶対に必要となる。


 莉子ちゃんには急いで頂きたい。

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